最強のFラン冒険者

なつめ猫

作られた世界

「ユウティーシア様は、彼女とはお知り合いなのですか?」
 私は、聖女アリアの言葉に頷きながらも走り去っていくエメラスの背中を視線で追った。

 元々、エメラスは海洋国家ルグニカで王族として暮らしていた支配者層にあたる。それを私が引きずり落とした。
 彼女は人を奴隷として物として扱っていたから。
 それ以上に、私を奴隷にしようとして姑息な非人道的な手段をとってきたから。だから私は徹底的に対抗して海洋国家ルグニカの元王族を全て王位が掛かった王位簒奪レースで、彼らを完膚無きまでに叩き潰した。
 当時はそれで良かったと思っていたけど、それは結果的に自分の意見を押し付けていた事にエメラスがしていた事と比べて根幹は同じだったのではないのかと最近では思ってしまっている。
 もしかしたら話し合いで、奴隷商人の時のようにメリットとデメリットを提示する事でもっと上手く出来たのではないのだろうか?と考えずにはいられない。

 きっと私は、地球の知識を持っていた事に胡坐を書いて本当に誰かの事を考えてはいなかったのだろう。
 知識はあくまでも知識に過ぎない。
 それを私は理解せずに他人に配慮せずに知識だけと力だけを振りかざしていたのが昔の私だったのだろう。私は、アリアがエメラスを追って行ったのを見ながら取り留めなくそんな事を、もう終わってしまった事を考えた。

「ユウティーシア、クラウス殿下。ブリッジまで案内します」
 コルクが私とクラウス殿下に話しかけてくるけど、クラウス殿下の表情はあまり優れない。

「失礼だが、神殿の関係者の者であってユウティーシアが聖女だと思っているならきちんと様をつけるかもしくは次期王妃のユウティーシアには敬称をつけて貰いたいのだが?」

「俺の仲では戦友に敬称をつけるのはな……だろう?」
 コルクが私の方へ視線を向けてくるけどどうしたものか。きっとクラウス殿下は私が殿方と話してるのが気にいらないと思ってるはず。

「クラウス殿下、私はコルクの事を仲間だと思って呼び捨てにしてますので……」
 私は途中で言葉を止めた。クラウス殿下は強い眼差しで私を見てきたから。

「分かった。それなら俺の事もクラウスと言ってもらおう。ならいいだろう?」
 一国の次期国王相手にそんな言い方をしていいものなのか……。

「ですがクラウス殿「ユウティーシア、俺が足手まといだと言いたいのか?」」

「分かりました、クラウス。これでよろしいでしょうか?」
 私の言葉に満足げにクラウス殿下は頷いてくれたけど、どうしようかな。

「コルク様!こちらにいたのですね」
 一人の海賊風な男性が息を切らせて私たちの前に走ってきた。

「大至急、ブリッジにお越しください」
 男性はそれだけ言うと私から離れてアリアが向かった方へ走っていく。

「どうやら緊急事態のようだ。走れるか?」
 コルクの言葉に私とクラウス殿下は頷き小走りでブリッジへ向かう。1分ほどでブリッジ前にたどり着くとドアがプシューと言う音を立てながら自動で開く。

ブリッジは、イージス艦のCICのように設計されていて10席近くある座席にはそれぞれ海賊風の格好をした男性が座っている。
そして天井だけはイージス艦CICとは違い、かなり高く作られており空中に固定されたモニターが画像を映している。

「これは……」
 私は、そのモニターに表示された画像を見て思わず呟いてしまう。横を見るとクラウス殿下もコルクもモニターに視線が釘付けになっていた。

「報告いたします。魔法帝国ジールからの上級魔法師を利用した通信を傍受しました所、神兵はセイレーン連邦3国と魔法帝国ジールの軍が戦闘状況下であった場所に突如現れ両軍を壊滅。後に魔法帝国ジールの王都ジルニスカに強襲を仕掛けてきたとの事。現在、神兵を魔法帝国ジールは総戦力で向かえ打ってるそうですが3割の損失があり、各国に軍事援助を求めてるそうですが……」
 通信兵と思われる男性はそこで言葉を濁してしまう。

「どこの国も援助はしない。もしくはそのような行動は見せてない、そういうことですね?」
 私は通信兵の言葉の続きを話す。私の話を聞いていた通信兵の男性は頷く。
 つまりそういう事になる。
 魔法帝国ジールは奴隷制度を推進しており、ヴァルキリアスとアルドーラ公国、リースノット王国とは仲が悪い。さらに私が海洋国家ルグニカの奴隷制度を廃止してしまったために魔法帝国ジールと帝政国とセンレーン連邦の一部の国しか奴隷制度を利用していない。
 さらに聖女アリアが、私と神衣したことで奴隷制度撤廃をセイレーン連邦所属各国に語りかけてる事で奴隷制度自体が撤廃され派遣制度が推進される動きがある。
 つまり現状では、敵対している帝政国からは援助は期待できないし、各国の奴隷制度否定の各国からも援助を受けることは難しい。そもそも魔法帝国ジールは恫喝外交を今まで行ってきて地続きだったセイレーン連邦の領土を武力で侵略続けていた。
 今まで、自分勝手に振舞っておいて何が援助だとどこの国も思ってる事だろう。

「それにしても……多いですね」
 私は、頭上のモニターに表示される神兵の数を見ながら一人呟く。

「はい、確認できる限り神兵の数は2000はいると思われます」
 見た限り座天使級が居ないのは救いだけど、それでもこの数は脅威だと思う。

「ところでこの機械はどのように動かしてるのですか?」
 私は通信兵へ話しかけると

「これは座席前のこの部分に手を当てたまま、やりたい事を考えると勝手に動いてくれます」
 つまりこれは精神感応を搭載した端末という事なのかな?

「少しいいですか?」

「はい」
 私は、通信兵が乗せていたパネルに手を載せるとリースノット王国の王都の町並みや海上都市ルグニカの様子を表示させる。
 私が行った所がある場所は表示されるみたい。
 なら、私が言った事がない場所は?考えながら帝政国の帝都の町並みを移すように考えると中世ヨーロッパの町並みの都市が表示された。
 私が認識したことも無い場所も全て上空から表示されるという事は……。

「これは……」
 私はこの世界アガルタの大気圏外からの画像を表示させるように考えた。
 そして映し出された光景に目を見張る。
 そこには、球体の星ではなく円盤状の世界が浮かんでおり巨大な一つの大陸とそれを取り囲む巨大な海が存在していた。
 やはり草薙友哉が残したメモは本当だった。
 私は無意識に、アリアから渡されたメモを握り締める。
 メモにはこう書かれていた。 

 この世界アガルタは、2億5千万年前に存在していた超大陸パンゲアを模して作り上げられた可能性が高く、あれだけ科学力が進んでいた神代文明時代ですらすべての人類に誤認識させていた者がいたと。


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