中二病の異世界生活 ~魔族に崇拝されてます~

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どうやら混浴を回避するらしい

 食事も終わり後は寝るだけ……とは行かない。重要且つ回避不可のイベントが待っている。

「さてアリス。風呂に入れ」

 そう、お風呂だ。異世界転移モノで幼女と男の二人旅だった場合にお風呂がある状況であれば超高確率で発生する混浴イベントだ。Noタッチの精神を持っていない可能性があるドグマと混浴ではアリスがどうなってしまうのかわからな……ちょっと待て。ドグマが命令形で言ったような気がしたのだが。

「えぇっ!お風呂もあるの!?わーい!一年ぶりのお風呂だぁ!」

 アリスが両手を挙げて踊るように喜んでいる。いや、ようにではない。踊っている。片足立ちでくるくる回っている。ドグマの脳内メモリーに新たなムービーが保存された。

 ちなみに、お風呂に入っていなくても不潔という訳ではない。この世界には体を清潔に保つ魔法があり、誰もが子供の時にそれを覚えさせられるのだ。お風呂は貴族の嗜好品という扱いである。寧ろ子供のうちにお風呂に入ったことのあるアリスの方が珍しい。

「廊下に出て、右側の二つ目の扉が脱衣所だ。そこにタオルと着替えを置いておいた。脱衣所にある扉の先に風呂がある。湯船に浸かって体を洗っておけ」

 ああ、やはりだ。ドグマは自然な流れで混浴イベントを回避した。道徳的にはそれが正しいだろう。

「わかった!お風呂入ってくるね!」

 アリスが小走りで脱衣所に入っていく。腕を広げながら急ぐその様子がとても愛らしい。ドグマの脳内メモリーにムービーばかり保存されている。

 しかし、ドグマの中二病的言動が余りにも無さすぎる。知識に乏しいとはいえ、ここまで無いというのは如何なものだろうか。一応中学生らしくない言葉遣いだが、一般的な中学生にいないとも言い切れない。もしかしたら、アリスの可愛さにやられてドグマの中二病成分が抜け落ちているのかもしれない。きっとそうだろう。アリスならあり得る。

 ……それにしても不思議なことに、三人称神視点であるはずなのに、お風呂に入っているアリスに視点が移らない。何か謎の力が働いているのか、その何かに遮られてドグマを視点から外せない。読者はドグマなんかよりアリスの様子を見たいはずだ。それなのに、アリスに視点を移すことができない。あくまでも主人公はドグマであるようだ。ドグマが混浴を選ばなかったのが悔やまれる。

 主人公のドグマはというと、アリスを覗きに行こうともせず、瞑想していた。椅子に座って、瞑想していた。どうやら、ただ待つことに徹するらしい。他の人が見たらつまらない光景だ。

 ……視点がなぜ移らないっ。

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