スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険

ツカ007

第九章 登場 メガット博士

「というか、女に手を上げるのって最低よね」
「そのお陰で博士に会えるんだろうが」
 ミカが先程の戦いを蒸し返して言い、ケントが訝した顔で返していた。クィーンの後ろをついて歩き、格闘場の奥へ奥へと進んでいく。
「あー、でもラージ兄ちゃんなら、もっと楽勝だったのかな…」
「時々出てくるわね、その虹色イケメンお兄ちゃん」
「お前、馬鹿にしてるな?ラージ兄ちゃんはドラゴンに剣を教わったこともあるとか言ってたんだぞ?」
「嘘よ。人型のドラゴン族は確認されていないし、なにより鋭い爪があるのに剣を使う意味ないでしょ?」
 再び、ケントとミカはいがみ合った。そんな二人を無視してクィーンは進んでいく。
もはや、どこを歩いているのかさえわからないが、道中ではクィーンの付き人のような女性が何人かやってきて「お疲れ様です」と、クィーンにローブを掛けたり、飲み物を推めたりと至れり尽くせりな光景が巻き起こった。ケントもついでに火傷を手当してもらい両手を包帯姿に変えたが、その光景がミカには不満だったか、意味もなく銃の柄で後頭部を殴られた。
「おい!銃は殴るもんじゃないだろ!」「『万能』ツールなのよ!」
そうこう言い争いしている間に前を歩くクィーンの脚がピタリと止まったの気がついた。
「ここだ」クィーンが言うと、目の前には古そうな鉄の扉があった。
 彼女の目線の合図だけで付き人の女性たちは、お辞儀をして何処へと消えていき、また3人だけの状態に戻ってしまう。それが目的だったと、クィーンは頷くとゆっくりと鉄の扉を開けた。

                   ※

 中は、薄暗く広い空間であった。大なり小なり機械のようなものが山積みにされており、モニターだったり何かのランプだったりが光っている。ジョットの宇宙船ドックに似ているなと思いながらにケントは、空間を見渡した。すると中央に何か動くものがあるのに気がついた。
 何か、大きめの乳母車に手足が生えたようなものが背中(どっちが正面かわからないが)を向けている。そして、次にはその乳母車から声が聞こえた。
「星間列車で強盗か・・・犯人は捕まったが、車両とトンネルに損害あり――ふむ、こんな時でなかったら修繕作業を希望したものだが・・・」
どれかのモニターに映ったものに呟いたのか、低く掠れた特徴的な声が暗い空間に響いた。
 眉を潜めたケントだったが、横にいたミカが「先生!」と叫んで駆け出したのに驚いた。
そしてミカの声に気がついて、乳母車がくるりと振り返った。
「ミカくん!?」
振り返った乳母車には大きな金魚鉢のような水槽が備えられ、その中であの写真で見たイルカが、駆け寄ってくるミカに仰天していた。
「先生!やっと見つけた!」
「ミカくん・・・――お嬢様!何故、ここに?!」
水槽を積んだ乳母車にミカ抱きついて、イルカが慌てたように半身を水槽から乗り出した。
「このイルカ…――、この人がメガット博士?」
「そうだ」
写真で見たとおりなのだが、いまいち実感のないケントの横でクィーンが言った。
「お嬢様!何故ここに!?あなたのような人がこんなところにいては行けません!」
「それはこっちの台詞です!」
 感動の再会なのか、どうにも食い違った言葉を交わしているように見えてケントは、首を傾げた。
「ウー!どういうことだ?!なぜお嬢様が!?」
「試合で私に勝ったのだ――正確には、こっちのオーラ術者の男と引き分けたのだが」
クィーンの事を『ウー』と呼んでメガットが説明を求めたが、クィーンの視線がケントに移ったのにイルカの可愛らしい瞳がパチクリした。
「なんと・・・そんなことが――こうも早く突破されるとは・・・いや、しかし」
「先生!説明してください!!」
 何から言葉にしていいのか、あやふやの博士に対してミカが声を大にして言った。
「先生が何も言わずいなくなるから、私心配して探しに来たんですよ!それで傭兵に襲われるわ、星間列車から突き落とされるわ、ぬるい砂漠に落ちるわで・・・・、それはもう、大変だったんですよ!」
 捲し立てて言うミカに、少し落ち着いてくれとなだめたメガットは乳母車を動かして、ケントの方にまでやってきた。
よくみれば乳母車はロボットのような銀のフレームで仕上げられており、生えた機械の腕は五本指で、脚の方はタイヤがついていた。そうしてキュルキュルと五月蝿い足音を止めて、メガットは一度じっくりとケントをみやった。
「・・・なるほど、私としたことがミカくんの行動力を忘れていた。まさか、このようなところまで追いかけてくるとは――それで君は・・・」
「ケントだ」ケントがすかさず応えた。
「お嬢様の雇った護衛というとこか?ウーを倒すとは、やるじゃないか」メガットが言った。
「いや、俺は、ミカが『卒業させてやる』って言うからついてきた」
 瞬間、ミカから銃が飛んできて、ケントの額にクリーンヒットした。
「誤解を招くような言い方をするな!」
「なんと、お嬢様にしては大胆な交渉をしましたな!ウーを倒すほどの手練なら、それぐらいは・・・――」そこでメガットは声を途切れさせた。ミカから殺意に近い視線を感じたからだ。

「そいつに職星4以上の承認3つを与えるだけよ!それでそいつはダブりそうな学校を卒業できるの!」
「そ、そうだ!あんたを探すってのが条件だったんだ!これで達成だよな!」額を撫でながらにケントが、目を爛々としてメガットに詰め寄った。
「なるほど、そういうことでしたか――、たしかにお嬢様の立場なら四つ星3つなど容易いことでしょう」
「本当か!?じゃ!とりあえず、あんたから――」
「それは無理な話だ」メガットが断ったのにケントの目が点になった。
「私は科学者ではあるが職にしているわけではない、今はアージェナル家の家庭教師にすぎない――よって職星は3だ」
 ケントは口を、ぽかんと開けたまま固まった。
「何、心配するな・・・事が終わったら私から大統領に進言してあげよう」
ケントはメガットから出てきた単語をオウム返しのように「大統領?」と呟いた。
「・・・なんだ?知らないでミカくんと一緒にいたのか?」
「あ、ちょっと先せ」ミカが止めようとしたが博士は口は滑らかに応えを告げた。
「彼女こそ、現ミータッツ太陽系政府大統領アージェナルド・オッドの御息女・・・アージェナルド・ミカ・フェリア嬢だ」
 一気に言われてケントは呆然とした。向こうではミカが遅かったと頭を抱えていた。
そうして、言われた言葉を整理しながらにケントはミカの方へと視線を向けると、とある記憶を思い出した。
「大統領、の娘――…あのレッドパス――たしか、父親のって」
「そうよ、お父さんの・・・大統領のパスだったのよ!」
 ミカの正体を知ったことで、星間列車に乗り込む前に起きた騒動がつながってしまった。なるほど、無制限のパスを持っている理由も、職星4は楽勝と言うのも納得できた。そして同時に、いろいろとまずいことも言ってきたと記憶がフラッシュバックしてきた。
「ぱ、パスを破いたのは半分はドリューのせいだからな!」
「ほぉ、赤札を破くとは、欲の無い立派な精神だ」
「後先考えてない、ただの無知でアホな奴なんです」
何から謝って何からいいわけしていいのか、ケントがあれこれ騒ぐが、ミカは「はいはい」と軽く言って受け流した。
「先生!どうして何も言わずいなくなったんですか?!」そうしてようやく、本題だと、ミカが改めて問いかけた。
 メガットは一度渋い表情を見せたが、ミカの真っ直ぐな眼差しに一度息を付くと、頷いて口を開いた。
「・・・わかりました。お話しましょう――それに命を狙われたのなれば知っておくべきでしょう」メガットが低い声で言った。

「まず私がザヴィエラ副大統領の支援を受けて新ツール開発に勤しんでいたのは知っているね?」
「はい、家の地下でやってた変な研究ですよね」
「『変』とはよしてください、あの実験のおかげで『超小型自動乾燥機付洗濯機ワシュ』や『自立型補助骨格サーポ』が生まれたのですから」
 ケントは小型洗濯機『ワシュ』は使ったことがあるが、『サーポ』とはなんだろう、と思いながら話を聞いていた。
「・・・そして、その新ツール開発の過程で、私はとあるものを生み出してしまったのです。私は、それが宇宙全体に与える影響を恐れた。危険すぎる、その装置を破壊してしまおうと考えたのです。・・・が、あまりにも精密にして繊細ゆえ、破壊さえも影響を及ぼすのではと恐れた私は、どうすることもできず唯、逃げ出したのです」
「いったい何を作ったんだ?」
「それに別に逃げなくたって…」
 ケントとミカが続いて問いかけたが、博士が乳母車に仕込まれた引き出しから何かを取り出しのに喋りを止めて、そちらに集中してしまった。
「これが、私が作り上げた宇宙を揺るがす発明・・・」乳母車の機械の掌に、小さな球体が乗っかっている。そして、メガットが大きく息を吸い込んだ。
「――――・・・その名も『じかんわりこみマッシーン』です!」
 その叫びと共にミカとケントは口を揃えて「ダサい」と感想を漏らしてしまった。二人共に、「えぇ」という表情と視線を向けていた。
「何、その、子供の考えたみたいな名前。さっきまで小型洗濯機とか自立型なんとかって名前だったのに・・・」代表してケントが問いかけた。
「正確には『こだわりミカちゃんのじかんわりこみマッシーン』だ。ネーミングは5歳のミカくんがつけてくれたんだ。私は自分の発明には、古代言語を混ぜるようにしているからね」
 その言葉にケントがミカを見たが、本人自体も驚いた様子を見せていた。
「わ、私の?!そんな事言いましたっけ?!」
「あぁ、忘れているかもしれないが、この装置のアイデア自体は君が5歳の頃に出したものだ。それは私は10年以上かかって完成させた…つまりミカくん無くして、生まれはしなかった――よって名付けはミカくんに敬意をはらってこうなった」
「ふーん・・・ミカ、お前さっきダサいって言ってなかったか?」
「うっさい!5歳の時のなんて知らないわよ!」
 ニタニタするケントにミカが苛立って声を大にする。そんなミカを慣れたように受け流すとケントは、球体形の装置を覗き込んでみた。
「それで、この『時間割りくん』は何ができるんだ?新学期の授業の順番でも教えてくれるのか?」
「じかんわりこみマッシーンだ。――、単純に言えば時間を操作し過去を改変できる」
「とりあえず、その呼び名やめて」
 もはやケントが完全に玩具扱いで見ているのにミカが釘をさすと、装置の名称を『時間介入機』と改めさせて、仕切り直した。メガットは、そこまでするなら古代言語も混ぜようと辞書を引っ張り出したが、ミカが「いいから話を進めろ」と怒鳴ったのに、すごすごと引っ込めてしまった。

「えぇ…つまりだ、この『時限介入機』があれば、自分の都合の良いように過去を変えられるわけだ」
「『時間』介入機です。」ミカが訂正した。
「そんな良い物もって一人で消えるとは・・・博士、あんたまさか――」
 ケントが告げると同時にメガットは、吹き出して笑いだした。
「――ハハハ、ケントくん、君はなかなか頭が回るね。たしかに考えなかったわけではないさ…あの時、あんな課金ゲームにはまらなければとか…取り返しのつかないツイートなんかしなければ、とか――・・・そのビデオはパッケージ詐欺だぞ、とか・・・まぁ、私が介入機を使ったというのなら、既にこの装置の存在はないはずだからね」
「・・・そ、それほどまでに、その装置は危険なんですか?」
 途中の、よくわからない博士の思い出を無視してミカが問いかけた。
「いかにも。しかし、それは装置自体がという意味ではない…これを悪用しようとするものが居たということだ――それも、ごく身近に」
「悪用?でも、博士の研究って副大統領が国家機密だって行わていたんですよね?それなら誰が、その装置のこと知ってるんですか?私だって知らなかったのに」
そう訪ねたミカだったが、メガットの視線が黙って突き刺して来るのに、今吐いた言葉の中に「犯人」が居るのだと感づいた。
「――まさかザヴィエラ副大統領が?!だって博士を援助してたんじゃ?!」
「形だけさ。本当の目的は私に介入機を造らせ、自分で使うことだった。――私は恵まれた環境でツール開発ができることに溺れ、奴の本性を見抜けなかった」乳母車の機械の腕が装置を、少しだけ握りしめた。
「装置が完成したその日に、奴は私の元にやってきて『すぐにテストをしよう』、『自分が実験台になってもいい』と言ってきた…――装置の危険性とザヴィエラの狙いがわかった私は『準備をする』と騙して、書き置きを残してその場を去った」
「なんで書き置きを?」
「奴に特権捜査をさせないためさ。私があくまで『休暇』だと言っておけば、異常な捜索はされないだろうし、出来はしない・・・が、まさか傭兵を雇ってミカくんに放つとは…」
「そ、それ!なんであいつら私を殺そうとしたの?」
「奴は君と私が懇意だと知っていた――何度か授業を覗きに来たこともあっただろう?――それで、君までもが消えたのは、私と何かを示しわせていると考えたんだ」
「あんたを探すより、ミカを見つけるほうが楽そうだもんな」ケントが、少し納得して呟いた。
「その通りだろう。捕まえてミカくんが私の居場所か装置の事を知っていれば連行する・・・知らなければ抹殺するだけ。おそらく傭兵に頼んだのも部下の誰かだろう、奴は自分の手は汚す気はないからな」おもたげな表情で言うメガットだったが、次には少し笑顔を見せた。
「・・・だがお嬢様は無事だった、君のおかげだろう?ケントくん」
 そう言われて照れくさいケントだったが、横からミカに「あんた今のところ勝率0よ」と言われて、小さく吠えた。そして。

「・・・話を戻すが、装置を持って逃げた私は、ウーを頼ることにした。そうしてここに匿って貰ったのさ」
「あ、先生さっきから何でクィーンのこと『ウー』って呼んでいるんですか?」
 と、ミカは思い出したように言ってクィーンとメガットを交互に見やった。
「・・・旧い知り合いなだ」「妻だからさ」クィーンの答えをメガットが遮った。
 瞬間、ミカとケントが顔を引きつらせた。同時にクィーンは禍々しい殺気を放ってメガットを睨んだ。殺気で煮込みイルカができるぐらいに熱があるように思えた。
「つつつつま?せ、先生・・・結婚してたんですか!?というか、ど、どうやって・・・その・・・」
「そんなに驚くことかい?『ウー』というのはギーサの子供のころあだ名さ。彼女の地元の言葉で『最も可愛い』という意味なんだ。小さい頃はギーサ・ウーなんて呼ばれていてね、それに今の格好は高名な変身師に学んだんだ、それもなんやかんやで一途に私を想っ」
「おい」地獄の底から声がしたかと思った。
 ギーサの瞳が憤怒色に燃えている。口に出すまでもなく「喋るな。黙っていろ」と悟らされる。今のこの状態のクィーンだったなら、ケントととのあの勝負も勝者は逆転していたかもしれないとミカは生唾を飲み込んだ。
「ひ、人妻だったのか…」
 しかし、そんな横では妙なことを口走ったケントが、ローブに覆われてしまったクィーンの四肢をジロジロと見ていた。それにまたしても苛立ったミカは、無言で鳩尾に肘打ちを食らわせた。ケントは膝から崩れ落ちた。

「そ、それがなんで景品になってたんですか?」
「ん?あぁ、そのことかい?その点は私の誤算の1つだった」クイーンを眺めながらにメガットが言った。
「チャンプの彼女に守ってもらえるなら万全だと思っていたのさ――だが、流石私の妻だ、タダでは動かない。私を餌に法外な金額を要求し、なおかつ挑んでくるものは全て屠ることで問題を取り払った」
「でも、それだといずれ副大統領に見つかるだろ?」ケントが言った。
「そこがポイントさ」
「ザヴィエラの追手が来たとしてもウーが全て返り討ちにする。その間にまた別の場所に身を隠すこともできるし、何より装置の対処を考えることができる。あとは、そう、懸念すべきはナンバー1傭兵と呼ばれるストログだけだったが――まさか、先に君のような強者がくるとはね――」言いながらにメガットは、再びクィーンに視線を戻した。
「と、言っても加減したんだろう?ウー?」
「・・・・・・まぁな。その娘がもっていた銃が、お前が言っていたものだとわかったからな」
「銃?」メガットが聞き返した。
「あ、これのこと?」と、ミカは先程ケントに投げつけた小銃を拾い上げると、博士に確認させた。

「おぉ!そのドライヤー!私が手伝ったのは最初だけでしたが、完成させたのですか!」
「ま、まぁ・・・ちょっと仕様は変わっちゃたけど」
「それ、ドライヤーがメインだったのか・・・」ようやく立ち上がったケントが鳩尾を抑えながらに呟いた。
「素晴らしい、紛失送信機もついていない上、魔法族専用ですか――これなら普通の人には、おいそれと使えない」
「はい、でも無事なのはこれだけで、他のツールは全部ショートしてしまったみたいなんです」ミカはそう告げて、ポーチからスマートツールと地図ツールを取り出して博士に見せてみた。
「・・・ふむ、なるほど、どうやら熱にやられたようだね――しかし、これぐらいならここの設備でもどうにかできるだろう――直してあげよう。ついでに、そのお手製ドライヤーも見せてくれると、私は凄く嬉しいんだがね?」
「いいんですか!もちろんです!あ、でも、これ銃ですからね?ヒィアート・ガンですよ」
 喜ぶミカからポーチごとツール達を預かってメガットは、暗い部屋のどこかから機材を持ち出してきた。
「ケントくん、君も持っていたら出したまえ、一緒に見てあげよう」
「え?あ、あぁそれなら・・・」とケントは思い出したようにポケットに手を突っ込んだ。
 中から完全に沈黙したスマートツールが出てきた、最後に使ったのは定期船での師匠との通話だったか。叩いてもこすってもウンともスンとも言わないツールに、あきらめ声を出して、ケントは博士へと渡すのだった。

                   ※

「ミカが大統領御令嬢!?」
「そうだ、ほぼ間違いない。ミカが隠したがっていたのもそのことだろう」
 手足を縛られたままでドリューがジョットに叫んでいた。
今、二人は護送宇宙船に乗せられ、宇宙空間を何処かへと運ばれていた。わずかに見える窓の外はひたすらに暗い星の海が覗くだけで、目的地などはわかるはずもなかった。
「じゃ、じゃあ、あの傭兵たちはミカを誘拐しようとしてたってわけ?」
「普通に考えればな…だが、結果はケントも巻き込んで銀河の海に投げ捨てた――」ジョットが眉間に皺をよせ言った。
「初めから・・・こ、殺すつもりだったてこと?」ドリューが恐る恐る問いかけた。
「君らが戦ったストログもそうだったんだろう?――おそらく、彼等を雇ったものがそう指示したんだろうが・・・」
「そんな!大統領の娘さんを殺して誰が得するの?!」
「上に立てば立つほど、妬みは増えるものさ――問題は、あまりに手段を選んでいないことだ、列車破壊や、トンネルに穴を開けるなど目立ちすぎる・・・事故に見せかけようという気が感じられない」
「うーん・・・、バレても構わないってこと?」
「そのようなことさえも、もみ消せる権力者かもしれんな」
 と、そこまで言った時、護送船がブレーキを掛け減速を始めたのに重圧を感じた。小さな窓の隙間からは、目的地だろうか衛生ぐらいの小さめの惑星が迫っていた。同時にドリューとジョットは押し黙ってしまい、窓の外をにらみ続けた。
「い、いきなり処刑とかじゃないよね?」サングラスの下でドリューの目が潤んだ。
「――当然だ、俺達の罪は無線乗車であって令嬢誘拐なんかではないからな」
 胸を張って言えることではないが、ジョットは語尾を強めていった。
 そして、完全に護送船が止まると同時に、二人を降ろすためのハッチが開いた。

                  ※

「はーい、先生質問です」
「なにかな?君は私の生徒ではないが・・・いいだろう質問してみたまえ」
 機械のアームを忙しく動かしながらにメガットがケントに応えた。慌ただしく動くアームが火花を散らせて、みるみるツール達を直していっている。
「結局聞きそびれたままだったんだ、マホー族てなんですか?コミックとかに出て来る魔法使いのマホーと同じやつなの?」
その問に、メガットの手がピタリと止まった。
「あ、先生いいから、気にしないで、こいつは無知の塊だから」そう言って作業を続けさせようとミカが言うがメガットの目はケントを向いていった。
「・・・いや、専門外だが作業がてらに授業してあげよう。それに、これで少しでも魔法族の理解や見識が広まれば、君たちにも喜ばしいことだろう」
「そ、それは、そうですけど――」
 どこか、くすぶったミカを尻目に、メガットはツール修繕の火花を消さずにケントへと改めて話し始めた。
「さて、ケントくん。まず魔法とは、いわば君の使うオーラと同じだ。要はヒィアートを利用した技能というわけだ。魔法族は、それらを特殊な特訓無しに生まれながらに操作できる種族だ。・・・まぁ、ほとんどは生活面で使うのが一般的で、オーラにして体術に利用する者は、――いないな」言いながらも、メガットの機械アームは動き続ける。
「そして魔法族はヒィアートの事を『マーナ』と呼ぶのだ。これは魔法族が古代人級に旧い種族の名残だと言われているが、実際のところ魔法族の間でしか使われていない・・・言わば方言だな」
 それを聞いてケントが「プッ」と吹き出した。
「方言!ミカ、お前、さんざん俺の星を田舎だなんだって言っといて、方言があるような田舎星出身なのか?」
「うううるさい!あの、あれよ!古都ってやつよ!古の国なのよ!それに田舎じゃないし!ちょっと緑の多い発展都市だし――それにもうすぐ、大型ショッピングモールだってできるんだからね!・・・私の家からは遠いけど」最後は声が小さくなった。
「なんと!リーナスは『宇宙最大規模の駐車場完備のコンビニ』だと言っていたが?あれはデマだったか・・・」「そっちのほうが可能性高そうだな」割って入ってきたメガットにケントが言った。
「魔法惑星を田舎扱いするな!先生も、教えるならちゃんと教えてください!」
「ははは、悪い悪い――お、ひとつ直ったようだ」笑いながらも、ひと作業を終えたメガットはアームでスマートツールを掴むとミカに手渡した。
「・・・さて、と、そうだな――魔法族といえど誰しもが魔法をポンポン使えるわけではないんだ」今度は地図ツールの修繕に取り掛かりながらにメガットが話を続けた。
「現にミカくんは、偉大なアージェナルド家の血族でありながら、これっぽちも魔法を使えない」「これっぽちって!」ミカが叫ぶ。
「これはミカくんが人間族の父上の血を引いているからだ…つまり魔法族としての血が薄いと、その分、ヒィアートの自在操作が難しくなるのさ。逆に言えば血が濃いほど凄い魔法が使える」
「ふーむ、出自は良いが落ちこぼれか・・・」
「なに対等になった気でいるのよ、ポンコツ赤男」
 ミカとケントが視線を強くしていがみ合う。
「とはいえ、今や魔法族のほとんどは血の薄い者たちだ。ミカくんのケースだって珍しくはない――ただ、ツール開発にのめり込みすぎて魔法の特訓をまったくしていないだけなんだ」
「・・・そ、それはあまり言わないで」ケントから視線をそらしてミカは明後日を向いた。
「それじゃ、特訓次第ではいろんな事ができるわけだ?あのー、ほら、コミックとかでよくある竜とか呼び出すやつもできるのか?!」ケントがワクワク顔で聞いた。
「・・・あぁ――。召喚魔法の事?それならどっちにしても無理よ。21歳未満の未成年は使っちゃいけないのもの。第一に使うにしても召喚相手の同意と、『この日に召喚します』って許諾書を役場に提出して、許諾してもらわないといけいないのよ。あーでも、役場は平日やってないから面倒らしいわ」
「えらい事務的なんだな…そんなに危険なのか?」ケントがよくわからんと首を傾げた。
「き、危険・・・と、いうか、その・・・――」ミカが声を詰まらせた。「だから、その・・・え、エッチなやつとかも召喚できちゃうのよ――前にクラスの一部の男子が面白がってやってたのよ…先輩に頼んだとかなんとかって――そうしたら、その・・・凄いのが出てきて、大問題になったのよ」説明するのさえ恥だという顔のミカだが、ケントはその部分だけは真面目に聞いて「成人した魔法族男子と友達になりたい」と心に誓った。それを横目で見ながらに、メガットは直った地図ツールをミカに手渡した。
「召喚魔法に反対派ですかなお嬢様?・・・しかし、私がエール嬢から聞いた話ではケンタウロスを召喚したとか――」
「うぇ!?」ミカが裏返った声を上げた。
「エルが喋ったの!?」驚くミカをそのままに、メガットは次にケントのスマートツールに取り掛かり「ミカくんの従姉妹のことだ」とケントにこっそり教えた。
「違うの!ああああれはエルが、こっそりやればバレないって言って、どっかから許諾書持ってきたのよ!ま、まぁ、それで?興味がなかったわけじゃないし?・・・召喚相手も男前だったからさ…――。あ!でも!裸なのは上だけだったわよ!ケンタウロスだからね!そのへんはセーフよセーフ!眺めただけ!それに召喚したのはエルだから!私魔法使えないから!」ミカが怒涛のいいわけを放ったが、もはやケントの目は腐っていた。深夜にやってる、どこが面白のかわからない番組を見る目でミカを見やると「へぇー」とだけ応えた。
「ほほぉ、本当に召喚していたとは・・・まだまだ思春期が抜けませんなお嬢様」
「嘘だったの?!」「話の途中でミカくんが勝手に喋り出したんじゃないか――っと、できたぞケントくん」忙しいミカを慣れたように受け流して、メガットはケントにツールを返すと、ようやく本命だとミカの銃を目の前に置いた。
「よし、思春期お嬢様のミカくんが魔法を使えないのは、よくわかったろう?」
 黙って頷くケントをミカが軽く叩いた。
「そこで幼き日のミカお嬢様は、誰でも使えるヒィアートツールに心を奪われた。これを使えば魔法に匹敵できる――」言ってメガットは、いろんな角度から銃を覗き込んで「なるほど魔力タンクですか」と小さく呟いた。そしてしげしげと頷きながらに今度はその目をケントに向けた。
「さて、ここで面白いのが、血の濃さに関係なく魔法族が遺伝的に持つヒィアートなのだが――これが、我々や自然界にあるヒィアートとは異なる性質を持っていてね・・・反発し合うんだ」メガットが機械のアームで銃をつついてみる。
「だから魔法族が、うっかりにでも一般に普及しているツールに触ろうものなら暴走してしまうんだ――まぁ魔法が使えればツールなんぞいらないんだがね」
「・・・ふーん、あれ?じゃ、その銃――ビームの出るドライヤーは?」
「いちいち言い換えるな」
 ミカが苛立つのを横目に、メガットは少し笑みを作って「良い質問だ」とケントに言った。
「このドラ・・・――あぁ、銃だったか――は、性質を逆転させて造ってある。つまり魔法族以外の種族が使おうとすれば暴発するはずだ」
「あぁ、一回見たな」「ちなみに、カメレオン男を倒したのもそのおかげよ」
 胸を張って自慢げな顔を見せるミカに「誰だそれ?」と問うたケントだったが、また叩かれて終ってしまった。
「ふむ、タンクを造ったのは素晴らしい――ここに他のヒィアートを貯めるのですね」
「はい、今はここの砂漠の空気をマーナとして貯め込んでいます――さっきの試合でだいぶ使っちゃったけど」
「お?方言でたな?」ガスッ!と今度は音が聞こえるくらいに鮮やかにミカのボディブロウがケントの腹部を無言で襲った。

「ふむ、あと1つ2つぐらいならタンクを増やせそうだ――それもやってあげよう・・・その間にツールの動作確認をするといい」
 するとメガットはアームを器用に動かすと銃のカバーを外して弾倉部分からタンクを取り外した。二人は、また一段と専門的な作業が始まったと感心しながらも、それぞれに戻ってきたツールを確認した。
 ケントの方は特に問題はなかった。と、いうよりも最後に使ってからなにも変わっていないのが少し寂しかった。まぁ星を離れれば流石に通信は無理だろうとわかっていたことだが。そう、ほんのちょっぴりブルーなケントだったが、次にミカが大声を上げたのに飛び上がった。
「どうした!?」「やっぱり!」
 ミカは地図ツールを立ち上げて指をさしていた。
「先生も装置もここにあるのに、信号はトキエイドのままだ!!」
 そう、ミカは立ち上げた地図の半立体映像には、まだ博士の居場所を報せるはずの信号が首都星トキエイドで点滅しているのに驚いたのだった。
「先生!これって?!」
「ん?あぁ・・・なるほど、君たちはそれを追って私を探していたのか」
 作業に取り掛かっていた顔をミカ達に向けてメガットが言った。
「それはダミーさ。24時間ごとに信号の位置がランダムで変わる仕掛けになっている、なるほど今はトキエイドか」
「ダミー?偽物ってこと?」「正確には介入機の信号をいじってるだけだがね」
 すこし言葉を添えただけでまた銃の方へ顔を戻すメガット。
「ザヴィエラが私の発明品に位置情報発信機を取り付けさせたのは、この装置を確実に見失わないためだ――が、利用させてもらったのさ。おそらく今頃はトキエイドで大捜査してるだろうさ」と、軽く笑ったメガットは、次には「よし」と呟いて機械のアームを止めた。
「できたぞミカくん」
「あ、ありがとうございます」
 ミカはアームを拡げて、どうぞと言っているメガットから銃を受け取ると、まじまじとそれを見やった。たしかに弾倉部分である箇所が一回り大きくなっている、カバーをずらして覗けば、ソケットが2つ増えている。
「これで水のヒィアートを混ぜれば冷風が、更にマイナスイオンを得たヒィアートを混ざれば髪に優しい送風も可能です」
「ドライヤーとしてはかなりパワーアップしたな!」
 握り拳を作りガッツポーズのケントだったが、ミカの目は呆れの果てに達していた。
「え・・・と、ありがたいんですけど・・・―――ビームの方は?」
「あ、あぁ――3つ分のヒィアートを重ねれば出力はあがるだろうが、それよりも」「わかりました」ミカは博士の声を遮って銃をポーチにしまった。
 これでツールは全て修復して、博士に聞きたいことも、なによりミカがケントに頼んでていた「博士を探せ」という任務も達成してしまった。少しの沈黙の後で、なにを言おうかとケントがくすぶったが、クィーンのが目が「時間だ」と告げているのに気がついた。
そして、どうにか口を開いた。
「な、なぁ、おい、俺とドリューの卒業の件はどうなる?博士がここに釘付けなら、大統領にも伝えられないんだろ?」
「ふむ、まぁ、そうだな・・・少なくとも介入機の処分方法を先に発見しなければ」
「あんまりのんびりもできないんだよ!休暇の間に済ませないと!」
 口早に言うケントだが、博士は介入機を見やったままで応えるだけだった。
 ケントに焦りが見えた。ミカが大統領の娘だということで、職星の問題などどうとでもなると考えていたが、ミカにせよ博士にせよ一度大統領にコンタクトを取らねばならないのは必然。そして、この星に居る限りはそれも望み薄だろうと、ケントは歯ぎしりする思いだった。と、そこへ。
「ね、ねぇ先生!封印術じゃだめかな?たぶん、お母さんならできるかも・・・」
 ミカが言った。その言葉にメガットは小さな目を見開いて乳母車ごとキュルキュルとミカに迫った。
「そうか!私としたことが、破壊にばかり囚われて失念していました!なるほどハル・ハーティさまなら出来るやもしれませんな!」
「・・・封印?それも魔法か?」
なにか事が進んだらしいがケントにはわからず、思わず問いかけた。
「そうだ。それも文献にしか出てこないような古代魔法だ――おそらく凍結系の類だろうが――、なるほどアージェナルド家なら家柄も旧い・・・可能性はありますな」
「・・・――それで、メガットが行くのか?つまり・・・戻るのか?魔法惑星まで?」
 クィーンから当然とも言うべき言葉が出た。せっかく無事逃げ出してきたのに、それこそ無駄足に終わらせる気かと続けて言っているかのようだった。
 ケント、ミカ、メガットと険しい顔を見せて押し黙ったが、またしてもミカが沈黙を破った。
「そうだ!私が行けばいいんだ!あいつら私を殺したと思ってるだろうし!私なら警戒されずにお母さんに会える!それなら職星のことも相談できる!」
「・・・なるほど、しかし、ザヴィエラが待ち受けている可能性も」
「大丈夫!」またミカが続けて遮った。
「星間列車のニュースで副大統領がトキエイドで足止め食らってるって言ってた!装置を探し回ってるから動けないのよ!ダミーの信号を信じてる証拠よ!」
「そうか!博士もミカもいない、今のお前の家は見張る必要がない!それに死んだ人間が戻ってくるなんて考えない!」
 活気に湧いてミカとケントが珍しく意気投合する。
「・・・ふむ。私が行くよりは確実かもしれないな」そう言うとメガットは慎重に装置を掴んでミカの元まで運んだ。
「ミカ・フェリアお嬢様、くれぐれも慎重に扱ってください――それにもし封印がかなわない場合は一目散に引き返してきてください」
「…わかりました!!」そっと、装置を受け取ったミカは、割れ物を触るようにそっとポーチにしまいこんだ。
「よし!そうと決まれば!即出発だ!」今度はケントが手当したての拳を鳴らして言った。
が、ミカはポカンとした顔をしていた。

「ん?あんたも来るの?」
「へ?」ケントの高揚していた気持ちが一気に墜落した。
「別にお母さんに会うだけだし、それに駄目なら戻ってくるわけだし…」
 その応えにケントは固まったままだったが、「いや」とメガットが助け舟を出した。
「ザヴィエラを警戒するに越したことはない――ケントくん、ミカくんについていってあげてくれないか?ウーを退けた力を貸して欲しい」
「お、おう!」なんとか気持ちを持ち直してケントは拳を握った。
「――まぁ、いいけど。あっちについたからって魔法魔法ってはしゃがないでよ?」
「結局はツールでできることと、たいして変わらないんだろ?だったらそこらの田舎惑星と同じだろ?」「田舎言うな!」ポーチで殴りつけたのにメガットは中身を案じて、表情が強張った。
「ま、まぁ、仲が良いというふうに見ておこう・・・・さて――二人共、わたしの船を使うといい・・・ウー準備してくれるか?」
「――・・・・・・わかった、ついてこい」
 いがみ合うミカとケントを「まぁまぁ」と宥めながらに、メガットはウーに告げた。
 そうして彼女に案内されるまま、この暗い空間を後にするのだった。

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