最強のFラン冒険者

なつめ猫

エンハス襲来

[フッ……ハハハハハハッ。なるほど……そういうことか」
 私を見ていたロウトゥは笑い出すとすぐに真顔になり鋭い視線を向けてきた。

「何の為にここにいるのですか?」
 私は彼女に語りかけるが……。

「何の為か……貴様に計画を邪魔された事への報復だ!」
 彼女は私に宣言すると先ほどまでとは比較にならない程の速度で、一瞬で私の目の前から消える。
私は両手に持っていた杖を回転させながら後方を振り向く。
迫ってきた剣閃は2つ、それらを遠心力を乗せた杖で弾きながら距離を取る。
今まで見えていなかった相手の動きが手に取るように分かる。

「今までは手加減をしていたと……そう言う事か?」
 彼女は私に話しかけてくるが、今までとはまったく違う……そうじゃない。
 これは、今まで私が感じてた力。
 体内に魔力が泉のように溢れ出していくのを感じる。
 世界の理が大気の動きが世界を編む粒子が全て理解出来る。

 私はゆっくりとした時の中で、彼女の動きを追う。
 彼女は魔術ではなく限りなく魔法に近い魔術を使おうとしているのが手に取るように分かる。

「万物に干渉す」
 私は自然と手を動かしながら魔術式を高速で編み上げていく。

「な!?」

「破壊するは加速術式、踏破せしは天の後光」
 私が編み上げ作り上げた魔術魔方式が彼の加速半魔法を打ち砕く。
 それと同時に彼女の移動速度が目に見えて落ちるのが分かる。

「先ほどまで感じていた気配とは……力も性質も別物ではないか!?」
 驚愕の表情を見せている彼女を私は見つめながら……。

「それで、どのような用件でここまで来たのですか?エンハス」
 すでに目の前にいる男は私が知ってるロウトゥではなかった。
 魔術を使ったのだ、クラウス殿下にアリア、そしてレオナがいたのだ、とっくに彼は離脱している。
 この結界だって先ほどまのロウトゥの結界に似せているがまったくの別物。

「なるほど……せっかく残っていた結界を利用して再生させたのだが無駄に終わったようだな」
 ロウトゥの格好をしていたモノは、少しづつその姿形を変えていく。
 そして漆黒の瞳と漆黒の髪を持った私を成長させた美女にその姿を変化させた。

「何の為にここにいるですって?ようやく輪廻を元に戻せると思ったのに……希少な天啓を持つ因子を手に入れて育てたのに……貴女は私の従属神を殺してしまった。そればかりか、計画に必要な神核まで破壊してしまった。これがどれだけの大罪か理解しているのですか?親の言う事もまともに聞けない不良品は処分するのが親の愛情でしょう?偶然を装って苦しみの無いように処分しようとしたのに貴女には親の気持ちが分からないのですね」
 私は、エンハスの言葉を聴きながら溜息をついた。
 彼女は親と言うのがどう言ったモノなのか理解してないらしい。

「悪いがエンハス、私はアンタのオママゴトに付き合ってる気分じゃない」
 私の言葉にエンハスは怒りの形相を見せてきた。

「やはり人間の知識なんかを与えたのが間違いだったのね、だからだからだからこんな不良品が……これでは他の神々へ申し開きが立たない。なら処分して……」
 私は彼女が独白してる間に魔術式を組み上げてて

「万物に干渉す、破壊するは心象世界…踏破せしは空の刃」
 私が発動させた魔法が心象世界を粉々に砕く。
 先ほどまで歪んだ地平の心象世界は私の魔法により砕け散った。

「そんな、バカな!?人間程度が神の結界を砕く力を有しているだと?」
 一人独白していたエンハスは、自分の心象世界が砕かれた事を感じ取り乱していた。

「やはり、さすがはユニコーンの団長と言うところか?」
 飛ばした探索魔法ソナーでロウトゥの位置を確認しながら一人事を呟く。
 ロウトゥは、すでに船内には居ないばかりか船外に出ている。
 それもかなり遠い位置。
 さらにはまだ移動を続けており距離を稼いでいる。
 誰かが追ってるようだがおそらく追いつけない。
 ロウトゥの移動速度は、おそらく神衣化した私に匹敵する。
 つくづく化け物だなと思う。
 そして目的を遂げたら即、逃亡をするあたり場慣れしている。
 目の前で事実を認められない三下とは違う。

「私の話を聞けええええええ」
 エンハスを無視していたら彼女から不可視の刃が放たれてきたが、すでにその対抗魔法は組み上げている。

「グラビディ!」
 私が魔法を展開した途端、不可視の刃は超重力の影響で部屋の床に叩きつけられ霧散した。

「クッ……!」
 不利だと察したのかエンハスは部屋の中から転移して消えた。
 すぐに音響を飛ばし彼女の行方を追う。
 すると上空5千メートルの位置にエンハスの存在を確認する。

「ユウティーシア!」
 入れ替わり扉から入ってきたのはクラウス様であった。

「おかしな魔力結界を感じたのですぐに来てみたのだが……敵はいないようだな?」
 私はクラウス様の言葉に頭を振る。

「いえ、彼女は上空にいます。どうやらかなり強力な神術を使ってくるようです。それよりレオナとアリアは?」

「レオナはロウトゥの後を追っている。アリアは、コルクと行動を共にしている」
 クラウス様の言葉を聴きながら私は考える。
 相手は三下と言えど、一応は八百万の神々の一柱だ。
 それが使う神術となればかなりの力のはずだ。

「クラウス様、すぐに船を移動させてください。この船に直撃した場合の被害が予想がつきません。私は、エンハスと最後の決着をつけて参ります」

「勝算はあるのか?その身を犠牲にして倒すつもりなら……」
 クラウス様の言葉を私は彼の唇に一刺し指を当てる事で止める。


「勝算はあります。今の私ならあの程度の三下の三流役者に負ける事はありません。それに私は決めたんです、自身を犠牲にして誰かを守るよりも誰かと共に生きる為に戦うと」
 じっと私の言葉を聞きながらクラウス様は軽く息を吐くと私の耳元に顔を近づけてきた。

「分かった、だが危なくなったら助けるからな。いいな?」

「はい!」
 耳元で言わないでほしい、ドキドキしてしまいます。
 クラウス様はすぐに私から離れるとブリッジに転移していった。

「我、編むは転移の鼓動……求むは森羅の時の歩み……転移法典」
 本来のユウティーシアより渡された先史文明の魔法と魔力を使い私は一瞬でエンハスの前に移動した。
 そして、やっと今まで転移が使えなかった理由がようやく理解出来た。
 この魔術は生きてる人間には使えない。
 体に負荷がかかりすぎる。
 細胞が精神エネルギーで構成されているメディデータのみが使える魔法なのだろう。
 でも今の私なら使える、杖から供給されてくる力が瞬時に破裂した内臓や心臓を修復していく。

 そして目の前に現れた私を見て、エンハスは目を見開いている。

「クサナギ、貴様が何故転移を!?」
 神術を編みこんでいるエンハスの顔に向けて私は上段回し蹴りを打ち込む。
 彼女の頭が後方に弾かれ神術が解除される。

「ぐうううううう。た、体術だと!?」
 私が魔術とか魔法で対抗すると思っていたのだろう。
 エンハスの周囲には私が魔術か魔法を使った際に反応する神術がいくつも見てとれる。
 どれもかなり強力に見えるが……、
 三下と言えど神相手に魔術戦を仕掛けるほど、そこまで戦闘経験は浅くない。
 私は、極小の魔力を使い空気の足場を作りながらエンハスに肉薄する。

「神殿流体術!」
 聖女アリアと神衣した事で得た徒手空拳で、エンハスの体を打ち据えていく。
 そのたびにエンハスの体が揺れる。
 10発近い打撃がエンハスの体に打ち込まれた所で、エンハスは私から距離を取った。

「どう言う事……体術を使ってくるなんて……そんなのは戦いのセオリーではない!」
 力説してくるが、これはスポーツや試合ではない。

「戦いのセオリーと言われても……私を殺すと言ってきた人に真正面正直に戦う人は居ないと思いますけど?」
 私の言葉に、エンハスの顔が真っ赤に染まる。

「ふざけるな!少し優勢になった程度で頭に乗るではないわ!もうよい、貴様だけを殺そうと思っていたが仕舞いぐふっうううう」

「すいません、話してる間……とても隙だらけだったのでボディを殴ってしまいました」
 ついでに蹴りも入れて上空から叩き落とした。
 甲高い音を立てながら落下していくエンハスを追うように私は落下を開始する。
 すると地表すれすれでエンハスは落下を止めたようであった。

「おのれ、くさなごふっ!」
 追うように落下してた私の蹴りがエンハスの顔面に突き刺さる。
 空中に停滞していたエンハスは、そのまま落下し地面に激突し砂埃を立てた。

 私は止めを刺すために彼女が落下した場所へ近づいていく。
 すると突然、体中に感じる圧力が増す。
 その場から飛びのくと極光が私が立って居た場所をなぎ払った。
 滞留していた煙が吹き飛ばされた場所から姿を現したのは20メートル近い巨大な光龍であった。


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