最強のFラン冒険者

なつめ猫

聖女はブラック職業

<a href="//655400.mitemin.net/i230471/" target="_blank"><img src="//655400.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i230471/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

 商業の交差点であり砂上から緑多き湖上の都へと変貌を遂げた衛星都市ルゼンドから東へ馬車で移動を始めてからすでに2週間が経過していた。その間、緑地化した大小の町や村を経由したが草薙一行は、聖女が今回の緑地化の奇跡を起こしたという噂により手厚い歓迎を受けた。

「お金がほ・し・い」
 地の底で這いずるグールのようにクサナギは馬車の中でつぶやいていた。それを向かい側の席で見ていたレオナは、またかとため息をついていた。

「クサナギ様は、数日前から同じ事を繰り返して言ってますが、もうお金を使い果たしたのですか?」
 アルゴ公国を救った際に、王宮から感謝の意として送られた金貨は5000枚。日本円で言うとその金額は5000万円であった。レオナ、草薙、コルク、アリアの4人で割ったので一人1250枚であったがそれでも1250万円は一人は持っていたことになる。それをたった5週間で使い切ったと草薙は言っているのだ。
 レオナが困惑するのも当然と言えば当然であった。

 そんな困惑した顔で質問をしてきたレオナに、草薙は「はい」と頭を垂れた。

「一体何に使ったのですか?購入したリストは?」
 レオナの言葉に頭を振る草薙。それを見てますます呆れ顔になるレオナ。

「どうせアイテムボックスに閉まってると思いますが、少し見せてもらえますか?」
 草薙がアイテムボックスから取り出すのはオリーブオイルから作られたハーブが混ぜられた石鹸であった。

「……?石鹸ですか?」
 素直にうなずくと草薙は次々と石鹸を取り出し始めた。ラベンダーの香りの物やバラの香りの物や多種多様であった。その数は300個近い。さらには色とりどりの服や下着や靴に帽子に香油と代わる代わるアイテムボックスからアイテムを取り出しては入れていく。

「……どれだけ買ってるんですかと言うよりも、どれだけ広いアイテムボックス持ってるんですか?明らかに容量がおかしいですよ?」
 規格外のアイテムボックスを持つ事と草薙の浪費癖を見せられてレオナは頭が痛くなった。

 草薙一行の構成は、アルゴ公国が手配した騎士団20人と安全な旅のお供としてルゼンド総督府が国内の道中警備のためにつけた兵士10人と草薙とレオナを含めて32人と言う大所帯であった。

 2時間後、見渡す限り広大な草原で、草薙一行は野宿をすることになった。

日没後、唐突に俺とレオナは気配を感じることとなる。

「クサナギ殿!」

「わかってる」
 俺は、レオナの言葉を聞き立ち上がった。ミトコンドリアに命じて体内の細胞を組み替え聴力を引き上げていく。

「こちらへ迫ってくる人数は騎馬兵のようだ。数は、30というところか?」
 すでに異常に気がついていた護衛の兵士や騎士達が手に剣や盾を持ち用意をしていたが……。

「クサナギ殿、ここは町に近いため相手が視認可能な範囲に入るまで様子を見ましょう」
 たしかにそれも良いかも知れないが……これって盗賊なら倒してお金になるんじゃないのかな?

「レオナ、考えたんですけど」

「盗賊を倒してお金を剥ぎ取ろうとしてるんですね、そんな事は絶対だめです。曲がりなりにもクサナギ様は教会本部法皇アリア様から直接、聖女認定証まで発行されてるんですから。そんな人が盗賊とは言え殴ってお金の剥ぎ取りなんてしてたら大問題です」

「―――あ、はい……」
 だからバレないうちにダッシュで近づいて稼ごうとしたのに……。仕方ない、戦えないなら攻めて視界だけでも良くするか。

種火トーチ
 使用魔力量を通常の1万倍に増やした物を上空に20個ほど作り出して打ち出す。それらは上空で光を放ち周辺を真昼のように照らし出す。俺を護衛していた騎士達が驚いた表情で俺を見てきていてレオナは呆れた顔で見ているがこのくらいいいではないか。

身体強化魔術パワーオヴデフィンス
 兵士たちや騎士達のステータスを100倍に引き上げておく。アルゴ公国の騎士達は以前にも俺がかけておいたので祝福ブレスをまた受けたくらいにしか感じてはいなかったようだが、ルゼンド総督府がつけてくれた兵士たちは初めての感覚からかなり驚いているようであった。

「皆さん、がんばってくさいね」
 俺はニコリと微笑むだけにした。これだけしておけば戦闘になっても問題ないだろう。むしろ夜盗だったら倒すだけ倒して夜盗の拠点を吐かせてから深夜一人で強襲かければお金稼げるかもしれない。
夜盗すばらしいな……俺の財布じゃないか。

 しばらくすると姿を現したのは黄色い布を右腕に巻いた皮の鎧を纏った兵士達で一人が近づいてくるとレオナと話を始めていた。

「聖女様、どうやら夜盗ではないようです」
 夜盗じゃないのか、それは残念。レオナの冒険者カード借りて冒険者のクエストしてお金でも稼ぐかな……。
 そんな事を考えているとレオナが近づいてきた。

「クサナギ殿、どうやら彼らは某たちに緊急の用があったようです。某たちが向かっております衛星都市ハントで疫病が発生していてクサナギ様のお力を借りたいと」
 ふむ。なるほど……給金は出るのかな?

「そうですか。困ってる人を助けるのは人として当然の事です。やはり寄進とかもあったり?」

「教会に払うから心配しなくていいと言う事です」
 ……いあいあ、俺……教会から給料もらってないんだけど?教会にお金払われたら俺ただ働き決定なんだけどどうなってんの?ブラックなの?教会はブラック企業なの?中抜き100%企業なの?まて、まだ慌てる段階じゃない。

「レオナさん?少しその方とお話がしたいんですけどよろしいですか?」

「いえ、向こうが聖女様と直接話すなんて恐れ多いと……無理だと思いますよ?教会じゃなくて私に払ってとか言ったらクサナギ様の聖女イメージとかガタ落ちだと思いますが?」

「―――え……ええ!?」
 なら俺は聖女としてのヒールを止めるぞ!

「レオナさん、私は思ったのです。冒険者のお仕事とかでヒールとか治療で稼げばいいんじゃないかなって……」
 だって聖女で仕事をすると自動的にお金を教会が徴収するんだよな?なら冒険者として仕事請ければいいじゃん!

「そうでした。元聖女アリア様からこんな紙を預かっていました」
 俺は、レオナから差し出された紙を受け取り目を通していく。
 紙に書かれていた内容は以下の通り

月給:金貨30枚 日本円30万円
※慈愛と人の幸せを願う聖女の給料は高いとだめです。人の幸福こそが貴女の幸せです!
ボーナス:年2回、4か月分
年収:金貨480枚 日本円換算480万円(一般職は年収金貨700枚)
仕事内容:冠婚葬祭、治療関係、住民の悩み相談を聞いて改善しましょう
就業時間:24時間365日休み無し(困ってる方はどこにでもいます。慈愛です!)
禁止条例:結婚禁止、婚約禁止、副業禁止、冒険者家業禁止、暴力禁止
引退方法:結婚する時、聖女を10年以上務めて昇進して枢機卿か法皇になる時のみ

機密事項
雇用内容を第三者に明かしたらいけません。
聖女には神秘性が求められます。
漏洩した場合、大陸中の教会関係者が無い事無い事言いふらします。気をつけましょう
聖女認定証を使えば教会の賄いを無料で食べられますし寝床も無料で用意してくれます。
聖女になる場合には本人と法皇の了承が必要です。
※クサナギ様は自分ですでに名乗ってましたから了承されてると教会側で受け取りました。


「……」
 無言で紙を握りつぶした。
 とても不平等な契約内容を一方的に終結させるとか絶対、アルゴ公国でやられた仕返しだろ。
 しかも副業禁止とか……どうなってるんだよ?公務員かよ!
 それに聖女って教会だと一人しかいないはずなのにそれでこの年収って……。
 そりゃ聖女の雇用実態明かすなって言うよな……。

「仕方ないですね、クサナギ殿がご自身でリメイラール正統派聖女クサナギとか自分で名乗ったんですから……」
 レオナがヤレヤレと仕草を見せていた。

「なんとひどい……」
 俺は、異世界にきてまでとんでもないブラック会社に就職してしまった。
 そして聖女だったアリアが短気だった理由が少し分かった気がした。


後日談

「そういえば、クサナギ殿。法皇のアリア様から聞いた話によりますと、法皇の年収は金貨1万枚だそうです。それとクサナギ殿に聖女代わってくれてありがとうと感謝してました」
 そういう死体に鞭打つような事は、本当やめてください。

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