異世界に転移した俺の左手は神級パワーで爆弾持ち!?

極大級マイソン

第11話「新しい仲間」

 前回、謎のドラゴン系美少女センチェルとの遭遇によりご飯を奢る羽目になった俺、大宮陸斗だったが、センチェルが存外にもお金を所持していたため、必死の説得により奢りは免れたのだった。
 そして俺とファイブ、そしてセンチェルの3人は、行きつけの店で食事を済ませていた。
 ドラゴンたるセンチェルは、先ほど豪語していた通りよく食べ、食べ終えた空っぽの皿がいくつも積まれている。店内の他の客が、小柄な少女のどこにあれだけの量が入るのだと目を丸くしているのをよそに、当のセンチェルは満足気に腹を撫でる。

「いやー悪くない! 美味いメシを提供できること。下等な人間の唯一の長所と言っても過言ではない!!」
「月並みなことを聞くけどさ。その身体でどうやってこれだけの量を食べれるんだ? 魔法か?」
「さあ、知らん。妾は産まれながらに強者である故に、細かい事は気にせんのじゃ」

 自分でもよくわかってねえのかよ!  
 俺のにわかドラクエ知識じゃあ、魔物の性質とか魔法の詳細とかよくわかんねえし。そもそもこの異世界はドラクエではないので完璧に詰んでいる。
 俺は隣に座るファイブの方へ目をやった。
 ファイブはキョトンとした顔で俺を見返した。
 ……こいつじゃ、頼りにならないよなぁ。この世界の完全攻略本並みの知識を保有しているとは思えない。
 この異世界で魔物狩りを続けていく以上、魔物の情報は不可欠。いずれ情報収集を行う必要があるだろう。
 そんなことを考えていると、途端にセンチェルが俺たちの方へ向き直った。

「さて、そろそろ本題に入るとするかのぅ」
「本題?」
「お主たち、あの神の使いでやって来た転生者、そして天使なんじゃろう? そのことについて詳しく話を聴くために、わざわざこの妾が席を設けたのじゃ」
「……ただメシが食いたかったからではなかったって訳か」
「いやいや、メシは普通に食いたかった。お主たちが人間の街でメシを食べると聞いたから、話の場をここにしたのじゃ」
「それで、聴きたい話というのは?」
「その前に、私がまだ食べ終わってないから話は後にしてくれない?」
「まずは、お主たちがどんな目的でこの世界にきたのかを教えて欲しい」
「あ、何で無視するのよ!? ちょっと待って、今食べ終わるから!」

 ファイブが親子丼を急いで貪っている間、俺は特に内緒にする必要性も感じなかったので、センチェルに俺たちのこれまでの経緯を説明した。
 俺が転生者であること、日本から来たということ、神から不思議な力を手に入れたこと、貢献ptのこと。
 1年以内に日本に戻れなければこの世界が滅んでしまう、ということは大事になりそうなので伏せておいた。
 センチェルは、俺の話を聞きながら首を縦に上下する。

「ふむふむ、なるほど。では、お主たちは貢献ptとやらを得るために活動をしているのじゃな。強大な魔物を狩ることでptを稼げるということは、もしやお主たちは妾を狩るためにあの岩山にやって来たのか?」
「うっ」

 これはマズイなぁ……。
 俺たちが、噂のドラゴンを倒しにきたとなればセンチェルはきっと不快に感じるだろう。俺だって、訳のわからない奴がいきなり自分の命を狙っていると知ったら、そいつに悪印象を抱く。出会って早々襲撃をしてきた好戦的な態度といい、ここでセンチェルの機嫌を損ねるのは避けたい。
 ていうか、よく考えたらドラゴンが人間の街に入り込んでいるって滅茶苦茶ヤバイ状況なんじゃないか!? この店にも、店の外にもたくさんの人がいる。もし、今こいつが暴れ出しでもしたら……。

「いや、いやいやいや! 違うんだ、俺たちがあの山へ向かったのは別の目的があったからなんだ!!」
「ほぅ、その目的とは何じゃ?」
「それは、機密情報ということで……」

 とっさに良い言い訳が思いつかなかった俺は、そう言ってはぐらかす。

「そうか。まあ、妾が一方的に情報を聴くというのも不平等じゃな。では、次はお主たちの番じゃ。妾に聞きたいことがあれば、何なりと申せ。3秒以内に受け付ける」
「短いな! じゃあ、あんたは何者か。何故あの山にいたのかを教えてくれ」
「妾は、偉大なるセンチェルドラゴンの末裔センチェル! 今は亡き同胞たちの敵討ちのため、世界中を旅している最速のドラゴンじゃ!」
「敵討ち?」
「妾の一族は、数百年前に転生者によって殺された。生き残った妾はその転生者に復讐するため、各地を回っていた。しかし一向に手がかりは掴めず、気が付けば100年以上も時間が過ぎていた。人間は短命、もうあの転生者もとっくに寿命が尽きたのだろうと、妾も半ば復讐を諦めていた」
「…………」
「ところがつい最近、忘れもしない数百年前に会った転生者と同じ気配を、この付近で感じたのじゃ。妾は、過去の復讐をもう一度果たしてやろうと改めて決意し、この地に足を踏み入れたのじゃよ」
「つまり、キミは復讐のためにその転生者を探してるんだな?」
「そう。そこでお主たちに頼みがあるんじゃが、妾を神と合わせてくれぬか?」
「あの神様と?」
「転生者は神の使いでこの世界に訪れる。いわば奴が事の発端というわけじゃが、神ならばあの憎き転生者について詳しく知っているかもしれん」
「ちょ、ちょっと待って! 私は反対よ! 神様を怒らせることだけは絶対にしちゃならないわ!!」

 ようやく食事を終わらせたファイブが慌てて叫んだ。神様が怒ったらどれだけ怖いかは知らないけど、この様子から見るにロクなことにはならないとわかる。
 相手は神様。しかしこっちはドラゴン。どちらの機嫌を損ねても危険な状況だ。ここは慎重に判断せねば……。
 と思っていた矢先に、センチェルが「勘違いするな」とファイブを宥めた。

「妾の目的は、あくまで同胞を殺した転生者自身に清算をすること。神に償いをして欲しいわけではない。迷惑はかけんよ」
「でも……」
「ではこういうのはどうじゃ。妾と神を会わせてもらう代わりに、妾がお主たちの手伝いをするというのは。元の世界に戻るには貢献ptとやらが必要なのじゃろう? そのptを稼ぐ手助けをしてやろう」

 俺とファイブは顔を見合わせる。
 相手はドラゴン。しかも割と厄介な事情を抱えているらしい。性格も変だし出来れば今後あまり関わりたくない。
 しかし、最高クラスの魔物が協力してくれるというのはデカイ。俺とファイブだけではどうしても1000000ptも稼ぐのは難しいから、強力な新規メンバーが欲しいと思っていたところだ。どのみち1年以内に日本へ帰れなかったら異世界もろとも木っ端微塵。多少のリスクを背負ってでも協力を仰ぐべきなのかも。

(しかし……)

 そして、俺が悩んでいると途端にセンチェルは不機嫌な顔を見せた。

「何を悩んでいるのじゃ!! 時間をとらすな、すべき行動は即決即断!!」
「な、悩んで何が悪い! パーティーの、それも信用たり得るかも不明な相手を仲間にするっていうんだ。よく考えるのは当然だろう」
「それは間違っておる!! いいか? 自分の好む好まないという感情は、頭に浮かんだ瞬間に既に自分なりの答えは出ているのじゃ! 『この唐揚げは食べたいのか、食べたくないのか?』『今は寝ていたいのか、起きていたいのか?』『彼奴とは戦いたいのか、逃げたいのか?』。その答えは1秒で導き出される! しかし大抵の者共は、"考える"とやらで時間を浪費し、限りある生を無駄に過ごす。まさに愚の極み!!」
「考えることもなく行動して、その結果失敗したらどうする? それこそ時間の無駄じゃないか!」
「下等な人間らしい考え方じゃな。失敗を恐れているのじゃろう? 失敗したくなければ行動に移せ!! 大体、失敗したからどうだというのじゃ!? 失敗なぞ何度でも取り戻せる!! 例え友を失い、住処を失い、この身が朽ちてたとしてもな!!」

 センチェルは荒々しく息を吐きながら饒舌に喋る。そして彼女は、おもむろにフォークを俺に突き出して言った。

「妾を仲間にするか否か、3秒以内に答えを出せ!! 決めるのはお主じゃ、相談は受け付けん!!」
「いや待て! せめてファイブとだけでも話を……」
「さん…………にぃ…………いち…………」
「あーわかったよ!! するする! 仲間になってくれ!!」
「そうか、では今後ともよろしく頼むぞ。リクト、そしてファイブよ。店員! 妾にベーコンきのこスパゲッティーとかぼちゃパイ、野菜スープも頼む!」

 センチェルは、この後に及んでまだ食い足りなかったようだ。注文を済ませた後にストンと腰を下ろして、コップの中の氷をボリボリと噛み始める。
 俺はそんな様子ぬ呆気に取られ、疲れてテーブルに突っ伏した。
 あまりに強引な申し受けだった。他人の事情など知ったことではないといった感じだ。これがドラゴンというものなのだろうか?

「悪いなファイブ。勝手に変な仲間を増やしてしまった」
「うーん、別に良いんじゃない? というよりも、期待の新人さんが加入ってワクワクするかも!? 冒険らしくなってきたっていうか!!」

 ……楽観的な奴だ。

「じゃあこいつの世話は任せた。それに神様と連絡取れるのはファイブだからな」
「オーケーオーケー! というわけで私はファイブ。よろしくねセンチェル!」
「うむ、世話になる」

 そんなこんなで、俺たちに新しい仲間が増えた。この決断が、後にどのような結果を及ぼすのか、今の俺には判断出来なかった。

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