異世界に転移した俺の左手は神級パワーで爆弾持ち!?

極大級マイソン

第5話「ポイント制」

 神様から力を授かり、結果草原を壊滅させてしまった俺たちは、今後の方針を決めるために帰途へ着いた。

「あ。その前に私、ちょっと薬局に行って来るわ」
「薬局? どこか怪我でもしたのか?」
「いや、貴方の左手って、もはや凶器と相違ないじゃない? だからギプスと包帯で巻いて固定しておこうかと思ったの」
「ああなるほど」

 薬局は書いて字の通り薬を扱っている店なので治療道具、包帯はともかくギプスはあるのかと少し心配していたが、小屋へ戻って来たファイブの手にはギプスと包帯が詰められたビニール袋がぶら下がっていたので、問題なく買えたのだろう。
 皿洗いのバイトをしている食事処の側にあるのが、現在俺たちが寝泊まりしている物置小屋だ。その出入り口前で、俺とファイブは腰を下ろして向かい合う。

「それじゃあギプスはめるから、間違っても下手に動かさないでね。左腕を振った衝撃で吹き飛ばされるとか御免だからね」
「了解」

 俺はファイブに、ギプスと包帯で左手をされるがままに固定してもらった。
 生まれてから一度も骨折したことがなかった俺だが、まさか死んでからギプスの世話になるとは夢にも思わなかったぜ。

「取り敢えずファイブ。お前、例の貢献度ってやつについて教えろよ。日本に帰れる手がかりになるんだろう?」
「貢献度は、異世界の人々に貢献するごとに貯まる『貢献pt』によって、神様から報酬が貰える制度のことよ。貢献ptは、あらゆる奉仕活動で貯めることができるけど、主にこの世界に来た時に貰える特典によって、活動の方針が決まるわね」
「なんで?」
「それが一番手っ取り早いからよ。まあ詳しくは資料を使って説明するわ」

 ファイブは、神様から貰った説明書を提示する。

「ここに、貢献ptで交換できる報酬一覧表が記載されているわ。読み上げるわね」


 報酬一覧表
【死んだ人間を生き返らせる:1000000pt】
【日本への帰還:1000000pt】
【素敵な恋人が手に入る:300000pt】
【新たなスキルを手に入れる:150000pt】
【強力な武器を手に入れる:50000pt】


「……おい、この達成報酬『GANTZ』で見た事あるんだけど」
「気のせいでしょ。現在、貴方が交換できる報酬はこれだけど、定期的に内容が更新されるから、チェックしておくといいわね」
「……恋人を神様から貰うのか」
「そんな変な話でもないでしょう? 御寺や神社で神様に『恋人が欲しいです!』って御百度参りするなんて、日本ではそう珍しいことじゃないはずよ」
「恋人が欲しくて御百度参りしている暇があったら、その時間で合コンでも行った方がいくらか建設的だと思うが」
「まあそれはそれとして、他に何か聞きたい事はあるかしら?」

 ……まあ、今は恋人うんぬんは関係ないよな。もっと他の事を聞いてみよう。

「この【新たなスキルを手に入れる】ってのはなんだ?」
「それにptを使うと、貴方が今日手に入れた"左手無双シニストラ・デスパレティオ"のような異能の力を、新たに神様が与えてくれるのよ。異能は、人類を超越した不思議な現象のこと。まあ、"左手無双シニストラ・デスパレティオ"みたいな強力な能力過ぎるは稀だろうけど、その殆どが便利な物だから手に入れて損はないはずよ」
「"左手無双シニストラ・デスパレティオ"が便利と言われると微妙だけど……、結果的に包帯のお世話になっているくらいだし」

 それにしても、日本への帰還が1000000ptか。
 イマイチ基準が分からんが、取り敢えず方法はあるわけだな。

「具体的に、日本への帰還まで貢献ptを稼ぐには、何をしたらいいんだ?」
「そうねぇ……」
「そもそも、俺は今どれくらいのポイントを持っているんだ?」
「それは分かるわ。"13pt"ね」
「少ないなオイッ!?」
「仕方ないわよ。皿洗いによる貢献度は、半日で2ptしか貯まらないんだから」
「2pt!? 1年365日働いても、1000ptも貯まらないじゃねえか!!」
「どのみちその腕じゃあ、皿洗いを続けるのは無理でしょうね」
「いや、皿洗いはもうしねえよ!? 1年以内に1000000pt貯めないと世界崩壊なのに、悠長に皿なんて洗っている暇あるか!」
「じゃあ誰がこれから皿洗いするのよ! 私たちがこの物置小屋で暮らしていけるのは、ここの所有者である店主さんの食事処でバイトしているからなのよ。バイト辞めたって事になったら、ここに住めれなくなるじゃない!」
「なら、これからはファイブが2倍働けよ。サポーターなんだろお前」
「どこの世界に皿洗いをして異世界生活を生き抜く天使がいるのよ! そんなの私、そのうち皿洗いを高速で終わらせる『俊足の稲妻』って異名で異世界に名が轟くだけじゃない!!」
「かっこいい異名だなオイ。……良いじゃないか、個性があって。世の中には色んな異世界転生小説があるんだから、一つくらい皿洗いで活躍する物語があっても良いだろう」
「新ジャンル過ぎる!! 異世界食堂の劣化版どころじゃない話よ!!」
「まあ、異世界で料理屋する話ってあるけど、そもそもどんな話か知らないんだよな。とにかく、皿洗いは続けなきゃならないなら、お前にやって貰う以外方法がない」
「じゃあ、……まあ、他に案がないならやるけど」

 ファイブはしぶしぶと呟くながらも納得してくれたようだ。
 しかし、13ptか……。ほぼ0と言っても過言ではないな。何としても他の方法を探さなくては。

「そういえばお前、モンスターを倒せば貢献ptが貯まるとか言っていたよな」
「そうね。モンスター退治は、ポイントを稼ぐ上では凄く一般的よ。大まかな目安がここに書いてあるわ」


 貰える貢献pt
【裏ボスを倒す:1000000pt】
【大魔王を倒す:500000pt】
【魔王級を倒す:100000pt】
【ドラゴンを倒す:30000pt】
【幹部級を倒す:10000pt】
【強いモンスターを倒す:10〜25pt】
【弱いモンスターを倒す:1〜5pt)


「因みに、"黄色いうさぎ"から貰えるポイントは"1pt"よ」

 う〜ん。
 ……よく分からん。この世界のモンスターと戦ったことなんかないから、効率が良いのか悪いのか。
 何にしても"黄色いうさぎ"を1000000匹狩るわけにもいかないし、今後はモンスターと戦う事も視野に入れないとなぁ。

「というか、魔王なんてもんがいるのかこの世界は」
「居るわよ。魔界から人間界を侵略しようと企むテンプレ魔王様が」
「そんな奴倒せるのか? 俺たちに」
「まあ普通なら無理だろうけど、貴方が手に入れた"左手無双シニストラ・デスパレティオ"を使えば、魔王だろうが何だろうが一発で倒せるはずよ」

 本当かなぁ。
 確かにこの左手は強力だが、いざ魔王と対峙するとなった時に勝てる確証を持てないんだが。
 生前は友達と野球とかサッカーとかする以外、運動なんてしたことなかったからなぁ。
 ……まあでも、やるしかないな。
 やらないと世界が滅ぶわけだし。勝てる自信は全然湧いてこないけど、頑張ろう。

「それで一つ気になったんだが、この一発で1000000pt貯まる"裏ボス"っていうのは誰なんだ?」
「それは、私にもよく分からないわね。でも多分間違いなく、大魔王より強いんじゃないかしら。大魔王の2倍のポイントだし」

 基準が適当すぎるだろ。
 だいたい俺は大魔王がどれくらい強いのかも知らないんだ。

「そういえファイブ。お前戦いとか出来るのか? 転生者のサポートをする天使だって事だけど、戦闘技能くらいは持ってたりするのか?」
「正直、腕力に自信は無いわ」
「まあその細い腕じゃあな」
「でも私、実はこの世界に来る前に、神様から一つ異能の力を授かっているのよ!」
「なにぃ!? マジかよ、つーか早く言え!!」

 それが本当なら、この先の戦闘が非常に楽になるはずだ。
 あ。でもこいつの事だから、戦闘とは全く関係のない能力を貰った可能性も……。

「安心して、ちゃんと戦闘に役立つ能力よ。能力名は"絶対回避アブソリュート・ダンス"!! あらゆる攻撃を回避する異能よ!」
「絶対回避? ……それお前が守れるだけじゃないのか?」
「でも効果は一級品よ。試しに陸斗、私に攻撃にてみなさいな。あ、左手使うのは無しだからね!」
「ふむっ、ならこの石を投げてみるか」

 地面に落ちていた手頃な小石を掴み、俺はファイブに向けて投げつけた。
 するとファイブは、ひょいっと軽い身のこなしでそれを避けてしまった。

「どう?」
「どうって、あっさりし過ぎでただ避けたようにしか見えない。能力を使っていたのか、避けただけなのか、区別がつかん」
「じゃあもっと攻めて来なさい。どんな技でも回避してみせるわ」

 ファイブは余程自信があるのか、俺の前で大股開きで腕を組んでいる。
 それなら直接触れてみようかと思い、俺はファイブに近づいた。
 手が頰に触れそうになったところで、その顔がするりと横を通り過ぎた。
 続けて触ろうとするが、全てヒョイヒョイっと避けられてしまう。

「う、くそっ」
「はっはぁ、どうよこの俊敏さ!」

 俺はヤッケになって飛び掛かるが、ファイブはまるでこれの動きを読んでいるかのように俺の腕をすり抜ける。
 ならばこれでどうだ!

「あ、ファイブ後ろに100円落ちているぞ」
「ホントにっ!?」
「馬鹿め隙を見せたなっ!! ……へぶぅ!?」

 ファイブは俺の嘘にあっさり騙されて、俺から背を向けたが、奴は在ろう事か俺が飛び掛かると同時に左に回避した。
 俺は、そのまま虚空に突進し、勢いを殺すことも出来ず地面に激突した。
 頭上から、ファイブの嘲笑い声が聞こえてくる。

「無駄無駄ぁ。意識の外からの攻撃でもバッチリ回避するのが、この"絶対回避アブソリュート・ダンス"の効果なんだから!」
「な、何のこれしき……」

 俺はファイブの脚に縋るように這い寄った。
 そしてファイブの脚を思いっきり引っ張ると、その瞬間奴の五体は地面に投げ出され仰向けに倒れた。
 好機だ!! 
 俺はすぐさまファイブの上に覆い被さる。両腕を封じ込め、身動きができないようにしっかりと拘束した。

「ははは油断したなファイブ!! どうだこれで手も足も出ないだろうが!!」
「ちっちっち、甘いわね陸斗。この程度の拘束、"絶対回避アブソリュート・ダンス"なら一瞬で抜け出せるのよ。これはその力をお披露目してあげる為に、わざと隙を見せて押し倒されただけに過ぎないわ」
「や、やれるもんならやってみろ!! この状態で抜け出せるもんならな!!」

 少したじろいでしまったが、俺は完璧にファイブの腕にのしかかっている。奴の細い腕では絶対に抜け出せないはずだ。
 ……でもちょっと不安だから念の為脚を絡めておこう。

「あ、ちょっと何で脚を絡めてくるのよ変態っ!!」
「変な意味はねえよ! お前を絶対に逃さないようにしてるだけだ!!」
「いや、何でそこまでムキになってるの。ただ能力を見せるだけの行為でしょうコレ」
「そうかもしれんが、お前にコケにされるのはなんかムカつくから意地でも逃さん!!」
「意味分かんないからっ! ちょ、身体を押しつけるな!! だ、誰か! 誰かぁぁぁ!!」


 ……その後、ファイブの叫び声を聞きつけた食事処の人たちが、俺を引き剥がそうとしてきたのだが、俺は絶対に動こうとしなかった。
 後々考えてみれば、俺は何故あそこまでムキになっていたのだろう? 甚だ疑問である。
 そして、俺と店員たちの悪戦苦闘が終わる頃には、既に日付を跨いでいた。


【世界崩壊まで、後364日】

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