最強のFラン冒険者

なつめ猫

婚約破棄


「ユウティーシア様、あなたはクラウス殿下の婚約者ですね?」
 さて、どうするか……。まずはアリスがしたことは内政干渉にあたるが大国の機嫌を損ねたら外交問題になりそうなんだよな。そうすると相手の話に合わせるのが得策なんだが言われたままと言うのも癪に障る。となると……。

 周りを見ていくが大半が興味有って所か?睨みつけてくるのがお父様に商売を邪魔されて没落した貴族達なのだろう。

 しかし、独占……独占か……。この時代に独占とか無理だろ、流通問題も含めて独占は出来ない思う。もしなってるとしたら商品品質で負けてるから市場から駆逐された可能性の方が高そうだ。

 まぁ大体の話の筋道は思い描けた。俺は、背筋をまっすぐに伸ばし視線をアリスに向けた。

「先ほどは失礼致しました」
 俺の言動に周囲で様子を見ていた貴族達が、さきほど?疑問を呈している。
部屋で俺に暴言吐くだけ吐いてさった女の事など知った事ではないがとりあえず話をする手がかりとするか

「私はこのような夜会には参った事がありませんので、どのような立ち振る舞いをしていいのか存じません。ですので、もしご不快な感情を抱かせてしまいましたら申し訳ありません」
 まずはジャブで攻める事にする。

「たしかに、私はアリス様が仰れましたとおりにシュトロハイム公爵家現当主バルザックの娘でございます」
 俺の挨拶に、周囲からの反応は感嘆から関心へと変わっていくのが分かる。そう、まずは他者を知らなければ交渉は出来ないのだ。だからまずは周囲の人間がどのように考えているのか、そしてこのアリスがどのような結末を望んでいるのかそれを探る必要がある。

 たしか部屋で、俺が感じたのはクラウス殿下をお慕い申しておりますと言った感情だった。つまりアリスの最終目標は、俺の断罪ではなくクラウス殿下と添い遂げる事なのだろう。

 そして周囲の貴族の反応を見るに大半の貴族が望んでるのは面白ければいいと言う内容なのだろう。

 只、一部の貴族は俺の父親であるバルザック公爵に商売で負け没落させられた事から俺が断罪される事を望んでるはずだ。と言う事は、この話し合いで必要なのは俺の意見を踏まえると……。

 クラウス殿下との婚約破棄をアリスのせいにする事と、そのフォロー。そして、没落組には悪いが商売には勝ち負けがあるから商売な訳であって育ててもらった恩がある以上ここで徹底的に論破しておく。

 この二つを成功させる必要があると言う事だ。

「(さて、どうするか……)」
 先にどちらから攻めるか……。

「まずは、アリス様にお伺いします」

「なんですの?」

「先ほど、魔法石売買の独占で不利益を得ている貴族がいるとおっしゃられましたが?」
 俺の発言にアリスが意外そうな目で俺を見てきた。

「え…ええ。貴女にも分かりやすく言いますと一つの物価を独占して売りさばく事は流通を止める事になり多くの者に不利益を与える事になります。そのような事で財を築く事は良しとはしないでしょう?」

「独占禁止法のようなものですか?それは王国の法に書かれているのですか?私は、そのような事が書かれてる王国法を見た事がないのですがどうなのでしょうか?」
 ざわざわとホールがざわめいていく。それを聞きながらも俺も内心溜息をつきながら考える。

 俺だってこんな一方的な断罪じゃなければ素直に婚約破棄してアリスにクラウス殿下を押し付けていた。だが、話はそう簡単じゃない。

 ここで手を間違えばシュトロハイム家だけじゃなく流通経済を否定する事にもなりかねない。それは、王国の経済衰退にも直結する。

「そ、それは……」
 アリスから答えは返ってこない。そりゃそうだろう。こんな中世時代に独占禁止法などない。
そして彼女が独占がいけないと叫んだ所で本当の独占など権力で圧力をかけた物でない限り存在しない。

 良質の魔法石をシュトロハイム家が市場に安定供給してるからこそ、低品質の魔法石を扱っていた貴族が窮地に陥ってるだけに過ぎない。なら、俺がやることは王国法を用いて日本経済を主観的に見て相手を論破することだ。

「まず、先ほどアリス様は仰られました。良質な魔法石をシュトロハイム家が独占してると、なら他の魔法石を販売していた貴族の方はどのような魔法石を販売していたのでしょうか?
 もし、我がシュトロハイム家よりも劣る魔法石を販売していてそれで売れなくなったと言うならそれは市場原理に基づくようにエンドユーザーのニーズに企業側が対応出来ていなかっただけではないですか?顧客はより良い物を購入するのは自明の理。
 なのに、努力を怠り製品の品質を上げないのは企業側の怠慢ではないでしょうか?それを相手に擦り付けて自尊心を満たす行為は恥ずべき行為ではないのですか?」
 そこまで行って俺は気が付いた。周囲の誰もが氷ついたように止まっていた事を、アリスですら口をパクパクしたまま何も言えない事に。

 ダメか、やはり……。貴族だと企業努力なんかしないんだろうなと失望しかけた所で

「あなたの言ってる言葉の意味が半分も理解できませんわ」
 そうアリスから言われ俺はハッ!とした。

 異世界に来てからと言う物、言葉が普通に通じたこともあり何も考えずに話していたが
ここは異世界で日本で通じた意味がそのまま理解してもらえるとは限らないんだ。

 俺はもう一度、企業を商店や貴族とエンドユーザーを購入者、ニーズを購入者の求める物と言い直して
説明する。

「そういう事ですの……でも貴女、私が考えてたような……」
 周囲が納得したのを見て追及される前に勝負を決める事にした。

「それでは、経済につきましては独占ではないとご納得頂けたと思います。次に、婚約者の件でございますがたしかに私には魔力がほとんどありません。
 この世界では魔力量は、国防に直結します。ですので、わざわざアリス様は私のためにこのような場を設けてくださったと私は思っております」

 周囲の反応からはさまざまだ。先ほどまでアリスを徹底的にやり込めておいて今度は持ち上げているのだ。どう反応していいのかさすがに彼らも困るだろう。アリスからも「え?え?どういうこと?」とか聞こえるし

 まぁ俺としては男と結婚するなどごめん被りたい。だから今回のこの騒動は徹底的に利用させてもらう。

「私が聞いて感じた点は、リースノット王国では魔力量が少ない子が生まれる割合が近年とても多くなっている事。
 そこから推察できるのは、遺伝子的に近しい者同士で婚姻を続けた為に遺伝子劣化もしくは遺伝子異常か欠損が引き起こされ何世代も続いた為に環境に適応できなくなるように魔力量の減少に繋がったと思われます。

そして、それを証明するかのようにリースノット王国の特性にも着眼する必要性があります」

俺の発言に一人の貴族の男性が手をあげていた。

「すまないが、その近しい者同士での婚姻は問題があるのか?」
 その言葉を俺は待っていた。何故なら公爵家と王家は非常に近い血筋だからだ。

「はい、もちろんあります。親戚同士、もしくは近い血縁関係同士で婚姻を繰り返していた場合に先天的疾患所謂病気を持ったまま生まれてくる場合や、体に異常がある場合や情緒不安定な子供が産まれてくる可能性が非常に高くなります。それに寿命にも影響があります。
 そして一番重要な点はこの国は巨大な山脈に囲まれていることです。それはつまり流通だけでなく人の出入りも制限されるという事です。そのような状態であるからこそ近親婚姻がより一層加速されたのでしょう」

 周囲からは確かに……とか考えて見れば……などの声がチラホラ聞こえてくる。

「以上の点から、王家の婚約者を選ぶのでしたら、血筋を重視する点と魔力量の点、両方から見て……」
 俺は視線をアリスに向ける。そしてアリスが俺の続く言葉を察したのだろう。その青い瞳は大きく広げられ、言葉を発しようとしていたが……。だが、もう遅い!ここまで話を組み立ててればあとは……。


「アリス・ド・ヴァルキリアス皇女殿下の提案を私は受け入れクラウス殿下との婚約を辞退いたします。
 どうかアリス様はクラウス殿下とお幸せになってください」
俺は、そうアリスに告げると両手で顔を隠し走って夜会場をあとにした。決してうまく事が運んだとニヤけた面を周囲に見せたくなかった為ではない。






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