最強のFラン冒険者

なつめ猫

対なる善悪

アルゴ公国の宰相を輩出してると言うダストゥール侯爵家を治療せず追い返してからと言うもの、保持スキルに盗賊や窃盗、殺人と言ったスキルを持つものの割合が増えてきた。俺は今しがた窃盗スキルを持った女性を治療せずに帰ってもらった後にため息をついた。

「これはまずいですね」

思わず言葉に出てしまう。それを聞いたレオナがこちらに視線を向けてきたが何がまずいのか分かってないようだったが説明はしない。情報はどこから漏れるか分からないからだ。布一枚で仕切られてるテントだとレオナが気配を察知し近衛兵が巡回してるとは言え俺のように聴力を強化する相手だとこちらの会話が筒抜けになる可能性もあるからだ。

それよりも、犯罪者の割合が増えてくると言う事で何が問題かと言うといくつかの問題が考えられる。俺の鑑定では相手の騎士や魔法師などと言った大まかなクラスは判別がつくのだがその人の仕事までは判断が出来ない。
つまり鑑定魔法にも穴があるのだ。善行や品性公平など歌ってはいるが相手のスキルに犯罪系スキルがあるかどうかで判断してるだけに過ぎない。つまりこの増え続ける犯罪者の状況から鑑みると俺がどの程度の力を有しているのか国もしくは教会側が探ってる可能性がある。

聖女アリアと勇者コルクを退け、宰相一家の治療を断ってからすでに一ヶ月近い。それなのに教会が手を出してこないと言うことは俺の力を図り損ねているのだろう。そして診療所にくる患者の中に犯罪者の確立が増えて行ってると言う事は、俺の能力を調べてるに違いない。

「クサナギ様!」

テントの中に入ってきた女性を見る。そこには王女カナリア様がいた。彼女は今年で13歳になるらしく俺よりも1歳年上らしい。まぁ俺が12歳なのに精神年齢が高いからなのか16歳くらいに見えるからな。って俺ってばずいぶん年とってるな?魔法の影響なのだろうか?不明だ。

「だめですよ?ここは最前線なのですから怪我などをされては公国陛下様が悲しみます」

「大丈夫ですわ、クサナギ様。そこには20人以上の騎士を一人で倒した最強の女騎士レオナが居ります。何かあっても守ってくれます」

カナリアの言葉に俺は説得を諦めた。何故、彼女らのような貴族は居るだけで迷惑になると言う事を自覚しないのだろうか?危険地域に高貴な者がいるだけで警備の者は苦労するというのに。

「そういえばお父様が今日から一週間の間に魔法帝国ジールを攻めていた三国を抜かした全てのセイレーン連邦の国々の軍が集まると仰ってました。それだけの騎士団が集まればすぐに神兵も討伐できますわ」

なるほど。思ったより早いな……。陸路を使っても戦争の準備と物資の搬送に兵の手配などを含めると3ヶ月は掛かると見ていたがわずか一ヶ月で纏めてしまうとは……。

「ずいぶんお早い到着なのですね?」

俺は、遠まわしに情報収集をするためにカナリアに話をするが

「はい。元々聖女アリア様と教会の枢機卿より魔法帝国ジールを攻めるとお達しが出ていたらしくその軍を動かしたと王宮内で噂になっておりました」

「そうなのですか。ですが早くなる分に越した事はありませんね」

つまりセイレーン連邦はかなり前から周到に戦争の準備をしていた事になる。しかも教会主導とかどんな大義名分を持って攻めようとしていたのだろう。ただ、枢機卿が戦争を引き起こした原因と言うことはかなり危険だな。こちらの情報収集をしてきてる可能性が非常に高くなってきた。これは下手に言質が取られる前に何とかしたほうがいいかもな。

それから3ヶ月ほどが経過した。
座天使サマエルとの戦況は一進一退状態であり俺の加護を得ていないアルゴ公国以外の国の騎士団は聖女と教会関係者達の治癒魔術で怪我を治してもらっているようであった。よく聖女達の魔法師達が魔力が足りてるなと感心してしまう。いくらアルゴ公国の騎士団が優秀であってもそう魔力が持つものなのだろうか?

その理由はすぐに判明する事となる。

「クサナギ様!商人仲間から聞いたのですが、教会はとんでもない事を行っているようです」

俺が町の人達に治療を施していると商人のユーカスがテントの中に足を踏み入れてきた。様子からかなり慌てているのが分かる。

「どうかしたのですか?」

「はい」

ふむ。そろそろ仕掛けてくると思っていたが本当に仕掛けてきたな。さて何を仕掛けてきたのか……。

「各国の軍の治療に当てる魔法師をここに集めているのです」

まあ絶対的、魔力量が足りないのだがそれは利にかなってると思うが。

「そうなのですか?」

「はい、しかも各国の王都、衛星都市、町や村すべての治療魔法師を強制召集しここに集めているのです」

―――ガタッ。

思わず俺は椅子から立ち上がった。

「それは各国の王宮に勤めてる治療魔法師も含んでいるのですか?」

俺の言葉にユーカスはそんな事は無いと答えてきた。つまり王族貴族以外の民を見る全ての治療魔法師をここの維持のためだけに集めたという事になる。つまり平民を診る治療魔法師が他の国々にはいないと言う事だ。そしてここまでは移動に3ヶ月もかかる国もある。往復だと半年近い。

現代日本だと、医者が少ないからと言って民間の医者を全て戦地に投入したようなモノなのだ。これがどれだけ非常識な手か分かる。それを神兵と戦うという理由で集めたという事は……これはかなり危険な兆候だ。

しかも王族や貴族には治療魔法師が残っている。民から見たらそれは非常識極まりない。ユーカスが先ほど、とんでもない事と言っていたがそれどころじゃない。治療魔法師の魔術は医療が発達してないこの世界では生命線と言っても過言じゃない。

間違いなく治安の悪化と政治不信に直結する。そしてそれは経済に悪影響を与え弱者を直撃してしまう。俺は自分の唇を噛んだ。まさかこんな状況になるなんて予想がつかなかった。ここまで酷い手を打ってくるなんて想定外だ。

「レオナ!なりふり構ってる状況ではなくなりました」

「クサナギ殿ようやくですか」

何故か、レオナがようやくですかと言ううれしそうな顔をしてるのが印象的だが、俺はうなずき答える。
民や弱者を食い物にするような最低な手段を続けていたら犠牲者が際限なく膨らむ。俺のイメージアップをしてる場合ではない。

「ユーカス、情報感謝いたしますわ。ほとんど治療は終わってますわよね?」

「はい、ここ数日はほとんどけが人も降りませんが」

教会の治療魔法師が総動員された事で教会側とセンレーン連邦に所属してるアルゴ公国の騎士団以外はここには治療にこないのだ。そしてアルゴ公国の騎士団は俺のパワーオブディフェンスでステータスを100倍まで高められていて怪我人がほぼ出ない。

「わかりました。町の方々へは退避するようにお伝え頂けますか?」

「はい、ですが何故?」

「ユーカス殿、ここからは神兵と戦うのは某、クサナギ殿になるからです。巻き込まれないように町の方々へは退避するようにお伝えください」

俺は、レオナがユーカスへ伝えてる内容を聞きながらテントを出るとテントを護衛してる人にすぐに座天使サマエルと戦ってる騎士団を下げるようにお願いをする。

下手にヘイトを持ったまま下がられると座天使サマエルが町に来る可能性があるからだ。早々に下げたほうがいいだろう。しばらくするとアルゴ公国の騎士団が、座天使サマエルとの戦闘を中断して下がっていくのが確認できた。

それに伴い前線を支えていた有力な騎士団が抜けた事で大してステータス強化を受けてない他国の騎士団が総崩れになっていくがしばらく聖女と教会の魔法師にがんばってもらう事にする。無傷だと言う事を聞かずにその場で頑張る可能性もあるし……。

俺とレオナが座天使サマエルの方へ向かっていくと聖女アリアが俺たちに気がついたのだろう。何やら大声で怒鳴っているが聞こえないふりをする。

「クサナギ殿本当にいいのですか?このままでしたら他国の民衆を味方につけ教会の権威を失墜させる事も出来たでしょうに」

レオナは俺の記憶と知識を読み取った影響でかなり深くまで理解力を伸ばしていたようだ。

「そうだな。だがな俺は権力者が自分達の権力誇示のために誰かを食い物にする方が遥かにムカつくし、その犠牲も許容できないんだよ。抗う力があるならどんな汚名を着せられようと我慢するし戦う」

「そうですか、それではお力になりましょう」

と答えてくれた。レオナはとても嬉しそうだがそこまで戦闘をすることが好きなのだろうか?困ったものだ。

すでに前線は座天使サマエルが変化したドラゴンのブレスで崩壊しており教会が擁する騎士団と各国の軍は迷走状態であった。。聖女アリアと教会の擁する治療魔法師でもあまりに甚大なその被害に回復が追いついていないようだ。

「レオナ、10秒でいい。時間を稼いでくれ」

「是!」

その場からレオナが消え、一瞬でサマエルの頭上に姿を現す。二度の俺との神衣により手にした一部の天才のみが到達し得る力、転移を手に入れていたのだ。レオナが作り出した数十もの1メートルを超えるアイスランスが座天使サマエルの頭上に降り注ぎ注意を引く。それを見て、俺も魔術式を一瞬で頭の中で組み立てる。

大瀑布ナイアガラ

4000万の魔力量に作られた莫大な水量が周囲の炎を荒い流していく。

極大範囲治療魔法エリクサーヒール

魔力量にモノを言わせた治癒魔術を超えた治療魔法が一瞬で怪我を負い倒れ伏していた騎士たちを治癒していく。

「アリア!すぐに軍を引け!ここからは私が戦う」

「どういうことですか?ユウティーシア、貴女には関係ないはずです!」

「いいから引け。時間をかければ他の町から強制徴収してきた治癒魔法師の不在の影響で無作為に病に倒れる人間が増える。そのためにこいつに時間をかけてる余裕はないんだ」

「え?そんな事聞いては?」

「いいからすぐに軍を引かせろ。ここからの戦いはお前たちだとついてこれない。」

すでに10秒を超えているが転移を繰り返し上級魔術で座天使サマエルの気を引いてるレオナを完全に敵と認識したのだろう。先ほどまでのブレス攻撃の比ではない攻撃を繰り返しレオナに繰り出してる。それを見てようやく悟ったのだろう。アリアが軍を町側、後方に下げ始めた。

「ユウティーシア、私は貴女を聖女としては認めません。ですが貴女が言った教会が治癒魔法師を強制徴収してると言う件。もしそれが本当ならば教会は民を見捨てたと同じです」

アリアが俺に近づいてきて言葉を紡いできたが俺は周囲の軍に視線を向けたまま現状を確認していく事と常時展開してる巨大範囲治癒魔法の展開で忙しいのだ。

「ええ、そうですね」

「ですからこれは聖女アリアとして教会に後で問いただすとしましょう。戦いが終わりましたらあとできちんと説明していただきます」

「分かった」

生半可な返事だけ返す。聖女アリアは俺から離れていったがまだ全軍が撤退していないことから俺はレオナが体制を崩したときに座天使サマエルが打ち出した光の槍を素手でなぎ払った。

「なるほどな、つまりこの光のやりは物質化してるってことか?」

薙ぎ払われた槍は回転しながら地面に突き刺さると辺りを吹き飛ばした。俺は薙ぎ払った時に破壊された右手をミトコンドリアに命じて細胞レベルで修復していく。

「クサナギ殿、撤退終わったようです」

俺が解析してる間にどうやら軍は全て撤退して前線には俺とレオナだけしか残っていないようだ。そして目の前の座天使サマエルも俺たちを脅威と感じたのかその姿が変化していく。

翼は2枚だったのが8枚になり腕は手足を含めて4本だったのが8本に変化する。そして目も1対から3対に増える。体の大きさも一回り大きくなり色も白から漆黒に変化する。

「ずいぶんと変化しましたね」

「ああ、そのようだな」

やはりこいつは予想どおりこっちの力に合わせて形状を変化させる化け物だったようだ。ずっとこの世界の人間だけで抑えられていたのはおかしいと思ってたんだよな。まあそれでも……。

俺達を見ている各国の軍と聖女アリアと勇者コルクには悪いが、俺達が倒させてもらおう。
俺とレオナは手を握り合い、そして……


――――――神霊融合――――――


時がとまり世界が停止し全ての構成が組み変わる。全ての物質の根幹である音素が神気により融合し新たなる力を導く。
光が集約し組み替えられた魂は神気により刀となり体となり器となり上位次元の存在へと昇華させていき残された神気の本流は周囲の精神エネルギーを押し流し神雷となり稲妻が舞う。
舞い散る稲妻からは、紫電纏う日本刀を腰に差した美女クサナギ・レオナがその姿を顕現させた。




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