最強のFラン冒険者

なつめ猫

砂漠の町に降る雨

「はぁ……」

「クサナギ殿、そんなに落込まなくてもいいではないですか?」
俺はレオナがしたことに落込んでいるんだが、まさか敵がエメラスだけではなく身内にも居たとはまことに問題だ。

「もういいです。それよりも市場の様子が先ほどとおかしいと思いませんか?」
俺は市場を見ながらレオナに話しかける。先ほどは俺とレオナに視線を向けていた人達が何やら急いで店仕舞いを始めているのだ。俺は近くの果物関係を扱ってるお店のおばさんに話しかける事にした。

「すいません、どうかしたんですか?急に店仕舞いをしてるように見受けられますが?」

「これはまたえらく綺麗なお嬢さんだね、この町は初めてなのかい?」
俺をつま先から頭まで見たおばさんは、俺に質問してくる。

「はい、そうです。先ほど町についたばかりなのです」

「そうかいそうかい。最近ではね……夕方から前あたりから町の近くまで砂嵐がきてるのさ。だから食品関係を扱ってるお店は砂が入ったら売り物にならなくなるから店を閉めてるのさ」

「そうなんですか」
おかしいな?アプリコット先生に聞いた限りでは砂嵐が発生するのはもっと北のはずだったはずだ。ここまでは届くはずはないんだけどな。もしかしたら……。

「最近は、雨とかは降ってますか?」

「全然だね。水不足は川があるから大丈夫だけどさ砂漠は広がってきてるね」
つまり乾燥化が進んできていて砂漠が拡大してるという事か。

「雨が降る量は毎年少しづつ減ってきているのですか?」
俺の言葉におばさんは考えているが、両手をポンを叩くと

「そうだね、毎年って訳じゃないんだけどさ……少し前から畑を増やしてからだと思うね」
なるほど、つまり中国のゴビ砂漠にあったシルクロードの各都市のように灌漑工事で水を使ったことで砂漠が促進されてる可能性があると言う事か。これは、かなりまずいな……。

「ありがとうございます。お店を閉める邪魔をしてしまって申し訳ありません」
俺と話していたことでおばさんの手が止まっていたので俺は謝罪をしながらアイテムボックス内から金貨が入った袋を取りだす。

「実は私達は旅の冒険者なんですけど、お店の果物を売って頂けませんか?」
見ると中東付近の果物類がある。食べたことはないけど買ってみて食べるのも良いかもしれない。

「良いけど、どのくらい買うんだい?」

「そうですね。店仕舞いしてすぐに出せない果物系以外の全部頂けますか?」

「え?全部買うのかい?」

「はい、お願いします。おいくらになりますか?」
俺の言葉に本気で購入する意思を確認したのだろう。おばさんがせっせと計算してくれている。

「そうだね、金貨21枚と銀貨8枚に銅貨6枚になるけど大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です。アルゴ公国の貨幣で大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ」
俺はおばさんにアルゴ公国金貨を22枚渡すと銀貨1枚と銅貨4枚のおつりを受け取った。

「それではお手間をかけてしまい申し訳ありませんでした」
俺はおばさんにお礼を言ってレオナと俺で手分けして布袋につめてもらった果物を背負った。アイテムボックスに入れないのは自分のアイテムボックスの容量を周囲に知られないためだ。おばさんから離れると

「クサナギ様、少し購入しすぎなのでは?」

「そうですね、私もそう思いましたがきっとすぐに使うことになると思います」
俺は砂漠化が進んだ場合にどこに皺寄せがいくのか大体理解している。果物も個数の割には高かったしきっとすぐ必要になる。

「さて、レオナ。まずはどのくらいの規模の砂嵐がくるのか確認しましょう」
俺の言葉にレオナは頷いてくれたが、俺としては砂漠化が進む人災だけは打つ手が思いつかなかった。一度壊れた自然は直すことは出来ないし対処療法しか取ることができない。

俺とレオナは砂嵐が来ると予想されている町の沿岸部側、つまり北側へ歩いていく。北側へ進むにつれポツポツと浮浪者が増え始め門の近くまでいくとその数は爆発的に増えた。

そして北側の塀はかなり建てまわしされているようで俺たちが入ってきた南側の門よりもかなり高い。きっと砂嵐を警戒して町内に砂が入らないように増設を繰り返しているのだろうがそれは対処療法に過ぎない。

砂嵐が来るということは一緒に塩害などの病気を引き起こし重度な病を発生させてしまうのだ。それはソビエト連邦と言う共産主義が自分たちの力を誇示したいがために世界一のアラル湖を干上がらせ周辺の村を壊滅状態に追い込んだ歴史からも分かる。

地球のように物流やインフラがあり医療が発達していて国連がある世界でも問題視されているのだ。こんな何もない中世では町や村を捨てるしか無くなる。それならそこに住んでる人はどうなるのだろうか?やれやれ……本当はこんなキャラではないのに。

「レオナ、今度炊き出しをしましょう」
俺の言葉にレオナは頷く。偽善かも知れないけどやらないだけマシだろうと思いたい。問題は許可が下りるかどうかだがどうなんだろうか?一応、リメイラール教会からは関係者を表す発行書はアリアを通じて作ってもらっておいたのだが、それが使えて教会の方に許可がもらえればいいけど。

「すいません」
閉じてる門の前に槍を構えている兵士の人に話しかける。彼は、俺を見てからレオナを見て

「どうしたんだ?こんな場所に……もうすぐ嵐がくるから門は開けられないぞ?」
そう俺たちに語りかけてきたが

「はい、分かっております。ただ、その嵐というのがどの程度の物か大変失礼ですが見てみたいもので」

「―――なるほどな……町に初めてきた連中はよく聞いてくるからな。いいだろう、そこの脇にある階段を昇っていけば壁の上から嵐を見る事が出来るが飛ばされるなよ?」

「ありがとうございます」
俺は感謝の言葉を継げるとレオナと共に石で作られた階段を上っていく。

「クサナギ殿、ずいぶんと高いですね」
俺はレオナの言葉に頷いた。壁の高さは7メートル程あるだろう、きっと作るのにかなりのコストを使ってるに違いない。壁の上に上がり砂嵐が来ると言われてる海岸線方面へ視線を向ける。

「これは……」

「酷いものですね」
俺の言葉の後にレオナも続いて目の前の光景の感想を述べたいたが壁の外すぐまで砂が押し寄せてきていた。今までずっと自然が豊かなリースノット王国や海洋国家ルグニカにステップ気候のアルゴ公国に居たから砂漠とはどれだけ恐ろしいか分かってるつもりだったけど、本当に理解はしていなかった事に気がつかされた。

「あんなものが此処にくるんですね」
俺は近づいてくる砂嵐を見ながら一人呟く。大きさはかなりの距離があると言うのに横幅だけでかなりの大きさああり遠近感を狂わされるほど。

俺は周囲を見回して誰も壁の上に居ないことを確認する。そして魔術式を頭の中で組み立てる。その中から俺が選ぶのは逆位相の風の回転。魔力を研ぎ澄まし風を作り出し迫りくる嵐に当てる。二つの竜巻が打ち消しあい砂嵐は消滅していく。

「消費した魔力は1千万程度か、後は……」
生活魔法である水を町の上空に生み出す。町の上空のみに作り出すのは砂漠に降らせると塩害が発生する可能性があるから、そして一箇所に集中するものではなく町全体に雨のように降り続ける持続系に降り続けるように設定し発動させる。霧雨のような雨が町全体を覆うように降り始める。

「クサナギ殿。たまには良いことをするのですね」
たまには言いすぎだ。俺はいつもいいことをしてるしそのつもりなわけだが今回は数日泊まるからなるべく町内の気温を下げておきたい。

「それでは、後は教会に赴いて炊き出しの許可を頂きましょう」
俺の言葉にレオナは頷いてくれたが、その表情は何かを考えているようだった。



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