最強のFラン冒険者

なつめ猫

冒険者ギルドがない!?


「お姉さん!エールを一杯お代わり!!」

男の声に、女性があいよーと答え厨房へ向かっていく。
ここはリースノット王国王都の市場近くに店を構える食堂であった。

店内に並んでいる質が良いとは思えないテーブルと椅子に男たちは腰をかけて食事をしていた。
食事である喧騒とお酒を昼間から注文し飲む男達のおかげで店内はかなり騒々しい

そんな店内の空気にそぐわない音が店内に鳴り響く。

カランカラーン……。

食堂の扉の上部に括り付けられた鐘が扉が開かれた反動で鳴ったのだ。
店員は店内を見渡して来客に対応できるか確認していく。

「(うん、カウンター席は全部埋まってる……テーブル席は……2人分だけ空いてる)」

店員は2人以上、来客がきたら対応できないなと開かれた扉から入ってくるお客へ目を向けた。
そして目を見張った。
男性専用とまで言われまったく女性が寄り付かない土木作業員御用達とまで言われていた
そんな店内に同姓である自分ですら目を見張る美しい少女が店内に足を踏み入れてきたから。

店内で食事をしていた男性達も、また暑苦しくなるなとどこの組の者が来たんだと鋭い視線を鐘が来客を告げた扉のほうへ視線を送り食事する手を止めた。

「やっぱり3時間も市場を歩いてると疲れてくるわよね」

店内に入ってきた少女はとても美しかった。
透き通った白い肌に、白いワンピースを押し上げる大きな胸にスラリと伸びた手足。
そして精巧に配置された顔のパーツ、どれか一つをとっても異性を引き付けて止まないものであった。

先ほどまで、「エール一杯おかわりー」とか「やべー今月金欠だわー」とか「聞いてくれよ!女房がほかの男とさ浮気してたんだよおおおおお」とかあまり公衆の面前では語ったらいけない内容までちょっといブラックな内容の話しで盛り上がっていた場は、水を打ったかのように停止して静まり返っている。

「鍛え方が足りないんじゃないのか?」

絶世の美少女と言っても過言ではない少女と一緒に入ってきた男は
特に気にしたそぶりもなく店内入ってくる。
男達は、美少女よりも後ろに続いて入ってきた男に目線を向けていた。
お世辞にもその目線は良いとは言えなかった。

なんかこう嫉妬的な何かを含んだこいつ死ねばいいのに!という意味合いを含んだ視線であった。

ユークリッドはその視線に気がついたのか、ユウティーシアの肩に手を置いた。
そのため、店内に入ろうとしたユウティーシアは歩みを止めさせられた。

ユウティーシアはどうしたんだろう?と後ろを振り返り顔を上げた。
ユークリッドは、ユウティーシアの顔を見てから頭を左右に振った。
その仕草とユークリッドの目はこう言っていた。

「俺の命がやばくなるからカフェでも行こう」と……。

女性が多いカフェなら嫉妬に駆られる事はないだろう。
あっても少ないはず。
こんな風に殺意まで含んだ視線は向けられないはずだ。

「ユークリッドどうしたの?早く入りましょう?私、疲れたわ。少し休みたいの」

ただユークリッドの切実な思いは、ユウティーシアには届かなかった。
シュトロハイム公爵邸から出た事がなく、長時間歩いた事がないユウティーシアの体はすでに限界を超えていたのだ。
3時間市場を回って情報収集をしてきた代償は、疲労で足が震えていることであった。

「はやく、椅子に座って休みたいの。だから早く入りましょう」

ユウティーシアは美しく整えられた眉をすこし潜めながらもう一度、ユークリッドに語りかけるとユークリッドの大きな手を小さな両手で握り店内に引っ張ろうとする。

「はやく入らないと駄目、もう我慢できないの!」

二人の掛け合いを見ていた女性の店員達は、妙にエロイ会話をしてるとドキドキして見る。

二人の掛け合いを見ていた客の男達は、何見せ付けてくれてるんじゃオラーと歯軋りをしながら殺意を込めた視線でユークリッドを見た。
見られたユークリッドは身の危険からドキドキして店内とユウティーシアを見る。

ユークリッドは店を変えたいと身振りで伝えたのに察してくれないユウティーシアに内心、ため息をついた。でも疲れきって思考力が低下していたユウティーシアにそこまでの余裕はなかった。
察する気持ち?何それおいしいの?状態である。

だから必死に、ユークリッドを店内に入れようと引っ張っていた。
そしてその行動がさらに店内の空気をカオスにさせるとは理解せずに。

ユークリッドは、仕方ないとあきらめユウティーシアの頭の上に手を載せる。

「分かった。ここにしよう」

とうとう、ユークリッドは折れた。
ユウティーシアの足元をよく見ると小刻みに小鹿の赤ん坊のように揺れているのを確認したからだ。

「店員さん、どこに座ればいい?」

そこでようやく女性の店員は金縛りから溶けるように動き出した。

「あ、はい。そうですね……こちらへどうぞ」

先ほど、店員が確認しておいた席へ2人は案内されて座った。
座ったとたん、ユウティーシアが前のみりにテーブルに上半身を預けた。

「おい、はしたないぞ」

テーブルに上半身を預けた事でユウティーシアの発育のいい胸が強調されていた。

「足が痛いです。これ絶対、明日は筋肉痛です」

まったくユークリッドの注意をユウティーシアは聞いていない。
そして上目遣いに視線をユークリッドに向けてくる。

「ユークリッドって体を動かすことが資本なんですよね?」

「そうだが?」

ユウティーシアが何を言いたいのか今一理解できない。
市場で、彼女が活発に動いていたのは30分程度だった。
それ以降は、無言になりいろいろなお店を見て回って行った。
その後をユークリッドはついていくだけだったが突然、休憩しましょうと言われたのだ。
お腹でも空いたのかと思い、了承し近くの大衆食堂に足を踏み入れた。
そして、先ほどのユウティーシアの態度で疲れたから休みたいという意味だったと理解したのだ。

「そうすると……」

そこでユウティーシアが言葉を区切る。
それを見てユークリッドはこいつはまた変な事を考えてるなと想像した。

「体の筋肉の疲れを取るマッサージとかできますよね?」

その言葉に食事を開始した男達は食べていた者を租借せずにゴクリと飲み込んだ。
続けての言葉を早くしろと視線を二人に向けていた。

「まあできるが、お前……」

「よかったです。そしたらお家に帰ったらマッサージしてくださいね」

表裏ない微笑みをユウティーシアは、ユークリッドに向けてきた。
それを見てユークリッドは、頭を抱えたくなった。
周りを見れば店内全員が何かを期待したかのようにユウティーシアに視線を向けている。

「ご注文は何にしましょうか?」

二人の会話に割ってはいるように女性の店員が注文をとりにきた。

「……いい」

「え?」

女性の店員は、ユークリッドの言葉を聞き取ることができず、疑問を呈した。
ユークリッドは、金貨を1枚テーブルの上に置くと椅子から立ち上がった。

一瞬、ユウティーシアはユークリッドの行動を理解できなかった。
首を傾げながら愛くるしそうにどうしたの?と見ている。

「出るぞ、迷惑をかけたな。
それは迷惑料だ、とっておいてくれ」

そう言うとユウティーシアを抱き上げる。
店内からはブーイングが女性店員からは黄色い声が上がる。

「え?え?ユークリッドやめてください」

そこでようやくユウティーシアらしい声が聞けたのだが、ユークリッドは下ろすことはせずに店内からでた。

店内から出てユークリッドが、ユウティーシアに先ほどの食堂でのことを注意しようとするとすでにユウティーシアは目を閉じて眠っていた。

「なんなんだ、こいつは本当に……」

眠ってる姿も絵になり美しい。
それよりも疲れるだけであれだけ無防備になってしまう事に、ユークリッドはため息をついた。

通りでユウティーシアを抱きしめて立ってるだけでもほとんどの人間がユウティーシアに視線を向けているのだ。そんな状態に危機感を抱かないユウティーシアを異常だと感じ始めた。

ただ、ここに二人の間に相互があった。
元々、治安が世界一いい日本で男として暮らしてきたユウティーシアこと草薙にとってはこれはあくまで普通な感覚であり特別気にするようなものではないのだ。

疲れていない普段なら異世界という事と自分が女性として見られてる事を理解しているからこそそれなりの立ち振る舞いや危機回避をしているが疲れれると一瞬でそれが剥がれ落ちてしまう。

ユウティーシアが寝てしまった事で今日の散策はこれ以上無理だと思ったユークリッドは、市場を後にした。そして家に入るとそっと起こさないようにベットの上にその体を下ろした。

数時間後、ユウティーシアは目を覚ましてベットの上でゴロゴロしていた。
遊んでいたわけではない。

自分がいくら疲れて意識が低下していたとは言え、男に媚びを売ってまで店内に入ったことを後悔し身悶えているのだ。
心の中では、ばっかじゃねーのばっかじゃねーのと自分を責めている。

「起きたのか?」

寝室のドアを開けて入ってきたユークリッドと目があった。
身悶える姿を見られてしまったユウティーシアは顔を真っ赤に染め上げていく。

「いきなり入ってくるなー!ノックぐらいしろー」

と気がつけばベットの枕をユークリッドに投げつけていた。

……数分後リビングに二人の姿はあった。
それぞれテーブルを挟んで椅子に座っている。

「で、俺の言いたい事は分かるな?」

「はい……市場と食堂ではご迷惑をかけてすいませんでした……」

今回は自分が悪いのだから素直に謝っておこう。
それにしてもステータスを数百万単位で振ってるはずなのにこの体どうなってんだ?とも
頭の片隅でユウティーシアは思ってしまっていた。

「とりあえずだ、明日に響いたらいけないからやるぞ?」

ユークリッドは立ち上がるとユウティーシアに近づき体を抱き上げ寝室まで運んだ。
そしてベットの上に下ろす。
突然のことにユウティーシアの頭の中はフリーズしてしまった。

「いやっ!痛い!ん……あんっ!ユークリッド、痛い痛い!もっとやさしくしてっ!」

寝室ではユウティーシアの艶めかしい声が響いていた。

「おい!足の筋肉を解すマッサージをしてるだけなのに艶めかしい声を出すな!」

ユークリッドの声に、ベットに寝ていたユウティーシアが後ろを振り返った。
その表情は、痛みと倦怠感と心地良さで頬を赤く染めて艶めかしい。

これが12歳の少女だと知ったらユークリッドは卒倒するかもしれない。
それを知らないのは幸せなのか不幸なのか……。

「(こいつ見た目だけはいいんだけどな、でも惚れたら絶対に尻に敷かれるかもしれない。)」

マッサージの手が止まったことに気がついたユウティーシアは怪訝そうな瞳でユークリッドを見る。ユークリッドが自分をどう思ってるかなど考えもせずに。、

「どうしたんですか?何か考え事でもあったんですか?」

「いや特にないが……他にいってみたいところはあるか?」

ユークリッドの言葉に、明日から行ってみたい所?と考えた。
まだまだ調べたい事は山ほどあってすぐには返答は出せないと思ったが……。

「そういえばまだ行ってないところがありました」

「ん?大抵の場所は案内したと思ったが。そうでもないか?」

「まだ全然です。でもどうしても行かないといけない所があるんです」

どうしても行きたいところか?とユークリッドはユウティーシアの言葉に興味を持った。
彼女がこれほど興味を示す場所、そこはどこなんだろうか?

「冒険者登録をしてみたいです」

その言葉は予想していなかった。
てっきり知ってるとは思っていたんだが……そういえば彼女はずっと家から出して貰えなかったんだなと思い出した。

「リースノット国じゃ冒険者登録出来ない」

「え!?な、何でですか?」

不思議そうに聞いてくるユウティーシアを見てユークリッドは、やっぱり知らないかと納得した。

「この国に冒険者ギルドないから」

「えええええー」





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