最強のFラン冒険者

なつめ猫

奴隷を扱っていいのは殴られる覚悟のある奴だけだ!


「それでは私は、宿に戻りますので失礼します」

俺はそう告げて席を立ち退席しようとするとエメラスが近寄ってきた。
その瞳はとても潤んでいる。

「クサナギ様、どうしてですか?先ほど、私達に力を貸してくれると仰られていたではないですか」

俺はそんな事を一言も言っていない。
冒険者の資格をとるためには市民権が必要なんだなとしか聞いてないし憶測で物事を語られても大変こまる。

「エメラスさん、私が以前にもお伝えした事を忘れていませんか?私は海神です。特定の勢力に肩入れするわけにはいかないのです。そこはご理解頂かないと困ります。それと引き受けないとは言っていません。持ち帰って受けるかどうかを考えますと言っただけです」

日本政治家の考えておきますの内容に近いが考えないとは言っていないし断るとも断らないとも言っていない。ただ、考えると言ってるのだ。

「そ、そうです。クサナギ様、実はレースで使用するはずの最新鋭船の甲板が壊れてしまいその修理に時間がかかってしまうのです。そのため、ロクな練習も出来ないのです。ですので是非、お力を貸しては頂けませんか?」

エメラスは、俺が甲板を壊したから修理が大変なんだよ!責任とれよと言ってきているが俺の海神設定を信じてるならその言葉は悪手だろ。
神様相手に人間がお前が世界に降りて畑が吹き飛んだんだから収穫の責任取れよ!と言ってるような物なのだ。
まぁ俺なら面と向かってボディブロー食らわせて謝罪させて金品取ろうと心の中では考えるかも知れないが普通はそんな事考えても言わないだろ……。

「エメラスさん、私がご迷惑をおかけした事は分かります」

俺の謝罪にエメラスは一瞬呆けた顔を見せる。
俺が謝罪の言葉を言うとは思わなかったのだろう。海神様設定を押し出してる俺であっても悪いと思ったことは謝罪はする。修理費などの責任を取るかは別問題だが……。

「ですが、私にも役割と言う物があります。まずは人の営みを見なければいけません、そこはご理解ください」

どうやらこちらが一歩も下がらない事を理解したようなのかエメラスは俺から一歩下がった。
さて、これでここから無事に出られると思ったんだが……。

「クサナギ様、それでは甲板の修理費としてこちらを」

渡された紙には金貨3万枚と書かれていた。


「お父様ったら酷いですよね!クサナギ様にお金を請求するなんて不敬です」

今、俺はエメラスと共に総督府を出たあと市場を見て回っていた。
総督府から出る際に、エメラスはイデル海爵と何やら話をしていたのだが恐らくお金を神様に請求したらダメですよ!とかは絶対言っていないだろう。
エメラスも遠回しで船壊したんだから責任取れとか言ってた訳だし……。

それにしても市場の男達の俺達を見る目がやけに鋭い気がする。
そう言えばさっき市場に行くと言った時にエメラスはあまり乗り気じゃなかった気がする。
それでも市場を見て回ってるのはその国の事情が市場などには色濃く反映されるからだ。

それにしても先ほどから奴隷は見るのだが、このくらいの規模の都市になると必ずと言って良いほど見かける物乞いの姿がまったく見受けられない。
市場は活気があり奴隷と思われる人達も無理やり働かされてるようには見えないんだよな。
さて、どういう事なのか?
一緒にエメラスと言う美女が横にいる状態であまり露骨な情報収集をする訳にもいかないし困ったな。でもこいつなら問題ないか?奴隷を物扱いしてたしな……。

「エメラスさん、奴隷の方々はどのように皆さん手に入れてるのですか?」

「えっと……そうですね。奴隷は奴隷商人から買って使う事が多いです。あと殆どが借金の肩に売られてきた人達ですね。それと奴隷は財産として考えられています。国には、奴隷一人につき年間金貨10枚を国に払う事が義務付られています」

金貨10枚か……金貨1枚1万円と聞いていた事から考えられると維持コストは奴隷一人頭10万円か。
食費、住居などを考えても安いな。

「奴隷の方が病気された場合はどうされているのですか?」

「え?病気ですか?」

俺の見てる前で、エメラスは話と止めると唇に指を当てて微笑んだ。

「不良品は処分するに決まっています」

「そうですか、分かりました。」

うーむ。現代社会で生きてきた俺としてはその考えには賛同できないが大航海時代にヨーロッパ人が先住民を大量虐殺して国を建てた後に、奴隷を使ってたのもこんな感じだったのだろうと思うとあまりいい気持ちは湧かない。
考え込んでいた俺とエメラスの前に複数人の男達が道を塞ぐようにして立ちふさがった。

「偉い別嬪さんだな、少し付き合ってくれないか?」

ひどいナンパの仕方だ。
もう少しやりようと言ったものがあるだろう。まあ仕方ない、とりあえずここはエメラスを逃がして……っていない!?どこにいったんだ?まさか……考え込んでいる間に、はぐれたのだろうか?

そんな俺の考えを無視するかのように男の手が俺の肩の上に置かれた。
服はドレス状だった事と羽織ってるストールの生地が薄いことも合わさり直に男の手を温度を感じてしまった。

「えっと……ナンパなら他でしてもらえませんか?」

あまりゴタゴタを起こしたくないのだが、困ったものだ。
しかも市場だと言うのに誰も見て見ぬ振りをしていて男達と俺を中心にぽっかりと空白地帯が出来上がってしまっている。
内心、溜息をつきながらどうしていいか考える。
この場で男達を叩き伏せてしまってもいいのだが、それはそれでこの国の事情をまったく知らない事もあり得策であるとは言えない。
それに何かあれば、エメラスが俺を助けにくるだろう。ああ見えて総督府の娘らしいからな。

「力づくでもいいんだぜ?なあ?」

さらに周囲から男達が出てくる。人数は10人、いや15人か?……。
そう考えてる内にカチッと首に何かをつけられた。
途端に意識が遠のいていく。

「おい、起きろ!」

体に激痛が走る。
眼を開けていくと30人近い男達が立っていた。

「おいおい、こいつ本当に上級魔法師なのかよ?」とか「あねごには手をつけるなとは言われてたけどさ」とか聞こえてくる。

両手は後方の壁に鎖で繋がれおり足に枷と重りがつけられている。
そして暗闇に慣れてきた目で周囲の光景が分かると俺の頭は一気に冷えた。

いくつもの小さな格子状の鉄の箱に詰め込まれた女性や子供に男達、そして女性を犯す男達が目に飛び込んできたのだ。
あたりには苦痛と嬌声と嗚咽が入り混じっており普通の人間からしたら悪夢にしか見えないだろう。
さて、どうするかな……。

「ここはどこでしょうか?」

俺の言葉に男達は呆けていたが笑い始めた。

「お前はバカなのか?こんな状況を見てここがどこか分からないのか?」

分かってはいるが情報がほしい。
それにエメラスが助けに来る可能性もある。

「ここは奴隷の調教場だよ、すぐに使えるようにここで調整してるんだよ」

ああ、そういう事か。
なるほどようやく理解した。市場を見ても反抗的な奴隷がいなかったのはそのように調教されたからなのか、まったくこの屑どもが……。

「そうですか、ですが一つ気になったのですがどこからこれだけの奴隷を?」

彼らは俺が冷静に話してる事に少しづつ違和感を抱き始めたようだ。
まぁ俺ならこんな容姿をしてる少女が冷静に話してたら恐怖を感じる。
彼らの感じる違和感もそこから来てるのだろう。
男達の後ろからも、奴隷の首輪と手足に枷をつけたんだから大丈夫だとか話が聞こえてくるし……。

「まぁいい。代官達から重税を貸して税金を払えない人間が供給されてくるんだよ。分かったか?お前もこれから魔法師としての力だけ利用されて娼館行きだ」

娼館ね……。俺は1000万の魔力量のうち10%を身体強化に回すが全ての力が枷に吸収されてしまい魔法が発動できない事に気が付いた。
なら40%なら?力を解放すると枷からピシッと罅が入る音が聞こえてくる。
どうやら無理やり破壊できそうだな。
さて、そうすると後は首謀者な訳だが、いくらなんでもさっきの市場での立ち回りはタイミング良すぎる。

「ここの総督府の娘さんが私を助けてくれると思うのですが、そのへんはどう考えていますか?」

俺の言葉に男達は笑い始めた。

「聞いてたとおりお人よしの甘ちゃんみたいだな。もういい、おいお前らこいつを犯して素直にさせろ」

数人の男達が近づいてくる。
男からは特に情報は聞き出せなかった。
それよりも聞いてたとおり?ふむ……。これは、お話(物理)するしかないようだな。

それに、さっきから人間を人間として扱わないこの場所に居た事で俺の怒りのメーターはすでに振り切っている。
1000万の魔力量で相手?いつからその程度で相手すると言った?

「貴様らに教えてやる」

俺の男言葉に彼らは初めて動揺を見せる。
だがもう体に見合った女言葉を使う必要性も何もない。
魔力量200億……そのうちの1%である2億の魔力量を体に纏っただけで身体強化もしてないのにも関わらず魔力を吸収し身体能力を抑え込む手足を含む首の奴隷の枷までもが全て消し飛ぶ。
あまりの魔力量による負荷に耐えきれず枷が砕けるのではなく消滅したのだ。

それを見た男達が後ずさりなら何かを言っているがまったく聞こえないし聞く耳すらもたん。だが彼らにはこう言ってやろう。

「相手を傷つけていいのは傷つけられる覚悟のある奴だけだ!」

俺の言葉が周囲に木霊した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品