最強のFラン冒険者

なつめ猫

相容れぬ本質

出てきた冒険者に頭を下げて俺は階段を降りていく。アリーシャとレオナは付いてきてくれているがパステルだけが付いてこない。
俺は振り返り

「パステルさん来ないですね?」

とレオナやアリーシャに聞くと2人とも困ったような顔をしている。その顔は何故かパステルの事ではなく俺自身に向けられてる気がする。

「おーい」

階段上からパステルが降りてくるのが見えた。そして俺の傍まで来ると小さい布の袋を押し付けてきた。

「これは?」

俺は袋の中を開けて見ると中には金貨が100枚近く入っていた。意味がわからない。俺はパステルの方へ視線を向けると。

「あんたさ、常識ないの?」

は?突然、俺の常識を疑われた。パステルが何を言ってるのか理解できない。

「常識とは何でしょうか?私はある程度は常識は持っていますが?」

少しイラッと来た事もあり険のある声になってしまう。

「これだから貴族様は常識がないんだよ。いいかい、冒険者同士は過度な接触は基本しないほうがいいんだよ。それに簡単に手の内を晒すなんて冒険者として活動するなら普通はしないもんなんだよ。それにダンジョンで死んだら自己責任だしもし怪我を治してあげる時もお金をとるし回復ポーションだって無料じゃやらない。次にまた無料で直してもらえると思ったら気が緩むだろう?」

「ですが、命の危機に値段交渉などするなどあっては行けないと思いますが?」

「そう考えてるなら冒険者なんてやるんじゃないよ、貴族のお嬢様なんだか知らないけどさアンタが無料で回復するって事は誰かの仕事を奪ってることになるんだよ」

「奪うって……」

ヒールごときでと言う言葉を俺は口にすることが出来なかった。パステルの顔は俺の反論を許さないと言う内容だったからだ。もしかしたらレオナやアリーシャがさっき俺の事を困ったような顔で見たのはパステルと同じ考えだったと言う事だろうか?

「アリーシャもレオナも同じ考えですか?」

「はい、クサナギ様は無差別に困った人に手を差し伸べすぎです。もう少し自粛しないといつか竹箆返しを受けます」

「クサナギ殿、偽善だけでは誰も救えないのです。対価はきちんと貰わねばその人の為にも他の人の為にもなりませぬ」

「そうですか……」

良かれと思ってしたことがこんなに反論を買うとは……。
ああ、そう言えば相手の仕事を手伝って上司に怒られた時期もあったな。
どうしたらいいんだろうな?

俺は、気持ちの整理がつかないまま階段を降りていく。初めてダンジョンに足を踏み入れる高揚感がさっきの話で一気に冷めてしまった。
やっぱり一人で行動する方が気楽でいいのかも知れない。
どうせ、他人を関わりになってもロクな事が無いんだし……。

考えながら階段を降りていくと突然、明るい通路に踏み出た。目の前には数匹の中型犬が2本足で立っていて腕には鉄で作られた爪を両手に装備していた。
たぶんコボルトと言うやつなのだろう。

「なんでここにコボルトが?」

後ろで誰がの話し声が聞こえたが俺は言語解析魔術を使用する。

「あの、このダンジョンの方ですか?」

「人間がしゃべったワン!」

「どうなってるワン?」

「くぅーんくぅーん」

どうやら言語解析魔術はきちんと発動したようだ。

「実は魔法の練習に来たのですが、広い場所などありませんか?」

「どうするワン?」

「長老様に聞くワン?」

「それがいいワン!」

長老か……、あまりスプラッタな事はしたくないから話が通じるなら魔法の実験場所を教えてくれるだけでありがたい。

「草薙殿!危険です。彼らは好戦的です!」

レオナが腰からロングソードを抜き出してコボルトに向けるが俺はレオナ達とコボルトの間に割ってはいる。

「待ってください!別に迷宮を攻略しに来た訳ではないのでそんなに喧嘩腰にならなくてもいいじゃないですか!」

「クサナギ様!何を考えているのですか?モンスターですよ?モンスターに情けは必要ないのです」

「これだから貴族様はよ!」

アリーシャもパステルも獲物を構える。そして俺は背後にコボルト達を庇ってるような感じになっていて後ろのコボルト達からはお姉ちゃん大丈夫か?とか加勢するか?とかくぅーんと言う声が聞こえてくる。うーん、とってもカオスだ。

俺は後ろを振り返り

「すいません、長老さんのところに行くのは少し待っててもらえますか?」

と伝える。そしてアリーシャ、レオナ、パステルの方へ向き直る。

「すいません、言語解析魔術で彼らと話が通じたんです。ですから今回は魔法練習がメインだったので無駄な争いをしなくてもいいみたいなので剣を収めて頂けますか?」

俺の言葉に3人とも何を言ってるんだ?と言う表情を見せた。

「クサナギ様、言語解析魔術は習得は容易ですが使ってる最中はずっと魔力が消費されるのです。上位魔法師であっても1分も魔力が持ちません。ですのでそういうのはいいのでそこを退いてください」

いや、魔力量200億あるからね。通常の上位魔法師の200万人分の魔力量あるから……。まあそれを言うことも出来ないのだが、

「もういい、やっぱ貴族のお守りなんてこれだから嫌なんだよ。アリーシャ、レオナ、クサナギの足止めを頼む。その間に私がコボルト3匹を仕留める」

「わかったわ」

「仕方ないですね」

仕方ない、言葉で言って分からないなら体で分からせるしかない!

「コボルトの皆さん、少し離れておいてください」

俺の言葉に3匹とも頷いて離れてくれる。もうめんどくさいな!
体中に魔力をめぐらせていく。魔力は上級魔法師と同等の1万、ステータスは6等分されるから1600くらいだろう。
アリーシャとレオナが剣を収めて俺に掴みかかってくるが、俺のゴッドブローが2人の腹に炸裂しめり込む。2人が一瞬で俺にやられダンジョンの床に崩れ落ちる。
その間に俺の横を潜りぬけたパステルがコボルトを斬ろうと上段からブロードソードを下ろすが俺は腕でブロードソードを防いだ。

「なっ!?」

パステルが俺が素手でブロードソードの刃の部分を防いだ事に驚き、俺が来たほうへ視線を向ける。そこにはアリーシャとレオナが床に倒れていた。
おれは右手でブロードソードを受け止めたまま左手で拳を作りパステルの腹目掛けてゴッドブローを打ち付けた。

「えーと、よかったのですか?仲間を?」

コボルトの一人が心配して話しかけてきてくれるが、俺は苦笑いしか出来ない。それに仲間と言われたが俺にとって彼女らは仲間と言うほど親しい間柄でもないし正直うっとおしくも思っていた。

「ヒール」「ヒール」「ヒール」

3回ヒールを使い、俺の護衛は目を覚まして周囲を見渡していたが俺と視線が合うと目を逸らした。

「モンスターと話できるのは本当だったのですね」

アリーシャは俺の傍にいるコボルト3匹を見て諦めたようにため息をついていた。

「ええ、ですから無闇に暴力に訴えて欲しくなかったのです」

そう、言葉が通じて相手が理解してくれれば無闇に武力に訴える必要なんてないのだ。
でもパステルとレオナは納得いかなさそうな顔をしている。

「えっとですね、今回は迷宮攻略より魔法の練習がメインで来ていますのでそこまで気を張らなくていいんです。コボルトさん達も長老さんと合わせてくれるみたいなので「ふざけんな!」」

話の途中でパステルが立ち上がり俺に対して怒鳴った。

「いい加減にしろよな!貴族様だがお嬢様だが知らないが冒険者として来てるなら冒険者としてダンジョンで活動しろよ!言葉が通じるからいい?騙されたらどうするんだよ!安易にモンスターを信じるなんて冒険者失格だろ!しかも仲間と戦うなんてアンタ頭おかしいんじゃないのか?」

「えっとですね、私は言葉が通じたので問題ないと言いましたよね?それにですね、私の長い人生経験から言わせて貰えば人間ほど狡猾で残虐で狂って壊れてる生き物など見た事がないです。それに仲間と言いましたが、申し訳ありませんが、たった数日だけしか一緒に行動してないのに仲間扱いされても困ります。たしかに冒険者としての立場や行き方についてはパステルさんの方が一日の長があるのでしょう。ですが、あまり無理に自分の考えを押し付けてくるのは私は好みません」

そこまで言って言い過ぎたと後悔したが、まあ別にいいだろう。
あまり干渉されるのは俺の好みじゃないし、これで彼女らが俺と一緒に居たくないと言ってくれるならそれはそれで魔法の練習が出来るってものだ。

「わかりました。クサナギ様の近くには控えていますが口は出さない事にします。パステルもクサナギ様に2度負けてるのですから冒険者らしく強い者の意見を聞いてください」

アリーシャが俺の方を睨み付けながら言ってきた。
レオナもパステルも俺への視線がかなりきつい。

「大丈夫か?お譲ちゃん」

心配してくれるコボルトに俺は癒されると同時に人間同士はどうしてこんなにメンドクサイんだろうと内心、ため息をついた。








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