スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険

ツカ007

第十七章 小さな旅の終わり

数週間後。

メガット博士の帰還。星間列車の強盗の真犯人。そしてザヴィエラ副大統領の失踪。
テレビや新聞、ラジオなどのメディアは数週間にわたってそれらの報道を何度も続けていた。
 中でも、副大統領の失踪は連日連夜で考察がなされていて、後の2つの話題はしだいにかき消されてしまっていた。ザヴィエラの側近であったラージャック親衛隊長や、ザヴィエラが最後に訪ねたであろうアージェナルド・ハル・ハーティ婦人とミカ・フェリア嬢親子も『わからない』の一点張りなことに、事件は謎のままに平行線を辿っていた。
 とりあえずは、新たな副大統領を決めなければと世論は騒ぎ、大統領の決断を待つことになって、また人々の話題の中心は別のもとへと移行していくのだった。

 しかし、そんな世の流れに置いていかれたようにパングリオンの片田舎の学校ではケントが肩を落としていた。
「しまった・・・実にしまった」
 ケントは、頭を抱えて呟いていた。夕暮れ差す、ガランとした教室内を行ったり来たりと何かの用紙を手にして何度も同じ言葉を呟いていた。
チラリと見える手に持った用紙からは『アージェナルド・オッド』の名が見えて、更には素晴らしく緻密な文様の印が押されていた。
「もう、しかたないじゃないかケント、これでOKだったんだからさ」
 そこへ、同じ用紙を持ったドリューがイスに座りながらに忙しそうなケントに告げた。
するとケントはピタリと足を止めてドリューにズイッと踏み寄った。
「あのな、そりゃ補習は無くなったし、卒業も確定なのは喜ばしいことだ――けどな、やりすぎだ!!」
バン!とドリューの座る机に用紙を叩きつけた。そうして、そこに記された名前と印がアージェナルド・オッドだけでは無いのがわかった。
 ミータッツ太陽系大統領の名前に連なるように、およそ10人もの名前が記されており、そのどれもに『首相』だの『国王』だのと位の高い役職名が続き、更には厳かな刻印が刻まれていた。
「アホかあいつは!」ケントがミカを思い返して叫んだ。
「どこの世界に、学生の課題に銀河連盟の調印書並みのものを出すやつがいるんだよ!」
「・・・まぁ、ちょうどサミットだったからオマケしておいたとか言ってたね」
ドリューが思い出しながらも呆れた様子で自分の用紙を見返した。テレビや新聞で見たことのある偉い人物ばかりの名が連なっているのに、さすがに溜息を漏らした。
「あぁ・・・おかげでサンカイ先生は別の意味で大騒ぎだし、どうやったのかって説明続きだし、妙な期待はされるし」ケントが口早に愚痴っては首を横に降った。
「まぁまぁ、これだけ箔が付けば就職だっていいところ行けるさ」
「・・・う、ま、まぁ。その辺はスタア姉ちゃんも喜んでたから文句は言えないが――」
口ごもったケントだったが、ちょうどその時ポケットから着信音がなった。ケントは、なんだ?とスマートツールを取り出して画面を確認した。

「ラージ兄ちゃんからだ」
「あぁ、そっか・・・今日、帰ってくるんだっけ?」ドリューが言った。
 ラージャックは副大統領不在の間、一時的にだが親衛隊長の任を解かれていた。と、いうのもザヴィエラを慕っていたラージャックへの計らいもあってことだが、殆ど休みがなかった彼はこれを機に一度、道場に帰ってきていた。
「・・・もしもしラージ兄ちゃん?」と、画面に向かってケントが話しかけた。
『ケントか?いま戻ったぞ』すると画面にラージャックの上半身が映って喋り始めた。
 後方にはリバリー号から手を振るジョット、そしてすぐ後ろにはソーン道場の看板が見えて、師匠やスタアと子供たちが一緒になって騒いでいるのが見えた。
『いつの間にこんな大所帯になったんだ?』
燥ぐ4人の子供たちに驚いた顔を見せたラージャック。それに元気な少年少女達が「台所の写真の人だ!」とか「虹色見せて!」など騒いでいるのが聞こえた。スタアも落ち着いた様子で優しく微笑んでいるが見えた。
『ま、とりあえずだが魔法惑星のゴタゴタはあらかた処理はしてきた。少しの間はこっちにいられるだろう――あと、そうだ・・・』
と簡潔に事態の収拾のあらましを告げると、なにやらそちら側でツールを操作し始めた。
『あっちからの土産がある。今、そっちに送ろう――』
 ピロン!とケントのツールが再び着信音を鳴らした。
画面の左上に手紙マークのアイコンが浮かんだ。
「なんだこれ兄ちゃん?」
『さぁな。私も預かっただけだ――それよりケント、早く帰ってこい。今日は俺のおごりだ――、なんならドリューくんも一緒にどうかな?』
「本当!?やった!!」
 急な誘いにドリューは両手を上げて喜んだ。
そうしてラージャックは二人に軽く笑って『待ってるぞ』と言い終えると、ツールの画面からいなくなのだった。後に手紙型アイコンが表示されているだけだった。
「結局なんなんだこれ?」
「開けてみようよ」
と、ケントとドリューが興味津々に言うと。おもむろにアイコンをタッチした。
同時に画面が切り替わり、とある映像を映し出した。

『やぁ、ケントくん、元気にしているかね?』
 そこにはピンクの喋るイルカが映っていた。それも赤い肌の美人秘書、リーナスに抱きかかえられている状態である。
「博士?!」
「ビデオレターみたいだね」
 二人が送られてきたデータの中身に目を凝らして呟いた。
『君なら無事卒業できると確信しているよ、私もあんな豪華な課題提出は見たことなかったからね』ハハハと低い声で笑ってはメガットが言った。
彼を抱えるリーナスは無表情であり、そんな二人の背後にはクィーンとエールが見えた。どうやらクィーンはエールに捕まったらしく、彼女のリクエストで変身術を披露しているようだった。動物型になったり人型になったりと忙しそうなクィーンは、どっと疲れた様子をしていた。
『私もこちらに戻ってミカくんとエルくんの教師を続けられるよ・・・まぁツール開発の援助は途絶えたが、いたしかたのないことだ』少しだけ寂しそうにメガットが言った。
『さて、と、私ばかり喋っていてもつまらないだろう・・・ミカくん』
すると画面が別方向に振られて、今度はミカを映し出しのだった。
『さぁ、ケントくんに思いの丈を伝えるんだ・・・恥ずかしがらなくてもいい、大人になるとはかくも』
『黙ってて先生』
 ミカの突き刺さるような一言にメガットは声を失って固まってしまった。
そうして、ミカはカメラに視線を合わせると、仕切り直してコホンと咳払いをした。

『で、どうだった?私のサプライズは?職星5の承認が10よ!トップ間違いないわね!』
「・・・こいつは、課題を競争だとでも思ってるのか?」
「――そうかもね」
ビデオレター故、一方的な会話だがケントとドリューは呆れ顔で呟いた。
『ま、まぁ・・・これでアンタたちとの契約は完了したわけだけど――その、お父さんがアンタ達に会ってみたいって言うのよ――だから、その』
『ミカ・フェリア嬢が会いたいと申されればいいのではないですか』
 口ごもったミカにリーナスが眼鏡を光らせ口添えした。
『何言ってんのよリーナス!』『いや!よく言ったリーナス!』
続けざまに言ったメガットをミカが睨み1つで黙らせた。
『と、とにかく、学校を卒業した一度こっちに来るといいわ』
僅かに赤面したミカと、その脇ではメガットたちがニヤついた顔をしていた。それに、今にも殴り飛ばしそうに拳骨を作ったミカだったが、どうにか抑えて引っ込めることに成功した。
「そうだ!今度こそちゃんと星間列車乗ろうよ!」
「・・・そうだな、まぁ、卒業旅行ってとこだな」ドリューの提案にケントが頷いたが、確か星間列車の運賃は割高な金額だったことを思い出した。
と、そこへ、まだ映像が続いていたミカの声が割って入った。
『それと』一度咳払いをすると、ミカが画面に近づいて顔がアップになった。
『レッドパスの件は私からお父さんに上手いこと言っておいたから、その辺は抜かり無いわ――けどね』
ミカがニタリと笑った。
『その功績分、あんたはまた私に『借り』を作ったわけね』
「なに?!」ケントが吠えた。
『覚えておきなさい、借りは返すのが常識だって』ミカボソリと言った。
「ミカ、悪い顔してる」
ドリューがそっと囁くとミカは、画面から離れてメガットとリーナスの横に並び立って笑顔を見せた。
『じゃあね、また会いましょう』
 ミカの、その言葉を最後にメガットや後ろで騒いでいたエールたちも手を振ると、別れを告げて映像は終ってしまった。

「ミカのやつ何が『借りは返せ』だよ」
「まぁ口実が欲しかったんじゃない?」
 呆れた声のケントにドリューが宥めるように言った。
首を傾げるケントだったが、次には静かな教室に近づいてくる確かな足音が聞こえた。
ドタドタと弾けるような足音にケントもドリューも、一瞬にして気が滅入ってしまった。
間違いなく担任のサンカイ先生である。
「ケント!ドリュー!」
バーン!と教室の扉を勢い良く開けて、太ったトラ族の中年女性が鼻息荒くやってきた。
尖ったセンスのない眼鏡をキラリと光らせて、その奥の瞳はらんらんとしていた。
「見なさい二人共!有名企業や大学からもすごい数の勧誘が来ているわ!この学校始まってい以来の快挙よ!!」
バッ!と束になった書類やパンフレットを見せつけたサンカイ先生。ケントとドリューも、またかと、深い溜息と腐った目をして、しかたなしに頷いた。
「けれども!どれだけ素晴らしい肩書を得ても、今のあなた達の学力では到底期待に答えられないわ!」
「いや、先生、俺達は別に・・・」
「そこで!!」サンカイ先生はケントの言など意に介さず、どこからか大量の参考書やプリントを持ち出して、2人の前の机にドサッ!!と音を鳴らして置いたのだった。あまりの重さに机が沈むのではないかとケントとドリューと顔をひきつらせた。
「あなた達のためにも、みっちりと学業予定を組んだわよ!!さぁ、今からでも特別授業を始めるわよ!!」
 目を輝かせ、鼻息を更に荒くしてサンカイ先生は教鞭を取り出すと、自慢げに振るって笑みを見せた。
「・・・・・・結局、補習受ける羽目になるんだね」
「嘘だろ・・・なんのためにあんなに頑張ったんだよ――」
と、がっくりと肩を落としたケントは声を漏らした。
そんな意気消沈の2人のもとには開けた教室の窓の外からカラスの鳴き声が飛んで来ていた。夕焼け空に桃色カラスが呑気にアベックで飛んで、阿呆と聞こえる声が何度も響いていた。

「――ミカのやつ!覚えてろよ!!」
そうしてケントは積み重ねられてた参考書の山に、恨めしそうに吠えるのだった。


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