最強のFラン冒険者

なつめ猫

嵐の前の静けさ

海上都市ルグニカは、今日も晴天であった。
気候も温暖であり多くの旅行客が現在訪れている。
その中には帝政国やヴァルキリアスやリースノット王国、魔法帝国ジールの重鎮や貴族に大商会の人間も含まれている。

そして荷物や畜産や香辛料などの取引を目的とした商人にその護衛として海運ギルドの船も何十隻も見受けられルグニカ港は恐ろしいほどの人口密度であった。

そんな中で一人、人目を惹かずにはいられない美少女がいた。齢は15歳ほどだろうか?均整の取れたプロポーションをしており太陽の光を腰まで届く黒髪が反射し光り輝いてる。表情も病的なまでに白く見るものにとっては儚い印象を与える令嬢。
誰もがその姿を一目見ただけで手元を止めて見とれてしまう。

周りはそんなことを考えていたが実際の当人である草薙は、そんな視線にはまったく気がついていなかった。揺れる視界の中でアリーシャの後を追いながら歩くだけで精一杯であった。

「予想よりも早く帰ってこれましたね」

「――――――は、はい……」

アリーシャの言葉に草薙は半死半生な状態で答えた。

「それにしてもクサナギ殿は本当に海に弱いのですね」

海に弱いんじゃない。船酔いなのだ、これは仕方ないものなのだ。
陸地についたのは良いが、胸焼けが酷く馬車だけではなく抱きかかえられても間違いなく吐く状態から俺は港から少し離れた荷物が入ってる木材製のコンテナの上で休む事にした。

「とりあえず、グランカスに戻ってきたことを伝えてください」

「わかりました。パステルいきましょう」

「わかった」

アリーシャとパステルは俺から離れて総督府に向かっていく。俺はその後ろ姿を見ずに木材で作られたコンテナの上で横になった。地面に接してるだけでずいぶん違う。船に乗ってた5日間は相当きつかったがなんとか陸地に生還することができた。
やはり飛行魔術か転移魔術の習得が必要だとは思うが、俺の知識では人間が空を飛ぶ場面を過去見たアニメなどから想像することはできるがそれによる周囲に与える負荷や影響などがまったく想像できない事から上級魔術である空を飛ぶ魔術をアリーシャに教えてもらったが使うことができずにいた。

そして転移魔術についても理論は理解できるのが、人間の細胞が転移にどうやって耐えられるのか想像できない事から転移魔術も習得がいまだに出来ていない。きっと無理やり使ったら細胞を構成するニュートリノ同士で核融合とか起きて大変な事になりそうだ。

「もう無理です。寝たいです」

実際、睡魔が襲ってくる。5日間ずっと船酔いでまともに眠れなかったのだ。仕方ないと言える。

「クサナギ殿、元は公爵令嬢なのですからもう少し身嗜みや立ち振る舞いに気をつけた方がいいのではないですか?」

レオナが俺の姿を見て苦笑しながら何か言ってくるが今は気持ち悪くてそれどころではない。

「別にいいじゃないですか?公爵令嬢だと知ってるのはレオナだけなんですし……」

そう、巨人との戦いの際に使用した神衣によりレオナは俺の記憶と知識の一部を垣間見ている。でも前世の俺の記憶までは見る事は出来なかったようだ。その事から前世の記憶と知識を時折見せる俺にはまだ何か有るのではないか?と懐疑的な視線を時折見せている。

そして一日に一回は、神衣つまり神霊融合の稽古の提案をしてきているが俺はそれを全て断っている。自分の感情を他人に見られるなど恥ずかしくて無理だ。

あれは仕方なく行っただけで今後、必要がなければ二度としないと心に誓っている。
その都度、レオナは俺に素直じゃないですねーと言ってくるのが困る。
そして一番の問題が

class:女祭騎士
name:レオナ
Level:31
 HP:2887
 MP:28719
 STR:22
 DEX:18
 CON:22
 WIS:33
 INT:51
 CHA:27

鑑定すると、パステルよりもレベルが低いのにクラスもステータスも俺と融合後に驚異的な上昇率を示している。魔力量で言えば上級魔法師の最低ランクの3倍近い。どこが元の体に再生するんだよと突っ込みどころが満載だ。おそらくパステル自身もある程度は感覚的には気がついてると思うが、真実の鏡でステータスを測るか教会に設置してある魔力測定器を使えばその数字に驚くだろう。最初はレオナのMPとか100ちょいだったし……。

考えていたら気分が楽になった事もあり体を起こし木造のコンテナから降りる。レオナはと言えば指先に小さい氷の塊を10個ほど生成して浮かせている。

「レオナは何をしてるんですか?」

「これですか?これは同系統の魔術を同時に発動させ維持させるための訓練です。何故かは知りませぬがクサナギ殿と合体後に同時に魔術が使えるまで魔力量が上がったのです」

レオナの合体と言う言葉に周囲を歩いてた人間たちの視線が俺とレオナに交互に注がれる。間違いなく勘違いされてる。

「レオナ、言い方に気をつけてください!」

「あ?そういうことですか。あれはとても溶け合うようで気持ちよかったです」

「まて!言い方言い方!!」

すでに周りからは、うそ!ありえない!とか女同士で?とかキャーお姉さまとかいろいろ言われている。続けてレオナが何かを言いそうだったので俺はレオナの手をとって港から市場の方へ走って移動する。

しばらく走った後に近くの飯屋に入り水を注文し届いた水を飲む。レオナは何がおかしかったのか理解していなかったようだから俺は声量を抑えて詳しく教えてやった。とたんにレオナが顔を真っ赤に染めていたが俺の顔も真っ赤だ。どうしても俺がこんな事を説明しないといけないのだろう。
さて、どうしようかと考えた所でレオナが頼んでいたトロル牛のステーキがテーブルの上に置かれた。

「ご注文は以上だね」

そう言いつつ、飯屋の店員さんは離れていった。
船から下りたばかりでよく食べられるなと俺は感心していたが通りから争うような声が聞こえてきた。
もちろん、俺が他人のために動くわけなくテーブルに肘をかけて呆けてるように見せかけて身体強化魔術を使い聴力を上げて外の騒動に耳を傾けていると

「くそが!何が勇者だ!やっちまえお前らー」
「俺の最強のファイアーボールの力を見せてやる!」
「我が剣線、貴様に見切れるか?」
「無駄無駄無駄無駄」
「ま、まさか生き別れた兄さん?」
「この王家の家紋目に入らぬカー」

などなど意味不舞な言葉が色々と聞こえてくる。俺は外で巻き上がりボルテージが上がり続ける騒動を聞くのを止めた。混沌カオスすぎてついていけない。

「レオナ、それ食べたらさっさと総督府に戻ろう」

「わかりましたぞ」











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