最強のFラン冒険者

なつめ猫

王位簒奪レース前日!

町に入ったのが夜を過ぎていた事もありかなり暗いと思っていたがあちらこちらにかがり火が置かれておりそこまで暗いと言う感じでもなかった。
わかりやすく言えば、夜の病院の廊下くらいか?そう考えると怖いな……。

もちろん今の俺の姿は、アクセサリーをつけてはいないが黒いドレスのままだ。
闇に溶け込むようなこんな姿をしてたらそりゃ……。

「そこの女!ま……まて!」

ほら、こんな風にナンパされたり警戒されたりするだろう。

「金のアクセサリーはつけてはいないようだが、顔を見せてもらおうか!」

とっても強引なナンパの仕方だ。それじゃモテナイぞ?
俺は男の顔を見てニコリと微笑む。

「ひぃいいいいいいいいい、クサナギだークサナギがでたぞおおおおおおお」

とても怯えた後に男の声で何十人も集まってくる。
なんだよ?ひいいいいってさ。俺が何か酷い事をしてる人間みたいじゃないか。
すかさず男に近寄り認識される前に男の腕を小手ごと生活魔法の洗濯を乾かす魔法を応用したウィンドカッターで斬り飛ばす。
そしてすかさずヒールをすると男の腕だけが治った。
さあ、ヒール講座の始まりだ。

明け方になる頃には、俺のヒール講座は一段落ついていた。
町中だというのに集まってきた騎士風の男は20人ほどだった。どうやら相当、人材工面には苦労してるようだ。スメラギの総督府もかなりブラックな仕事をさせてるのだろう。
人材が残らないというのは企業のタイマンだぞ?

俺は近くの建物の屋根の上に飛び乗ると港方面へ屋根を伝って走っていくことにした。
また下を歩いて時間がかかったら面倒だからな……。

最近、スメラギで俺が寝床として使ってる案新安全がモットーな奴隷館に近づくと俺とお話したことがある奴隷商人の手下が近づいてきた。

「クサナギ様、グランカス様は会議室でお待ちです!」

「そう、ありがとう」

さすがはグランカスだ。多少日程がずれてしまったが俺が来たことを察していたようだ。
事務所の2階にある会議室へ足を踏み入れるとグランカスだけではなく残りの奴隷商人達も座っておれを待っていた。

「ただ今、戻りました。皆さん、こんな明け方にどうして居られるのですか?」

俺は不思議そうに頭を傾げる。長い黒髪がそれにつられて揺れる。

「クサナギ……あれだけの事をしてれば誰だって分かるだろ?」

はて?あれだけとはなんだろうか?とんと分からない……。
俺はただのヒールをしていただけなのに……そういうことか?

「ああ、そういうことですか?」

「ああ、そういうことだ」

俺が納得したことにグランカスはやっとかとため息をついていた。すまないな、察しが悪くて……これでも前世は察しの日本人と言われていたんだが転生して少し俺の感も鈍っていたようだ。

「私がヒール治療した方々の様子をどなたが見ていらっしゃたんですね!」

俺は両手を合わせて発言する。

「ちげ-よ!夜から朝方まで悲鳴が上がってたら誰でも気がつくだろーが!」

「ああ、近所迷惑だったって事ですね。仕方ないですね、それは理解の相違というやつですね」

「もう、いい……お前と話してると頭が痛くなってくる」

グランカスはどうやらかなり疲れてるようで頭を抑えている。いけない!ヒールしなきゃ!

「ヒー「やめろおおおおおおおおおおお」」

ヒールをしようとしたらグランカスがすごく取り乱して俺から離れていった。
人の好意くらい素直に受ければいいのに……。仕方ない話の本題に入ろう。

「で……グランカス。全員と召集させておいたのは例の事が出来たんですね?」

「あ……ああ」

「それでは作戦概要を説明します」


簒奪レース前日、町を歩いているといろいろな物が目についてきた。
まずはガレー船の多い事。全部で8隻ありこれは全て奴隷商人達が簒奪レースのために用意した船だ。
そしてそこから少し離れたところには様々な旗をつけた大型のバリスタを搭載した軍艦8隻が並んでいた。おそらくあれが海爵達の船だろう。
奴隷商人達が用意したガレー船と見比べても大きさ、海を漕ぎ推進するためのオールの量どれをとっても軍艦の方が遥かに優れている。
俺はそれを横目に見ながら、簒奪レース当日に乗る船を見る。

その船はこの世界の木造で作られた物とは比べ明らかに異質だった。
船体の大きさは、ガレー船よりも遥かに小さい漁船程度。
そして木造で作られた船体の外側には薄い鉄板が乱雑に打ちつけられていた。
特に尖端の部分などは複数枚の鉄板が重ねられており強度もありそうだ。
ただ気になったのは船の側面に女性の姿が彫られていたことだが、特に気にする必要もないだろう。

市場を回っていると奴隷達が仕事してるのが見えた。
すぐに奴隷を派遣社員として雇ってしまうと権力者達に察せられてしまうのですぐには開放できないのだ。俺は内心もやもやしながら近くの食堂で休むために扉を潜った。

俺が扉を潜るといつもどおり男達のご飯を食べる手が止まってこっちを見ていたが気にせずにカウンター席に座る。
すぐに注文取りの女性が来て何を食べるか聞いてきいてきたのでお水だけを注文すると嫌な顔をされた。

「あ、メニュー表を頂けますか?」

「これをどうぞ」

どうやら、俺が何か頼むと知ったことで機嫌を直してくれたようだ。
さてさてどんな料理があるのかなっと……。

・海神クサナギパン
・海神クサナギスープ
・海神クサナギソテー……エトセトラエトセトラ

うーむ。誰だ?こんなふさげた物を作る馬鹿は?

「なあ知ってるか?また海神クサナギが出たらしいぞ?」
「知ってるわ、総督府が必死に隠してる醜聞よね、神に喧嘩を売ったととか聞いたわ」
「何でも、騎士達は五体満足なのにどんどん止めていくらしいな」
「人が足りないからって冒険者ギルドに依頼をかけてるらしいわ」
「今まで税が払えないと騎士が取り立てにきてたけど来れなくなったみたいで助かるわ」
「ああ、海神クサナギ様さまさまだな!」

そんな声が俺の耳元に聞こえてきた。
すごいな、海神クサナギ様って奴は。俺の名前を語っていい事をするのは良いがあまり神様の名前を無闇に使ったりすると罰が当たるぞ?
それに騎士達を辞めさせるほど酷い事をするなんて、きちんとヒールしてケアをしてる俺を見習ってほしいものだ。

俺は、普通のスープとパンを頼んで食事をしてから店を出た。

さあ、打てる手は打ったしこれでもう大丈夫だろう!


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