最強のFラン冒険者

なつめ猫

大邪神というフラグ

<a href="//655400.mitemin.net/i227973/" target="_blank"><img src="//655400.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i227973/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
ローレンシア大陸南東国家勢力図

海の男達の姿を眼下に見ながらどのように話を切り出すか考える。

「私の力は見て頂けたとおりに分かって頂けたと思います。分かって頂けましたよね?」

素直にうなずいてくれている。
かなり信心深い人達のようだ。

「それでは洋服を貸して頂けませんか?」

俺の言葉に船員が走って離れていくとすぐに戻ってきて洋服を差し出してくれた。
洋服は女物のようであったが、海賊のみなさんの姿を見るに彼らの洋服は着たくない。

服を着て見下ろすと緑色に染め上げられている裾の長いドレスであった。
どうやら、海賊なだけあって色々な戦利品を持っているのだろう。
下着が無いのは落ち着かないがこれは陸地まで案内してから手に入れよう。

「それでは、国の視察を行いたいのですが貴方達のお国まで案内して頂けませんか?もちろん、断って頂いてもかまいませんけど……」

俺は右手に船の破片である鉄くずを持ち上げて彼らのそれを紹介する。

「い……いえ。海神様が来てくれるなぞ我らの誉れですううううう」

うん、とても彼らは気持ちよく俺の願いを聞いてくれるようだ。
このリースノット王国では感じた事の無い、こちらの領域に踏み入ってこようとしないこの感じがとっても好ましい。
やっぱり海の男達ってのは粋がいい。

これからの俺の旅は順調だ!


そう思ってた時期が俺にもありました。
船酔いにかかった俺は今、船の中の一室で横になっていた。
吐き気がすごい。前世は一度も船に乗った事もなかったからどれだけ酷いかは想像はつかなかったがこの胸に湧き上がってくるムカムカ感はなんと説明すればいいのだろう?とても説明しにくい。例えて言うならこの言いようのしれないストレスマッハな状況を誰かにぶつけたいような感じだ。

「大丈夫ですか?クサナギ様」

船室の扉を開けて入ってきたのは、さっき失神した女だった。
名前をエメラスと言うらしい。
前から思っていたんだがどうして異世界の人間の名前ってのはカタカナのような名前が多いんだろうか?とても不思議だ、検証の価値があると言ってもいいだろう。

「ええ、大丈夫です。少し、この世界にきたばかりなのでまだ体がこの世界に馴染んでないのでしょう」

まぁ実際は唯の船酔いだしな。
でもそれを正直に言うと海神様なのに?ププッとか笑われたり本当に海神様なのですか?とか疑われたりとせっかく通じ合った平和と信用から成り立った関係が崩れてしまう。これは、陸地に戻るまでは海神設定をとりあえずは押し通すしかないだろうな。

「それは良かったです。それにしても貴女様が海神様だとは知らず度重なるご無礼をかけてしまい誠に申し訳ありませんでした」

「そんなに畏まらないでください。私もこの世界の一柱(人柱)ですから、そんなに気にする必要はありませんよ?」

俺はニコリと微笑む。
ちなみにこのエメラスが俺を海神と思ってるのは船員達にそう言え……じゃなくて伝えるようにおど……お願いしたからだ。
とても気持ちよく頷いてくれ実行してくれたあたり彼らは大変人ができてると思い感心したもんだ。
やはり何事も話し合いが重要だと言うのが分かる。

そんな事を考えてるいると目の前の女性が何やら思い詰めた顔をしているのに気が付いた。
あ、これはまずい……。

「エメラスさん、今日はもう遅いですしそろそろおやす「クサナギ様!お願いがあるのです」」

むー。ぬかった。
厄介事な気がしたのに話を切り上げようとしたのになんという事でしょう。

「あ……はい。なんでしょうか?」

真の意味で男女平等主義な俺としては、面倒ごとはきちんとお断りしたいのだが流石に人様の船を破壊しておいて話を聞かないのは如何な物かと思い諦めた。

「実は、私の名前はエメラス・ド・ルグニカと言います」

エメラスの名前からしたら貴族なのか?それにしても家名がルグニカね……。どこかで聞いた名前だったがどこだったか?思い出せん。

「私の祖国、海洋国家ルグニカでは10年に一回王位簒奪レースと言う物が行われているのです。そのレースにお力を貸して頂けませんか?」

エメラスの身長は俺よりも高いが今は、膝をついてることもありベッドで横になっている俺よりも目線は低い。そのために見上げるような形になっている、その瞳はとても真摯な色を称えており誰もがその瞳を見たら力を貸したくなるだろう。

「いえ、お断りします」

まぁ人生60年近く生きてる俺としては、そんな物には一切心動かされないし第一、王位がかかるような簒奪ってつくような物騒なレースに参加したら面倒事に巻き込まれるのは目に見えてる。そんな物に手助けするなどどこぞの物好きな物語の主人公くらいだろう。
だが俺は違う、訓練されたボッチなのだ。主人公ががんばって、助けた女性にキャー素敵、抱いて!とか言うような展開は一切無いと断言している。

そんな俺が船の一部を破壊したからと手助け?
無理無理それこそありえないだろう。

「そ……そんな……」

俺の前で俯いてしまった彼女はとても庇護欲をそそられるだろう。俺にはあまり関係ないが大半の男はそれでイチコロのはず。
とりあえず今は、船酔いという事もあり話してるだけでもつらい。
お帰り願おうとしよう。
あまり他国の問題に異世界人の俺が首を突っ込むのも良くは無いからな。

「私は、こう見えても人に平等に接しないといけないのです。ですから誰か一人に助力するのはあってはならない事です。私が顕現した理由は話せませんが。その辺も含めてご理解頂けますか?」

そうこの世界の神様と言うのはだれか一人に肩入れはしないと貴族時代にアプリコット先生から習った事がある。
詳しくすると違うが大きく分けるなら平等に接しましょうだ、だから俺のこの言い分は彼女のお願いを断る大義名分になる。
そこで彼女はハッ!とした表情をした後に俺を見上げてきた。

「ま、まさか……クサナギ様は、北の永久凍土の中に今もなお存在しているという大邪神ヤンデールを倒しに向かわれるのですか?」

え?何いきなり急展開すぎてついていけないんだけど……?
誰だよ、大邪神ヤンデール。そんな奴しらねーし、アプリコット先生にも教えてもらった事がない。
しかも永久凍土とかそんな寒い所になんて行きたくもない。

「ち……ちが……いません」

すごい瞳をキラキラさせて俺を見つめてる彼女を見たら違いますとは言えなかった。
それでも彼女は俺の手を握り締めて懇願してきた。

明日、ぜひ私の話をもう一度聞いて頂けませんか?と……。






数時間後、俺を載せた船は甲板が大破するという非常に不幸な事故があったにも関わらず無事に港に到着した。
船から降りる際にも、平衡感覚がくるっていた事もあり倒れそうになりエメラスに支えてもらい海の男達からは、海神様!大丈夫ですか?と聞かれた。俺は大丈夫だと言うと桟橋から降りた。
船から降りて港方面へ歩いていくと港はまだ暗く、男達に聞く限りだと日が開けるまでまだ時間があるそうな。
俺は港に隣接してる宿を、頼んで借りてもらった。
宿に入ると若い男性が出てきて対応してくれたが船酔いの後遺症もありすぐに部屋に案内してもらう。部屋の中はベッドとテーブルに椅子だけという簡素な物だったが荷物が無い俺はそのままベッドの上に横になった。

横になった事で疲れが出たのだろう。魔法を初めて行使した影響もありうまく考えがまとまらない。

「明日からどうするか……」

考える事は明日からの事。
当面の目標としては仕事を見つけておいしい物を食べて暮らす事だが、手持ちの服も大気圏の摩擦で燃え消滅していた。

お金は元々持っていなかったが持っていないと生活が出来ない。
仕事は何が出来るかと言えばコネもない現状だと就活するのは厳しいだろう。
体を売るという線もあるが男とあんな事やこんな事をすると想像しただけで寒気が走る。

そうすると海神クサナギ設定を押し出して商売をするか?という話になるがそれもまた面倒事を巻き起こしそうな気がする。
きっとあれだろ?大邪神がいるんだから魔王とか四天王とかいたりするんだろう?
そんな奴らがきたら面倒すぎて困る。

明日は、その辺りも含めてエメラスにはきちんとお話をしないといけないか。

とりあえずは国って事らしいからまずは冒険者になろう、そうすればお金が稼げるはずだ。よし、そうしよう。

方針は決めた、あとは冒険者としての技量が必要になる。

ベッドの上に座り込んで、ユークリッドに貰った魔法書の内容を思い出す。
購入してきて貰った魔法書は、《身体強化魔法》《生活魔法》《防御魔法》《回復魔法》の4種類。
身体強化魔法は、ある程度使えるようになったが、それ以外の3つはまだ実践していない。

防御魔法は、魔法攻撃から身を守る者。
生活魔法は、火種と水を作り出す事と微風を生む。
回復魔法は、体の切傷を塞ぐモノ。

どれをとっても旅をする上で使い勝手のいい魔法になるはずだが自分の力の制御が大雑把しか出来ない俺だと魔法を行使した際にどういう状況になるか予想もつかない。実際、最初に身体強化魔法を使った時に大気圏まで出かけたし要注意だ。


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