最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

緒賀 実弦

第一章 ランク祭編 1話

 朝、カーテン越しに熱い日差しが顔面に当たる。
 長いこと当たっていたのか、顔の熱さで目が覚めた。
 ベットに寝ていた体をゆっくりと起こす。
 窓から放たれる熱い日差し。今が七月だということがわかるような眩しさだ。
 そんな日光に当たっていたためか、いつも見る夢を見ていた。
 汗だくの頭を抱えながら、夢の残像を思い浮かべる。
 ただ熱い…… あれは火だったのかもしれない。自身の体が無くなっていく激痛。
 そしてこの右手に、能力印と思われるものが刻まれる痛覚。
 思い返すたびに気が狂いそうになってしまう。

 少し時間が経つと、夢のことはきっぱりと忘れることができた。
 そしてチャラランとゆかいな音を出した携帯端末にメールの着信を確認した。

 どうやら剣先生からだった。

[お前だけ筆記授業の出席簿の数が少ない。今日は、私も休みだからワンマン授業ができるな(ピースの絵文字)]

 その文を見て、頭を抱える。
 ああ、なんで俺だけ…… やりたくねえよぉ……
 携帯端末をテーブルに投げると、行くのもしんどいため再び布団の中へと入る。
 そうだ、このメールは見てなかったことにしよう。そうしよう。

 そうして再び布団の中へと入る。
 すると二度目のメールが届いた。

[わかっているとは思うが来ないと死刑だゾ(はーとの絵文字と親指マーク)]

 死刑は嫌なので早速着替える。
 俺の名前は、佐部タスク。
 この学園の唯一の落ちこぼれ⦅Fランク⦆であり、無能力者だ。
 毎回のように追試やら、課題の提出が遅れてしまうのは俺の無能とは関係がない。
 いつもの制服に着替え、自宅を出た。





「ぶっフォッ!! 見ろよぉ、底辺オブFラン略して、底ラン君がいるぞぁ!!」

「……ちょっとッ! レン君、あの人に失礼じゃん」

 通路を歩いていると、目の前にカップルのような男女。
 多分俺を馬鹿にしているんだろうなと推測してみたが、Fランクという特別枠の人間は俺しかいないなと考えている途中で気づく。
 ちょっと聞こえてるんだが、なんで学園の廊下で通りがかりの男女にこんなことを言われてるんだ。

「気色わりーな。確かあいつ、実技ができない無能《Fランク》なんだろ? 最年長でこの学園に来たってな」

「メイのところでは、うわさだけど、いわくつきの人だからあんまり近寄るなって言われてるよ」

 しっかりと視覚で確認できるような位置であるのに、その騒音は止まらない。

「ああそう言えば、いわくつきはマジだよ。確かあいつ、あのロストシティの生き残りなんだろ? メイ相手してみろよ」

「えぇー…… 顔はいいけど弱い人はちょっと勘弁!!」

「ブハハハh!! そうだよな。辛気臭いしとっとと行こうぜ」

 いまだに通り過ぎたというのに、後ろから声が聞こえる。
 もうこんなことに馬鹿にされるのも慣れてしまっている自分がいた。
 とある本には、馬鹿にされるのに慣れてしまった人間は自身のことをあきらめている人だと書いてあった。
 読んでいた当時は、意味がよく分からなかったが、今になってわかるようになった。
 その通りだ。もう俺は、無能力者の自分自身の強さにあきらめをつけていた。





 ESP学園内の自習室へ、先に剣先生は来ていたらしく、二人だけの授業が始まった。

「今日もひどい顔だな。オ〇ニーは毎日すると疲労感に襲われるらしい。なにごともほどほどにな」

 この先生の名前は剣美咲先生。
 肩までの黒く美しい髪に、鋭くとがった眼。
 そして何より、その右目に付けられた、強情という雰囲気の要素が一番ある、黒の眼帯を付けている。
 顔自体は美形だが、その歴戦の英雄のような眼帯によりなんとも勿体無いような女性である。

「最近性欲がないんですよ、っていうか俺そんなにオナザルではないっす」

 いつものような、女とは思えない彼女の言葉選びに慣れている俺がいた。
 そんな言葉をさらっと返し、カバンからノートとペンを出した。
 補修授業の内容はこうである。
 彼女がこの授業で教えた内容を要点をまとめて、レポートとして彼女に提出するのだ。

「では授業を始めるか。まず最初に、超能力のたぐいを自由自在に操れる者を能力者(ESP)と呼んでいる。
 能力者と判断するには、手の甲にある特徴的な記号の、有無である。お前の右手にもたしかに能力印はあるな」

 そう彼女のゲームカセットの説明書を音読してるような説明を聞き、軽くノートに箇条書き、そして自分の右手の甲を見た。

「はい、まあ普通の奴ら⦅能力者⦆とは違う形なんですけどね」

 俺の能力印は、通常の能力者とは違う、二重に重なった能力印である。能力印はESP・Tattooとも呼ばれている。
 ほかの能力者とは違う点は、さきほども説明した、二重の能力印で、片方ずつ赤青の眼鏡をかけると、文字が浮き出る3D線のようにそれぞれきれいに二重で色も違いがあるということだ。

「まあお前は、特別枠⦅シークレット・チルドレン⦆でESP学園⦅ここ⦆に入ってきたからな。
 人とは違うのは仕方ない。誰だって体の違いがあるように、十人十色だ。
 しかしお前の場合は、能力が使えない。ということは、”実践授業”が受けることができないということになる。
 だからお前は、他人よりも筆記授業の単位が多いのだ。わかるな?」

 俺には、”能力⦅さいのう⦆”が無い、そんな人間が、こんなところに来ていいのかと考える。
 しかし、俺にはこの能力持ちの証である、能力印があるため、ここに所属するということになったのだ。
 俺はここに入ってくるのが13歳と、普通よりも3年遅れて入ってきた。
 ちなみにその理由は、ロストシティ―(おいおい説明する)の生き残りであるため、登録時間が通常よりも遅くなったと、この前の書類に書いてあった。
 まあ特に気にすることでもないと自分でも頭の片隅で整理している。
 ここにいる奴らも同じで、10歳までの過去の記憶が”無い”からだ。

「でも先生、だからといって俺の補修までしなくていいでしょう。レポートくらい図書館で書けるし」

 こんなことでわざわざ先生の時間を使う必要はないなと思ってしまった。
 なにより、俺は授業が大嫌いなのだ。
 大体の時間は、徹夜でゲームをした睡眠に使っているし、どうせ将来は使わないような無駄な知識だろうと思うからだ。
 そんな不真面目なことを考えていると、目の前にいた彼女の手から凄まじい速さで何かが飛び出した。

「……黙らんか。舐め腐った態度をしおって」

 気づいた時には、スタンガンのような物が彼女の手から飛び出してきた。耳の横でビリビリと音を立てる。
 そんな彼女の早技に冷や汗をかいてしまう。
 彼女はESP教育補佐を務めている対ESPのスペシャリストだ。対人戦闘においては、彼女の右に出るものはいないという。この前の授業では、右ストレートを腹にくらわされた。
 指導をしている他の生徒の見せしめに、非力である俺を殴る先生なのだ。
 だが、俺のような底辺の人間にかまうような心優しい先生でもある。

「は、はひッ!」

 その言葉と共に、椅子から腰が引けるように、俺は引っ込んだ。
 すると室内で気まずい空気が流れ、胃が痛くなるような沈黙が流れる。

「お前はなあ、課題を出さない、実技ができない、おまけに仲のいい者はいない。こんな不良と陰キャの中途半端な奴が、私は大嫌いだ」

 かけっこのよーいドンの合図ではないが、剣先生による怒涛の罵倒を浴びた。
 うー。心が痛い。
 いやキッツい。見た目通りに、この先生はハッキリものを言う人だ。
 ドMにはお似合いの先生だろうが、あいにく俺はそんな体質ではない。

「とにかくだ佑、せっかくお前のような残念人間の相手をしているのだ。少しは感謝しろ」

 俺の顔を見ると、言い過ぎたと自覚したのか、反省をしたような顔で斜め下に視線をずらし、正面へと帰っていく。

「さすがに、ふざけてました。ごめんなさい」

 と謝罪の言葉をぽつりと告げた。
 たしかに、彼女の貴重な休みを使ってこの落ちこぼれの俺に授業を開いているのだ。
 自分の心のない態度、言葉に虫酸が走る。
 すると彼女の顔はクルっとこちらを向き。

「ジョークだよおおおんだ!!」

 ドッキリ大成功とそんなニュアンスが混じった言葉、そして何よりも俺を面白おかしく笑っている彼女の顔。
 俺は帰る準備を始めた。

「嘘です! ちょっと帰らないでタスク、ごめんて」




「ンヴンッ…… 授業を再開するぞ。大抵の能力者は、赤ん坊が一人で歩けるようになるのと同じように、能力の行使ができる。
 故に、ここESP学園では、実践戦闘が教えられる。能力個人差はあるものの、10歳前後で能力は覚醒する」

 ノートに単語を淡々とならべ、彼女が言い終わった後にこういった。

「先生、俺もう十七なんですよね。このまま能力が発動しないなら俺のこと貰ってもらえますか?」

 などと彼女に冗談のつもりで聞いてみが、

「え、っちょ…… ファッ!? プ、プロポーズ!? ここで?」

 ポンッと頭の上で空気が抜ける音のようなものが聞こえた。
 その顔は、真っ赤に染まっており、いつものような鋭い顔つきとは思えないようなポンコツ具合である。

「え、もちろん冗談ですけど……」

 すると彼女の顔は。みるみるうちに鬼のような形相へと変わっていた。
 眉間の間には、凄まじいほどのしわ、眼は白目へと変わっている。

「た、タスクぅううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

 ひぃッ!! とある女教師の絶叫。
 彼女はドスドスと俺の座っている机に近寄ると、両手で強く叩いた。
 ノートペンは、宙を舞い、驚いたように彼女と距離をとった俺の頭へ、降りかかる。

「貴様さっきのお返しかァ!!」

「ち、違いますううううううううう!! ご、ごめんなさいぃいいいいいいいいいいいいい!!」

 ヒョイっと机から出ると、謝罪の言葉とともに彼女に土下座をした。
 二度とあの授業中のように、鋭いパンチを腹には食らいたくはない。
 ここはできる限り…… 土下座だぁ!! 

「しッかしなあ、私がこんにち二十七まで結婚していないのは、お前もわかってのことだろうッ!!」

 地に頭をつけているせいか、彼女のイメージはとても怖いものとなっていた。

「すいません、あなた様が結婚していないと把握していない僕のせいでしたァ!!」

 ははー! とどこかの時代劇の人たちがやっているようなきれいな誠意という土下座をみせる。
 ああ、俺なにやってんだろう。

「(なにかが刺さったような音)グハッ! も、もういい…… だから表をあげい」

 恐る恐る俺をチンピラそわりで見ているだろう彼女を見る。

「こんな傲慢なわたくしですが…… よろしくお願いします」

 いままでの彼女とは思えないようなきれいなお辞儀である。
 こんな女の子のようなしぐさができたんだなと、驚きを隠せない。
 というわけにもいかないので、こう返した。

「心の準備とかいろいろありますし…… 前向きに検討でいいですか?」

「前向きに検討…… あ、では、それで」


 そして何もなかったように授業は再開した。



「そして私が今、所属してるのは能力者の兵隊への育成、指導などをする日本能力者機関の組織の一つ、ESP学園である。
 5年間を中等部で過ごし、高等部は4年間、実際の兵としての訓練期間は、16~18歳の三年間。
 ESP学園を卒業した後、大抵は国を護衛する裏の兵隊として活躍し、」

 十七の俺は、今年で高等部四年生ということだ。
 今年最後のESP学園でもあるわけだが、正直自分の将来について絶望している。
 俺は無能力であり、実戦ができない。だからスペシャルソルジャーにはなれないのだ。
 いつもこの考えが始まるとゲームの攻略についての考えにシフトさせるが、なぜか寝不足なのか今日ばかりは考え込んでしまった。

「佑!」

「はひっ」

 そんな考え事をしていたため、大げさに驚いた。
 土下座をして顔をあげたときに、シャツの間からブラを見てしまったことがバレたんだろうか。
 ちなみに白であった。ごくりと唾を飲み込む。

「そういえばお前の将来はどうするんだ? ここは能力者による傭兵学校、お前のような無能を養うようなところではないからな……」

 彼女はすぐ右にある窓から遠くを眺める。
 そして俺を窘めるように見た。

「」

 能力印はあるが、俺は無能。
 このままFランクの無能のままでは、ダメなのだと自分でも思っているし、いろいろと行動は起こしている。
 だから、こんな理不尽な現実を黙って受け入れることなんてできない。
 まずすることは、無能力の俺でも戦えるということを証明することだ。
 それにはランク祭に出ることが、俺の目標だ。
 しかし、俺にはランク祭に出ることはできない。
 それは、実戦授業を受けたことが無いからである。

 ランク祭とは、己の強さを示すために、能力者同士で、トーナメント形式で戦闘をするESP学園独自の学園行事だ。

 ただ一人であるFランクの俺は、能力が使えないため、今までの2年間は出場することができなかった。
 おまけに、対ESPの実戦授業もさせてもらったことが無い。
 一年前の俺は半ば諦めたように生きていた。周りの人間が輝くように成長していく中、自分だけは何かに縛られているような気がしていて、悲しい思いもたくさんした。

 ――――だからもう諦めた。

 ランク祭に出場すること。自信を鍛えることも。
 俺の場合、積み上げられた努力の上には必ずと言っていいほど挫折が待っている。
 無慈悲に崖にしがみついている手を切り落とすように、まるで俺は全てをあきらめて生きろと言わんばかりに。
 それが俺のこの十数年の生涯。
 正確にはこのESP学園に来る前の記憶が無くなっているので五年間だ。

 そんな悩みを打ち消すように彼女は話し始めた。

「能力が使えないお前でも、素質も体格もいいと私のこの目が見抜いている。3か月先のランク祭に向けて私が指導してやろうか?」

 授業そっちのけで、彼女の目は真剣だった。
 それはもう剣美咲という名前に恥じないほどまっすぐな眼だ。

「えッ……」

 突然すぎて理解が遅れてしまう。
 去年、俺は一度ランク祭に出させてくれと、担任である矢吹に相談したことがある。
 返答はただ無言で突き返されただけだ。
 能力が使えないというだけで、ランク祭に出場したらダメだ。
 そんな現実自体が理不尽で腹を立てたのを覚えている。
 もうこのまま馬鹿にされて終わってしまうような気がして、どうしようもなく追い込まれた一年前のことを思い出した。

 そしてすべてを諦めていた。そういうつもりだった。

「出場許可なら、上の連中から許可が出ているから大丈夫だ」

 そう彼女はそう言い、火のついた煙草を唇で咥える。
 その姿はどうもこちらを気にしているような気がした。

 つもりでいた…… 諦めていたつもりなんだと……

「こ、根性は無いですが…… よろしくお願いします!」

 気づけば彼女に精一杯頭を下げていた。
 俺はまだあきらめてはいなかったのか。
 そんな天邪鬼な自分を客観視して、ついつい口元が緩んでしまう。

「ま、根性が無いのは私も知っている」

 彼女はこちらを見上げると、晴れやかな顔で迎え入れてくれた。
 俺も心が緩んでいくのを感じている。

「ちょっと…… 素質があるとか言いながらそれはないッスよ」

 俺はダメ出しをするように言う。彼女はガハハと豪快に笑っていた。

「まあまあ、そうとなれば、来週からは私の家で特訓だ。みっちりしごいてやれるな」

 彼女は俺を見て笑っていた。
 それは、いままで誰にも見せたことはないというくらいに、とても柔らかく、いつもよりも女性らしい笑顔であったからだ。
 思わず、胸がキュンと彼女の笑顔に持っていかれると思ってしまうくらいにだ。、

 そのまま授業は終わり、この自習室のカギを渡され、『用紙に書き終終えたのなら職員室にある私の机に提出しておけ』と言われた。

 まあ今日が俺の生涯の運命の分かれ道だとは思いもしなかった。





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