最強のFラン冒険者

なつめ猫

戦場の慈善団体

「さてと……そろそろ用意でもしますか」

「用意ですか」

「そそ……」

俺は、アイテムボックスからいろいろ衣装を取り出していく。これは元々、魔法帝国ジールへ嫁ぐ際に着る物として作られた事もあって生地も仕立もかなりいい。

「ほら!レオナもこっちきてください!」

俺とレオナは戦場で、この国の兵士と教会の聖職者達から見えない岩の陰に移動する。そして取り出した衣装をレオナに渡す。それはお姫様が着るような上等な仕立のドレスでありレースが丁寧に編みこまれている。レオナに着せようと思ったのだが、身長差と体系から着ることが出来ない。

「うーん、レオナ。ちょっと騎士って感じの服装は持ってないんですか?」

「持ってません。クサナギ殿のようにアイテムボックスを使えませんし」

「―――ふむ。仕方ないですね」

俺はさっさと洋服を着替えていく。もちろんレオナにも手伝ってもらうが女暦12年もあるとこのくらいは出来るようになるのだ。

「クサナギ殿は、もう少し恥じらいを持ったほうがいいのではないのですか?」

「そんな物より実を取ります」

今の俺の姿は、ドレス姿ではなく海洋国家ルグニカの衛星都市エルノの迷宮に潜った時のように冒険者の服装をしている。

「ふむ、こんなものでいいですか?」

その場でくるくる回り確認する。腰まで伸ばされた黒く長い髪はまとめずにそのまま背中に流すようにする。

「よし、完璧ですね!」

「はい、黙ってればすごい美少女の冒険者に見えます」

「……」

レオナの言葉に俺は突っ込むのをやめた。美少女とあまり男の精神状態で言われるのも衛生的によろしくないことを今思ったがそれはそれこれはそれを割り切ろう。

次にテントや支柱などをアイテムボックスから取り出していく。

「クサナギ殿は何をしたいのですか?」

「ふふふ、それは見てからのお楽しみです」

俺は取り出したテントをアイテムボックスから取り出したナイフで切り裂いて、ソーイングセットを使ってせっせと糸を通して編み合わせていく。一人暮らし暦30年以上=主婦暦30年以上の俺の家事スキルはとても高いのだ。木材の支柱に会うようにいくつものテントの布地を切り分けては針と糸で縫い合わせていき1時間ほどで想像どおりの大きなテントが出来た。

岩場からチラッと戦闘状況を見る。アルゴ公国騎士団と教会の騎士団は連携をとって戦っているようだが回復役のMPが尽きかけてるのかかなり旗色は悪そうだ。これは早めにしないといけないな。

おれはすぐに岩場に引っ込んでテントの布地の部分にデカデカと『本家本元!リメイラール教聖女カイジン・クサナギ治療所』と書いていく。

「クサナギ殿、この本家と言うのは?」

「大丈夫です、気にしないでください。これは言葉のあやというやつです」

くくくっ。回復治療がメインで権力を握ってるというならその屋形骨ごと圧し折ってこっちの回復がすげーと言う所を見せ付ければ民衆なんて手の平クルーになるはず。何せ、俺のは魔術でなくその上位の魔法なのだ。どんな怪我も一瞬で治しちゃう!悔しいけど回復してほしい!と言う人が次から次へと座天使サマエル君の攻撃により運ばれてくるのだ。

しかも聖女たちの魔法量には限りがあるが俺は実質無限状態、普段から治療魔法師を独占しておいて肝心なときに回復出来なかったら支持率は下がるだろう。そこに俺みたいな超絶美少女が冒険者の格好をして危険な戦場まで自分の身を省みずに回復に来てたら、そりゃ民衆の支持率はうなぎのぼりになるはず。

しかも自分で聖女まで書いてるからな。本物の聖女アリアとか怒り狂うに違いない。しかもアリアは回復が出来ないのに俺は回復が出来ちゃう。民衆がどっちを本当の聖女と思うか考えただけでも楽しそうだ。

「さて、レオナ。移動しますよ」

「は、はぁ?クサナギ殿、さっきまでと違って生き生きしてますね」

当たり前だ、コブシで語って相手が折れないんだから相手の得意分野で相手を叩きのめせば痛快だろう?しかも怪我人は座天使サマエルが量産してくれるのだ。俺はその怪我人を治療し続けるだけで名声が上がっていくという美味しい状況が今出来上がってるのだ。これを利用しないでいつ利用しろというのだ。

もし俺がある程度、民衆やリメイラール教会の上層部から有効利用できそうだと思われたら聖女は純潔が必須なのだから結婚しなくても良い事になるしアリアも聖女認定から外れるかも知れないじゃないか?だって回復などのヒールは俺の方が遥かに優れているのだから。

俺たちは、聖女アリアと勇者コルクが必死に前線で戦ってるのを見つつ人に見つからないようにコソコソと岩場を移動しながら後方に回り込む。そして前方を見るとかなりの兵士が怪我をしたまま動けない状態のようだ。どうやら死んではいないようだが、応急手当だけして運んできたのだろう。

「ほら、レオナそっちの支柱を支えててください」

俺はせっせと木材の支柱を地面に打ち込んでいく。戦闘に掛かりきりな兵士たちはこっちに気がついたようだが注意をするそぶりは見られない。きっと騎士風なレオナと冒険者風の俺の姿を見て戦闘に必要なことをしてるのだろうと思っているくらいだろう。

20本近い支柱を立て終わった後は、テントを張っていく。全て身体強化を使ったまま行ってることからさくさくと物事は進んでいく。支柱部分にはテントの切れ端で作った布でテント部分を縫い合わせて固定していく。

「ふう、できました」

「クサナギ様、これは一体何なのですか?」

テントには、『本家本元!リメイラール教聖女カイジン・クサナギ治療所』と書かれており最後に立て看板も設置するそこにももちろん『本家本元!リメイラール教聖女カイジン・クサナギ治療所』と書いて治療費はアナタの信仰に応じて回復させて頂きます。と書いた。

もちろん無料。

「ふふふ、これは私のイメージ戦略の一歩です!」

「クサナギ殿のイメージですか?」

俺の言葉にレオナはこいつ何言ってるんだろうと言う目で見てきた。


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