最強のFラン冒険者

なつめ猫

婚姻話

海上都市ルグニカにある刑務所は、海賊達が国を興した200年まに作られてから一度も脱獄を許したことはない。それは犯罪者が犯罪者の目線で作った刑務所だからでありここに収監されれば二度と出てくることは無いとまで言われていた。

「ほら!飯だ!」

草薙は、いつも食事を持ってきてる女性騎士を見て食事を受け取った。
ここルグニカでの刑務所は基本、男性監視者しか居なかったのだがルグニカ総督府の総意により草薙の為だけに女性騎士が監視者として配属された。ただ、国内にわずかしかいない女性騎士は高い倍率を誇った難関を潜り抜けてきただけあってそのプライドは高く刑務所に配属されるなど屈辱の極みでもあった。そのため、草薙への当たりは強い。

「………………いだ」

「ん?なんだ?早く食え!」

草薙が刑務所に収容されてからすでに一週間が経過しておりお風呂にも入ってない。そして小食とは言え不味いご飯を食べさせるなど日本人としては許しがたい行為でありすでに草薙の精神は限界に達しつつあった。

「もう、げんかいだー!」

そしてとうとう、草薙は切れた。
よくある団塊世代の暴走と言う奴である。

「な、なんだ!?」

女騎士は草薙の方へ視線を向けてるがその眼は信じられないモノを見る眼差しであった。

「そもそもおかしいんだよ!王位簒奪レースなんだろ?どうして進路妨害で投獄されないとおかしいんだよ?ああ!おかしいよ思うよな!」

草薙のあまりの剣幕に女騎士は鉄格子とは言えコクコクと頷くことしかできない。

「いいぜ、やってやるよ!そっちがその気なら戦争だ!!!」

「おい、やめろ!バカ!!」

丁度そこに現れた男、グランカスの発した言葉で草薙から漏れていた膨大な魔力が小さくなっていく。そしてそれに伴い金縛りにあっていた女騎士が腰を抜かして石畳の上に座り込んでしまう。

「まったくこうなるとは思ってたが来て正解だったな」

「正解じゃねーよ!もっと早くこいよ!ヒール講座するぞ!!」

もはや切れて対面も何も取り繕わない団塊世代の草薙だった。

「おい、こいつは今日限りで釈放になったから鍵を開けてくれ」

グランカスの言葉に女騎士は牢屋の鍵だけを差し出すとそれを受け取ったグランカスは草薙の牢屋を開けた。

「ほら、さっさと出ろ」

こうして一か月間、刑務所暮らし予定だった草薙はわずか一週間で娑婆に出られたのであった。

「かーっ!娑婆の空気はうまいぜ!」

刑務所から街中に向かう途中で草薙は背伸びをしながら任侠映画のようなセリフを吐くがそれを聞いたグランカスは額に手を当てていた。

「お前な、もうすこし丁寧な言葉遣いをしろよな」

「別にいいじゃん。どうせ、俺の本性知ってる人間の前で演技しても仕方ないだろ?」

そう、草薙は自分の本性を知ってる人間の前では効率が悪いからと演技はしない。だからグランカスや一部の人間の前ではそのままの言動で接している。

「で、本来なら一カ月間は刑務所にいるはずの俺を解放したって事は何かが起きてるんだな?」

「まあな」

草薙は、現在何が起きてるかを考えていく。

まず最有力候補なのが帝政国からの侵略。これはかなりの確率であり得る。何故なら草薙が主力である海洋国家ルグニカの軍艦7隻を沈めたからだ、
隣国との相対的軍事力に差が出れば侵略戦争になる。
それは、元の世界で中国が尖閣諸島や韓国や南シナ海に侵略戦争の前哨戦を仕掛けてきてる事からも良く分かる。

そして次に考えられるのが連邦国家の中心に位置する主教国家エイゼルからの干渉。
海神クサナギと言う名前でかなり名前が売れてる事もあり、教会関係からは干渉がある可能性が高い。

あと、考えられるのが海洋国家ルグニカの内政関係だがそれは総督府になったグランカスを含めた8人の奴隷商人たちがする事でありあまり積極的に関わりたいとは思わない。草薙自身の力は他の武芸者を比べても隔絶した力であり草薙便りだと居なくなった時に対応が出来なくなるからだ。

「ふむ……どのような問題だ?」

とりあえず話を聞かない分には話にならない。草薙はグランカスに話を促す。

「そうだな、その前にそこの料理屋で予約を取ってあるから飯にでもするか?」

「いや……いい。まずは風呂に入りたい」

そう、女になって嗅覚がするどくなった草薙にとって一週間お風呂に入れなかった事はかなりの拷問だったのだ。はやくお風呂に入って髪の毛を洗いたいというのは当然の帰結ともいえる。

「わかった、それじゃその後に飯でも食べながら話しをしよう」

グランカスの言葉に草薙は頷く。
そして2時間程すると総督府の名前で借りていた宿屋から草薙が出てきた。

「ひさしぶりだから生き返った」

グランカスとの邂逅一番の言葉がそれであった。
そして料理屋に入り個室に案内された草薙とグランカスはそれぞれのテーブル席に座った。

「で、俺が釈放された理由ってなんだ?」

草薙は出された水を飲みながらグランカスに話を促す。

「理由か、簡単に言えば婚姻の話だ」

「婚姻?グランカスが結婚でもするのか?つまりそれを破談させてほしいと?」

ふむ、俺が予想してたどれよりも違った。
これは予想外だな……俺の感も鈍ったってことか……。

「それなら話は楽だったんだが、婚姻はクサナギの事だ」

「は?」

唐突の事に草薙の思考は止まった。
せっかく婚約破棄してこの地に来たのだ。それが何故、また婚姻と言う話になるのか?

「魔法帝国ジールの宰相がレースを観戦してたらしい。それで昨日、転移魔法で書簡が届いた。そこには貴国の重鎮である草薙殿を次期皇帝の王妃として向かい入れたいと書かれていた」

「そうかそうか……よし!魔法帝国ジールを滅ぼそう」

草薙は決断した。そんなくだらない事を考える魔法帝国ジールなど必要ない。
たしかアプリコット先生に魔法帝国は数十万の兵士を抱えてると聞いた事はあったが、全面戦争でもして相手を壊滅させればおとなしく手を引くだろう。

「おいいいいいいい、やめてくれ!まじでやめてくれ!!」

「なんだよ?もう魔法帝国ジールを滅ぼすのは俺の中では決定事項になったわけだが何か問題でもあるのか?」

「おおありだ!一応、お前は海洋国家ルグニカでは英雄と国民の間で言われてるんだ。そんなお前が魔法帝国ジールとやり出したら国家戦争になるだろう!」

「ふむ……問題ないぞ?どうせ10秒で相手の国が敗北宣言だすしな」

そう、魔力量200億を使えば魔法帝国ジールがロシア並みの領土を持ってたとしても超極大広域生活魔法で一蹴出来る。

「とりあえずだ、そういう暴走紛いのは本当にやめてくれ」

「……ならどうするんだ?」

魔法帝国ジールが俺と婚姻を結びたい一番の原因は俺の魔力の運用と魔力量をその血筋に取り込みたいからだろう。っていうかそういうのは本気でやめてほしい。

「そうだな、とりあえず顔見せだけして振るかどうか考えてみたらどうだ?」

「ふむ……つまり顔見せしてその場で断るって事か……中々効果的だな?」

「いや、そんな事したら戦争だからな?本当に戦争になるからな?」

「なるほど、つまり如何に上手く相手と誘導し婚約破棄をさせるかがポイントになるわけか。中々難易度が高いクエストを持ってきてくれるじゃないか?覚悟は出来てるんだろうな?」

俺の最後の言葉にグランカスは震えていたが、ヒール講座はするつもりはない。
それよりもまた婚姻とは……どうしたものか……。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品