スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険

ツカ007

第十六章 戦いの後で

 魔法惑星は空も地上も介入機の脅威から平穏を取り戻していた。とはいえ、爪痕は深く大統領邸宅付近には陥没した道路や、縛り上げられた二人組の傭兵。そしてめくれ上がった地表や、屋根や看板の剥がれた建築物に人々はどよめきだっていた。同じく慌てふためく軍や警察だったが、今は一番に気にかけることがあってそちらに集まりだしていた。
 今しがた、空から降ってきた何かが地上に激突したからだ。人間大のなにかだったろうか、落下地点は砂煙を上げてよく見えなくなっている。
「リーナス!なにかなあれ!?」
「さぁ、なんでしょう」
邸宅の入り口から、落下地点に興味津々のエールが騒いでいた。
横ではリーナスが邸宅の庭の木々が見事に散らかり放題になっているのに溜息を付いていた。
「あ!なんか来たよ!軍の船だ!」
 と、エールが指差して叫んだ。その声にリーナスも視線を向けた。
確かに落下地点に一機の航空機が舞い降りていた。しかも、船から誰かが急ぎ飛び降りたのも見えたのだった。

                                          ※

「ミカ!!無事か!?」
 ケントはドリューに抱えながらに航空機を飛び降りた。
まだ、満足に動かない身体を親友に支えながらに土埃舞う落下地点に着地した。
衝撃で砕かれた地表は波状的に凸凹としており、その中心部では大柄の人影がちょうど立ち上がろうとしていたところであった。
そうしてようやく土埃が晴れたところで、ミカの現状がはっきりと現された。
「やっぱり!」ドリューが肩をすくめた。
「お前・・・!ストログ!!」ケントが眼光鋭く吠えた。
 そこにいたのはミカを抱きかかえたストログであった。
フードが外れ、厳ついカブトムシの顔がケントら睨んでいた。
「また会」
「ちょっと!!」
 瞬間、ミカが何か言おうとしていたストログの横っ面を銃の柄で思いっきり殴り抜けた。
ガツン!!と硬いものに当たった音が響き、ケントもドリューも驚いて目を丸くした。
「おっそいわよ!!どんだけ時間かかってんのよ!!」
「3惑星も離れたところから来たんだぞ?これでも最高速度で来たんだ」
抱えられがらに吠えるミカに、ストログは少しだけ晴れた頬に気を止めることなく返答した。
すると、その会話にケントもドリューも、違和感があると眉を潜めた。
「お、おい!ミカ、そいつ・・・お前が呼んだのか?」ケントが問いかけた。
「そうだ。通常の倍の報酬を払うから時間介入機を奪還してくれとな」ミカより先にストログが口を開いた。
「つまり雇ったていうの?でも、どうやって・・・?」
それに今度はドリューが問いかけた。
と、そこで、質問に応えようとミカはストログに地面に降ろすように鋭い目つきで指示を送った。
それにムスッとした顔のままのストログは、ため息混じりミカを地に降ろした。
「よ、っと・・・とと」
 まだふらつく身体を上手にバランスを取って地に立ったミカは、おもむろにポーチに手を伸ばした。そしてゴソゴソと弄ると、中から一枚のカードを取り出した。
「これよ!」と、ミカはカードをビシっと構えてケント達に見せびらかした。
それは『傭兵請負』と書かれたカードというよりは名刺であった。
「それって!」
「ララックルルックの時のやつか!」
「正解♪」
ミカは人差し指を立てて笑顔を作った。
あの夜の海岸でのストログの戦いの歳、彼が去り際に残していった任務依頼のための名刺である。ミカは、それを捨てるでもなくポーチに収めたままっだったのだ。
なるほど。と、ケントとドリューが頷いたが、そこへストログが割って入る用に口を開いた。
「それで介入機とやらは、どこにある?」
「もう木っ端微塵になったわよ!だから来るのが遅いって言ったのよ!何がナンバー1よ!」
 ミカがまた吠えた。
「・・・・・・あいつ、容赦ないな」「う、うん」ケントとドリューが呆気に取られながらに呟いた。

「――・・・そうか、ならば報酬の話に移ろう」
「はぁ?はぁああ?!馬っ鹿じゃないの!?」ミカの怒声はやまない。
「そんなの払うわけないじゃない!だいたい遅れてきたくせに」
「ドリュー!ミカをおさえろ!」
 ケントが慌ててドリューにミカの口を抑えさせた。
むぐ!ふがふが!。ドリューによって口を塞がれながらもミカは文句を言い続ける。
「落ち着けミカ!こいつがいなかったらお前は地面に突き刺さってたんだぞ?」
「そ、そうだよミカ、死なずに済んだのはストログおかげでしょ?」
 ケント、ドリューに言われてようやくミカの興奮が治まってきた。
「・・・うぬぬ。そ、そう言われればそうね――わかったわ・・・一割くらいなら払ってあげるわ」
「――7割だ」
「な!?」また蒸し返しそうなミカをドリューが、すかさずなだめた。
「命の恩人に払う額なら安いんじゃないの?」
「・・・3割よ!!」
「――5割」ストログの睨みがギラリと鈍く光った。それにまたミカが「うぬぬ」と唸った。
「・・・わ、わかったわよ。5割・・・半額払うわよ――」
ようやく折れてミカが溜息と一緒に結論を吐き出した。それにストログも一度ゆっくり瞬くと強かった眼光を和らげてフードを被り直した。
「―――、いいだろう了解した。受取は後日としよう・・・今は、その――なんだか忙しそうだからな」
 ストログは、そう告げると勢い良く飛び上がり、凄まじいスピードで魔法惑星の何処かへと消え去ってしまうのだった。

「はぁぁぁあああ・・・」と、次の瞬間、ミカは地面にへたり込んで大きなため息を漏らした。
「なんだか、嬉しいのと悔しいので半々って感じ」
 がっくりと肩を落としてミカが呟いた。
「・・・傭兵相手によくやるな――ほら」そんなミカにケントが呆れ顔で言うとそっと手を差し伸べた。その行為にミカは少しだけ目をパチクリした。
「あ、ありがと・・・あんたにしては気が利くじゃない」
そうして、起き上がろうと差し伸ばされたケントの手をミカが取った。
ドサッ
だが、立ち上がろうとしたミカは反対にケントが引っ張られて地に倒れたのに表情を固まらせた。
「だ、ダメだ。やっぱりまだ力が入らない・・・」ミカの直ぐ脇に倒れたままにケントが言った。
「はぁ・・・格好つけるからよ」結局、地べたに座ったままでミカは悩ましそうに頭を横に降った。
そんな光景にドリューは笑い声を漏らした。
 そこへ。
「イチャついているところ悪いが――話を聞かせてもらえますか?ミカ・フェリア嬢」
航空機からラージャックが声をかけた。
部下に支えられながらに、タラップを降りてきたラージャックは3人へと近寄って一度、頭を下げた。

「だ、誰もイチャついてなんか!」ミカはラージャックの最初の言葉を否定しようと、そばに倒れ伏すケントの顔面に肘打ちを打ち込んだ。
「・・・鬼か、お前は」絞るような声で涙目のケントが言った。
しかし、そんなやりとりを見ながらにラージャックは優しく笑うと、またひとつ口を開いた。
「本当ならばザヴィエラ副大統領本人から聞くべきなのだが――・・・それも叶わないからな」首元を少しだけさすってラージャックは言った。
「そうね。まぁ、でも話をするなら、もっと詳しい人がいいと思うわ」
そう返してミカは空を見上げた。
そこには動きのおかしいリバリー号が不時着場所を探してフラフラしていた。それともう一つ。更に上空から飛来するものが見えていた。
小さな小型宇宙船。ミカは、それがなんなのかわかっていた。
「皆揃ったわね」
 ミカがニヤリと笑った。

                                                 ※

 ミカはラージャックを連れて自宅へと戻ってきていた。途中、庭がめちゃくちゃになっているのに、気分を悪くしたがそれでも今は優先スべきものがあると邸宅の中へと進んだ。
そうして大広間に『皆』を招き入れた。
 ケント、ドリュー、ジョット、ラージャック、そしてメガット博士であった。博士は、先程飛来した小型宇宙船に乗ってやってきのだった。操縦は妻であるクィーンが行ってきたらしく、今は部屋の外でリーナスと話し合っている。
「ねぇねぇ!イケメンがいる!すっごいイケメンが!ミカお姉ちゃんの知り合いなの?!」
 一方でエールは呼ばれていないのにラージャックを気に入って大広間に入ろうと扉の位置で頑張っていた。
「エル!エル!いいから!後で紹介してあげるから!今はあっちいってて!」
「本当!?本当に本当だよ!ねぇお姉ちゃ」
 バタン!とミカが扉を締めてエールを締め出すと、愛想笑いでニコリと口角を上げた。
「さ、さてと・・・それじゃ今回の事について説明を――」
「それは我々の方が良いだろう」
「あぁ」
 するとミカの言葉に続くようにメガットとジョットが続いた。
イルカと鳩の二人は一度、目を合わせるとそのままラージャックへと視線を合わせた。元より説明する相手は、この場にはラージャックしかいないし、何より儀式の対象者であった人物が何も知らないのは気持ちの良い物ではないだろう。
 そうして二人から今回のザヴィエラの事件についての真相が語られるのだった。

「・・・と、いうのが今回の事件の大まかなところだ。とは言ってもザヴィエラ本人にしかわからない部分が多いところもあるが」
 メガットが説明を終えて機械の乳母車をキュルキュルと動かした。
「それでは、副大統領は私に乗り移るために介入機を探していた・・・と?」
「それも、あの事故の日からだ」ラージャックに言葉にジョットが応えた。
「政治の道に進んだのは私を支援し、より完成度の高い介入機を造らせるため・・・そして、もう1つは己の新たな器を探しやすくするためだったのだろう」更にメガットが続いた。
「それで親衛隊長にまで登り詰めたラージ兄ちゃんに目をつけたわけか・・・」ケントがそれに言葉を添えたが、口元はもぐもぐと動いていた。
「これうまいな」「そうだね、芋菓子ってやつだね」
 ドリューと一緒になって置かれていた茶菓子を頬張っていたが、そのままミカに「話を聞け」と一喝されてしまった。
「しっかし、なんとも根気のいる計画だったわけね――よくやるわ」
 ミカが、ザヴィエラの成した事に呆れ顔で肩をすくめた。
「それほどまでに死を嫌ったのだろう・・・――いや、正確には己の知識がこの世から消え去るのを嫌ったのかもしれないな」
「――おそらくそうでしょう。私にも時々、膨大な知識の一部を披露していたこともありました」
 メガットの声にラージャックは静かに告げた。
「私は、まだ学生の頃にザヴィエラの教えに共感し、この道に進もうと決心した。そのために休暇を返上して承認まで得たこともあった――しかし、それも全ては奴の欲望の糧にしかならなっかたわけだ」ラージャックは悔しそうに言って机を叩いた。
その行為に、広間に静けさが走って全員の目がラージャックに集まった。
 そこへ。
「そんなことないさ」ケントが言った。
「ラージ兄ちゃんは信じた道を進んできただけだ。それが間違っていたなんて誰にも言えない――全部が全部他人のせいにはできないけど、自分一人のせいだって考えるよりは気は楽なはずさ」
「・・・ケント」その言葉にラージャックは笑みを作った。

「――へぇ。あんたってそんなこと言えるんだ」と、ミカが感心した声で言った。
「それ、前に深夜にやってた映画にあった台詞だよ。それもB級のやつ」
「言うなドリュー!」
 だが、ドリューの言葉添えでまた呆れ顔に戻ってしまった。
結果的に少しだが和やかになった広間の雰囲気に皆の笑い声が彩りを加える。しかし、そうやって小さな笑みのあふれる中でケントは「あ!」と声を上げてミカを指差した。
「ミカ!今度こそ任務達成だ!!職星の件、忘れてないだろうな!?」
「・・・あぁ・・・。そういえば、そんなこと言ってたわね」
「そんなことって!ひどいよミカ!」
 ドリューの悲壮感たっぷりの声にミカは「はいはい、わかってるわかってる」と軽く宥めた。
「職星?――そうか、ケント、お前・・・卒業補習逃れか」ラージャックがすぐにピンと来て言った。
「それも職星4以上を3つも承認を得なけれならないらしい」
「そのために魔法惑星をブラックホールから救うとは、なかなかじゃないか」
 メガット、ジョットと続いてからかい気味に言いやった。
「ラージ兄ちゃんにはわからないかもしれないけど、俺たちにとっては深刻な問題なんだ!」
「そうだよ!サンカイ先生の『魔の補習』はとても耐えられないんだよ!」
 ケントとドリューと正義は我にありと口をそろえて、承認欲しさにミカに言い寄った。
 そんな二人にミカは嫌そうな顔をしてシッシッと手を外側に振った。
「――・・・なるほど。それなら私が協力してやろうケント」
「え?」
 するとそこへラージャックから提案が飛んだ。
「副大統領親衛隊長の職星は4だ。それに私の人脈を使えば、あと2つもなんとかなるだろう」
「本当に!?やった!」
「いいえ!結構よ!」
 歓喜したケントをミカの一斉が一刀両断した。
「なんでだよ!?」
「これは私とケント達との契約よ・・・だから、私が責任持って対処させてもらうわ」
 荒ぶるケントを無視してミカは告げると、おもむろに自らのスマートツールの画面をめせつけた。
そこには通話を示す画面が表示されており、通話相手の名前がでかでかと書かれていた。
『父親』
それだけ書かれた画面を、これでもかと見せつけてミカは自慢げに笑みを作るのだった。


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