最強のFラン冒険者

なつめ猫

依頼を達成したのにお金が貯まらない!

 保護した女性達を連れて町についた頃にはすでに夕方に差し掛かる時間であった。冒険者用のブーツなどではない事から移動に時間がかかってしまったのだ。
 身体強化魔術を使おうとも思ったが、戦闘職でもない普通の女性にそれをかけると扱いきれずに怪我をすると思い道中で何度も休みを取っていたのが大きい。
 足を痛めた人がいたらヒールで痛めた箇所を直していたのでそれもまたひとつの要因だろう。

「すいません。門を開けてもらえますか?」
 俺は北門にいる兵士に話しかけると身分証の提示を言われたのでレオナの身分証を出すとすぐに門を開けてくれた。

「レオナさん、そちらの女性達は?」
 女性達を連れて門を潜ろうとすると男の兵士達が集まってきて聞いてきた。

「ウリボウを倒した時に、救出した方々です。心的外傷があると思うので男性の方はなるべく近づかないでください」
 俺は念を押して兵士達を女性達から離した。

「わかりました。ダブルSランクのレオナさんの話を信じましょう。それよりも、ウリボウの死体は?」
 被害者の女性の心配よりも死体の方が大事なのか?

「きちんと処理しておいたので大丈夫です。それよりも報告を先に行いたいので通ってもいいですか?」

「あ、ああ」
 兵士は俺の言葉に頷いてくれていた。
そこで俺は女性達に振り返り

「皆さんはどうしますか?全員、この町の方という事ですのでこのまま解散して頂いてかまいませんよ?」
 この服とかは返さなくていいんですか?と聞いてくるがそのまま貰ってくださいと説明し、女性達と北門付近で解散した。兵士達からは毛布一枚渡して、解散が普通だろうにと言われたが洋服で彼女たちの傷が少しでも埋まる物なら安いものだ。

「それでは、冒険者ギルドに向かいましょう」
 俺はバズーと10歳くらいと思われるシータに話しかけたがシータはすぐに頷いてくれたがバズーは暗い表情のままであった。

 北門から10分程歩くと冒険者ギルドについた。相変わらず黒い漆喰が塗られてる建物は不気味さがあるが遠慮なく中に入る。
 俺の姿を見ると全員が驚きの表情を浮かべていたが無視する。今回、依頼を受けた時に対応してくれたカウンターに座る冒険者ギルドの受付の女性に事の顛末を説明すると

「そうですか……ほかにも女性がいらっしゃたのですね。それでレオナさんはどうされますか?」

「どうされるとは?」

「おそらく、行方不明という形で調査依頼が出ていたはずですが、そこから達成金を上乗せで貰いますか?」
 ふむ……どうしたものか?考え込んでいると

「まずはウリボウの討伐達成金としてお金では用意出来ないという事でしたので、依頼主であったバルスさんの家をこちらで処分して金貨とします。次にバルスさんが所有していた鉱山採掘権利も冒険者ギルドの方で現金化します。これによりレオナさんには金貨1400枚が支払われます」

「シータ!」
 話の途中でガタイのいい40歳くらいの男と30歳くらい女性が冒険者ギルドの中に入ってきてシータの名前を呼びながら抱きしめ合った。
 男性は少し抱擁を交わしたあと俺の近くまで来て頭を下げてきた。

「レオナ様、私はシータとバズーの父親のバルスです。このたびは、娘を助けて頂き本当にありがとうございました。そしてバズーの命まで助けて頂きありがとうございます」
 シータの母親と思われる女性も、シータを抱きながら何度も俺に頭を下げてきている。

「それではレオナ様、こちらが金貨「まってください」」
 俺はギルドの職員が金貨を渡してきようとしたので止めた。せっかく無事に帰れたのだ、ここで金貨を受け取って家が無くなったらバズーは良いとして、まだ10歳のシータにはショックが大きいだろう。

「一つお伺いしたいのですが、これって受け取った場合に成功報酬として何%か冒険者ギルドで取りますよね?」

「は?はい、それは取りますがそれが何か?」
 つまり俺が報酬を受け取った時点で1400万円分の%がギルドに入るってことになる。そうすると手持ちが4000円しかない俺には、うーん。

「あの、ダブルSランクだと依頼に失敗した場合って違約金はかかりますか?」
 俺の言葉にようやく受付の女性が理解したようで

「いえいえいえいえ、まってください!正規に依頼を受けて成功したのに失敗したとするんですか?そんなの認められる訳ないじゃないですか!」
 デスヨネー、ならどうしようかな、もうあれしかないよな……。

「実は、隠してましたけどこの冒険者ギルドカード借りてた物なんです。ですから今回の依頼受注は無効ってことでお願いできませんか?」
 俺のこの言葉で冒険者ギルドの内部がシーンと静まり返った。冒険者ギルドカードを借りるくらいならいいが、それで依頼を受注して成功させておいて無効にしてくださいと言う。
 そんなギルド始まって以来の言葉はそれ程、全員に衝撃的であった。

「貴女は自分が何を言ってるのか分かってるのですか?冒険者ギルドの運営を邪魔しただけではなく冒険者の「そのくらいにしておけ」」
 声がした方向へ視線を向けるとそこにはレオナが居た。

「だれですか貴女は?……」

「クサナギ殿が気を聞かせて言ってるんだ、だまってろ!」
 レオナがギルド入り口から大股で俺の所まで来ると職員の前に金貨の入った袋を叩き付けた。

「依頼達成が出来なかった場合の違約金貨100枚だ。これで文句はないだろう?」
 レオナの言葉にギルド職員は、あまりの展開の速さについていけず固まっていた。

「クサナギ殿、あまりゴタゴタを起こさないようにと伝えておいたのに少しは自重してください。それとこれ忘れ物です」
 俺は、レオナが差し出した聖女ユウティーシア・フォン・シュトロハイムと書かれた聖女認定書を受け取りレオナから借りていた冒険者カードを差し出す。

「すいません、レオナ。これ返しますね」
 レオナは俺が差し出した冒険者ギルドカードを受け取った。その様子に

「え?聖女様?本物の?」
「それじゃあっちが本物の勇者?」

 など聞こえてくる。冒険者ギルドのカウンターに座っていた受付担当者なんて顔を真っ青にしている。

「えっと、本当にご迷惑をかけてしまってすいませんでした。実は、私の護衛が他の事件を解決してる間に女性が連続失踪すると言う事件もあったので代わりに私が受けていたのです」
 俺の言葉に、顔を真っ青にしていた受付嬢はますます顔色を悪くしていく。つまりこれは大陸全体に影響力を持つ聖女と勇者が困ってる人を善意で助けたんですよ?それに対して貴女はお金を要求してきてますがどうなんですか?と言う意味になってしまうのだ。なんという権力の乱用、ひどいな。

「あ……ああ、そういう事だったんですね!それでは、最初から依頼は受けていなかったという事にしましょう。聖女様も勇者様もここに居なかった!それでいいですよね?」
 受付嬢は独り言を呟きながら、ウリボウ討伐の書類を破棄して金貨100枚の入った袋をレオナに差し出した。レオナは頷きそれを手にとると自身のアイテムボックスに入れてしまった。
 とりあえずこれで無事安全に、俺以外の人は丸く収まるようだ。

「え?それで私たちはいったい?」
 バズーやバルス一家は急展開の状況についてこれず混乱していたが、受付嬢の方が一家の長であるバルスに近づくと家の抵当権と鉱山採掘権を返していた。

「聖女様の行動の一貫として、貴方達を救済したようですので今回の依頼は無効扱いにされます。その為、冒険者ギルドに依頼した際の手数料も全て払い戻しになります」
 受付嬢のその言葉を聞いてようやく理解したのかバズーや家族達は感謝の言葉を俺に向けてきていた。

 ただ、レオナだけは激怒な表情をしていた。
 きっと今日は眠れないんだろうな、説教的な意味で……。



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