最強のFラン冒険者

なつめ猫

幕間 とある王都警備隊の日々


「退屈だな」

思わず思った事が口に出てしまう。
毎日毎日、代り映えのしないこの景色を見て私は溜息をついた。

「退屈な事は平和って事でいいんじゃないか?」

「んだよ。いたならいたって言えよ」

私の発言に幼少期からの腐れ縁であったスレインは「なんだとー!このー。ユークリッドのくせに生意気だぞー!」
とか言っている。

隣で抗議しているスレインとは同期で王都警備隊に入隊した。
入隊したというかさせられたと言った方がいいかもしれないが……。


そうあれは、まだ日差しが温かい時期だった。

侯爵家の長男であった俺、ユークリッド・フォン・アルドと伯爵家の次期当主予定だったスレイン・フォン・イエアスは
何不自由なく暮らしていた。
家令に頼めば、父上が許す限りどんな事だってできた。

賭け事も出来たし女だっていくらでも抱けた。
イラついた時に、市民に暴力を振るっても何も言われやしない。

問題が起きても父上が全てもみ消してくれた。
それは隣で今、俺のことを警棒を使って脇腹を押してくるこいつも同じだった。

俺とスレインは増長していた。
母上や父上はそんな俺に何も言わず弟ばかり可愛がっていた。

弟は、中級魔法師の中位クラスの魔力量をもってきて生まれた。
初級魔法師の上位の程度の魔力量の俺なんてどうでも良かったのだろう。

暴力沙汰で相手に怪我をさせた時も、家名に傷がつく事を恐れてもみ消していたと今なら分かる。

スレインだって俺と似たような物だ。
次期当主予定だったけど親は政治に夢中でまったく相手にされてなかったって聞いた。

だから似た者同士の俺達はいつもつるんで町で好き勝手に生きてた。
それは俺達が、リースノット王国の成人15歳の一か月前まで続いた。

俺達の好き勝手が許された最大の理由としては、この国の第一王子クラウス殿下の遊び相手を務めていたからだった。
これは王子と同年代だと喧嘩になるという配慮からだったが、その頃の俺とスレインにとっては毎日が苦痛だった。

クラウス殿下は一言で言えば正義感の強い子供だった。
早くして母君であった王妃様を病気で無くされた影響だったのか父親である国王陛下の影響だったのかは知らないが僕は皆を守れる正義の味方になりたいといつも夢のような事を語っていた。俺とスレインは、そんなクラウス殿下の言葉を聞きながら現実を見れないガキは良い身分だと思っていた。リースノット王国では王家の婚姻は血筋が重要視される。だが、他の貴族家では産まれ持った魔力量が人生を決める。クラウス殿下の魔力量は初級魔法師の下級であった。殿下の腹違いの兄弟は、中位魔法師の魔力量を持っている。
魔力至上主義の事世界において当然、王国を支える三公爵家以外の王国重鎮達は第一継承権を持つクラウス王子ではなく他の王子達を押していた。

王宮内では、クラウス殿下のことを「賢王グルガードの唯一の失敗作」「出来損ないの王子」などと揶揄する者もいたが殿下の父君は愛情を注いでおられた。
それを間近で見せつけられていた俺とスレインは、家族愛を受けられる殿下と受けられない俺たちを比較してしまっていた。

ある日、殿下の遊び相手を務めてるならば身を守る術が必要だと父上に言われ俺とスレインは殿下の勉強の時間の間は、王宮騎士達に混ざって剣を振る訓練をする事になった。父上達の期待に答えようと俺たちは一生懸命取り組んだけど、辛かった。

そんなある日、俺とスレインは聞いてしまった。

父上が息子が殿下を守りたいと率先して剣術を学んでるのですよと国王陛下に話してる事を。
俺たちは、親の自尊心を満たすためにしてたわけじゃなかった。それなのにそんな事のために俺たちはやらされていたのかと思うと馬鹿らしくなった。
練習もサボりがちになり、俺たちはいつも練習時間は騎士団の宿舎裏で時間を潰していた。やることがない、親の見栄のためだけの殿下のごきげんとりに嫌気が差していた。
そんな俺たちの前に子犬が通りがかった。少しだけ憂さ晴らしをしようとしただけだった。でも気がついたら殿下に止められていた。

殿下は、真っ直ぐ俺に視線を向け両手を広げて子犬を庇っていた。そして気がついた、俺は殿下に向けて木刀を振り上げていたことに……。
俺はすぐに木刀を下ろし数歩下がりながら俺は、謝罪の言葉を殿下に伝えた。俺の後ろからもスレインが謝罪の言葉を言っている。
だが、殿下の護衛である王宮近衛騎士団のマルス殿の前ではどうにもならなかった。俺達は、その場から逃げた。

そして、逃げて逃げて気が付けばいつもの町の酒場にいた。酒を飲んでいたが俺とスレインは明日からどうしたらいいものかと考えた。殿下に怪我がないとは言え王宮内で問題を起こしたのだ。下手をすれば実家からの絶縁どころか軟禁もありうる。ただ、殿下は俺達の言い訳を聞いてるときに呆れ顔で国王陛下様に言わないと言っていた。

だけどあそこには王宮近衛騎士団のマルス殿が居た事から間違いなく国王陛下様の耳には入ることだろう。
俺やスレインはそれぞれ実家に呼び出された。そして2人共、目出度く実家から絶縁状を叩きつけられた。

絶縁にあたり体裁が悪いからとある程度の金品はもらっていたが数ヶ月でなくなる金額だ。町の酒場に行けば先客であるスレインがいた。
俺達は二人とも今後のことをどうするか話しあったがどうしたらいいかわからず仕舞い。そんな俺達に声をかけてきた男がいた。よく見れば、王都警備隊の服装をしていた。
男は、王宮近衛騎士団のマルスと懇意にしてるらしく俺達の面倒を見るように頼まれたらしい。

どうせ行くところなんてどこにもない。
王都警備隊の男についていくのもいいだろう。
俺とスレインはこうして今の職、王都警備隊に入隊した。
そんな過去の出来事を考えていると

「どうかしたのか?」

とスレインが聴いてきたので昔の事を思い出していた事だけを伝える。

「いや、実はさ……俺達が初めて王都警備隊に入隊した時の事を思い出していたんだ」

「王都警備隊に入隊したときの事か?あんときは酷かったよな。夜だって言うのに酒を抜くために井戸水ぶっかけてきたからなー。思わず手が出ちまった」

「そのあとお前、ボコボコにされてたけどな……」

「言うなよ……」

二人して初日に警備隊隊長に足腰立たなくなるまで訓練させられた事を思い出し苦笑した。

「さてと……仕事を続けるか」

「だな、そろそろ見回り交代の時間だし」


30分後、王都警備隊の見回り要員と交代した俺とスレインはいつもの酒場に向かって町を歩いていた。

「なあ、お前さ……彼女どうすんの?相手の両親とはもう顔合わせしたんだろ?」

「ん……そうだな……」

スレインはどこか煮え切らない様子だった。

「なんだよ?何か彼女に不満があったりするのか?」

俺がスレインに紹介された彼女は、明るく活発な印象を受ける女性だった。
普段ちゃらい雰囲気を持つスレインには丁度いい子だと思っていた。

「そうじゃないんだ、俺達っていろいろしてきただろ?だから迷惑なんじゃないかなってさ」

「たしかによく町で喧嘩したり暴力振るって親に揉み消してもらってたからな……黒歴史だよな」

「でもさ、それをひっくるめて彼女も彼女の両親も良いって言ってくれてるんだよ」

「なら良いんじゃないか?」

俺の相槌にスレインは歩いていた足を止めた。

「そうじゃないんだよ、実家の清算が終わってないのに俺みたいな男と一緒になって
彼女が幸せになれるのかなって思うんだよ」

そう呟いたスレインの顔は、今まで見た事ないほど真剣な表情だった。
王都警備隊に入隊してから6年が経った事で、スレインもずいぶん変わったんだなと思った。

俺達はもう20歳になった。
20歳になるまでは大半の人は結婚する。
やはり結婚を躊躇してたのは過去の柵の問題が大きかったんだろう。

でも俺達もそろそろ前に進まないと行けないと思う。
だから俺はこの腐れ縁の背中を押すことに決めた。

「大丈夫さ、あの頃の俺達とは違うんだ。何かあれば俺も力を貸すし、マルス殿や警備隊長のイースも力を貸してくれるし俺達の給料ってかなり高いんだ。自信をもてよ!」

俺の言葉にスレインは頷いた。

「じゃ、今日はスレインの結婚祝いってことでパーッと酒場でスレインの驕りで飲むか!」

「おい!ふざけんな!!」

たまにはこういう日があってもいいのかも知れないな。




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