最強のFラン冒険者

なつめ猫

過去の幻影

「クサナギ殿、それは何なのですか?」

「これはガラスですね」
 俺の答えにレオナ以外の探索チームの連中が驚きの表情を見せていたが、別に大した事じゃない。1500度近くの高熱でガラスか砂を短時間で熱するだけでこのような物が出来てしまうのだ。過去に神代文明があったのだから不思議でもなんでもない。ただ……この遺跡が神代文明時代の物かと言われると何か違う気がする。

「外周部を見て回ってるだけの情報だとこのくらいが限界です。探索チームの方は少し遺跡から離れておいてください。私とレオナで中心部へ向かってみますので」
 俺の言葉に探索チームのメンバーは遺跡から離れた場所にテント設置を始めたようであった。それにしても、どこか見覚えがあるんだよな……。

 俺は体内のミトコンドリアに命じて肉体の強度を通常の1000倍まで高め、レオナの方へ視線を向ける。レオナも身体強化魔術でステータスを高めてあるようでこれでかなりの魔力抵抗が期待できるだろう。
 地面を蹴って空に舞いながら中心部へ視線を向ける。遺跡の内部は外部から見た限りではすでに風化しており何も残ってないように見える。

「レオナ、何か感じますか?」
 俺の質問にレオナも頭を振る。つまり何も魔力が感知できないという事だが、総督府の話だと上級魔法師でも突破できない幻惑の結界があると言っていたがよく分からないな。

「見てるだけでは埒があかないですね、これは行くしかありません」
 俺とレオナは遺跡外周部が崩れた部分から遺跡中心部に向けて歩き始めたが、最初は何も感じる事の無かった視界が急にぼやけてきた。

「レオナ、大丈夫ですか?」
 いまの俺のステータスは平均1万近いはずなのだが、それでも突破できない?それにさっきまで横を歩いていたレオナの姿がいつの間にか消えていた。戻ろうとした所で急速に霧が晴れるように周囲の景色が切り替わった。

 周囲は見渡す限りの草原に変化しており遺跡がどこにも見当たらない。そこで自分が巨大な影の中に立ってる事に気がつく。上空を見るとそこには、頭から尻尾まで含めると30メートル近い巨大な赤いドラゴンが下りて来ようとした所だった。

 すかさずドラゴンから距離を取り戦闘態勢を取るが赤いドラゴンだけではなく白や黒や黄色のドラゴンまで下りてくる。ドラゴン達は、俺に気が付いたのか息を吸いだした。

「ドラゴンブレスか?」
 俺は一人呟きながらも頭の中で生活魔法の水を生成を行いに必要な魔術式をくみ上げる。

「大瀑布(ナイアガラ!)」
 俺の言葉に水が……ってあれ?まったく魔法が発動しない。ドラゴン達から打ち出されたドラゴンブレスを俺は必死に避けていく。身体強化魔術も発動しないし神代魔法も発動しない。一体どうなってる?

「鑑定!」
 念のために鑑定魔術も発動したが鑑定魔術すら発動しない。

「―――ッ!」
 背中から強烈な痛みが襲ってきた。俺は地面の上を転がり続けその場に倒れこむ。細胞の強化魔術は普通に発動してるようで問題は無さそうだが、魔術と魔法が封じられているのはかなりきつい。それに外部魔力まで使用不可能になっている。これだと魔力頼りの力押しの戦いが出来ない。しかも敵が2匹追加されていて……いつのまにかドラゴンが6匹に増えていた。

「はぁ……仕方ないな」
 俺は少しばかり全力を出すことにした。体中のミトコンドリアに命じて限られた体内の魔力を使い体の細胞を組み替えていく。
 両手は炭素と珪素を併せ持つ細胞で構成していき右手には1メートル程の炭素と珪素を主成分とした細胞武器を左手には盾を作り出した。肉体強度は先ほどまでの1000倍から3000倍まで引き上げている。

 俺の両手が変化した事を脅威と感じ取ったのかドラゴンが近づいてくるが、俺はすれ違い様にドラゴンの羽を付け根からバッサリと切り落とす。切り落とされた付け根から血が噴き出し黄色いドラゴンが暴れるが俺はドラゴンの頭の上に乗り眉間に向けて右手の細胞を変化させた炭素素材のブレードを打ち込む。

 多少の抵抗があった後、ドラゴンの鱗がはじけ飛び右手のブレードは深く眉間に突き刺さった後、黄色いドラゴンは崩れ落ちて動かなくなった。そこに2匹の赤いドラゴンが噴き出した炎のブレスが迫ってきた。それを見て俺は避けられないと覚悟を決める。

 体中の細胞をミトコンドリアに命じて超速再生モードに変更し両手を盾に変化させて直撃した炎が消えるまで耐える。一瞬で俺が倒した足場のドラゴンが燃え上がりその炎が俺の身を焼き尽くしていくがその都度、体の細胞が全力で修復を開始する。ユウティーシアの魔力がガリガリ削られていくのが分かる。

「このままだとまずいな」
 俺はその場から動こうとしたがブレスの圧力が強すぎて動くことが出来ない。まさか…こいつら俺を?足止めする為にブレスを打ったのか!?俺は、炎に炙られながら盾の隙間から見ると残り3匹のドラゴンがそれぞれ雷撃のブレスと漆黒のブレスと白いブレスを放つ準備をしてるのが見えた。

「マズイ!?」
 3匹のドラゴンはそのまま咆哮を俺に向かって打ち出してくる。3種類のドラゴンブレスが直撃したことで体が徐々に消滅していくのが分かる。肉体の再生速度がドラゴンの攻撃の威力に追いついていない。このままだとマジでやばい……。

 レオナもおらず神衣も使えない状態で魔法や魔術も封じられてる状況だと……打開策が……意識が―――薄れて――――。

「エアリアルブレード!」
 薄れていた意識の中で一人の男が白いドラゴンの体を真っ二つに両断していた。1匹分のドラゴンのブレスが無くなった事で俺の肉体の再生速度が攻撃を上回り徐々に回復を始める。薄れかけていた意識がしっかりとしていく。

「マテリアルヒール!」
 ブレスに晒されていた俺の体の細胞が急速に活性化して修復していく。声をした方へ視線を向けるとそこには白銀の髪をした女性が背丈ほどある杖を構えて立っていた。

「蒼穹を司り森羅万象遍く者よ―――我が眼前に跪け―――満ところ天を総べし力を―――いまここに示せ!天昇雷撃(イグニションサンダー!)」
 見た事も聞いた事もない詠唱をした男が手を振り下ろすと数十にも及ぶ雷が俺にブレスを放っていたドラゴン達を絶命させていく。そして、ブレスが消えた俺に近づいてくる人影が2人。神衣状態の雷神をも遥かに凌駕する程の魔法を放った男はこちらを見ようともしない。

「大丈夫だっ……ぐへっ」

「女の子の裸を着やすく見るものじゃ有りません」
 女性は空中から白いローブを取り出すと俺に差し出してきた。そういえば俺、体変化させたまま……と思ってみたら変化が解けていた。どうやらユウティーシアの魔力を根こそぎ使い切ったようだだった。つまり彼らに助けて貰えなければ俺は死んでいた!?

「そんなに顔を青くして大丈夫ですか?」
 俺は彼女の顔見て何度も頷く。見た事が無い顔……?どこかで見た記憶がある?どこでだ?俺はドラゴンのブレスで真っ裸になった体を差し出されたローブで隠す。そういえば、アイテムボックスに靴とか入れてた気が?靴を取り出そうとしたがアイテムボックスすら機能しない。一体、どうなってるんだ?

「はい、助けて頂きましてありがとうございます。私の名前はユウティーシアと言います」
 いつもクサナギと言っていたのに自然とユウティーシアの名前が出てしまった。

「助けられて良かったです。私の名前は、リメイラールと言います。そこにいる変態さんは自称勇者のアレル・ザルトです」
 リメイラール?え?どういうことだ?

「自称じゃねーし。神代移動兵器エアリアルブレードは勇者の遺伝子情報を持つ者しかつかえねーし。それに一応、俺ってば貴族だし!」

「……」
 いろいろな事で頭がパンクしそうだ。なんで、ここに教会が奉ってるリメイラールと同じ名前の女性がいるんだ?しかも神代移動兵器エアリアルブレードってコルク・ザルトがもってい!?まさか?そんなバカな?良く見るとアレルの顔にはコルクと似てる部分あるような気がしないでもない。

「ユウティーシアさん。あとですね、あそこで貴女の裸を見て顔真っ赤にしてる人がですね……ちょっと!紹介するんですからこっちに来てください!童貞のむっつりスケベの自称最強の大魔術師さん!」
 リメイラールの言葉にもう一人の男が近づいてきて顔に掛けられていたローブを取る、その顔を見て俺は凍りついた。

「こちらが異世界から来られた自称最強の大魔術師の草薙くさなぎ雄哉ゆうやさんです」
 その顔は、どこから見ても名前も体格も……。

「うっせえ!自称聖女の痴女リメイラールに言われたくねー」
 ―――声も地球に居た高校生時代の俺と瓜二つだった。


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