最強のFラン冒険者

なつめ猫

ガラスの古代都市遺跡

 翌朝、目を覚ますと俺は自前の生活魔法でシャワーを浴びて髪の毛を乾かして身だしなみを確認した後、長い黒髪を黄色のリボンで結んで纏める。朝の用意で1時間ほど使ってしまったが、まだ俺達を案内するはずの総督府の探検チームが到着するまで1時間近くかかるはずだ。

 お昼に食べられるようにサンドイッチを作り昨日の夜のうちに出汁を取って味付けしておいた野菜スープを鍋ごとアイテムボックスに入れる。アイテムボックス内は時間が経過しないから日持ちがしない物でも安心して置いて置けるのだ。用意が終わると2つある寝室の一つからレオナが白い騎士服に着替えて出てきた。

「クサナギ様、おはようございます」

「おはよう。レオナ、今日は暑くなりそうよ?」

 俺はすでに不快指数が上がり始めた室内にゲンナリしつつ、生活魔法の水と風の応用魔法クーラーで室内を冷やす。

「クサナギ殿は、詠唱魔法より生活魔法の方が得意ですよね?」

「得意と言うか無詠唱で使える所がいい」
 詠唱が必要とされる攻撃や防御魔術と違って、戦う術をもたない魔術にすら定義されてない生活魔術には詠唱が必要ないのだ。

 必要ない理由は簡単で使用する魔力が低く、世界に与える理の変化も少ないからと生活魔法が書かれていた魔術書には記載があったが実際はどうかは知らない。ただ絶対魔力量が多い俺にとっては奇襲攻撃にも使えるし地球の電化製品の再現にも使える事から使い勝手のいい魔術である事は確かだ。

 涼しくなった部屋の中で昨日の夜にルゼンド総督のリュゼルグから渡された資料に目を通していく。

「クサナギ殿、それは例の古代遺跡の件の資料ですか?」

「そうだとも言えるしそれだけでもない」
 俺はレオナに生返事を返しながら目を通すことを止めない。しばらくしてから部屋のドアがノックされレオナが扉に向かっていき開けて対応をしていると

「クサナギ殿、探索チームの方が来られたようです」
 思ったより早くきたな。俺は目を通し終わった資料をアイテムボックスに入れると立ち上がりケープを羽織りレオナと一緒にホテルを出た。

「お待たせしまいまして……すいません。私の名前はクサナギと言います、古代遺跡の探索の指揮をこの度取らせていただきます。こちらに控えておりますのは私の護衛のレオナと言います」
 俺の紹介にレオナは軽く頭を下げるだけに留まった。

「それでは、資料を見る限りですと古代都市の遺跡まで2時間の移動で到着出来るようですので早めに向かいましょう」
 いつもと違い、今回は砂漠の中の移動という事もあり馬車での移動が出来ない。代わりに地球のラクダに似た動物を総督府は手配しておいてくれたようだ。人数は俺を含めて10人であり内訳は俺とレオナに古代史に詳しいメンバーが3人とその護衛の5人の合計10人。

 俺とレオナと他の8人のメンバーはラクダの背に乗って商業都市ルゼンドの北門から古代都市遺跡へ向かって移動を開始した。そして旅は極めて順調だった。
 日中は地獄の熱さが続く砂漠地帯の上空には何故がずっと雨雲た停滞しており俺達と一緒に行動してくれるのだ。とてもありがたい存在である。

 しかも周囲の気温も一定に保たれており体力消費を究極的な意味で抑えていた。レオナが俺を見てクサナギ殿は、こういう細かい事が得意ですよねと言っていたがそれは当たり前じゃないかと言う顔で返しておいた。

 町を出発して2時間ほど経過すると前方に石作りの遺跡のような物が見えてきた。

「クサナギ様、あれが古代都市です」
 考古学に明るい一人の総督府勤めの男性が俺にアドバイスしてきてくれが遠くから見る感じでは特におかしな所は感じられないんだが……。

「レオナどうですか?」
 実は俺には魔法感知関係の魔術とか防御魔術なんてものは一切使えない。つまり今回の探索のメインキャラクターはレオナなのだ。俺の言葉にレオナは頭を振りおかしな現象は確認出来ないと合図を送ってきた。

「なるほど……」

「クサナギ殿どうしますか?」
 どうしますかと言われても近づいて調べるか、それとももう一つの方法しかない訳だが。

「そうですね、グラビディランス!」
 俺が唱えた魔法にレオナ以外が何だ?と頭を傾げていたが

「何をしようとしてるんですか!何か封印されていて封印が壊れたりしたらどうするんですか!」
 レオナは、必至にツッコミを入れてきた。だって、某アニメでも危険物が入ってるようなら爆破処理するのが正しいって言ってたし……。そんなに怒りの形相を見せなくてもいいじゃないですか。俺は仕方なく、グラビディランスを解除する。

「実は、こちらが攻撃魔術を打つ素振りをしたら相手がどうやって出てくるのかを見る為に、わざと魔術を発動したに過ぎません。本気で打つはずはないです」
 チラッとレオナの表情を見ると、また適当な事言ってんなーと言う顔で見てきていた。いい加減、俺の考えを読むのは止めてほしい。

 仕方なく、古代都市の遺跡外周部から調べていく事にして、ラクダから降りて遺跡を調べていく。外周部だけでも遺跡はかなり広く、広さとしては衛星都市エルノに匹敵するだろう。

「クサナギ殿!探索チームの方が変な石を見つけたそうです」
 俺は大声で伝えてきたレオナの元へ向かい、変な石を手に取って色々な角度から見ていく。

「レオナと皆さん、少し熱くなると思いますのが……」
 全員に許可を取った後に上空に停滞させていた雨雲を散らしていく。すると太陽の日差しが遺跡に降り注いでくる。先ほどから手に持っている石を太陽の光の下で調べていき上空に掲げた所で向こう側の太陽がボンヤリを透き通って見えた事に気が付いた。

「まさか……これはテクタイト?こんな所に……?」

 レオナも探検チームの人も俺の言葉の意味を理解してはいなかったが、俺が手にしてる石は間違いなく砂かガラスが短時間の間に高熱で熱せられた場合でのみ生成された物であった。


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