TSカリスマライフ! ―カリスマスキルを貰ったので、新しい私は好きに生きることにする。―

夕月かなで

千佳ちゃんと、お祖母ちゃんの誕生日

「やばい……やばい……」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「お祖母ちゃんへのプレゼント、用意してない」
「あっ」

 今日はお祖母ちゃんの誕生日パーティーです。
 日本にいるファンクラブの皆が悪巧みをしている夢に魘されていると、私はふと思い出したように飛び起きました。

「メグちゃん、プレゼントどうしよう」
「うーん。何処か買い物に行く?」
「でも私たち未だにこのお屋敷から出た事無いよね……。メイドさんたちもヒルデちゃんたちも忙しそうだし」

 かく言う私たちもメイドさんたちにパーティーに着るドレスを着せ替えさせられたり、パーティーの段取りを教えられたりするそうなのですが。
 当日になってそんな大事な事を思い出す方も悪いんだけど、メイドさんも教えてよ!
 え? 日本で買ってきていると思っていました? ごめんなさい。

「とりあえず今あるものでプレゼントを用意しよう。何か案はあるかな?」
「うーん。お姉ちゃん、お祖母ちゃんって何が好きなんだろ?」
「お祖母ちゃんが帰ってきてから何度かお話したけど、そこまでは分からないよね」

 そうしてベッドの上でメグちゃんとウンウン唸っていると、朝の着替えを持ってきてくれたメイドさんが一つ提案をしてくれました。
 用意が無いのであれば、料理をしてみては如何ですか? と。



「という訳で料理長さん! 私たちに料理させて下さい!」
「させて下さい!」
「あ、あの、いえ、その。ち、千佳お嬢様と恵お嬢様に何かあれば、その、怪我とかあったら大変だから、いや、ですから」

 このお屋敷の料理長さんは女性で、まだ三十歳くらいだそうです。
 男の料理人もいる中で比較的若い女性が料理長をしているのはとても格好いいですね!
 唯あまりコミュニケーションが得意で無いそうで、私たちのお願いに対してもボソボソと小さな声で返しています。

「だ、駄目ですか?」
「ですか?」

 食らえ! 私とメグちゃんのダブル上目遣い攻撃!
 因みにこの攻撃を受けたベアトちゃんは一時間呆けたり、ヒルデちゃんは鼻血を出してぶっ倒れたり、シャロルとクリスには抱き付かれたりしました。

「うぐゅっ!? わ、わわわ、分かりました! お嬢様方のお料理、手伝わせて頂きます!」
「ありがとうございます!」
「ありがとう!」

 こうして私たちのプレゼントは料理に決まりました!
 ……でも何を作ればいいんだろう?

「えっと、その、当主様は、あの、日本食にも興味を持たれていますので、日本食がよろしいかと」
「なるほど! 流石料理長、頼りになるね!」
「でもお姉ちゃん、料理なんて出来るの?」
「ちょっと待ってて、こういう時に頼りになる人がいるから!」

 という事で少し席を外し、寝室でメイドさんと一緒に誕生日パーティーの準備をしていたお母さんを連れて来ました。
 私もお母さんの料理を手伝う事はあるけど、まだ一人じゃ美味しい料理は作れないからね。

「お料理の事はお母さんに任せなさい!」
「あ、その、日本食、勉強させていただきます、奥様」

 という事で皆で料理を作りました!
 料理長はパーティーの料理を作らなくていいのかなと思いましたが、どうやら指示と味見くらいが仕事だそうです。
 他の料理人も料理長と同じくらいの力量だそうなので、安心出来るらしい。



「ではリーネルト家ご当主、エミーリア様の誕生日パーティーを開始させていただきます。ご当主様、お言葉をお願いします」
「今日は集まってくれて本当に嬉しいわ。今年は日本に住んでいるユリウスたちも来てくれて、一段と賑やかなパーティーになりそうね。それじゃあ皆、楽しませて頂戴ね」

 そしてお祖母ちゃんの乾杯の合図でパーティーが始まりました。
 貴族のパーティーなので色々な所からお客様が来るのかと思いましたがそれは二日後に行うようで、今日は親戚だけのパーティーです。
 なのでマナーも特に気にせず、私はお父さんとお母さん、そしてメグちゃんと一緒にテーブルに着いてメイドさんたちが運んで来てくれる料理に舌鼓を打ちます。

「美味しいねお姉ちゃん!」
「そうだね。肉が蕩けるよぉ」
「むむ、やっぱり美味しいわね。後で料理長にレシピを聞かないといけないわね」

 私たちは柔らかい牛肉にほっぺたを落としていますが、お母さんはまだ見ぬ料理に研究を始めそうになっています。
 こうなったお母さんは止まらないので、人見知りの料理長には合掌ですね。

「――それでは皆様、ご当主様へのプレゼントをお渡し下さい」

 司会進行を務めているメイド長のペトラさんがそれぞれの家族を順番に呼んでいきます。
 初めに呼ばれたのはベアトちゃん一家で、代表してヒルデちゃんが小さなプレゼント包みをお祖母ちゃんに手渡しました。

「おやおや、開けてもいいかい?」
「勿論ですわお祖母様!」

 お祖母ちゃんが包みを開けると、そこにはお洒落な髪飾りが出てきました。
 ……あの髪飾りに付いてるのは何だか高そうな宝石に見えるんだけど、きっと気のせい。

「じゃあ次は私たちの家からプレゼントだねん!」
「お祖母様、デザインは俺たちで考えたんだぜ!」
「あらあら、綺麗な置き時計ね」

 シャロルとクリスが手渡したのは深い茶色の時計だった。
 意匠がとても凝っていて、このお屋敷にピッタリなインテリアだと思う。
 ……待って。デザインを自分たちで考えたって、オーダーメイド?

「ち、千佳お嬢様、め、恵お嬢様。えっと、その、お作りになられたものを、カートで持って参りました」
「何だか場違いな気分だよ……」
「だ、大丈夫だよお姉ちゃん! 手作りなのは私たちだけだし……」
「でも手間も全然掛かって無いし、せめてもっと見栄えの良い料理にするべきだった……」

 落ち込み気味の私たちがお祖母ちゃんのテーブルに置いたのは、器の上に五切れ程用意した厚焼き玉子。
 私が日本料理で真っ先に思いついたもので、お母さんに手伝って貰いながら自分の手で作り上げた料理。
 でもさっきまでのプレゼントと比較すると……貴族様にこんなの出しちゃ駄目な奴だよぉ。

「あら可愛い料理ね。どういう料理なのかしら?」
「日本の料理で、厚焼き玉子って言います。ごめんねお祖母ちゃん、これくらいしか用意出来なくて」
「あらあら? どうして謝るのかしら。千佳ちゃんと恵ちゃんで一生懸命作ってくれたんでしょう?」
「そうだけど。髪飾りとか置き時計とかに比べると……」
「しょぼぼん……」

 私とメグちゃんがしょげているとお祖母ちゃんは頭を撫でてくれました。
 シワシワの手ですが、とても心地が良くて私のやさぐれた心がホッと暖かくなります。
 それはメグちゃんも同じようで私たち二人は自然と笑みを浮かべていました。

「お祖母ちゃんとっても嬉しいわ。二人が頑張って作ってくれたお料理は、髪飾りと置き時計と同じくらいにね? それに私、日本に行ってみたいと思ってたの。だから日本の料理が食べれて凄く嬉しいわ」
「お祖母ちゃん……」
「お祖母ちゃん、ありがと!」

 そうだよね、皆違って皆良いんだもの。
 しっかりしろ諸弓千佳! メグちゃんを不安にさせてどうする!
 私は私らしく、いつだって元気に楽しんでいるんだ!

「ごめんねお祖母ちゃん、喜んでくれて私も嬉しい」
「ん、とっても美味しいわ。ありがとうね、二人共」

 それから大人組のプレゼントが手渡されていって、お祖母ちゃん御用達のパティシエが作った大きな二段のホールケーキを皆で食べたり、お祖母ちゃんの希望で孫たち全員で誕生日を祝う歌を歌ったりしました。
 年末の誕生日パーティーは無事に終了し、私たちのプレゼントも何とか成功したので良かったです。

「お姉ちゃん、来年までに料理覚えたい!」
「そうだね。これまでは手伝いばかりだったけど、これからはお母さんに教えてもらおうか。……というか来年も来るのか?」

 私たち姉妹の決意も新たに、年越しという次なるイベントがやってくるのでした。

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