最強のFラン冒険者

なつめ猫

神威

 私とクラウス様は白い通路を歩き扉の前に並ぶ。
 すると扉は、音も立てずに自動的に開いた。

 ―――急ぎで会いたいと連絡があったと思えばメディデータをつれてきたのか?

 草薙は私たちを見てそう告げてきた。

「俺は、リースノット王国第一継承権の「クラウス・ド・リースノットでよかったかな?」」
 クラウス様の言葉にかぶせる様に草薙が語りかけてくる。

 ―――しかし、私の予想を超える事をしてくるとは思っても見なかったな。

 そこで初めて草薙が嬉しそうな感情を込めた声を発した。

 ―――それで決めたのかい?ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。君が進む道を……。

 私は、草薙の言葉に頷く。

「はい、私は正史を戻して……そしてクラウス様と一緒に同じ世界で暮らして行く事に決めました」

 ―――その意味する所は、歴史の修正作用に働く力に君を書き加えると言う事になる訳だが、それがどのような結末を歪みを生むのが想像がつかない。

それでも君は、その道を進もうというのか?
君一人の犠牲で世界が安定し救われる道があるのにそれを捨てて不安定な未来を求めるというのか?

「はい!私はもう決めましたので」
 私は、もう決めたのだ。
 私は、みんなと一緒に生きていく。
 私は、人として人間として精一杯生きて行くことを決めた。
 だから、私は決して誰かに自分の運命を決めてほしくないしそのレールに乗ったりもしない。
 もしオリジナルの草薙が敵対するなら私はそれとも戦って勝つ。

 ―――なるほど。だがそれは、今の力では成しえない事だ。

「ひとついいか?」
 そこでクラウス様は、声をあげた。

「リメイラールと言う女性から神衣には進化の余地があると、ユウティーシアとエンハスが戦ってるときにブリッジで話し合いをしてるときに説明があった」

 ―――ふむ。どのような情報だ?

「神衣は、本来は2人が融合する事で各々武器を作り出しそれにより上位次元の者と戦う力だと言う事。そして進化した神衣は、ユウティーシアを武器として全員が同時に神衣を行う事と説明されていた」

 ―――なるほど、たしかに神核があった状態ならそれは可能だったかも知れない。だがユウティーシアには今、その神核がエネルギーを供給し補佐する力が不足している。少なくとも魔力量二百億は無いとそれは実現できない。

 私は、二百億という言葉を聞いてそれは無理だと思ってしまう。
 私でも魔力量は数千万しかない。

「なるほど、それなら問題ないな。俺の魔力量は二百億あるからな」
 思わず、私はクラウス様の方へ視線を向けてしまう。
 一体、いつの間にそれだけの魔力量を手に入れていたのか。

 ―――そうか、そういうことか。ユウティーシア、君はこの男と寝たんだな?

「え!?えーと」
 私は、顔を真っ赤にして髪を弄りながら目を左右に動かしてしまう。

 ―――なるほど、つまりユウティーシアの魔力量の器に君の器が反応して魔力量が引き上げられたというわけか。それならたしかに可能だな。そしてちょうどいい事に、世界を構成する元素が6つとも揃っている。これは天文学的確立になる。なるほど、ヤハウェが急いで力を確保しようとしてるのがようやく理解できたな。

「それってどういう?」
 話を逸らそうとして私は言葉を紡ぐ。

 ―――やつらは自分を信仰している教徒を生贄にしてその力で宇宙を滅ぼそうとしている。その猶予があと5日後、ちょうど12月24日のクリスマスの夜になる。
君たちはそれまでに、新しい神衣である神威を完全に制御し掌握しなければならない。

特にユウティーシア、君は全員と同時にリンクを行いしかも内面に存在するもう一人のユウティーシアの協力を得て自身も神威を行う必要が出てくる。

これを見てもらおう。
オリジナルの草薙が作り出したのは人の意思や思いを試すための神衣であり、リメイラールとアレルが作り出したのは人々が協力し未来を紡ぐ力を持つ神威だ。

従来の神衣とはまったく別物の神威だ。

どちらも似てるようで決定的に違う点は、従来の神衣は2人を想定して作られているが新しい神威は、一対複数を想定して作られている。

それによる負担は従来の数倍に跳ね上がるが、音素たる君にとってはそれほど難しくはないはずだ。
問題は……神威を制御し扱う制御者になる。

これは命がけの制御になるが君の仲間はそれだけの覚悟があるのか?
……なるほど、覚悟はあるようだな。

 草薙の言葉と同時に開いていた扉からレオナを筆頭にアリア、コルク、エメラスが近づいてくる。

 ―――やれやれ。修理をするのも大変なのだがな。

 草薙が一人呟いているけど私はそれを聞かないでおいた。
 そうしてる間にレオナは私の横に立つと……。

「ユウティーシア殿、心配で見にきてしまいました」
 頭の上に手を置きながら話しかけてくる。

「ユウティーシア様、雰囲気が変わりました?」

「クラウスの旦那と一夜を共にしたんじゃないですか?」
 アリアは私を見て首を傾げていたがエメラスは敏感に察したようで納得したように頷いている。
 コルクはと言うと『俺だってまだなのにー』と言っている。

 ―――君達の意思は汲み取ろう。なら神威の論理を説明しよう。

 草薙の言葉に私達は頷く。
 そしてリメイラールとアレルが残した神威の練習を私達は開始した。

 私はと言えば、一人だけ離れた場所で瞑想を行っている。

 本来の私に会いに行くため、私は意識を自分の内側に向けた。


 

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