最強のFラン冒険者
王位簒奪レース開始!
衛星都市スメラギから海上都市ルグニカまでを航海する王位簒奪レースは、一ヶ月の期間を渡って続けられる。その間に、陸地についた船は失格となる。
海洋国家ルグニカが建国されてからはまだ一度も途中で失格にはなった者はおらず、もし失格になれば不名誉極まりない物と言われている。
今日、王位簒奪レースを迎えた衛星都市スメラギには多くの商人や各国貴族に重鎮などがその祭りを見にきていた。
そして出航となる港ではすでに奴隷商人達のガレー船8隻と、各衛星都市と王都の治める領主である海爵の軍艦8隻が待機していた。
「お集まりの皆様、長らくお待たせしました」
司会の男が進み出て港を一望できるように作られた客席へ視線を向ける。
その格好は青を基調としたもので淵には金糸が編みこまれており人目で手が掛かってるのが分かる。
「今回、第20回王位簒奪レースを開催します!」
司会が声を張り上げると歓声があたりを包み込んだ。
それを俺は見ながら内心ため息をついていた。
「さて、それでは参加者の入場です!!」
次々と会場に参加者が入っていくのを見て俺も足を進めた。いまの俺の格好は、グランカスが用意した衣装を身に纏っている。
青を基調としたマーメイドドレスで胸元が極端に開いている。
白の大理石を小さく削りだし玉状にした物に穴を開け絹糸を編んだ物を通して網状にしてある。
前世で言うなら結婚式で女性がかぶるヴェールのようなものだろう。
エレンシア母様がかなりの美人だけあって俺もそれを受け継いでる事から、予想はしていたが会場は静まり返っていた。
ほかの参加者女性陣は3人いたが誰も海賊ルックな服装をしていたのに俺だけはまったくの異質だった。
俺が参加者のところに並ぶとエメラスが親の敵を見るかのように睨んできたが俺にはとんと心当たりはなかったので困った。
奴隷商人達も並び始めるとさすがに各領主達もおかしいと思い始めたようだった。
「グランカス!どうしてアナタが並んでますの?」
「同じ顔ぶればかりですと大会が盛り上がらないでしょう?それに俺達、奴隷商人はガレー船ですから誰も領主様に勝とうなど思ってませんよ」
エメラスとグランカスの話を聞きながら、俺はこちらの作戦が敵に漏洩してないことに安堵した。
そんなことを考えていると司会の人間が紙を取り出して読み始めた。
それは大会参加資格であった。
・参加資金 金貨100万枚
・自前の船を持ってる事(軍艦でも漁船でも可)
俺は聞きながらとくに問題ないと安心していたが次の言葉で氷ついた。
「最後に、市民権を持っている者に参加者は限られます。あとは船への直接的な魔法攻撃は禁止です、そして奴隷が参加していいのは奴隷になってから一週間以上の者に限られます。以上、本大会から採用されます」
ざわざわと会場がざわめく。
エメラスの方を見ると勝ち誇った顔をしていた。
くそ、やられた。あいつら権力を使って俺が参加した場合の予防線を張ってきやがった。
「あら?クサナギ様、顔色が優れなくてよ?」
オホホホホホと愉悦感に浸ってるエメラスや他の王子や王女達が俺を見てニヤニヤしている。
どうする?この状況をどうやって打破する?
頭の中で現状を打破する道を探るが手詰まりで浮かばない。
完全にしてやられた。中世時代の人間だからと思っていたがまさか大会規約を逆手にとってくるとは思わなかった。
こうなったら、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムの市民権を主張するか?
でも自国の人間でも無い者が他国の王位に関わる政に参加したら内政干渉になりかねない。
どうすれば……。
「クサナギ殿は、この私……カベル海爵の身内である!」
唐突に会場に大声が鳴り響いた。
声が響いてきた方を見ると、大男がいた。
どこかで見た記憶が……。
「ま、まさか……どうして……幽閉されてるはずでは?」
エメラスが一人驚きの声を上げていたが俺も彼をどこで見たか思い出した。
たしか衛星都市エルノの郊外で騎士達を倒した際に、市民を連れて指揮してた人だ。
俺が考え込んでいるとカベル海爵が近くまで寄ってきて俺に一枚の鉄で作られた薄いプレートを差し出してきた。
「愚息を止めて頂き、かたじけない。これはせめてものお詫びだ、とっておいてほしい」
受け取ると、プレートにはカイジン・クサナギと書かれていた。
カイジンは苗字じゃないし、クサナギも名前じゃなくて苗字だからと突っ込みを入れたかったが今は助かる。
「ありがとうございます。これで大会に出られます」
俺はニコリとカベル海爵に微笑む。
「それではがんばってくれたまえ」
「はい」
そして司会の方へ目を向ける。
司会が突然のことで呆けていたが俺も超展開すぎてついていけてないが大会に参加できるというなら貰っておこう。
「こ、こんなの無効ですわ!」
エメラスが何か騒ぎ立ててる。
「何が無効なのですかな?これは衛星都市エルノの総督府で私が発行したものだ。自治独自を推奨してるルグニカにおいて無効は通りませんぞ?」
カベル海爵がエメラスに所謂お前が口を出す権利はねーんだから黙ってろよと言っている。
それを見てる領主を目指す参加者達も皆、どうしたらいいのか考えているようだったが一言だけ言っておこう。
「エメラスさん?」
俺は精一杯の笑顔で語りかけることにする。
「ヒッ!」
何かされると思ったのだろうか?
俺から距離をとるとエメラスは参加者達の後ろに隠れてしまった。
さて、これでは話が出来ないな……。
まぁ仕方ないか。
それより大会参加に追加された項目で船に直接魔法攻撃をしたらいけないとあった。
さて、どうしたものか?
ふむ……。
「それではハプニングもありましたが皆様、船に乗船してください!!」
司会の言葉に総督府の地位を狙ってる王家の人間達は騎士達を連れて軍艦に乗り込んでいく。
「クサナギ!任せたぞ!」
声がした方を振り向くとグランカスとその仲間である奴隷商人達も船に乗船するため、ガレー船に向かっていく。
そして俺はと言うと……グランカスに発注させた特注の漁船くらいの大きさのクルーザーもどきに乗り込んだ。そして思い至る。
直接攻撃がだめなら、間接攻撃ならいいんだな?と……。
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