スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険

ツカ007

第十二章 合流 そして追跡

「ザヴィエラがミカの家にいたのか!?」
「気づかなかったのか?!」
警官たち、それに傭兵と軍にも取り囲まれたながらにケントが声をあげ、ジョットが驚いたように返した。
「母親がザヴィエラと接客中だったんだ・・・それが―――くそ!ミカは直接話すっていったけど――あいつ機転が効けばいいんだが」
「おそらく極力人目を避けていたに違いない。さっきの迎えの船も、屋敷の裏手の方に停まったからな」ジョットが、いつでも信号弾を放てるようにと、専用の単筒を構える。そしてケントは周囲に警戒を強めながらも、屋敷のほうを見やってみた。たしかに玄関先からの庭には船なんかは停まっていない。広い屋敷だ、裏手といってもこちらからは見えないぐらいの位置なのかもしれない。
 そう、考えるケントだったが、ちょうど屋敷の裏手の方から小型の宇宙船が飛びだつのが見えた。あの屋敷の地下で聞こえたエンジン音と同じものであった。しかし、それに一番に反応したのは傭兵たちであった。
「おい!あの船!副大統領のだろ?!」蜘蛛族のモックが言った。
「そうだ!!どこいくんだ?!報酬はどうなる?!」人間族のヴィノもまた同じく声を荒げた。と、そこへ。
「ケント!!」屋敷の玄関が勢い良く開いて、ミカが飛び出してきた。扉の向こうではリーナスとエールが様子を伺うように覗きこでいるのが見えた。
そうして同時に全員の視線がミカに集まった。ケント、ドリュー、ジョットはもちろん、警官隊に軍人たち、そして傭兵のふたりのも。
「ミカ!」ケント、ドリュー、ジョットが名を呼んだ。警官と軍人たちは大統領令嬢が飛び出してきて、なおかつ捉えようとしていた脱獄犯達に呼びかけたことに動揺が生まれていた。だが、またしても一番の反応と動揺を見せたのは傭兵の二人だった。
「おおおおおおおい!あれって!」「なんで生きてるんだ?!」ヴィノとモックは飛び上がった。
「ちょっと!なにやってのよ!――って、ドリュー!ジョットも!どうしてここに?」
「脱走犯に間違われてるんだ!それより装置はどうした!?」
「ザヴィエラに持って行かれたわ!――急いで追」
すると、ケント達が取り囲まれている状態に眉を潜めていたミカが二人の傭兵の存在に気がついた。
「あーーー!!星間列車で襲ってきた傭兵!!」ミカが指差し叫んだ。
瞬間、更なる動揺が警官たちを襲った。大統領令嬢が『襲われた』と指差している。それが、いままで『脱走犯を捕らえろと』煽っていた連中だ。しかも傭兵だと言われた二人組は、居心地悪そうに顔色が変わってきたように見えた。
「いいぞミカ!もっと言ってやって!僕達が無実だって!」ドリューが、形勢が変わってきたのに喜んで嬉々の声をあげた。が、その時だった。
パチリ。
何かの音が鳴った。静電気か、まるで空気を裂くような小刻みの音がなりだした。
「・・・これは!」その音にジョットだけが声をあげ瞬いた。
パチリ、パチリ、パチリ、音はだんだん大きくなっていく。そして。
一瞬、青白い稲妻が地面を這った。
「――全員!今すぐここから離れろ!!」ジョットが全力で叫んだ。奇妙な音や稲妻に続き、必死な形相のジョットに全員が、唖然としていた。だがケントは、ジョットが「早くしろ!!」と自らと共にドリューを急ぎダチョウに乗せ、そのまま浮上したのを見ると『危険』だと認識して、オーラを脚に集めて高く跳躍した。
 ボコン!!
その直後だった。先程稲妻が走った位置を中心に、地面に大穴が空いたのだった。
「うわああああ!」「ななな、ななだぁ?!」「地盤沈下か!?」突如として足場を失ったため警官隊、軍人たちの多くが穴へと落下していってしまった。騒ぎが大きくなって、もはや脱走犯を捉えるどころではなくなっていた。かろうじて落下を免れた隊員たちは、落ちた者の救助を試みようと、底の深い穴を覗き込んでいた。

「どうなってるんだ?ドリュー、お前がやったのか?」
「違うよ!」
ケントはダチョウをの脚を掴み、浮遊に便乗しながら問いかけたいた。ダチョウは、完全に定員オーバーだと、死に物狂いで羽をばたつかせいていた。
「間違いない・・・やつが装置を使いだしたんだ」
ジョットが呟いた。ケントは、その言葉に、やはりジョットは何かを知っていると確信した。が、次にはまたしても嫌なものが目に入ってしまった。
 崩落現場のすぐ脇、あの傭兵共が騒ぎに乗じてその場を抜け出しているのが見えた。それもミカの方へと近づいてるのだ。
「あいつら・・・!!」
瞬間、ケントはダチョウの足からオーラを伸ばすと、ダチョウを紅に染めて硬くした。そうしてダチョウ自体を跳躍の『台代わり』にして、思いっきり蹴飛ばした。オーラで固くなったダチョウは、その場に固定されたようにびどうだにしないで、反動でケントがミカの元へと一直線に飛び出したのだった。



「おい、なんだか知らねぇけど今のうちだ」
「あぁ」
 ヴィノとモックとが悪者らしい顔をして言っていた。突如として、地面の崩落で自分たちに疑いを持ち出していた警官隊たちは混乱している。場を離れるには丁度よかった。だが、それよりも二人はミカのソンザイに狙いを定めていた。
「まさかご令嬢が生きてるとはな」
「ザヴィエラのやつ、それで報酬を渋ったんじゃないか?」空を往く屋敷から飛び立った宇宙船を見てモックが言った。
「かもな。だったら今度こそきっちり任務こなしてやろうじゃない」ヴィノが気持ち悪く笑うと背負っていた十字型の金属を構えた。
 その目はミカへと向けられたままだった。

「あ、あんたら!なんでこっち来んのよ!」ミカが、迫ってくる二人に気付いて吠えた。
「傭兵は仕事熱心なんだよ、お嬢様」モックが気持ち悪い蜘蛛の口を動かして言った。
「あんたらの飼い主のザヴィエラは、とっくに空の上よ!それにあんた達にかまってる暇ないのよ!!」
すると、ミカはポーチから銃を取り出して、二人に銃口を向けた。博士のおかげで弾倉部分が僅かに大きくなったそれに、迷いなく引き金に手をかけた。
「こないで!あの時は星間トンネルの中だったから撃たなかったけど、今なら躊躇しないわよ!・・・ちょっと庭が壊れるかしれないけど」語尾を小さくしながらにミカは狙いを変えずに牽制する。しかし二人は怯むこと無く、ずんずんと歩んでくる。
「そんなドライヤーみたいな銃で、どうにかできると思ってるのか――そらぁ!!」
瞬間、嘲った声のヴィノが十字型の金属手裏剣を、勢い良く投げ飛ばした。風を斬り、猛スピードでミカに手裏剣が迫っていく。そしてミカも対抗しようと引き金を引こうとした。その瞬間。
バギン!!
真っ赤な閃光が飛来して、飛んでいた手裏剣を轟音と共に叩き潰してしまったのだった。
「なんだ!?」「なんか降ってきたぞ!?」
「ケント!!」
驚く傭兵たちとは対照的に、ミカは落ちてきた何かの正体をすぐに理解して声を上げ、銃の構えを解いた。
 そこには、粉々に破壊された手裏剣の上に立つケントがいた。足からはまだ赤いオーラを揺らめかせながらに、その表情は怒りに満ちていた。
「おい!蜘蛛ハゲコンビ!!列車での分、返させてもらうぞ!!」
凄むケントを見て、ミカが「おぉ、怒ってるの初めて見た」と呟くもケントの意識は既に武器を無くしたヴィノからは離れていた。
「へっ!ちょっとオーラ術が使えるからって調子にのるなよ!俺たちはなストログを超えるナンバー1傭兵なんだ!!」と、モックが叫ぶやその口から、蜘蛛の糸を吐き出した。
 ねばねばした網状の糸がケントに迫ってくるが、トンネルの時の二の舞いは無いとすかさず横に動いた。糸はケントを外れて地面や庭の木々にあたっては、その粘着力で固まっていく。
「逃げ切れると思うなよ!!」モックは、これでもかと連続で糸を吐き出した。
「誰が――逃げるか!」と、ケントはそれまで動いていた足を止めたかと思うと、地面にあった何かを拾い上げて大きく拡げた。それは、ここに来る時にエールが使った『ファーストレディのいる町』と書かれた垂れ幕であった。
 そしてケントが拡げた垂れ幕に連続の糸が直撃して、垂れ幕を凝固な球体に固めてしまったのだった。
「唾を吐くのは条例違反だ!ゲロ蜘蛛男!!」
「――ッ!?」
刹那、糸の球体となった垂れ幕が真紅に染まったかと思うと、ケントが渾身の力で殴り抜けたことによって、目にも留まらぬ豪速球となってモックに飛来し――、見事に直撃した。
「ぐえ!!」と、何がぶつかったのか理解できぬまま、赤いオーラを僅かに身体に付着させながらにモックは吹き飛ばされた。次にはドカン!!と、集まっていたパトカーにぶつかり、ドサリと意識をなくして道に倒れるだけだった。
「モックーー!」相棒の名を叫ぶヴィノだったが、既に背後にはケントが迫っていた。
「ッ!?待」
ゴスン!ヴィノが言い終える前にケントの真っ赤な拳が彼の鳩尾を襲った。声を発することが出来ず、口をパクパクさせながら膝をつくヴィノ。そこへトドメと、ケントが肘打ちを背中より食らわせた。
 ガスッ!ドサッっとヴィノもまた、意識を遠のかせて、その場に倒れてしまうのだった。

「・・・こいつらがナンバー1ねぇ」息をつきながらにケントが呟いた。
 どうにかあまり時間をかけずに倒すことが出来た。そしてトンネルの時とは違い、まともに戦って見て感じたのはストログとの圧倒的な戦力差である。どういう理由でナンバー1だと名乗っていたのかわからないが、到底、彼に及ぶものではないと思えた。そこへ。
「ケント!やるじゃない!!――私がやっつけるつもりだったのに・・・えい」
ミカが駆け寄ってきて言うと、倒れたヴィノを見つけて銃の柄で、軽く殴ってみるのだった。
「・・・死者に鞭打つ奴め」呟くケントはそのあと、ミカがもう2,3度殴るのを見た。

「――と、こんなことしてる場合じゃない!ケント!ザヴィエラを追うわよ!それにあんたが必要なの!」
「――・・・ラージ兄ちゃんか?」ケントが低い声で言った。
「えぇ、ご明察。ザヴィエラを迎えに来たのが虹色お兄さんだったわけ――だから、あんたからお兄さんに言って、ザヴィエラを止めるのよ」
「・・・俺が言って、聞くかどうか」
「やってみないとわからないでしょ!?それにあいつをこの星にいる間に止めないと!外に出たらワープなりなんなりで逃げられるわ!」ミカが飛び去った宇宙船の方角の空を指差した。
 すると、そこへ空から轟音が響いてきて二人は、思わず空を見上げた。そこには何もなかった。何もないはずの空からエンジンの待機音のようなものが聞こえ、更には空に窓が空いたようにパカっと空間が開くと、そこからドリューが顔を出した。
「ケント、ミカ!ワイヤーを伸ばすから掴まって!透明のまま追いかけるんだって!!」
空に頭だけを浮かせてドリューが叫ぶ。そうすると彼の言葉通り、またしても何もない空間からワイヤーが伸びてきて二人の前に垂れ下がった。
「・・・わかった。けど、もし兄ちゃんと戦うことになったら――期待するなよ?」
「あら、それなら私が加勢してあげるわよ。言っとくけど、戦績ならあんたと同等なだから」ニヤリと笑ってミカが言うとワイヤーを手に取った。
 ケントも、少しだけその冗談に付き合って笑うと同じくワイヤーに手をのばすのだった。

                   ※

 魔法惑星の空をゆく一機の航空機。それは今、軍用機の集まるポートにたどり着こうとしていた。そんな機体を追う透明な宇宙船がいた。
便利屋のリバリー号である。それが空に色を溶け込ませたままで猛追していた。コックピットには無表情なロボ・バルンがしっかりと操縦桿を握っていた。そして、その後ろにジョット、ドリュー、更には乗船に成功したケントとミカも並んでいた。
「ジョット!ナイスタイミングよ!ありがとう!」ミカが言った。
「礼は、報酬に上乗せしてくれればいいさ」笑って返したジョットだったがケントが、真っ直ぐと自分へ視線を向けているの気がついて、顔を向けた。
「ジョット、あんたザヴィエラのこといろいろ知ってるよな?」
「――あぁ、そのとおりだ」ジョットは短く応えた。ドリューは、少しだけその内容を聞いていためあまり驚きはしなかったが、ミカは「どういうこと?」と何度か瞬いてはジョットをみやった。
 するとジョットが追いかけるザヴィエラの船をチラリと見ならがらに口を開いた。
「・・・ドリューにも話したが、俺は昔に、一度ザヴィエラと仕事をしたことがある。その時は唯の配送の仕事だった・・・が、仕事の中で事故が起こった。その際に奴は半身を、俺は目に深い傷を負った」
「――事故って、科学者をやめるきっかけになったていうやつか?」
「あら、あんたにしては、よく知ってたわね」
ミカの問にケントは「リーナスに聞いた」と簡潔に返した。
「そうだ。そして、その事故の原因がザヴィエラの作っていた装置だ―――そこで、聞きたい。ミカ達は何故メーザードに戻ってきた?メガット博士に会えたからだろう?」
「そうよ。星間列車から放り出された跡、砂漠の星で博士に会ったわ。そこでザヴィエラが介入機を狙っていることを教えてもらったの。破壊するのも難しいらしいから、お母さんに封印術をお願いしようとしてたのよ…――」
ミカが簡潔に、これまで経緯を身振り手振りをつけて説明したが、ジョットは彼女の言葉の1つの単語が気になって眉を潜めていた。
「ミカ、いま『介入機』と言ったか?それは博士の造ったものか?」
「えぇ、そうよ。時間介入機――時間を操れるらしいけど、とっても不安定なんだって、それで」「それだ!!」ジョットがミカの声を遮って叫んだのに、皆が驚いて肩をすくめた。

「ま、まぁ、時間を操作できるってんなら副大統領じゃなくても誰でも欲しがる」
「違う!ザヴィエラが事故を起こした装置は、その時間介入機だ!」
その言葉にミカが戸惑いを見せながらも口を開いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。博士が装置を造ったのは、私が子供の時に言ったらしいアイデアを元にしたって言ってたわよ?ザヴィエラの事故って、私が生まれる前よね?」
「――ミカ、メガット博士は一度造ろうとして断念したんだ。ザヴィエラは、その実験を秘密裏に引き継いだ。そして事故を起こし――、博士は装置のことをあきらめたまま君の家庭教師になった」
「じゃ、ミカのアイデアが装置再開発に火をつけたってわけ?」ドリューが聞いた。
「おそらくな」「なるほど、そのせいで今、大迷惑してるわけだ」頷くケントにミカの無言のボディブローが飛んだ。
「それで博士は介入機に具体的な機能は言っていたの?」またドリューが斬った。
「いいえ。博士自体も起動させてはいないし、実際どう動くかはわからないわ。だからこそザヴィエラが、そこまで固執する理由がわからないって博士も言ってたし」
「――やつには分かるんだ。」ジョットが言って、場の空気が重くなった。
「事故を起こした装置が時間操作に関するものだったというのなら、納得できる。ザヴィエラは『未来』を知ったに違いない、そして己の死期をも知ったんだ」
「死期・・・そうか!連鎖の鎖!!」ハッとしてドリューが声を上げた。
「連鎖の・・・鎖?なんだそれ?」ケントが殴られた箇所を撫でながらに聞いた。
「奴の種族に伝わる世代交代に行う継承儀式のペンダント型の道具だ・・・今は奴の親衛隊長がつけている」
「親衛隊長って――まさかケントのお兄さん!?」
「あ!そうだ!どこかで見たと思ったらケントの道場の写真だ!そうだよ!ラージさんだよ!」
今度は三人の視線がケントに集まった。同時にケントは少し押し黙ると、すぐさまにジョットに視線を合わせた。
「・・・その継承儀式ってのは、なんだ?」
「文献でわかるのは『その者が人生で得た全ての知識を引き継がせる』といったものだ。それが形式的なものなのかどうなのかはわからない。なにせ遥か昔に失われた儀式だからだ」
「つまりザヴィエラは自分の知識をラージお兄さんに継がせたいってわけ?」
「それだけなら、なにも時間操作なんて――・・・!そうか!失われているからだ!!」
閃いたようにドリューが飛び上がった。
「あのペンダントだけじゃ儀式に何かが足りないんだよ!ザヴィエラはそれを知りたいんだ!時間を操って過去を見たいんだ!」ドリューの言葉に3人は目を見開いて首を縦に振った。
「なるほど!あれ?でもそれなら、さっさと使えばいいのに」
「まだ使い方を探っているんだろう。自分が造ったものと博士のものとでは違いが大いにあるだろうからな」ジョットが応えながらに、前方を確認した。航空機が母船を吸い込まれていくのが見えた。副大統領は、大きな船の方に乗り換えたに違いない。
「奴が使い方に気がつくのが早ければ早いほど、さっきのようなことが星を襲うぞ」
「さっきの?」ミカが聞いた。
「見ただろう?地面に穴が空いたのを?あれこそ装置を使用したときに起こる副作用だ」
言いながらにジョットはゴーグルを外した。
 その思いがけない行動と、ゴーグルの下から現れた異様なモノに三人は顔をひきつらせた。
 ジョットの渋いその目の片方は、ギラギラとした鉱石のようなもので埋められていた。かろうじて瞳が確認できるが、鈍く光るそれらに隠れてしまっていた。
「・・・俺も奴の起こした事故に巻き込まれたんだ。――青白い稲妻が疾走ると付近の空間は異常をきたす。さっきは地面を消し去ったようだが、俺の時は左目に鉱物が埋め込まれた」言いながらにジョットはゴーグルを装着して少しだけ下を向いた。
「いいか?装置がメガット博士の完成度を備えていて・・・更にさっきのが『触り』だとするなら、本格的に装置を起動させれば――この星は蜂の巣になるだろう」
ジョットの結論にミカの顔が青ざめた。
「じょ、冗談じゃ無いわ!なんであいつの変な儀式のために私の星が穴だらけにならなくちゃいけないのよ!」
「で、でもさ、その装置を中心に影響が出るんなら、宇宙空間まで行かせてしまえば・・・」「ダメだ」
ドリューが提案しようとしたところでケントの真剣な声が飛んだ。
「時間を越えてまでやり遂げたい儀式とやらを成功させれば、絶対にラージ兄ちゃんに良くないことが起こる」
「ケントの言うとおりだろう――必ず『知識』だけを引き継ぐものではないはずだ」ケントの肩に手を置いて、ジョットは一度、ドリューとミカを見やった。
「いいか、もはや便利屋の仕事を超えているが、ザヴィエラが相手ならば話は別だ。初めに俺が奴の装置作りを手伝った責任もある――」
そうして三人の無言の眼差しを受けながらにジョットは、小さく頷くとバルンの横に立って、前方の窓を睨んだ。軍用母船が発進のために動き出したところであった。
「――船の方は俺とバルンに任せろ!お前たちは乗り込んでザヴィエラ達を止めてこい!!」ジョットは叫ぶと、操縦席に備え付けられたひとつのボタンを押した。同時にアラートが鳴って、そこらの画面に警告の文字が浮かびだした。
「バルン!『ゴミクズ』も『透明』も切れ!全ヒィアートをエンジンに送るんだ!!」
「イエス サー」言われるがままバルンは細い機械腕を動かして巧みに、操縦用のレバーやスイッチを押していく。
ガクン、とアラートや警告画面が消え、照明も一段階暗くなった。そうして、その代償にと、船の揺れが激しさを増した。あまりの振動にそこらの計器や工具なんかが踊りだすように弾かれだした。
「だだだだ大丈夫なのこの船?!」ミカがケントにしがみつきながら言った。
だが、ジョットは、ただ前だけを見て更に口を開いた。
「リバリー号!!突撃する!!」

                    ※

 「・・・ねぇ、リーナス。お姉ちゃんとケントさんどこに行ったの?空に消えたんだけど・・・お姉ちゃん、魔法覚えたのかな?」
「さぁ」
騒ぎが小さくなった邸宅前でエールがリーナスに問いかけていた。
穴の空いた道路では警官達が未だに救助したりされたりしており、その一方では気を失った傭兵二人を訝しげに見る軍人達もいた。皆が皆、混乱状態にあるのは当然であったが、エールには、言いたい感想があって執事を話し相手にしていた。
「ねぇねぇリーナス!よくわかんなかったけど、ケントさんむちゃくちゃ強くなかった!?だってさっきの二人傭兵なんでしょ?!」
「・・・えぇ。おそらく。それも余り『良い』ほうのではなさそうですね」リーナスが眼鏡を整えながらに、静かに応えた。
「――しかし、まぁ、どうもミカお嬢様を狙っていた節もありましたし――それに勝手にお屋敷の敷地に入ったのもあります――・・・とりあえず殺人未遂と不法侵入で通報しておきますね」
すんなりといい終えてリーナスは、スタスタと傭兵の処遇に困っている軍人の元へと向かっていった。
「・・・・・・当たり前みたいに言うのが怖いわ」
エールは、顔色ひとつ変えないままのリーナスを見て呟いた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品