スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険

ツカ007

第八章 対決 格闘場のチャンピオン


 砂漠の星の地下へと進んだミカとケント。ケントは未だ気絶中だが、なんとか通常の気温の元へとやってくるができたとミカは息をついた。気色悪いぬるさの砂漠と凍てついたオアシスを超えて、たどり着いた謎の地下階段。後ろからは受付だとか言っていたクマ族のポーリッドがついてきている。
「おいおい、そっちのやつ怪我してるのか?こいつで冷やしおくか?」
 いまさら気がついたのかとミカは呆れ顔で振り返った。さっき救助をお願いした時や、ずっと担いで歩いているのだから、それぐらいすぐに理解してくれと不機嫌な顔見せた。
「これ使うか?」
「・・・・・・ありがとう」
 するとポーリッドが先程のオアシスから持ってきていたのか、ハンドボールくらいの氷塊とタオルを差し出してきた。それを少しだけ見つめたミカは謝礼の言葉を告げると、ケントの両手に巻きつけた。そのうち溶けてしまうだろうが応急処置だ、火傷には効くだろうと頷いて処置を施した。
「・・・あー、それで、おまえさん――えー・・・」「ミカよ」名を探るクマにミカが応えた。
「ミカ、それで、お前さん予算はどれくらいだ?」
「は?予算?どういう意味?」
 突然の問いかけにミカは何度か瞬いた。と、その時、階段が終わりを迎え、頑丈そうな鉄の扉が眼前に現れた。ポーリッドは今しがたの質問の答えを聞き返さずに扉に手を当てると、ガンガンと叩いた。すると備え付けられた20センチ四方の小窓がピシャリと開いて、誰かの口元だけが覗き動いていた。
「二兎追うものは?」「超クール」
 合言葉なのか扉の向こうかからの問いにすまし顔のポーリッドすかさず応えた。すると小窓がまたピシャリと閉まって、今度は重そうな鉄扉がゴゴゴと開かれたのだった。
「な、…なんなの、ここ?」
 開かれた扉の先を見てミカは思わず呟いた。
先程の合言葉の主であろうボーイ風の背広を着た壮年の男が、開いた扉の側に立っている。そしてそれより先に広がる空間に進むように促してるのがわかった。
 空間に広がるのは、ルーレット、カード、ダーツにビリヤード。そう、いわゆるカジノの光景が広がっていた。ざわざわと多くの人々が行き交い、小奇麗な服装な種族から、これで勝たなければ『ままならぬ』といった顔を見せてボロボロな服装の者もいる。
「ようこそ!別名、賭博星ハッタハッタへ!」
 嬉しそうなポーリッドの声が聴こえると、鉄扉が閉まるのがわかった。

                ※

「ちくしょう!またかよ!」「イカサマだ!野郎ぶっ飛ばしてやる!」「まだだ、次は勝てる!」そこかしこから危なっかしい声が飛んでいる。取っ組み合ってる者、ディーラーを相手に吠えている者、スロット台を叩いてボーイにつまみ出されている者。「こんなデータ信じるんじゃなかった・・・」と言って、『パチパチ攻略雑誌』を握りしめパチンコ台に死んだようにもたれかかっている者もいた。
「すっごい・・・、この星の地下、全部がこんなわけ?」
「オアシスの下はな。ま、もともとギャンブル好きが多かったこの星の奴らは住居より、賭場を作るのに精を出してな――結果、半分は『世間的に良くない奴ら』のたまり場になっちまった」
 ポーリッドが辺りを見渡せと手を動かして、確認させる。たしかに、悪どい顔のものが多く見える。カードギャンブルをしている者がいる。ストールをまいたゴリラ族の男が似合ってないサングラスを弄りながらに笑みを作っている。ダーツでは顔に傷のあるキツツキ族の男が澄ました目で狙いを定めている。そんな彼を取り巻き達が「お見事!」「さすがです若!」などと言って囃し立てている。
「ま、ここにいるやつらは予算があるやつらさ」
「予算、そっか・・・さっき言ってたのって、ここでのお金のことね」
 近くにあった荷物運搬用のカートにケントを乗せてミカは、ため息混じり言った。
「で?ミカはいくら持ってるんだ?」
「ないわ」
「へ?」ポーリッドがマヌケな声を出した。
「ないけど、別にギャンブルしにきたわけじゃないし――こいつを休ませられれば良かっただけよ。あと、これだけいれば誰か連絡手段を貸してくれるでしょ」
 少しだが顔色のよくなったように見えるケントを確認しながらにミカは説明した。それにポーリッドが怪訝な顔を覗かせて一度「ふーむ」と唸った。
「ま、まぁ、賭けをするしないは自由だが――連絡手段を借りるってのは期待しないほうがいいぞ?」
「…――え?なんでよ?」
「ここに居る連中はほとんどが、所在なんてバレたくない奴らばかりだ――そんなのが、どこの誰ともわからないやつにツールだったり何だったりを貸すと思うか?」
 それを聞いてミカは「な、なるほど・・・」と難しい顔を見せた。だが、しかしそれではどうやって、この星から出て行けばいいのか頭を抱えた。やはりドリューが救助を求めてくれているのを信じるか。それとも、ここにいる誰かに取り入って一緒に出るか…――しかし、どうにも「自分以外は信じない」というような雰囲気ばかりの連中だ。ポーリッドの言うとおり期待はできないだろう。
「ううーん…」腕を組んで考え込むミカ。そのままフロア全体を見渡している中でひとつの張り紙を見つけた。『景品交換』と題された張り紙には、チップ枚数に応じて豪華景品との交換を示す事柄が書かれていた。
『1000枚 スレンダーダイヤ』『3000枚 魔の宙域クルーズ200泊券』『5000枚 惑星チコ』『10000枚 古代の宝剣シ・ナイ』などなど枚数が上がるにつれ景品もグレードアップしているのがわかる。中でも惑星一個や古代の品など、あきらかに法律を度外視している部分がある。それこそ、ここが潤っている理由でもあるのだとミカは感づいた。
 純粋にギャンブルを楽しんでいるものもいるだろうが、こうした違法物が目当てのものが多いのだろう。ここは『そういう場所』なのだと改めて理解した。そうして詳しく読むでもなく張り紙をスラスラと眺めていたが、とある箇所で目を止め思わず瞬いた。
「え?・・・――えええ?!」
 次の瞬間、張り紙の元まで駆け寄って、これでもかと顔を近づけた。
そこには『10000000枚またはチャンプ賞 メガット博士の身柄交換』と書かれており、小さく、見知ったイルカの写真まで付けられていた。
「ななな、ななななんで??先生が??それになによこの一千万枚って?!」ミカは混乱した。何度見かもわからないほど張り紙を舐めるように見渡すが、どこにも博士が景品になっている理由などは書かれていなかった。と、そんな気が動転中のミカの後ろからポーリッドが「落ち着け」と言ってなだめた。
「そいつは、つい最近ボスが追加したんだ――・・・今に大金を叩いてでも博士を欲しがるやつが現れるって言ってな・・・が、今のところは誰もそんなやつはいなけどな」
「どういう意味?それにこのチャンプ賞ってなに?」矢継ぎ早にミカが問いかける。
「チャンプ賞は、この更に地下にある格闘場での優勝商品って意味だ」
「か、格闘場!?」ミカがまた声を大にして言った。
 ポーッリッドが「そうだ」と頷くと、床を指差した。
 無論、ミカは、こんなカジノにやってきたばかりか、次には格闘場なる、あきらかに野蛮そうな名前のところは御免被りたいところではあった。しかし『博士』の名が、心を燻らせた。そうして「格闘」と呟きながら、いまだ台車で気絶中のケントをじーっと眺めてみた。そして。
「・・・よ、よし、とりあえず、その格闘場に案内してくれる?」
ミカはポーリッドに頼んだ。特に断る理由のないポーリッドは快く承諾して、「こっちだ」と更に地下へと続くエレベーターへと案内するのだった。

                  ※

 エレベーター内は無言の空間になっていた。見上げた位置にあるフロアを示すランプは『上』『下』としか表示がなく、ずーっと『下』のランプが光りっぱなしであった。
 そうして、ようやくランプが消えたと同時に扉が開き、ミカ達のいる無言と静寂の空間を粉々に破壊した。
「うぉおおおおお!」「わぁあああああ!!」
 目の前に広がる、あらくれ者たちの群れ。中央に備えられた檻付きのリングに向かって、あちこちから怒声が飛び交っている。上のカジノとは天と地の雰囲気に、ミカは圧倒され、少しだけ脚が一歩、進むの拒んてしまっていた。
「着いたぞ?行かないのか?」「わ、わかってるわよ・・・」
 ポーリッドに言われて息を呑んだミカは、ケント付きの台車をゴロゴロと押して格闘場の中へと進みだした。
下品な笑いや叫びが、幾度も耳を抜けていく。刃物やおかしな形の武器をもった輩がたむろっては「今日こそは」と団結を固めている。負傷者もそちらこちらに見受けられるが、ミカのように台車に押しているのは珍しいのか、じろじろ見られている気分がしてミカは、そそくさと人のあまりたむろしていないところまで行って足を止めた。
「お!一回戦が始まるぞ!」と、そこへポーリッドが背伸び勝ちに中央のリングを向いたままに言った。
「一回戦?」ミカが問いかけた。
「そうだ、三回戦あって、全部に勝てば優勝だ。こっちは何人出しても構わないし、武器もなんでもありだ」
「そんなの、人海戦術でやれば楽勝じゃないの?」
 沸き立つ声を背にポーリッドがミカに振り返り、「甘いな」という顔を見せた。
「ま、一、二回戦までならそれでもいけるかもしれんが、三回戦・・・チャンプには通じない――と、いうか通じなかった。俺が試したからな」
「あ、そう…そんなに強いんだチャンプって――」ポーリッドの最後の方の台詞を無視してミカが言った。するとちょうど、試合開始の鐘が鳴って二人の視線はリングの方へと走らされた。
カーン!…・――――カンカンカン!!
 勝負は一瞬だった。リングの檻の中では大きな鉄球を振り回す髭面の男が吠えており、その向かいでは刀を折られた丁髷男が目を回して「無念」と呟きながら担架で運び出されていた。
「あれが一回戦の相手の『鋼鉄のリベア』だ――あんな狭いところでデカイ鉄球を振り回されたら逃げ場も無いってもんだ。――だがな、ちなみ俺の時は」
「ねぇ?どうやったら負けなの?」ミカが質問でポーリッドの声を遮った。
「……。え、まぁ、ノックアウトか降参、それから死んでも負けだ」
「死んでもか…そりゃそうよね――・・・負けた時のペナルティとかってあるの?」
「やけに聞くな?…あー、昔はあったんだがな?強制労働行きとか、銀河クジラの捕獲船に乗せられたり、とかな。ま、それも、今じゃ流行らないから、ペナルティは自分の身体がボロ雑巾になるか最悪仏様になるってところかな」
「流行り廃りで変わるのね…ま、まぁ、わかったわ」言いながらにミカはグィッと帽子を抑えつけた。
「わかったって、何がだよ?」
 ポーリッドが言ったが、ミカは一度、ケントを見てから大きく瞬くとリングの方を睨んで口を開いた。
「出るのよ、この試合に」「はぁ?」ポーリッドが、顎が外れたみたいにポカンとした。
「全部倒せればそれでよし――・・・救護があるのはわかったから、無理でも、そこの気絶男とまとめて治療してもらってリベンジするわ」
「救護で追いつくような勝負になるかわからないだろ?!」
 青ざめた顔を見せるクマにミカは少し笑顔を見せた。
「いい?私は先生の確認をしたいだけなの?勝ち負けはどっちでもいいの・・・それに、本気で心配してくれるなら、そこの失神男を叩き起こしておいて」
 そう告げて、ミカはリングへと足を推めだした。「おい!」と叫ぶポーリッドの声を背に、ポーチから銃を取り出しすと、生唾を飲み込んで、今しがた戦闘の終わった場を踏みしめた。

                     ※

「おいおい?まさか挑戦者か?」
 鋼鉄のリベアの馬鹿にした声が飛んだ。それに合わせて汚い歓声が飛びかう。聴き逃したいところだが、嫌でも蔑む声が耳について苛立ちが大きくなっていく。
「・・・そうよ。武器はなんでもOKなのよね?」勇ましく言って銃を構えるミカ。
「あぁ当然だ。だけど、銃で勝てたやつはひとりもいないぜ?」
 そう返すリベアが太い首をコキコキと鳴らすと、戦闘準備だとリングを囲む折に鍵がかけられ、戦い合う二人を閉じ込めてしまう。
 そうして両者が睨み合う形になったところで試合開始のゴングが鳴った。
カーン!!
 先手必勝とミカは、銃から小さな光弾を撃ちだした。海岸の時や砂漠のときみたいな巨大なのを出すと、他の場所にまで被害が出てしまうためである。それでも、それなりに威力はあるだろうと期待したのだが、光弾はリベアの振り回す鉄球の壁によって防がせれてしまった。
「そらよ!!」「ひっ!」
 瞬間、光弾を蹴散らして鉄球が飛んできた。思わずしゃがみこんだミカの本の数センチ上を鉄球が通過して後ろの檻に轟音を鳴らして衝突した。
「ちっ!外したか」
「や、やっぱり無理かも・・・」ミカが思わず声を漏らした。
 檻の鉄格子がぐにゃりと曲がり、観客が熱狂を帯びて歓声を爆発させる。少し脇を除けばポーリッドがケントを無茶苦茶に揺らしながらに、必死な顔を見せているのがわかった。
「よっ…と!」
 すると、リベアが飛ばした鉄球を引き戻そうと繋がった鎖を手繰り寄せていた。はっきり言って次に鉄球が飛んできたら避けれる自身はない。今のだってビビって座り込んだだけである。逆に言えば、ここで仕掛けなければ次はない。焦る気持ちもそのままに、あれこれと思考するミカは銃を見つめた。撃てるのは光弾と、先程砂漠で使った風のヒィアートぐらい。
「そうだ…こっちの最大出力なら――!」
 と、何かを思いついたミカだったがリベアの手元に鉄球が戻って、「次こそは」と意気込む顔が見えた。同時に急ぎ銃を両手で構えたミカが、相手が鉄球を飛ばすより早く引き金を引いた。
「くらえ!!」ミカの声が飛ぶと共に、小銃から台風並みの風が巻き起こった。
 それによって格技場全体が暴風に見舞われて、中でも中心部であり対象物であるリベアには台風の何倍もある強風が吹き付けていた。
「ぐぉぉおお――な…んだ・・・!?」突然の事に思わず目を瞑ってしまったリベア。あまりの強風に鉄球を飛ばすどころか、飛ばされぬよう踏ん張るのが精一杯で、大きな身体を制止させていた。しかし、リベアは更に風圧が増してくるのがわかった。
 ミカが銃口を向けたまま、リベアに迫っていたのだった。顔面に向けて更に強風を当たれれて、顔の皮膚が飛んでていくのではと感じながらにリベアは強風に耐えている。が、それも遂には息が出来ないくらいになってきた。ミカにやめろと言いたいが声がでない、それにとても目も開けられないほどである。そうしてもがくにもがけないままリベアは膝をつき鉄球を落としてしまった。
 「――こ――さん?」ミカが何か言ったが風音にかき消されてしまった。すると、それに気がついたミカは、もはや窒息寸前のリベアを確認すると風を止めたのだった。
ピタリと騒がしかった風音は消え去り、急な静けさと共にリベアが倒れているのを皆に認識させた。
 「えい!」とミカ小さな光弾を打ち出すと、鉄球をつなぐ鎖を破壊して、そのまま倒れたリベアの頭部に銃を突きつけた。
「私の勝ち!――・・・よね?ね?降参でしょ?お願い降参して!」口早に言うミカだったが、リベアはやっと息ができるようになったことに夢中で、呼吸を急いでいた。
「降参、しなさいよ!!」それを見たとミカがガン!と銃の柄で殴りつけた。
 結果、ノックアウトで勝利となった。
 白目を向いて倒れたリベアに向けて罵声が飛び、ミカには称える声が飛び交った。中でもポーリッドが「凄いぞ!ミカ!」と叫んでいるが、横のケントは未だ目覚めてはいなかった。

「な、なんとかなった…」ホッと呟くミカ。
 敗北したリベアが担架で運ばれていく。観客は若い挑戦者に期待と憤りを混ぜた声で湧き上がっている。「いいぞ!」「リベアの奴め情けない」「あいつに賭けよう」「次で負けるさ」などなど、まだまだ雑多な声が飛び交っている。
 そうして、リベアが格闘場から完全に消え去ったのを見やったミカだったが、急に檻が閉まったのに驚いた。
「え?」思わずあたりを見渡した。ガチャリと鍵のかかる音が聞こえたかと思うと、試合開始を報せる鐘が、カーン!と鳴った。ますます、驚いて混乱した。
「ちょっと…相手は?」
 相手が来ないまま試合開始とはどういうことなのか?檻の外を見渡してもザワザワと騒がしい声が聴こえるだけで、皆がニヤニヤと嫌な笑みを見せていた。理解できないミカがポーリッドに答えを求めようと顔を向けた。
「ミカ!もう、そこにいるぞ!!」ポーリッドが叫んだ。
「そこにいる――…!?」
 次の瞬間、ミカの身体が大きく吹っ飛んだ。強く地面を打ち、勢い良く転がって檻にぶつかって動きを止めた。
「…な、なんな・・・の――?」痛みをこらえてミカが言った。
 勝手に吹っ飛んだわけではない。明らかに何かに背中を蹴られたような痛みがある。足、というよりは長い鞭のような物で殴られた感じに近い。
 背中の痛みをそのままに、なんとか立ち上がって目を凝らしてみた。が、やはり何もない。先程立っていた位置に、衝撃で落ちた帽子と銃が落ちているだけだった。が、次の瞬間。
「なんの下調べもせずにくるとは、――ガイドブックでも買ったほうがいいんじゃないか?」
「ええ?!」
 誰もいないはずの位置から声がしてミカは、目を何度か瞬いた。すると声の位置に落ちていた帽子が一人でに浮かんで空中で制止した。さも、誰かが拾い上げて頭にかぶったように。否、まさにその通りだったのだ。帽子が制止した位置の空間から、徐々に色を足したように何かが現れてミカに、謎の答えを与えた。
「か、カメレオン…!?」「その通り、カメレオ族のルトンだ」
 現れたのは、飄々とした体躯のカメレオ族の男であった。頭には拾い上げたミカの帽子をかぶり、ギョロギョロとした目を気持ち悪いほどに動かしては、尻尾をくねらせ長い舌でチロチロと挑発する。
「と、透明になるなんてずるいわよ!」
「カモフラージュだ。それに俺の種族の特技だし、違法な銃使ってるやつに言われたくないな」
 銃の事を見抜かれて言い返せないミカだったが、ルトンが今度は落ちた銃の方に歩み寄ったのに気がついた。
「ま、別に誰もルール違反なんて言わないさ、ここでは違法物なんてしょっちゅうさ――に、してもさっきのは凄かったな?え?どうなってるんだ?」
 と、言いながらにルトンは銃へと手を伸ばした。
「しまった!――――・・・でもないか・・・」銃を奪われることに焦ったミカだったが、すぐにピンと来て声を潜めた。そんな向こうでは、銃を拾い上げたルトンが銃口をこちらに向けていた。
「さて、降参するか?それとも今度は自分が突風に巻き込まれたいかい?」言いながらに引き金に手をかけるルトン。銃の弾倉部分には緑の光が充満していく。しかし、それを見てミカはニヤリと笑った。
「こ、コーサンなんかするわけないでしょ!いいじゃない撃ってみなさいよ!私にはまだ秘策があるんだから!!」
「ほぉ?」ルトンの気色の悪い口角があがった。
「面白い――、それでは見せてもらおうか」
 ルトンは、なんの迷いもなく引き金を引いた。そして。
「皆!伏せて!!」ミカが屈んだ。
 瞬間、ルトンの持つ銃が緑の輝きを最高にしたかと思うと、凄まじい振動とともに膨大なヒィアートの塊を光弾として発射した。その反動は凄まじく、ルトンは、何が起こったかわからぬまま後方に吹き飛び鉄格子に後頭部をぶつけてしまった。
 一方で撃ち出された光弾は、高速で飛び、ミカを掠めて行くと上後方の檻をえぐり、先の天井まで破壊して、ようやく霧散し消え去るのだった。
 ガコン、バラバラ、と崩れた天井から瓦礫が落ちて、静まり返った格技場に音を与える。そうして一瞬の出来事であった惨状に、全員がリングの中央に視線を移した。
歓声は津波になった。
 立っていたのはミカであり、銃を撃ったルトンは完全にノビていたからである。
ミカは動かないルトンにまで歩み寄って帽子と銃を取り返すと、腕を高々と振り上げた。
「気絶してる!ノックアウトってことで私の勝ち!!」
 勝利宣言に会場がまたしても湧いた。遂にはミカコールまで巻き起こる始末である。
まさか二連勝。中には幸運が続いただけと囁くものがいるが、そんなものなど飲み込んでかき消すほどの歓声の大きさであった。
「ミカ!!本当に凄いぞ!相手が自爆したとは言え、勝っちまうなんて!」
「作戦よ、さ・く・せ・ん」
 檻越し駆け寄ってきたポーリッドにすまし顔で言うミカ。と、ミカはその後ろで、ケントがもぞもぞと動いて、今に起きそうなのに気がついた。そして、声をかけようとした、ちょうどその時、今まで沸きに沸いていた会場が一瞬で静まったのに出すべき言葉を失ってしまった。
 まるで葬式のような静けさな中で「チャンプだ」「クィーンだ」などの囁きが聞こえ、リングの向こうからはカツ、カツ、と強く地を踏みしめる足音が聞こえて振り返らされた。
「この人がチャンプ…!」
 振り返ったミカは、最後の対戦相手として君臨したチャンプを見て息を呑んだ。

                  ※

 容姿端麗、背が高くスラリと伸びる足に、メリハリの効いたボディライン。八割ぐらいは肌が見えているのでは、というぐらいのきわどい衣装、そして何より最大のインパクトがウサギのような半獣半人の姿。それが目の前に現れたチャンプであった。
「すっご…」ゴクリとミカが唾を飲み込んだ。
 前に港町の海岸で見かけたウサギ族とはぜんぜん違う・・・自分には無い全て(肉体的な)を持っているような――この空間全てを圧倒するような――そんな、威圧感が綺麗な顔から鋭い視線となってミカに注がれていた。
「あれが、ここのボスで現チャンピオン!クィーン・ギーサだ!」
割れんばかりの歓声が湧いたと同時にポーリッドが、自信満々に教えた。
するとクィーンは尖った耳をピクピクと動かした。真っ赤な瞳でぐるりと周囲を見渡すと、小さな口から、ここにいる全員分の声量を超えるような大声を出した。
「黙れ!!」一瞬にして会場が水を打ったように静まった。
 そうしてクィーンが、ゆっくりと、改めてミカへと視線を戻すと、銃の方をチラリと見た。
「・・・――なるほど。変わったことができるらしいな」
 心なしか少しだけクィーンが笑ったように見えたが、ミカは先程ポーリッドが言った「ここのボス」という言葉を思い返して、問いかける言葉を探した。
「ちょ、ちょっと待って!戦う前に聞きたい事があるの……あの、メガット博士は本当に交換してくれるの?」
「・・・・・・本当だ、優勝できれば、だがな」クィーンが冷たく言い放つ。
「じゃ、じゃあつまりここにいるってことね?」
「・・・――それを聞いてどうする?疑っているのか?」
「そそそそそそういうわけじゃないけど!――です!はい!」クィーンの目つきが怖くなったことに慌てて言葉を返すミカ。
「あ、あの私、ミカって言って、その…博士の知り合いなんです・・・――ちょっと会って話だけでもさせてくれればなー・・・なんて、そうしたらすぐに降参しますんで・・・」
 なんとか逆鱗に触れないようにと、一生懸命言葉を紡ぎ出すミカ。しかし、クィーンが僅かにだけ眉を潜めたかと思えたが、次には「くだらない」と言った感じで鼻で笑った。
「会いたければ、お前が次のチャンプになることだ」
「そんな…!」
 同時に試合開始を告げるゴングが鳴って、また煮えたぎった歓声が戻ってきた。
まるで熟睡から叩き起こされたみたいにミカは、ゴングの音にビクリと背筋がのびて慌てて銃を構えた。もはや後戻りはできない。完全に戦闘態勢に入っているクィーンからはとてもない威圧を受けている。先程までの二人とはあきらかに違う、ケントのようにオーラが漂っているのならきっと凄まじいほどになっているだろう。と、注意深く相手を睨んでいたミカだったが、次の瞬間クィーンが消えてしまったのに驚いた。
「へ?」まさか彼女も透明になれるのか。ミカが思考を巡らせる中で、クィーンは既に身を屈めた状態でミカの目の前に迫っていた。
 バン!と、驚いたミカが一発撃ち出したが、それは明後日の方向に飛んでいってしまった。
即座にクィーンがミカを足払して転ばせてしまったからである。
「痛た…・・・きゃ?!」
 尻もちを突いたミカだったが、次には身体が浮かび上がったことに気がついた。銃を持っている方の手首から激痛が走って痛みを知らされる。クィーンが力任せにミカを持ち上げていたのである。そしてクィーンは銃をじっくりと眺めた。
「――やはり、メガットの作ったやつか」
 囁くと、今度はそのままミカを放り投げて鉄格子にぶつけてしまった。またもや全身に痛みが走って、ミカは目の前に火花が散った。しかし、ノックアウト寸前ながらもクィーンが博士の事を知ってる風に言ったことを聞き逃さなかった。
「や、やはりって・・・どういう・・・――…ッ!?」
 頭を大きく横に降って意識を真正面に戻したミカだったが、問いかけはそこで途切れてしまった。クィーンが向こうの鉄格子に張り付いていたからである。鉄格子を壁と見るなら、床とほぼ90度の直角状態で張り付いている。いや、ただ張り付いているのではない、これは『飛び出す』ための準備だ。ウサギの出立を見るからに、その絶対的長所は脚力である。瞬時に理解したミカだったが、次にはビュン!!という風を切る音が聞こえただけで、クィーンの姿はもう見えなくなっていた。
「・・・や・・・ば・・・」
 全てがスローモーションに見えた。恐らく目にも留まらぬ速度でこちらに迫っているのだろうクィーンの姿をとらえたが、自身の動きもスローであるためどうにもできない。既に握りしめた拳が顔面に向けられているのもわかった。歓声も、ポーリッドの叫びも聞こえない。その後ろでは未だ気絶中のケントが――。「あれ?」

バチン!!

 刹那、クィーンとミカの間でけたたましい轟音が鳴り響いた。
全員がクィーンの勝利を確信した。しかし、どういうわけか二人の間から『赤い靄』が発生して、よく見えなくなってしまっていた。おまけに鉄格子の一部は引きちぎられたようにもなっている。
 またしてもミカが、銃で変なことをしたのかと全員が勘ぐった。そうして、徐々に晴れゆく靄を見て、クィーン勝利の叫びが湧き上がっていく。
「女王様!」「さすがチャンプだ!」「速攻だったな!」誰もが誰もミカの敗北を決めつけていた。ポーリッドだけが不安げな顔を見せて、リングの中央へ駆け寄ろうか悩んでいた。その背後にいたはずの人物がいないことに気が付かないまま。
「わ…!」ミカの声がした。
 と、ようやく靄が晴れきったところで歓声はピタリと止んだ。思っていた光景とはまるで違うものがあったからである。
 そこには、また尻もちをついたミカと、それに拳を突き出すクィーン。そしてその間に立ってクィーンの拳を、己の拳で受け止めた一人の男が立っていた。男の拳からは、まだ少しだけ赤い靄が昇っていた。
「ケント!!」「あ、ああああいつ・・・そこで寝てたのに!?」
 ミカを嬉々とした声で、ポーリッドは驚愕の声で言った。
「――・・・・・・」クィーンは僅かに驚いた顔を見せながらも無言で拳を引っ込めると距離をとった。

「お前、その女の仲間か?」
 そう問われたが、ケントは火傷している両手に、今更ながらに痛みを感じて悶絶していた。
「・・・そ、そうだ!よくわからんがそうだ!」
「――・・・格好よかったのは登場だけね」
 手をフーフーしているケントに呆れた目のミカが告げた。するとミカは、ケントの傍まで顔を近づけて『落ちた星が砂漠、今はその地下』のこと、そして『格闘場の優勝商品が博士』であることを口早かつ簡潔に説明した。
「おい!何で、そのギガット博士がここにいるんだよ?首都星じゃなかったのか?」
「メガットよ!そこがわからないから、こんなのに出場してるんじゃない!」
 あれこれと言い争いだしたのに観客はざわめき出したが、一番はクィーンが不満たっぷりに溜息をついたことで、ケント達含めて、そちらに目が言った。

「おい、お前が戦うのか?それともまだそっちの女がやるのか?」
「こいつよ!選手交代です!この男が戦います!」笑顔いっぱいにケントの背中を押して、ミカが言った。
「あのな、一応俺、怪我人でしかも病み上がりなんだぞ!」「私が勝てるわけないでしょ!」
 えい!とケントはリングの中央にまで突き飛ばしたミカは、急いで檻から抜け出してポーリッドの脇に控えた。
「さぁ行きなさい!ケント!私と先生のために!」
 ビシっと指差して元気よく言うミカ。横ではポーリッドが「あの兄ちゃん強いのか?」と心配そうな声を漏らしていた。
 そんな中で、いきなりの大歓声に呑まれそうなケントは、目つき鋭いクィーンと改めて目が合って、おまわずお辞儀をしてしまう。
「よ、よろしくお願いします」ハハハとおどけてみせたが、相手は一ミリとも笑顔を見せなかった。

               ※

 再戦のゴングが鳴った。歓声が戻り、もはやボロボロの鉄格子を震わせる。
 ケントは思わず構えたものの、クィーンの見せる冷たい視線に息を呑んでいた。
先ほど受けた拳のダメージが火傷の上からズキズキと傷んでいる。間違いなくストログか、それ以上の達人であるのは容易にわかった。
「さて、と」ケントが手にオーラを纏わせた。
 お互いに睨み合って緊張の糸が張っていく。そうして両者同時に動き出した。
クィーンは強靭な脚力を活かして、瞬時に間合いを詰めると鋭い突きを浴びせていく。それを上手く受け流してケントが防御に務める。突きに混ざって蹴りが飛んできたが、それさえも足にオーラを集めて防いで見せた。バシ!ガシ!と腕と足とで攻防の音を響かせて、両者は一度距離をとった。クィーンはウォーミングアップだと言わんばかりに、大きくニヤついていた。
「オーラ術者か…なるほどな」呟くクィーンの目が更に鋭くなった。
 瞬間、先程までとは段違いの速度でクィーンが飛び出した。一瞬にして目の前に現れた彼女に驚きながらも、反撃をしようとしたケントだったが、またすぐにクィーンは移動した。
 横から後ろへ、跳弾のようにまわりの鉄格子に張り付いていき――そして、遂にはケントの目が追いかけられなくなった時、真上からクィーンの蹴りがケントを襲った。
「・・・ッ!?」反射的に足にオーラを集めて回避に動いたケントだったが、充分に避けること叶わず手を掠めた。ジュ、とあまりの速度に熱を持っているのがわかった。しかし、それは同時にケントにとある思いつきを与えてくれた。
 ケントを狙ったクィーンの蹴りは直撃叶わず、そのまま床に着地――では済まなかった。
「なに!?」クィーンが言った。
 そのまま着地するはずの足が、勢いが強すぎたのか床を突き抜け埋まってしまったからだ。いくらなんでもこんな間抜けなことが起こるはずはないと困惑のクィーンは、己の足より赤い靄が昇っているのに気がついた。そして、なによりケントが掌から淡くオーラを発しているのを見て理解した。
今の飛び蹴りをかわした時に、ケントがクィーンの足にオーラを与えたのだ。そのせいで硬質化された足が床を貫いたのだった。
「いいぞケント!やっちゃえ!そんな痴女ウサギ!」
 そこへミカの声が飛んだ。横でポーリッドが「おい!失礼だぞ!」と怒っているのが見えた。
「おう任せとけ、こんな痴――…」そこまで応えたケントが、今あらためてクィーンの身体をまじまじと見て固まった。あまりにも、刺激の強い格好に今更ながらに目のやり場に困った様子を見せだした。床から足を抜く姿も、つややかで艶かしく見えて、会場全体がケントと同じ気持ちで声が湧いていた。
「おい、むっつりクズ男、ここで負けたら生ぬるい台風で窒息させるからね」冷ややかな目をしたミカの、生気の無い応援が届いて、ケントに姿勢を正させた。

「べ、別に、見とれてたわけじゃない…!その、相手を観察してだな、あの・・・俺は間違ってない!正常だ、男として正常だ」自身に言い聞かせてケントが大きく頷いた。
 視線の先ではクィーンが地に立って、今一度、手合わせと睨みを強めていた。あきらかに報復の意図を感じられてケントは、嫌な気持ちになった。
 そうして次にはクィーンが再び飛び出したのに、ケントはすかさず反応して、逃げるように飛び跳ねた。
「同じ手は食わない!」と、ケントは手刀を作ってオーラを集めた。真紅に染まった手刀がクィーンではなく、鉄格子に向けられた。そして。
「よ!は!せい!」クィーンの攻撃から飛び跳ねて逃げ回るついでに、ケントは自分たちを取り囲む鉄格子を全て切り裂いて、バラバラにしてしまったのだった。
「これで、跳ねっ子キックは使えないな」
 もうちょっとマシな呼び方があるだろうと、ミカの心声を知らずにケントが自信満々にクィーンに告げると、バラバラになった鉄格子の一部を拾い上げて、それにオーラを移した。
「そら!」「・・・チッ!」思い切り、オーラを纏った鉄塊を投げつけた。防御より避けることを選んだクィーンだったが、次には足を真っ赤に染めたケントが既に迫っているのに驚いた。ザクッと鉄塊が床に刺さると同時にケントは回避中のクィーンの足を掴むと、そのまま勢い良く投げ飛ばした。策を失ったリングは彼女を受け止めることはなく、その先の観客に向けて飛んでいく。
「おっと!!」ケントが気がついて再び足を動かした。俊足で駆けてリングの外に出ると、まだ浮遊状態のクィーンの真下についた。
 その時、ミカはポーリッドが「あ」と呟いたのを聞いた気がした。
 しかし次にはケントが観客席に飛び込む寸前のクィーンに飛び上がるのが見えて、そちらに意識を戻した。ケントはクィーンの腕を掴んで、今度は真下に向けて放り投げた。客席に突っ込むはずだったクィーンの身は勢い良く地面に打ち付けられ、そのまま上から振ってきたケントが拳を突き出して跨った。
「勝負あり、だな」
 クィーンの顔面スレスレで寸止めしたケントが言った。赤いオーラが顔に振れるぐらいで揺らめいているのに、クィーンは悔しそうな表情をつくった。それと同時に試合終了を告げるゴングが鳴った。
 瞬間、格技場は壊れんばかりの歓声で爆発した。歓喜、怒声、わめき、嘆きが入り交じったように聞こえて、ケントは耳を塞いで勝利の拳を突き上げた。ミカが歓声に消されながらも「やったやった!」と、ピョンピョン跳ねているのが見えた。
 ケントは、クィーンから少し離れて手を差し伸べた。クィーンは難しい顔をしながらその手を掴むと、ゆっくりと起き上がってケントはまた睨んだ。
「あ・・・あの、とりあえず、優勝賞品のことで・・・お話が・・・」と、ケントは勝者のわりに控えめに言った。クィーンの形相が鬼のごとく怒りに満ちていたからである。
と、そこへミカが満足げな笑みを作って駆け寄ってきた。
「文句はないはずよね?私達が勝ったんだか――」「ちょっとまった!!」ミカの言葉は、観客のだれかの叫びによってかき消されてしまった。そして次に次に声が飛んできた。
 すると「反則だ!」「ルール違反だ!」「失格だ!」などと、思ってもみなかった声が二人に突き刺さった。
「は?はぁぁ?どこが反則なのよ!?」ミカが観客に吠えた。
「・・・あのな」と、そこへポーリッドがバツの悪そうな顔をしてやってきて、ミカの肩に手をおいた。
「場外だ。あの、ケントくん、だったか――彼が最後リングから外に出ただろう?対戦中にリング外に出るのはルール上、逃亡とみなされ失格になるんだ」
 ミカは呆気にとられた顔をした。
「そ、そんな!それじゃ、あの痴女ウサ・・・――クィーンだってケントが放り投げて外に出たじゃない!」
「あれは空中だった。空中セーフってやつだ」
 ミカは苛立ちがピークに達した。
「ルール無用みたいなこと言っておいて、細かいやつらね!というか、それなら先に言いなさいよ!!」
 地団駄を踏んで、ミカが観客に向けて鼻息荒く吠えまくる。もはや歓声はブーイング一色に変わり、帰れコールの大合唱になっていた。
 ケントは、どうするでもなく、ミカや観客、それにクィーンにも目を配っていたが、ブーイング始まった途端にクィーンがピクリと反応して、ケントに向いていた睨みを観客に向けたのがわかった。すると。
「静まれ!!」クィーンが一喝。冷徹な視線を真に受けたことによって歓声は掻き消えた。
「確かに、ルールの上では私の勝利だ・・・が、勝負の上では負けを認めよう」
 クィーンの言葉に、会場がざわめき出す。ミカも、それでどうなるんだと顔をしかめていた。
「よって、今回は引き分けとする」また一段とざわめいた。
「引き分け?」「それって、先生はどうなるのよ?」ケントとミカと同じ思いで問いかけた。
「―――、交換することはできん。が、会わせてやるぐらいはしてやろう」
 ニヤリと笑ったクィーンに対して、ミカはパァと花が咲いたように笑顔を見せた。さっきまでの苛立ちはどこへやら、「やったー!」と大声で喜んでポーリッドに抱きついていた。
 会場は、未だに不服なものがいるのかざわめいたままだが、クィーンは気にせず、格闘場の奥へと足を勧めると、ケント達についてこいと促した。
 ケントとミカはお互い見合って頷いた。そして、ポーリッドに礼を言いながらにクィーンの後を追うのだった。

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