最強のFラン冒険者
最強のFラン冒険者
「おお、勇者様が召還されたぞ!」
中学校入学式当日に、見知らぬ土地で目を覚ました草薙友哉は周囲を見渡して混乱した。
周りを見るとアニメや漫画で見たような中世時代の服装を着た人間が自分の周りに居て日本語を話してるのだけは分かる。
でも勇者という言葉に草薙友哉は頭を傾げた。
「勇者様、どうか世界を滅ぼそうとしてる隣国の魔族を倒して頂けませんか?」
薄い絹のドレスを着た美しい女性が、草薙友哉に話しかけてくる。
とても魅惑的で思春期に入りかけの少年には刺激的であった。
「は…「すとーっぷ!」……」
まだ年若い少年とも言える勇者を簡単に篭絡できると思っていたアグリカ王国の第一皇女であるエリンは突然、遮られた事に苛立ち周囲を見渡す。
するとある一角に見た事が無い女性が立っているのを見つけた。
女性の特徴は黒眼、黒髪と草薙友哉と同じ特徴をしており世界アガルタにおいて見られない色合いであった。
だからこそエリンは一瞬、女性も勇者として召還されたと勘違いしてしまう。
そしてその思考の合間に近寄ってきた女性により草薙友哉の体はエリンより引き離されてしまう。
引き離された事でエリンや周囲に控えていた文官はようやく事態の深刻さを理解する。
エリンは勇者から快諾を得て即、支配系の魔術で彼を従属させようとしていたのを邪魔されてしまったのだ。
これで快諾されなければ戦争に利用する事が出来なくなってしまう。
まだ魔力耐性が低いうちにとエリンは支配系の魔術を発動させようと言葉を紡ぐ。
その言葉を勇者は聞いていたがまったく理解していないようだ。
ただ……。
「万物に干渉す……打ち砕くは……侵略の効果」
草薙友哉をエリンから引き離した女性が高速で空中に魔方陣を展開すると同時にエリンの魔術が霧散する。国一番の魔術の腕を魔術を持つエリンの魔術をも一瞬で無効化するその力にエリンも文官も驚きの表情を見せた。
「本当にひどいですね。自分達のために誰かを犠牲にして使うなんてそんな事、許されると思っているのですか?」
透き通った鈴の音が鳴るような声で女性は言葉を紡ぎながらエリンに向けて語りかけてくる。
そしてその女性が一度、足踏みをすると空間に巨大な転移魔術陣が組みあがっていく。
転移魔方陣が組みあがると同時に、祭壇の異常に気がついた騎士達が祭壇の扉を開けて入ってくる。
「貴様!一体何者だ?」
一人の騎士が女性に向けて叫ぶ。
女性はそれを無視して言葉を紡ぐ。
「草薙友哉さん、ここは貴方が来てはいい世界ではありません。きっと貴方には色々な数奇な運命が待ってると思います。ですけど頑張ってくださいね」
女性は、それだけ草薙友哉に告げると転移魔方陣が起動し草薙友哉を元の世界に戻した。
「え?えええー」
エリンが草薙友哉が消えた事に驚きの言葉をあげた。
ありえない、一度発動すれば魂までこの世界に束縛される召還の理から解き放ち元の世界に返すなんてそんな事、神ですら不可能なのにこの女性は一体何者なのか?
「えー!大丈夫ですか?とてもショックを受けているみたいですけど話をしますね?」
女性はニコリを騎士団の面子と文官と視線を向けていき最後にエリンを見る。
「私の名前は、ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。世界の守護者です。不当に他世界の人を拉致するような事は私が許しませんので理解してくださいね」
私の宣言に彼らは、コイツ何を言ってるんだ?という顔をしてくる。
そして私はため息をつく。
どうも彼らには世界の守護者という言葉をすぐに理解してくれない。
私は懐から身分証を取り出しもう一度、紹介することにする。
「えーと、Fランク冒険者のユウティーシアです。不当な異世界人召還は禁止と冒険者ギルド同盟より各国へ通達してるはずですが届いてませんか?」
私の言葉をようやく彼らは理解してくれたようだ。
その証拠に彼らは腰から武器を抜こうとしている。
「相手は一人だ!」
「召還の事が知られれば冒険者ギルドと戦いになる。何としてでもここで殺せ!」
「魔法師隊!やつは異世界へ人を転移させたことで魔力は残ってないはずだ!打てー」
「騎士団抜刀!女性だろうが相手は冒険者ギルドの手の者だ、手加減するな!」
私はそれを見てため息をついた。
まったく毎回毎回どこの国も最後は問題を隠蔽しようとして武力に頼ってくるから困り者です。
魔術で編まれた攻撃魔術がユウティーシアの体に降り注ぎ燃え上がり傷つけていく。
そして爆炎が舞い上がりそこに騎士団が突っ込む。
―――キィィィィィィン
と金属が断ち切られた音が部屋内に響き渡る。
全員の視線が空中に舞い回転する断ち切られた刀身に向けられた。
そして獏炎が風により吹き散らされる。
そこには、無傷な女性が立ったおり数十人の騎士達がその場で倒れ伏していた。
それを見た文官の一人がまさか?という表情で言葉を紡ぐ。
「あ、あれは……まさか……」
その文官の言葉をエリンは聞き咎めた。
「何なのですか?あれは?」
先をいうように促す。
「あれは……最強と呼ばれるFランク冒険者ユウティーシア・フォン・シュトロハイムです。冒険者ギルドの創立者……まさか何故、私達の国に……」
「あれが、邪神ヤンデーレを倒した生ける武神ユウティーシアだと言うの?」
エリンは自分が敵に回した女性がどれだけ危険な存在か分かるとその場に蹲ってしまう。
「さて、分かって頂けたようですのでご説明しますね。まずは召還魔術の破棄を命じます。別に戦争するなとかそういう事を言うつもりはありませんが、他所の世界から拉致してくるのは重罪ですので、召還した方の魔術回路は破壊させて頂きますね」
私の言葉に、草薙友哉を召還したエリンという女性は表情を真っ青にしていく。
魔術回路を破壊されるということは、この世界アガルタにおいて生涯魔術が使えなくなる事を意味する。それは魔術主義なこの世界において致命的で大変なことでもある。
でもこのくらいしないと、理解してくれないから仕方ない。
私は後ずさりながら逃げようとしてくる彼女の頭に手を当てると魔術回路を破壊した。
ショックからか彼女は倒れたようだけどそれは仕方ない。
「さて、今回の事は各国に発表させて頂きますので頑張ってくださいね?それと規約どおり魔物対応を行っていたギルドとしてはこの国から手を引きますで頑張って国を守ってください」
私はそれだけ言うと転移魔法で元の世界へ移動した。
部屋に転移すると、しばらくして部屋の扉が開く。
そこにはクラウス・ド・リースノット国王陛下が立っていた。
「おかえり」
そう言ってクラウス様は私を抱き寄せてきた。
「ただいま戻りました。まだまだやる事はたくさんあります」
クラウス様が私へ口付けしようとしたところで……。
「お母様!」
と私の足元に元気いっぱい走ってくる子供を抱き上げる。
クラウス様に似た金色の髪に瞳をした少女。
「駄目でしょう。走ったら怪我をするわよ?」
頬ずりしながら私は軽く注意をする。
「それで今度は何時頃いくんだ?」
クラウス様の言葉に私は頷きながら私は時空間移動魔法を使用しながら考える。
「明日くらいかしら?」
「それじゃ今日はお母様と一緒?」
「そうね、今日は一緒に寝れるわね」
私は自分が生んだ娘を抱いたままクラウス様に口付けする。
「本当に力を失ってしまったのだな」
クラウス様の言葉に私は頷く。
「ええ、もう神衣も神威も使えないわ。それに体もクラウス様と同じ構成になってますし、そうでなければこの娘は生まれませんでした」
世界を改変した事で私は、音素としての力を全て失った。
そして自身も消滅する所で、もう一人の私であるティアに『貴女達は帰りなさい。これは私の罪なのだから、彼を草薙友哉を救ってあげて』と私は、皆が待っているノーチラスへ返された。
それから私は……。
「きっと、ティアはずっと草薙友哉を召還した事を気にしていたのでしょう」
私は、ティアが消滅した事で代わりにエリンという女性が草薙友哉を召還した場面を思い出して苦笑した。
数万年以上も草薙友哉の身を案じて転生せずに私や、ヤハウェの原型となった一人の少女。
その少女はようやく解放され転生の輪に入ることが出来た。
だから私はティアの代わりに草薙友哉を救った。
――――――時は流れ
「えー今日は留学生を紹介する」
ザワザワと教室内がざわめく。
「入って自己紹介をしてくれ」
一人の黒髪の黒眼の白人の少女が教室に入ってくる。
誰もがその姿を見て一目で興味を抱く。
誰もがその容姿を見て一目で恋心を抱いた。
教壇に立った少女は窓際に座り寝ている彼に向けて近づいていく。
誰も止めようとしない。
彼の肩を揺するとゆっくりと彼は目を開けた。
彼は少女を見ながら。
「えっと?誰だっけ?」
寝ぼけた様子で少女を見ながら彼は言葉を紡ぐ。
草薙友哉はとても懐かしい気持ちを抱いた。
どこかで会ったような感じがする。
彼女を守るために必死に何かをしていた気がする。
そんな近視感を草薙は自然と抱いた。
「私の勇者様……草薙友哉様。また会えて嬉しいです」
その言葉に草薙友哉の脳裏ではなく魂の記憶が揺り動かされる。
世界アガルタで勇者として戦って守れなかった彼女の事と思い出す。
そして壊れた自分が犯した多くの罪を思い出す。
「もう、大丈夫です。全部ユウティーシアがやってくれましたから……だから……」
「そうか……あの子が……ティア……また会えてうれしい」
草薙友哉は、ティアの手を取るとそのままティアを抱きしめたが……教室内は突然の事でパニックになってしまう。
すぐに2人は離れたが喧騒は止みそうにはなかった。
問題行動を起こしたことで厳重注意を受けた後、二人は揃って下校していた。
「なるほど、まるでこれは……世界五分前仮説に近いな」
ティアの話を聞きながら草薙友哉は一つの仮説にたどり着いていた。
あまりにも都合の良すぎる事象に現象。
誰もが幸福であり続けるという理想の願望。
それを作り出す為にはどれだけの想いと願いが必要だったのか想像もつかない。
まるで本当の神がいて人に試練を与えてるようだと言わんばかりの采配。
そして今、ここにあるのは連続した世界は存在しないと言う不の連鎖すら断ち切る可能性と言う名の力。
「まるで可能性を創造する想いだな」
「私もそう思います」
草薙友哉とティアの言葉は、どこまでも澄んだ蒼穹の空に溶けて消えた。
中学校入学式当日に、見知らぬ土地で目を覚ました草薙友哉は周囲を見渡して混乱した。
周りを見るとアニメや漫画で見たような中世時代の服装を着た人間が自分の周りに居て日本語を話してるのだけは分かる。
でも勇者という言葉に草薙友哉は頭を傾げた。
「勇者様、どうか世界を滅ぼそうとしてる隣国の魔族を倒して頂けませんか?」
薄い絹のドレスを着た美しい女性が、草薙友哉に話しかけてくる。
とても魅惑的で思春期に入りかけの少年には刺激的であった。
「は…「すとーっぷ!」……」
まだ年若い少年とも言える勇者を簡単に篭絡できると思っていたアグリカ王国の第一皇女であるエリンは突然、遮られた事に苛立ち周囲を見渡す。
するとある一角に見た事が無い女性が立っているのを見つけた。
女性の特徴は黒眼、黒髪と草薙友哉と同じ特徴をしており世界アガルタにおいて見られない色合いであった。
だからこそエリンは一瞬、女性も勇者として召還されたと勘違いしてしまう。
そしてその思考の合間に近寄ってきた女性により草薙友哉の体はエリンより引き離されてしまう。
引き離された事でエリンや周囲に控えていた文官はようやく事態の深刻さを理解する。
エリンは勇者から快諾を得て即、支配系の魔術で彼を従属させようとしていたのを邪魔されてしまったのだ。
これで快諾されなければ戦争に利用する事が出来なくなってしまう。
まだ魔力耐性が低いうちにとエリンは支配系の魔術を発動させようと言葉を紡ぐ。
その言葉を勇者は聞いていたがまったく理解していないようだ。
ただ……。
「万物に干渉す……打ち砕くは……侵略の効果」
草薙友哉をエリンから引き離した女性が高速で空中に魔方陣を展開すると同時にエリンの魔術が霧散する。国一番の魔術の腕を魔術を持つエリンの魔術をも一瞬で無効化するその力にエリンも文官も驚きの表情を見せた。
「本当にひどいですね。自分達のために誰かを犠牲にして使うなんてそんな事、許されると思っているのですか?」
透き通った鈴の音が鳴るような声で女性は言葉を紡ぎながらエリンに向けて語りかけてくる。
そしてその女性が一度、足踏みをすると空間に巨大な転移魔術陣が組みあがっていく。
転移魔方陣が組みあがると同時に、祭壇の異常に気がついた騎士達が祭壇の扉を開けて入ってくる。
「貴様!一体何者だ?」
一人の騎士が女性に向けて叫ぶ。
女性はそれを無視して言葉を紡ぐ。
「草薙友哉さん、ここは貴方が来てはいい世界ではありません。きっと貴方には色々な数奇な運命が待ってると思います。ですけど頑張ってくださいね」
女性は、それだけ草薙友哉に告げると転移魔方陣が起動し草薙友哉を元の世界に戻した。
「え?えええー」
エリンが草薙友哉が消えた事に驚きの言葉をあげた。
ありえない、一度発動すれば魂までこの世界に束縛される召還の理から解き放ち元の世界に返すなんてそんな事、神ですら不可能なのにこの女性は一体何者なのか?
「えー!大丈夫ですか?とてもショックを受けているみたいですけど話をしますね?」
女性はニコリを騎士団の面子と文官と視線を向けていき最後にエリンを見る。
「私の名前は、ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。世界の守護者です。不当に他世界の人を拉致するような事は私が許しませんので理解してくださいね」
私の宣言に彼らは、コイツ何を言ってるんだ?という顔をしてくる。
そして私はため息をつく。
どうも彼らには世界の守護者という言葉をすぐに理解してくれない。
私は懐から身分証を取り出しもう一度、紹介することにする。
「えーと、Fランク冒険者のユウティーシアです。不当な異世界人召還は禁止と冒険者ギルド同盟より各国へ通達してるはずですが届いてませんか?」
私の言葉をようやく彼らは理解してくれたようだ。
その証拠に彼らは腰から武器を抜こうとしている。
「相手は一人だ!」
「召還の事が知られれば冒険者ギルドと戦いになる。何としてでもここで殺せ!」
「魔法師隊!やつは異世界へ人を転移させたことで魔力は残ってないはずだ!打てー」
「騎士団抜刀!女性だろうが相手は冒険者ギルドの手の者だ、手加減するな!」
私はそれを見てため息をついた。
まったく毎回毎回どこの国も最後は問題を隠蔽しようとして武力に頼ってくるから困り者です。
魔術で編まれた攻撃魔術がユウティーシアの体に降り注ぎ燃え上がり傷つけていく。
そして爆炎が舞い上がりそこに騎士団が突っ込む。
―――キィィィィィィン
と金属が断ち切られた音が部屋内に響き渡る。
全員の視線が空中に舞い回転する断ち切られた刀身に向けられた。
そして獏炎が風により吹き散らされる。
そこには、無傷な女性が立ったおり数十人の騎士達がその場で倒れ伏していた。
それを見た文官の一人がまさか?という表情で言葉を紡ぐ。
「あ、あれは……まさか……」
その文官の言葉をエリンは聞き咎めた。
「何なのですか?あれは?」
先をいうように促す。
「あれは……最強と呼ばれるFランク冒険者ユウティーシア・フォン・シュトロハイムです。冒険者ギルドの創立者……まさか何故、私達の国に……」
「あれが、邪神ヤンデーレを倒した生ける武神ユウティーシアだと言うの?」
エリンは自分が敵に回した女性がどれだけ危険な存在か分かるとその場に蹲ってしまう。
「さて、分かって頂けたようですのでご説明しますね。まずは召還魔術の破棄を命じます。別に戦争するなとかそういう事を言うつもりはありませんが、他所の世界から拉致してくるのは重罪ですので、召還した方の魔術回路は破壊させて頂きますね」
私の言葉に、草薙友哉を召還したエリンという女性は表情を真っ青にしていく。
魔術回路を破壊されるということは、この世界アガルタにおいて生涯魔術が使えなくなる事を意味する。それは魔術主義なこの世界において致命的で大変なことでもある。
でもこのくらいしないと、理解してくれないから仕方ない。
私は後ずさりながら逃げようとしてくる彼女の頭に手を当てると魔術回路を破壊した。
ショックからか彼女は倒れたようだけどそれは仕方ない。
「さて、今回の事は各国に発表させて頂きますので頑張ってくださいね?それと規約どおり魔物対応を行っていたギルドとしてはこの国から手を引きますで頑張って国を守ってください」
私はそれだけ言うと転移魔法で元の世界へ移動した。
部屋に転移すると、しばらくして部屋の扉が開く。
そこにはクラウス・ド・リースノット国王陛下が立っていた。
「おかえり」
そう言ってクラウス様は私を抱き寄せてきた。
「ただいま戻りました。まだまだやる事はたくさんあります」
クラウス様が私へ口付けしようとしたところで……。
「お母様!」
と私の足元に元気いっぱい走ってくる子供を抱き上げる。
クラウス様に似た金色の髪に瞳をした少女。
「駄目でしょう。走ったら怪我をするわよ?」
頬ずりしながら私は軽く注意をする。
「それで今度は何時頃いくんだ?」
クラウス様の言葉に私は頷きながら私は時空間移動魔法を使用しながら考える。
「明日くらいかしら?」
「それじゃ今日はお母様と一緒?」
「そうね、今日は一緒に寝れるわね」
私は自分が生んだ娘を抱いたままクラウス様に口付けする。
「本当に力を失ってしまったのだな」
クラウス様の言葉に私は頷く。
「ええ、もう神衣も神威も使えないわ。それに体もクラウス様と同じ構成になってますし、そうでなければこの娘は生まれませんでした」
世界を改変した事で私は、音素としての力を全て失った。
そして自身も消滅する所で、もう一人の私であるティアに『貴女達は帰りなさい。これは私の罪なのだから、彼を草薙友哉を救ってあげて』と私は、皆が待っているノーチラスへ返された。
それから私は……。
「きっと、ティアはずっと草薙友哉を召還した事を気にしていたのでしょう」
私は、ティアが消滅した事で代わりにエリンという女性が草薙友哉を召還した場面を思い出して苦笑した。
数万年以上も草薙友哉の身を案じて転生せずに私や、ヤハウェの原型となった一人の少女。
その少女はようやく解放され転生の輪に入ることが出来た。
だから私はティアの代わりに草薙友哉を救った。
――――――時は流れ
「えー今日は留学生を紹介する」
ザワザワと教室内がざわめく。
「入って自己紹介をしてくれ」
一人の黒髪の黒眼の白人の少女が教室に入ってくる。
誰もがその姿を見て一目で興味を抱く。
誰もがその容姿を見て一目で恋心を抱いた。
教壇に立った少女は窓際に座り寝ている彼に向けて近づいていく。
誰も止めようとしない。
彼の肩を揺するとゆっくりと彼は目を開けた。
彼は少女を見ながら。
「えっと?誰だっけ?」
寝ぼけた様子で少女を見ながら彼は言葉を紡ぐ。
草薙友哉はとても懐かしい気持ちを抱いた。
どこかで会ったような感じがする。
彼女を守るために必死に何かをしていた気がする。
そんな近視感を草薙は自然と抱いた。
「私の勇者様……草薙友哉様。また会えて嬉しいです」
その言葉に草薙友哉の脳裏ではなく魂の記憶が揺り動かされる。
世界アガルタで勇者として戦って守れなかった彼女の事と思い出す。
そして壊れた自分が犯した多くの罪を思い出す。
「もう、大丈夫です。全部ユウティーシアがやってくれましたから……だから……」
「そうか……あの子が……ティア……また会えてうれしい」
草薙友哉は、ティアの手を取るとそのままティアを抱きしめたが……教室内は突然の事でパニックになってしまう。
すぐに2人は離れたが喧騒は止みそうにはなかった。
問題行動を起こしたことで厳重注意を受けた後、二人は揃って下校していた。
「なるほど、まるでこれは……世界五分前仮説に近いな」
ティアの話を聞きながら草薙友哉は一つの仮説にたどり着いていた。
あまりにも都合の良すぎる事象に現象。
誰もが幸福であり続けるという理想の願望。
それを作り出す為にはどれだけの想いと願いが必要だったのか想像もつかない。
まるで本当の神がいて人に試練を与えてるようだと言わんばかりの采配。
そして今、ここにあるのは連続した世界は存在しないと言う不の連鎖すら断ち切る可能性と言う名の力。
「まるで可能性を創造する想いだな」
「私もそう思います」
草薙友哉とティアの言葉は、どこまでも澄んだ蒼穹の空に溶けて消えた。
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