最強のFラン冒険者

なつめ猫

誘いの神殿

 太陽圏内までの最後の移動開始まであと20秒のところで私たちは船内に戻り神威を解除してもらう。
 すでにほぼ全ての神兵も討伐しており周囲に残存する神兵も存在していない。

「最後の戦いの前に皆さん、一度休みましょう」
 私はそれだけ言うと自分の部屋へ向かい扉を開く。
 そして部屋の中に入った後、扉を閉めて施錠した。

「神衣解除」
 私は呟きながら、私の体内にいるティアとの神衣を解除するとそれと同時に私はベットの上に倒れこんだ。
 体中が軋み、内臓が痛み、意識が朦朧としてくる。
 思ったよりはるかに神威のフィードバックがやばい。
 精神的ダメージというよりも音素として分かたれた自分の欠片が戻った反動の精神・肉体的損傷が信じられないほど大きい。
 すぐに肉体の再生を行うために、ブレスレッドを起動させてリメイラールから譲り受けられた白銀の杖を手にする。
 すると、肉体の再生が始まるが内臓の痛みがまったく引かない。
 油汗が出てきてベットの上でのたうち回る。

 その時、扉を規則正しく叩く音が耳に入ってきた。
 私は、ベットの横についてるパネルに手を当てる。
 すると扉の前の映像が映し出されるとクラウス様の姿が表示された。

「ユウティーシア、少しいいか?」
 クラウス様には今の状態を知らせる訳にはいかない。
 私は、先ほどまで来ていた黒いドレスを寝巻き用の服に着替える。

「どうかしたのですか?」
 冷静に勤めて、彼に答える。

「いつもと様子がおかしかったようだから様子を見にきたんだ」

「そうですか。私の服装を見て頂くと分かりますが少し疲れてしまって仮眠を取るところだったんです、ですから、何も問題はないです……それよりもこれからの予定とか在るのではありませんか?」
 私の言葉にクラウス様は少し迷っていたようだけど……。

「分かった。何かあったらすぐに知らせるんだぞ?」
 そういい残し、クラウス様は部屋の扉の前からブリッジ側に去っていった。
 私はその様子を見ながら、意識を手放した。
 気がつけば、そこは青空のみが存在する世界だった。

「大丈夫なの?」
 彼女は私を見ながら上に左手を触れてくる。
 すると私の左手は砂となって崩れ落ち風により周囲に舞った。

「……そ、そんな……ど……どうして?」
 ティアが悲痛な面持ちで疑問を投げかけてくる。
 神威は思ったより相当肉体と精神への負担が大きい物だったらしく体中の器官が根こそぎやられてしまっていた。
 それでも外傷だけなら治せてる事から内臓関係は、神威の影響なのだろう。
 修復が無理なほどボロボロになってしまっている。

「……分かりません。でも、きっと人の身で手にするには大きすぎる力だったのでしょう」
 私は等価交換と言う言葉が脳裏に浮かんでいた。

「たぶん、あと一回神威を行う力は残ってるはずです」

「それは自……」
 そこでティアとのコンタクトが切断され私は目を覚ました。
 気がつけば口元には血がついており、私は赤いドレスに着替えて血を拭う。
 もう意識を失う事すら許されないほど、体中の細胞が剥離していくのを感じる。

「神衣!」
 私は、体の欠損部分を補うためにティアとの神衣を行う。
 黒い髪と黒い瞳は蒼穹の色合いに変化し肉体は20歳まで成長する。

(ユウティーシア!貴女、何を考えているの?)

 ティアの言葉を聞きながら私は頭を振るう。
 もう後戻りは出来ない。
 もう前に進むしかない。
 そしてそれは私が決めた事だから。

 そして、あと数分で太陽系の火星と木星の間にノーチラス船は転移する。
 もう問答をしてる余裕すらない。 
 私は、すぐにブリッジに向かっていくと、エメラスやアリアが私を見て険しい表情を向けてきた。

「もう戦闘の準備なのか?」
 コルクは私に直接話しかけてくる。
 私は頷きつつ、部屋の中のモニターを見ていく。
 すると一瞬だけ周囲が光ったあと……。

 ―――転移を完了しました。現在の場所は火星と木星の間に位置します。これより亜光速航行に移行します。地球到着までは30秒ほどと予測されます。

 ノーチラスが船体を変化させながら航行を開始する。
 私は手に出現させた杖に体重をかけながら体を休める。

 ―――地球視認領域に到着しました。画像を映し出します。

 すると地球の情景が表示される。
 日本を含むアジアは夜だった為か、とても明るく見える。
 まったく灯りが揺らめかない程、明るい。

 ―――時間凍結を確認しました。凍結を行っている者が存在するエリアの画像をモニター上に表示します。

 私は、モニターに表示された巨大なパルテノン神殿を見て杖を握り締める。
 神殿は宇宙空間に存在していた。
 神殿の大きさは数キロに渡っておりその異様さが見て取れる。 
 神殿周囲は、無数の神兵に守られている。

 すると突如、私の頭の中に声が反響する。
 周りを見渡すと全員頭を抑えていた。
 どうやら、私と同じように声を聞いてるようであった。

 ―――久しいな?我と同格の存在であるアウラストウルスの証明たる存在よ。余計な邪魔が入らないように太陽圏内の時は停止させた。これより我と貴様で決めようではないか?この宇宙が存続する価値があるかどうかをな。

「存続するかどうかなんて一人が決めるものじゃありません。私は必ず貴女を止めて見せます」
 私は転移魔術で船外に出ると神殿に向けて飛翔するが、神兵は私に一切手を出そうとはしてこない。

(ユウティーシアいいの?)
 私は彼女の言葉に頷く。
 彼女が聞いてきた理由は私が今から神威を行使すればどうなるかわかっているから。

「でも助かりました」
 私は一人呟く。
 新しい神威は私やティアがネットワークを使ってる事から私がメインで送受信を行うことができる。
 だから私の容態が彼らに知られる恐れがない。
 私は、すぐに転移魔術を展開して皆を呼び寄せると同時に神威を行う。

「クラウス様、ここからは私一人で行かせてください」
 しばらくクラウス様は悩んでいたけど私が折れないと理解したのだろう。

「分かった。必ず帰ってくるんだぞ?」
 クラウス様は、私にそう語りかけてくると力強く抱きしめてきた。
 そして、クラウス様達を呼んだ事で先ほどまで何の反応も示さなかった神兵が攻撃を始めてきた。

「クラウス様達はなるべく早く神兵を倒して合流してください」
 私はそれだけ言うと全員に神威を行使してもらった後に、神殿の中に足を踏み入れた。
 すると踏み入れた瞬間、そこはは石作りの町並みが広がっていく。
 そして目の前には、一人の金色の髪と瞳を持った美女が手を広げて私に語りかけてきた。

「ここがヤハウェたる我の領域であり……神域になる。ここで貴様を殺すとしよう」

 彼女は私に向けて宣言すると白銀の鎧を纏い2メートル以上もある白銀色の長剣をその手に握った。








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