最強のFラン冒険者

なつめ猫

人の縁

草薙的航海日誌

1日目、吐き気が治まらない。食欲も出ないし眩暈もひどい、身体強化の魔術を使ったら感覚が鋭敏になり余計酷くなった。船の縁から顔を出してた俺の下には小魚がいっぱい集まってきてた。

2日目、今日も気分が悪い。解析で自分のHPを見たら残り300とかだった。最大HP500億なのにマジでやばい、どうしよう。

3日目、今日は時化がくるらしく海がとても荒れていた。あと2日で衛星都市エルノに到着するのにどうなるんだろう?えへへ……。

4日目、気がつけばガレー船は小破しながらも衛星都市エルノの近くの岸に漂着していた。船員からは事情は聞けなかった。ただ突然、船が宙を浮いて猛スピードで衛星都市エルノに向かっていったらしいとアリーシャやパステルがマストに掴まりながらうわ言のように語っていた。世の中はいろいろ不思議があふれてるらしい。

そして俺は都合4日で一日はやく衛星都市エルノに到着するのであった。
衛星都市エルノの門番に冒険者ギルドの仮身分証を見せるとお金を取られずに中に入ることができた。冒険者ギルドカードすごいな……。

衛星都市エルノの市場は以前とは違って人がそこそこいるが、物乞いや路上で生活してる人の姿もまだまだ見受けられる。俺は近場のキッカが運営してるぼったくりキャバクラー食堂に顔を出すことにした。店の中に入ると俺が入ったときは客が誰もいなかったのに、今は満員御礼だった。

「お、クサナギじゃないかい?」

俺に気がついたキッカが調理場から出てきて話しかけてきた。

「すごい人がいますね」

ぼったくり食堂だったくせにかなりの進歩だ。ちょっと驚いたよ。

「あんた……今、変な事考えてなかった?」

「いいえ、私はいつでもここの食堂の味方ですよ?」

まぁ社交辞令ってやつだ。日本人なら誰でもする糞不味い店であっても顔見知りならそのまま言わずオブラートに少し口に合わないかな?と言う感じだ。

「それでは忙しそうなので行きますね」

俺はキッカに挨拶をして店から出る。
そして迷宮に入るための手続きとして市場を通って冒険者ギルドに向かうがその途中の例の子供の姿を見かけた。市場で茣蓙を敷い20代半ばと思われる青年と女性と一緒にいる俺を刺した子供。まぁ俺を刺した子供だからもう関係ないが両親にもう少し考えて教育しないと将来は犯罪者になりますよと一言言っても良いかも知れないと思ったが、向こうが気がついたのか走って近づいてくる。

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

両親も子供が俺に謝ったのに気が気がついたのか近づいてきた。ふむ、二人ともかなり痩せこけてるな。しかも首や両手両足には奴隷の枷のような後が見受けられる。

「クサナギ様、このたびは娘がクサナギ様に大変失礼な事をしてしまい誠に申し訳ありません」

「何卒、何卒、娘の命までは助けてください」

――――――うーむ……。

俺はそこまで酷い人間に見えるのだろうか?そもそも事の発端はお前らの娘が俺を刺してきたからなんだが?でもなー。

チラッと幼女に視線を向ける。
たしか名前はユリカだったはず。
そして周囲を見渡す。市場の誰もが美少女である俺と幼女とその両親の成り行きを見守っている。

「く……クサナギ殿、幼き子に手を上げるなど騎士として看破できな……」

とレオナが言い

「クサナギ様、どのような事情があったか分かりませんがあまり手ひどい真似は……」

とかアリーシャが言って

「けっ!これだから貴族様はよ!」

ってパステルを含めた3人が思い思いに俺への感想を述べている。何故だろう?護衛の騎士なはずなのにこのアフェイ感……。俺は基本、自分中心的に動いているが他人に迷惑をかけたつもりなんて1厘もないのに誠に遺憾である。遺憾砲を所望する!

「ヒール」「ヒール」

ユリカの両親は解析した結果、体の骨が骨折した後におかしな方向で繋がっていたようなのでヒールで直してやった。それと体力と生命力が減っていたのでその分も回復しておいた。2人とも自分自身の体が軽く感じられるのか俺に何度もお礼の言葉を述べているがそういうのは止めてほしい。
知らない人が見たらまた誤解するかもしれないし……。

「えーと……」

ユリカの両親が売ってる物を鑑定していくと薬草や漁港にありがちな魚介類だったが周囲の市場と比べてもみすぼらしいと言うか何と言うか売れて無さそうに見える。

「やっぱり奴隷だったんですよね?」

俺の言葉にはいと答えてくれるユリカの父親にどうしようと考える。茣蓙の上に直接並べられてるユリカの両親の店舗よりもきちんとした店構えの露天商のほうが売れてるのは当たり前で……。

「売れてますか?」

あまり聞きたくないが首を左右に振られて俺はどうしたのだろうと内心溜息をついた。腹を刺された相手の両親など放っとけばいいとは理解はしているが、かかわりになってしまった以上改善の余地があるなら手を貸してもいいとも少しは思ってしまっている。
はっきり言って、こんなのは自分よりも他者の境遇を下に見て責任を持たない偽善的思考ってのは分かってるが……。

「アリーシャ、パステル、レオナ、先に冒険者ギルドに行っておいてくださいませんか?」

「ですが、クサナギ様!」

アリーシャが反論しかけたところで、俺は3人に先にいくようにと目で語る。
パステルは納得しなかったようだがアリーシャとレオナが納得してたようでパステルをつれてそのまま冒険者ギルドの方へ向かってくれた。

「さて、ユリカのお母さんにお父さん。少しお話があるのですが……」

さあ、ここからは俺の腕の見せ所だな。
まずはユリカの父親の名前はエミリオ、母親の名前はユメだった。
二人に茣蓙の上に直接おいておくと品質も悪くなるし、衛生面も悪くなると説明しようと思ったがきっと理解してくれないと諦めた。
そうするとこれからお昼時、ならすることは……。

「ここってあとで綺麗に片付ければ何も言われないんですよね?」

「え、ええ……」

ふむ、なら……。

「アースシャベリンぽいの!」

俺の言葉に地面が持ち上がり俺の想像通りに形が出来上がっていく。所謂石で作られた台みたな感じだ。次に下には空洞を空けた状態にし石の台の上は生活魔法の水で洗い流し綺麗にする。その後には生活魔法の火種の魔法を魔力量に物を言わせて火力あげて上の石を熱していく。

「エミリオさん、成功するかどうか分からないのでエミリオさんが扱ってた魚介類を纏めて購入したいと思うのですがおいくらになりますか?」

「え?えっ……と……「金貨2枚と銀貨3枚に銅貨6枚です」」

煮え切らないエミリオさんの言葉を遮ってユメさんが教えてくれた。おれは腰から金貨3枚を取り出すとユメさんに渡す。そして石で作られたテーブルが十分、火で熱せられたのを確認すると貝や魚を焼いて行く。所謂壷焼きという奴だ。
次に、アイテムボックスの中に入れておいた海上都市ルグニカで購入した魚から作られた調味料であるナンプラーを垂らしさらに熱して行く。魚関係は高質化した石の針を刺して焼くことですぐ食せる状態にする。

以前調べた限りではナンプラーは、衛星都市エルノではナンプラーは取り扱ってなかったはずだから俺の考えが間違ってなければ客が連れるはずだ。
料理をしていると一人の鉄鎧を着込んだ冒険者風の男が近づいてきた。

「お嬢さん、これはなんて料理なんだい?」

「はい!これはサザエのつぼ焼きといいます」

まぁ実際はサザエかどうかは知らんが、形はサザエだから問題ないだろう。
ナンプラーが熱せられた事で周囲に香ばしい匂いが立ち上る、少しづつ市場で買い物をしていた人たちがこちらへ関心を見せてきた。
さて、がんばるか……。

それから2時間はかなり大変でエミリオさんもユメさんにもがんばってもらった。

「ふむー。金貨7枚と銀貨33枚と銅貨181枚ですか……まぁまぁですね」

売り上げはとんでもないことになっていた。
そう、市場で食材は売ってても食事をする場所が食堂しかないのだ。
だから市場では食事をするような場所がない。少し何かを摘もうという発想がここの世界にはないのだ。

日本円で言えば、仕入れね23000円とナンプラーが銀貨3枚で3000円で26000円程度。生活魔法だったから今回はほとんど薪代とかかからなかったが、薪を使っても金貨3枚の30000円程度で金貨10枚の10万円近くは稼げるし原価と手間を差し引いても金貨7枚は手元に残るはず。

これなら派遣をしなくてもいいし、借金を返すことも可能だろう。
問題はすぐに真似をする類似店が出て来る事だが、そのときはそのときでまた差別化を図ればいい。

「それでは先ほどの金貨2枚と銀貨3枚抜いた売り上げ金を渡しますね」

お金を渡した後には、日本風の屋台の構想を教えておくことにする。
今だけ稼げても意味がないし、継続的に稼げないと駄目だと思うからだ。
そして人に説明をして商売のノウハウを説明していくと時間はあっという間に過ぎてしまう。

すでに3人を冒険者ギルドに向かわせてから4時間以上が経過している。
それでも心配して見にこないのは護衛としてどうかと思う反面、良かったとも思う。

「ほんとうに何から何までありがとうございます」

ユリカの父親が頭を下げてくるが俺は特別な事など何もしてない。
ただ、先人の知恵を借りたに過ぎないのだ。
それに……まぁ、なんだ……。

「いえいえ、明日からも大変だと思うのでがんばってください。それと先ほどお渡ししたナンプラーは、海上都市ルグニカで販売していますので購入しておくといいですよ」

俺はそれだけ言うと冒険者ギルドの方へ向かう。
市場を抜けてから、しばらく歩き冒険者ギルドの建物に入ると3人が呆れた顔をして俺を待っていた。まぁかなり待たせたのも事実出し美味しい物でも奢って謝罪でもしよう。

「急用が出来てしまいお待たせ致しました。申し訳ありません」

「別にいいよ」

「でも素直じゃないですね?」

「少しは見所があるじゃねえか?」

3人ともあまり怒ってないようで安心した。
さて、今日はもう遅いから手続きだけして明日から迷宮探索だな。





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