最強のFラン冒険者

なつめ猫

公爵令嬢ユウティーシアの一日


「それよりもだ、まずはユーヤのステータスを測らないとな」
 ユークリッドが立ち上がろうとしたところで、ユウティーシアはユークリッドの手を強く握りしめた。
 そして上目使いで言葉を紡ぐ。

「ユークリッド、ステータスを測るのはそんなに急がなくてもいいんじゃないですか?ほら、今日はもう疲れましたし私が何かご飯でも作ります。座ってください……ね?」
 ユウティーシアは必死だった。
 3歳の頃にシュトロハイム公爵邸でステータスを測った事があったのだ。
 その時、ステータスを測る真実の鏡は少し魔力を注いだだけで粉々に吹き飛んだ。
 しかも吹き飛んだ破片がユウティーシアの部屋の壁をも消し飛ばしその余波で隣接する部屋までも半壊状態にしたのだ。
 広い公爵邸ですらそれだけの大惨事を引き起こすのにこんな所で真実の鏡を使ったら大変な事になってしまう。

「まぁいいか、でも早く測って自分のステータスの正確な数値を確認しておかないと困るぞ?」

「大丈夫です。明日、何も無い所で測りましょう!」
 話の転換が出来たとユウティーシアはほっと一息ついた。

「あっ、ユークリッド。お願いが……」

「ああ、魔道コンロに火をつければいいんだろう」

「はいっ!お願いします」
 30分後、二人の前には質素ながらもきちんとした手料理が並んでいた。

「頂きます」

「それは何なんだ?日本の風習か何なのか?」
 スプーンを取ったユウティーシアはコクリを頷き、スプーンでジャガイモベースのスープを口に含むとうっとりとしていた。

「やっぱり私が作った料理は完璧です!」
 一人暮らし歴30年、自炊歴30年、そんな男の料理スキルはある意味カンストしていた。

「おおう、たしかに旨いな。素材の味を完璧に引きだしているな」
 ユークリッドも初めて食べた料理に対して、どこかの料理人先生のようなコメントをしている。
 それを見て、ユウティーシアは笑顔になり市場で購入してきたパンをスープにつけて食べ始めた。

「ユーヤって、やっぱりどこかの良いお嬢様だったりするのか?」
 本人は否定していたがユークリッドにはどうしてもユーヤが平民の娘には見えないのだ。
 食べ方が上品すぎる。
 普通の平民の食べ方ではないのだ。

「いいえ、私は前に言った通りにどこにでもいる一般の平民の普通の女の子ですよ?」
 食べる手を止めて微笑みながらユークリッドの質問に答えを返してるユーヤを見てユークリッドは、どうも嘘をついてるようにしか思えないのだった。それでも、詰問した時に魔道器はユーヤの言葉を全て真実だと証明していた。

「本当に分からないな」

「大丈夫です。ユークリッド、それは普通の事です」
 ユウティーシアは、ユークリッドの争点をずらす事でユークリッドにそれ以上深く考えさせないように誘導する。そしてしばらく考えたふりをした後に

「実はでね。私、考えたんですけど食堂で働こうと思うのです」
 冒険者で、逃亡資金が稼げないなら変わりに仕事を探さないといけないけど異世界の事情には疎い。
 そんな自分が働ける所と行ったら、料理が得意な事を生かして食堂で働くくらいしか思いつかないのだ。

「ダメだ!」
 そんなユウティーシアの言葉に対して苛立つ気持ちを抑える事が出来ずユークリッドは思わず声を荒げてしまっていた。詰問の時以外は、そんな声を聞いた事がないユウティーシアは思わず体を震わせていた。その事に気が付いたユークリッドは、椅子に座りなおすと口を開いた。

「違うんだ……そうじゃないんだ。ユーヤの頑張りたい気持ちは分かる。
だが、ユーヤはまだ慣れていないだろう?それなのにいきなり仕事をするのは良くないと思ってだな」
 ユークリッドの話を聞いて、たしかに自分はそんなに市民の生活内容や事情をよく知らないと思い納得した。でもこのままじゃいけないのも確かか……。

「それでは慣れたらお仕事しますね」

「ああ……」
 ユウティーシアの言葉に、頷きながらもユークリッドは胸に湧き上がるもやもやを消し去る事が出来なかった。


 30分後、体を自分で拭いたユーティシアは市場で購入してきた寝巻に袖を通していた。
 ユークリッドの家にはベットが一つしかない。
 つまり今日からは一つのベットで2人で寝る事になるのだこれはある意味、修学旅行に近い物ではないだろうか?

 寝巻に着替えたユウティーシアは、寝室から出るといまだにリビングの椅子に座っているユークリッドの後ろに立った。

「もう遅いぞ、着替えて早くないと明日また途中で寝るぞ?」
 まだユウティーシアが着替えてないと思っていたユークリッドは、ユウティーシアが注いだ紅茶に口をつけていた。
 いつまで経っても返事をしないユウティーシアを気になって後ろを振り向くとそこにはすでに寝巻に着替えたユウティーシアが立っていた。
その姿を見てユークリッドは固まった。

「どうですか!ユークリッド、似合ってますか?」
 光沢のある絹で編まれたパジャマは、ユウティーシアの魅力を最大限に引き出していた。

「ユークリッド?ユークリッド?聞いてますか?」

「あ、ああ……お前、なんて恰好してるんだ?」
 普通の男なら襲われても文句言えないぞと内心溜息をつきながらソファーに向かう。

「あ、あれ?ユークリッド、ベットはこっちですよ!寝室ですよ!」

「お前なあ、未婚の女が男と寝るやつがどこにいるんだよ?」

「あっ……そうでした」
 ベットでゴロゴロしてた素を見られたユウティーシアは取り繕うことは、エネルギーの無駄だと割り切っていたのだ。だからそれなりの感覚で接していたのだが、どうやらかなり適当になっていたようだった。

「すいませんでした。また迷惑をかけてしまいました」
 そう自分の今は性別としては女なのだ。
 枕なげが出来るような同性ではないのだ。
 さっきまで笑顔を見せていたユウティーシアが突然、初めてあった時の作られた笑顔をして謝罪してきたの見てユークリッドは頭をガリガリと掻いた。

「分かった、今日だけだからな」

「いえ、結構です!」
 ユークリッドの提案をにべもなくユウティーシアは切って捨てた。
 すこし安易に考えすぎてた自分を叱咤し、気を引き締め考えた結果、ユークリッドと何で一緒に寝る事を楽しみに思ったのだろうと疑問に思い寝るのは駄目だろうと答えを出したのだ。

「それじゃユークリッドは、ソファーで寝てくださいね。おやすみなさい」
 ユウティーシアは寝室に入るとドアを閉めようとすると隙間からユークリッドの手が入り込んできて閉められなくなってしまった。

「ちょっと、これじゃドアが閉められません!手を抜いてください!」

「俺、思ったんだけどさ。ここって俺の家だろ?」

「そ、ソーデスネ」

「なら俺がどこで寝てもいいわけだ?だろ?」

「そうですけど、女性が寝る部屋に一緒に寝るのはTPOを弁えてないと思うんです」
 一生懸命、寝室のドアを閉めようとするユウティーシアと、寝室のドアをこじ開けようとするユークリッドの戦いは数分後、ユークリッドの勝利で幕を閉じた。

数分後。ベットの上には枕で国境が作られていた。

「ココのベットからそっちがユークリッド陣地でこっち側が私の陣地です。侵入したら私のガゼルパンチが炸裂するので絶対に入らないでくださいね!」
 ユークリッドは、ガゼルパンチってなんだ?と言いながら指定された陣地で眠りについた。
 ユウティーシアも気を張っていたがユークリッドが寝たのを確認すると目をつむった。





翌朝。

「お、おい……起きろ」
 ユークリッドが目を覚ました時には寒さからなのかユークリッドの腕の中には、ユウティーシアの姿があった。








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