最強のFラン冒険者

なつめ猫

神衣の弊害

「まったく信じられないわ」

気がつくと目の前には精神の調停者が居てとても不機嫌そうな顔で睨んできていた。

「―――あ、おはよう」

「おはようじゃないわ!何で男なんかと神衣するのよ!あなたの体は女なんだから男と神衣したらだめでしょう!」

なんだ、こいつは男が嫌いなのか?まぁ俺も精神は男だしな。男同士はどうかと思うが

「他に手は無かったんだ、仕方ないだろう?」

俺の言葉にますます不機嫌になっていく目の前の女に俺はため息をついた。

「もうー。自分の体を見てなさいよ!」

「ん?」

俺は自分の体を見る。ふむ……ユウティーシアの体のままだな。あれ?いつもここに来る時は学生時代の学ランを着た男の姿のはずだったはずだが……。

「おい!どういうことだ?」

俺はパニックになって目の前の精神の調停者の肩をもって揺する。

「ちょ、ちょっと待って!離して!目が目がー」

「お、おう」

精神の調停者から手を離すと彼女は目を何度か瞬かせたあと頬に手をつけてやれやれと言う格好をした。

「えっとね、簡単に言うと私が抑えてられるのはこの世界からの関心と同姓からの魂の波長だけなの。そこに異性、つまり男性の魂のパルスなんて受け入れたら貴女の本質は女性なんだから喜んで受け入れちゃうでしょう?」

「そうなのか?」

うーむ、良く分からないな。

「もう、そうなの!おかげで折角、男性の精神状態で組んでいたのに全部、女性の精神状態に組み変わっちゃたじゃない!どうするの?これ直すの大変なんだからね!」

「ちなみに直らないとどうにかなるのか?」

俺の言葉に精神の調停者はコイツ、馬鹿なのか?という目で見てきて

「大問題よ!あなたの思考が女性になるのよ?つまりあの男の人カッコいいとか結婚したいとか子供ほしいとか思っちゃうのよ!」

「それは大問題だ!気合入れて直せ!すぐ直せ!」

「いま、修復中だけどかなり時間かかりそう。しばらくは思考が覚束ないと思うから気をつけて。それと男の人との神衣は絶対!!禁止ね。これ以上、進行するとマズいから」

「進行するとどうなるんだ?」

「それは……」

「それは?」

「ヒ・ミ・ツです」

「はぁ、さてとそろそろ時間のようだな」

精神の調停者と話しをしていると周囲が白い霧に囲まれていくことに気がついた。これは俺が意識を取り戻す際に発生する現象だ。

「とにかく無理しないで。草薙雄哉、貴方には私達の……」

そこで俺の意識は覚醒に向けて途切れる。


「クサナギ殿!目を覚まされましたか!」

「え……ええ」

相変らず元気がありあまってるみたい。それよりもあれからどうなったのかな?

「そういえば、あれからどのくらい寝ていたか教えてもらえるかしら?」

「一週間ほどですが、クサナギ殿……いつもと様子がおかしくないですか?」

うーん。とくにおかしな所はないと思うけど、レオナは鋭いから私が気がつかない事にも気がついてるのかな?

「それにしても一週間も寝ていたんですね。あれからの事情を知りたいのですけど?」

「分かりました。まず座天使サマエルを倒した後に、教会上層部とアルゴ公国王族との間で戦いがありました。」

「戦い?」

「はい。クサナギ殿を手に入れようとする教会派の騎士団と、教会から守ろうとするアルゴ公国の騎士団との間です。ですがアルゴ公国の騎士団の方が練度が高い事とクサナギ殿のステータス上昇魔法の加護を受けていたこともあり教会派の騎士団の大半と教会上層部の大半を捕縛致しました」

なるほどね。それは思ったより派手に立ち回ったみたいね。それにしても私に何かしら仕掛けてくるとは思ってたけどまさかこちらが力尽きてる状態で襲ってくるなんて常識を疑う。

「それで戦争を指導していた人達は逃亡中ということで良いのかしら?」

「はい、そのとおりですが良くお分かりに……」

戦争を仕掛けてくるならこちらの戦力を調べてると思うし、力押しで攻めてくるような事はしてこないと思う。それよりも問題は……。

「枢機卿は魔法帝国ジールに向かったの?」

「はい。そのとおりです」

ということは枢機卿は魔法帝国ジールで再起を図ろうとしてるに違いない。一体何が目的なのか困ったわね。

「そう、それで勇者と聖女はどちらに?」

「現在、教会の復興に当たっています」

「治療魔法師はもう町や村に向かってるの?」

俺の言葉にレオナが頭を振る。つまりまだ向かっていない。早くしないとこれは困る案件に……。

「いえ、某が長距離転移魔術で全て送り届けてきました」

「え!そうなの?」

鑑定を発動、レオナの魔力は100万を超えていた。これはレオナも人外へようこそになってしまったみたい。大体の事情は把握できたこともあり部屋の中を見回すとすごいお金が掛かってる部屋みたい。

「クサナギお姉さま!」

扉をバンと開いて入ってきたのはアルゴ公国の王女カナリア様であった。ピンク色の寝巻きがとてもかわいく庇護欲をそそられる。

「カナリア様、どうかなさいましたか?あまり王宮からお出になられると皆様に心配をかけてしまいますよ?」

私は、抱きついてきたカナリア様の頭を撫でながらやさしく諭す。

「出てません!ここは王宮の中です!」

「え?」

レオナの方へ視線を向けるとレオナの視線は窓の外に向いていく。

「だってお姉さまを町の宿屋に御泊めにするわけにはいきません!」

カナリア様がとても力説してくるけど、そんなカナリア様もとてもかわいい。どうしよう、これじゃ怒るに怒れないよ。





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