TSカリスマライフ! ―カリスマスキルを貰ったので、新しい私は好きに生きることにする。―

夕月かなで

桃ちゃんと冬の相談

 お気に入りになった手袋を手に着け、畳んでおいたマフラーを鞄から取り出して首に巻きます。
 そして私の机へとやってきた湖月ちゃんと愛ちゃんと共に、皆にさよならを言いながら教室を出ると。

「あ、あの! 千佳先輩!」

 廊下で声を掛けてきたのは、一年生の桃ちゃん。
 他学年が二年生のクラスがある階にいると浮きそうな気がしますが否、断じて否。
 私のファンクラブのメンバーたちが、私を一目見ようと、話しかけようと集まっているのです。
 少し前までファンクラブの子たちが通行の邪魔になっていましたが、一度端に寄って欲しいと伝えた結果、九重先生主導でファンクラブの規約が追加されました。
 今や二列程度に纏まって両側の壁に寄るようになっています。

 ズラーっと並んだ女の子たちが私に手を振り、声を掛け、礼をする様子はまるで極道のようにも見えます。
 男の子たちは実に居心地の悪いことでしょう。
 まぁ、男のことなんて知らないけどね!

「千佳先輩? 聞いてますか?」

 おっといけない、桃ちゃんが不安そうにこちらを見ている。

「ごめんごめん。桃ちゃんどうしたの?」
「えっと、先輩にお願いがありまして」
「なんでも言ってくれていいよ! お姉ちゃんに任せなさい!」

 腕で力瘤を作るポーズを取って、もう片方の手で力瘤を叩きます。
 カッチカチやぞ!

「なんや、それやったらうちらは帰っとくな~」
「そうだね。また明日ね、千佳ちゃん。桃ちゃんも」
「えっ、あの」
「ほなまたな~!」

 そう言って手を振りながら、湖月ちゃんと愛ちゃんは帰ってしまいました。

「あの、先輩方三人に相談しようと思ってたんですが……」
「あらら。私だけじゃ駄目かな?」
「いえ! 多分大丈夫だと思います!」

 二人が消えた廊下の先を見つめていた桃ちゃんですが、私の声に慌てて答えました。

「よかった! それで、相談って?」
「えっと、あの、姉さんのことで」
「莉里ちゃんの?」
「ちょっと、ここでは」
「……よし分かった! 私の家でいいかな?」
「は、はい! 恵と花は、ファンクラブの子たちとグラウンドに遊びに行きましたし」
「そっか。それじゃあ行こっか?」
「はい!」

 私のいもう……、おっと危ない。
 桃ちゃんを妹発言しちゃうとまた莉里ちゃんが現れちゃうからね。
 心の中でも言っちゃ駄目!
 そうして私と桃ちゃんは学校を出て、家へと向かいました。



 家への帰路の途中。
 私が手をパクパクさせながら歩いていると、桃ちゃんは手袋に気付いてくれました。

「あ、千佳先輩。その手袋ってもしかして」
「気付いちゃった? メグちゃんとお揃いのを買って貰ったんだ!」
「可愛いですね。恵の手袋は白い猫さんでしたけど、千佳先輩のものは……、狼さんですか?」
「狼……? いや、犬? ごめん、分かんないや」
「どちらもありそうですね」

 二人して笑い合います。
 笑っても、真実が分かることはありませんでした。

「さて、それじゃあ上がって。スリッパはこれだっけ?」
「あ、はい。ありがとうございます」

 基本的に皆が集まるのは私の家なので、各自のスリッパを置いてもらっています。
 これは皆と、皆の家族で一緒にショッピングモールに行ったときに買ったもので、夢の国なお姫様たちがそれぞれ描かれています。
 私は小人たちに囲まれた可愛いお姫様。
 桃ちゃんは髪が尋常じゃないくらいに長いお姫様です。

 そんな可愛らしいスリッパを履いて、お母さんにただいまを告げた後、私とメグちゃんの部屋へと赴きました。
 お母さんが持ってきてくれたお茶を一服して、話しを切り出します。

「ふぅ。それで、どうしたの?」
「あのですね、もうすぐ姉さんの誕生日が来るんです」
「なんですと!?」

 そういえば今年初めて会った桃ちゃんと莉里ちゃんには、誕生日についてまだ聞けていませんでした。
 千佳、一生の不覚です。

「い、いつなの?」
「十二月の十二日です」
「一週間後、ならプレゼントも間に合うね。良かったぁ」

 大切な友達の誕生日ですので、ちゃんとお祝いしてあげないとね!
 貯めてきたお小遣いを使うときがやってきました。

「それでですね、今年は両親が仕事で忙しくて。姉さんの誕生日に帰りが遅くなるかもしれないんです」
「あらら、それは」
「姉さんにはまだ伝えていないんですが、どうやって伝えようかなって悩んでて。がっかりさせたくないんです」
「うんうん、莉里ちゃん泣いちゃうだろうしね」
「どう伝えれば、姉さんが悲しませずに伝えられるでしょうか?」

 泣きそうな顔で私に告げる桃ちゃん。
 姉想いな桃ちゃんだから、きっと沢山の時間悩んだのでしょう。
 律儀な性格だからね。

「そんなもの聞いて、黙ってられないよ!」
「ほえ?」
「よっし、ついてきて」
「ちょっ、千佳先輩!?」

 私は桃ちゃんの手を取って、部屋を出ます。
 慌てる桃ちゃんを気にもせず、この時間ならテレビを見ているお母さんがいるであろうリビングへとやってきました。
 突然走ってきた私たちに驚いた様子のお母さんですが、そこは突拍子もない行動を常にとってきた、この私を育てたお母さんです。
 すぐに立ち直って、どうしたのと聞いてきます。

「あの、千佳先輩?」
「ここに宣言します!」
「え?」
「十二月、十二日。ここで莉里ちゃんの誕生日パーティーを開きます!」

 お母さんはその言葉に少し笑って。

「じゃあ、準備しないとね。皆にも伝えるのよ?」
「うん! お母さんは莉里ちゃんのご両親に報告をよろしく!」
「頼まれました!」
「え、あの」
「というわけで桃ちゃん!」

 私の宣言がまだ理解できていない様子の桃ちゃんを、私は優しく抱きしめます。
 そして頭を撫でて、こう伝えました。

「もう大丈夫だからね。莉里ちゃんが悲しむことなんて、私が全部消しちゃうから。だから誕生日パーティー、一緒に頑張って作ろ?」

 次第に落ち着いた桃ちゃんは、私のナデナデをくすぐったそうにします。
 が、ようやく理解が追いついたらしく、私の身体を押してナデナデを振り払います。

「も、もうっ! て、手付きがいやらしいです! 千佳姉さん!」

 ナデナデしていない方の手で、背中と首筋を撫でていたのがバレたか。
 そこは本当に、平謝りです。
 でも姉さんと呼んでくれたので万々歳です。

「で、でも、あ、ありがとうございます」
「うん。どういたしまして」

 プイッとそっぽを向いた桃ちゃんは、礼を言ってくれました。
 私がそんな桃ちゃんの様子に笑うと、紅くなっていた顔を更に紅くして、私とメグちゃんの部屋へと逃げていきました。

「ふふ、仲良しね」
「うん。なんたって私の妹ですから!」



 それから数分後、莉里ちゃんが私の家のインターホンを押したのだった。

「……桃は私の妹だから」

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