スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険

ツカ007

第六章 襲撃者 ヴィノとモック


「・・・おまえ、はしゃいでた割には静かだな」
「え?あぁ、ジョーキタイプじゃなかったからね・・・せめてスィンカンタイプだったらなぁ」
 冷めた声で言うミカの言葉に、ケントはどのタイプがどれが、どうとかはわからなかった。嘘ばではドリューは「そんことないよ」と反論しているが。まったく頭に入ってこない。

 列車の中は、満員というわけではなかった。カタツムリ族の老人が新聞を読んでいたり、肌の緑の子供が二人はしゃいで窓の外を眺めたり、ここで開けたら絶対臭うだろうという『吸血鬼お墨付きにんにく弁当』をあけるスーツ姿の中年男性、目が4つある何星人の何族かもわからない男(女?)がキツめのアルコールを飲んでいたりと、思っていた以上に上品さはないなという感じだった。10両にもなる長い胴を最後尾から順々に進んでケント達はいろいろと見渡してみた。窓の外は無論宇宙空間なので、半透明の星間トンネルをとうして銀河が広がっている。ワープのお陰で、自分たちの住んでいたパングリオンが既に点になって他の星々に同化していた。
「この辺でいいでしょ、座りましょう」
「無賃乗車してるってこと自覚しろよな」
 どれだけ歩かせるんだと、不満のミカは、ほぼ無人の車両にたどり着くと近くにあったボックス席にドカンと座った。続いて、ケントとジョットも座ったが、ドリューは車内が気になるのか、あれこれと見ましてせわしなく動いていた。
「そうだ、切符の確認って来るの?」
「あぁ。しかし、一度だけだ。その時だけリバリー号に戻れば問題ない。向こうのターミナルにはリバリー号を隠すところがないから、トンネル内に隠したままになる。ま、向こうに付けば連絡ぐらい、どうとでもなるだろう?」
「・・・・・ま、まあね」
 ミカはバツが悪そうに応えた。ケントは、博士がトキエイドにいるかどうかが確証がないので、そんな言い方をしているのかと思ったが、どうもそれだけでは無いようにも見えて首を傾げた。すると、ミカがパン!と手を叩いて無理に口を開いた。
「そ、そうだ!あんたのオーラって熱くないの?」
「なんだよ?いきなり?」首を傾げたままのケントだが、ミカからは「いいから答えろ」と言った視線が送られていた。
「ほぉ、・・・ケント、だったか。オーラ術者なのか?」
「あぁ、・・・まあね、ほら」とケントは、拳から赤い靄を昇らせて、まだ見たことなかったジョットに確認させると、すぐにポワッと消し去った。
「別に熱くはないな――熱いっていうか、炎っぽく見えるのはこの色のせいだろ?」
「・・・まぁ、それもあるかもしれないけど――なに?色って変えられるの?てっきり己の精神力とリンクしてどーたらとか、そんなだと思ってた」ミカが言った。
「違う。それに色は変えられない――・・・一応リクエストはしたんだけどな?」
 ケントの口から飛び出した『リクエスト』という意外な言葉にミカとジョットは疑問符を浮かべた。それにケントは一度頭を掻いてから話を続けた。
「・・・流派によって違うんだけど、うちのソーン流は師匠が弟子のオーラの色を決めるんだ。俺は5歳の頃に決められてさ、その時も師匠は酔っていたんだ」ケントの瞳が曇ってきた。
「当時、銀河バスケチームのマリンビーバーズに大好きでさ。そこのチームカラーがブルーメタルだったんだよ・・・――だからオーラの色を決めるってわかったときにはすぐに進言したさ――けど、『赤にしとけば無難だぁーよ、そんなに言うなら、ほれ、最高に嬉しい時にはハート柄が浮かぶようにしてるわい』と酔っぱらいの意見が返ってきた・・・・・・と、いうわけだ」
「そ、そう・・・」哀しげな瞳のケントにミカが、またくだならい理由だったなと息をついた。が、すぐにケントは息を吹き返して、再び口を開いた。
「まあでも俺のはマシなほうだぜ?ちょっぴり辛いことがあったら灰色になるとか、いつでも湯上がり気分の白とか・・・あぁ!でもラージ兄ちゃのは凄いんだぜ!?日によってランダムで色が違うんだ!金とか銀とかもあって、更にはレインボーなんて出た日は超レア確定なんだ!」
「あんたの師匠は遊んでるだけね」あのキッチンに貼ってあったイケメンの写真を思い出してミカが言った。あんなカッコイイのに身体から虹色を出していたら台無しではないかと、同情もできた。
「ふーむ・・・前に黒色のオーラ術者を見たことがあるが・・・そいつもそんな感じで決められたのか」
「こいつのお猿道場だけよ」「おい、ソーン師匠と呼べ」
 また口が悪くなってきたミカにケントが注意を呼びかける。だが、ミカは思いつたように「そうよ」と呟いた。
「だったら初めから色なんかつけなきゃいいじゃない?無色透明なら『オーラ使います』ってのもわからないし、敵だって油断するでしょ?」閃いた声でミカが言ったが、ケントの顔で「やれやれ」と表していた。
「あのな、暗殺拳じゃないんだ。ソーン流武術はオーラを出すことで『正々堂々戦いますよ』って宣言してるんだよ」
「ふーん、そんな真面目な部分もあるのね一応」
「・・・・・ま、でも、結局、極めると見えなくなるんだけどな」
 そう付け足したケントにミカもジョットも、どういう意味かと首を傾げた。
「オーラを出すには、それなりに力や気合を込める必要があるんだ。だけど基礎を鍛えていけば、その必要となる力も小さくなっていく――だから鍛えれば鍛えるほどオーラを出す必要性が無くなるんだ」
「ほぉ・・・それで、極めたやつはいるのか?」ジョットが問いかけた。
「スタア姉ちゃんが、多分そうだろうな。今まで組手だなんだで手合わせしてきたけど一度も勝てなかったし、オーラすら見たこと無いからな」
「あんたが弱いだけじゃないの?」
 ミカの冷たい一言に、ケントが眉間にしわを寄せて睨んだ。「本当のことでしょ?」と言わんばかりのミカとケントが視線をぶつけ合う。
「だったらスタアさんに来てもらえば良かったわ、あ?もしかしてお猿師匠のほうが、もっと強いとか?」ミカが意地悪く言った。
「ふふ、生憎と師匠は俺と互角の上、すぐに本気になってオーラを見せるんだ、その色が食事中にはとても見たくない色でな・・・まさにウ――」
ガスッ!と、次の瞬間、ケントに脳天に、ミカの小銃入りのポーチが激突した。最後まで言わせまいとミカがフルスイングで御見舞、衝撃でポーチの中身が飛び出すほどであった。ケントが目に涙を浮かべて悶絶している。
「下品な事を言うな!」と飛び出た銃をいそいそと片付けるミカ。しかし、その光景がジョットの目に止まった。ゴーグルの下で暗い瞳が一度瞬いて、次には口を開かせた。

「――その銃、『マーナ』が詰まっているのか?」
「・・・うぇ?!」
 ミカはその問いかけに凍りついたような顔見せると、変な声をあげて銃を即座にポーチをしまいこんだ。冷や汗をかいたミカにケントが、頭を擦りながらに首を傾げる。一方でジョットはひとり「なるほど」と呟いた。
「そうか・・・よく見ればその髪、その目・・・君は『魔法族』」か」
「え・・・あ・・・あの、これは、ただのドライヤーで・・・あと、それは、あんまり言わないで・・・」
 ゴーグル越しにジロジロみやるジョットに、更にキャップ棒を深くかぶって口ごもって応えるミカ。わざとらしく弾倉に空気を集めて、風を送り出して髪を乾かしている。
 横ではケントが、よくわからないといった風に「マホーゾク?」と呟いていた。
「なんだ知らないのか?最近だと、ほら、ファーストレディなんかがそうだ。あのな、魔法族というのは―――」と、ジョットがケントに説明しようとした、その時、後方車両から喚き声があがったのがわかった。3人が話を中断させてそちらを見やると、どうにも喧嘩らしい声がやかましく聞こえた。
「・・・・・・見てこよう、騒がれて巻沿いを食らっては面倒だからな」
そう言って版権を見せながらにジョットは騒がしい後部車両へと向かっていた。
 話半分で終ってしまったことで、ケントは続きが聞きたいと思ったが。ミカは話したくないらしく、目を合わせず窓の外の宇宙を眺めていた。よくわからない単語が出てきたな、と、ケントが思い返してみるが、それは脇から出てきた大きな毛もじゃの存在にかき消された。

「ねぇ、なんの話ししてたの?」
 車両を見回すのを終えて、ジョットと交代するようにドリューが戻ってきた。側のイスに腰掛けて妙な空気の二人を交互に見た。
「ミカが魔族とかって話だ」「魔法族よ!!人を悪魔の手先みたいに言わないでよね!」
もはや夫婦漫才みたいなってきたなとドリューが頷くと「へぇー」とだけ漏らした。
「ミカ、魔法族だったんだ?言われてみればそんな雰囲気あるよね」
「で、マホー族ってなんだ?」
「なんで、あんただけ知らないのよ・・・」
 呆れ果てたような目で見るミカに、ドリューが「まぁまぁ」となだめる。
「ケントはさ、自分が興味ないものには一切関心ないんだよ」
「じゃ、何に感心あるのよ」
「贔屓にしているコミック・ゲームの先の展開と、銀河アクションスター『セー・リュー』の最新映画情報だ!」
 拳を強く握りしめ滑舌良く言ったケント。その目には、これまでで一番の活力が満ちていた。そしてそれは同時にミカからケントへの評価が一段と下がる瞬間でもあった。
「・・・あんたは、おとなしく補習受けたほうがいいんじゃない?」
「こ、ここまで来て、そんなことを言うか・・・」焦るケントにミカの冷たい視線が刺さる。
「ちなみに、首都星トキエイドがどの辺にあるかわかってる?」ドリューが不意に問いかけた。「し、知ってるさ・・・!う、宇宙の右のほうだろ?」あきらかに『名前は知っているが位置はわからない』というように目が泳いでいるケントに、ミカは心底呆れ果てたような溜息を漏らした。
「あんたの担任教師やスタアさんが苦労しているのが目に浮かぶわ」言ってミカは地図を広げてみせた。
 ピッと手早く操作して、半立体映像のマップを最大限に縮小させる。目標地点していたトキエイドから、太陽系へ、そして銀河全土へと画面が変わっていく。そして、こんなものかと頷いたミカがビシっと地図の南の方を指差した。
「いい?ここが私達の暮らすミータッツ太陽系よ。この中にトキエイドもパングリオンもあるわ」少し教師気分なのかミカが引き締まった声で言う。
「で、この北の方、ぽっかりと何もない宙域があるでしょ?ここが古代人の暮らしたとさる宙域よ、1つの太陽系がまるまるあったとされているわ――」今度は地図の北の方を指差す。そこには広い銀河の一枚板に穴を開けたように、宇宙の闇が塗りたくられていた。
「俺、そういうオカルトはちょっと・・・」「歴史よ!」またミカが雷を落とした。
「・・・でも、その宙域の近くから古代遺産が多く見つかったり、ツールが異常を起こしたり、奇妙なことが続くっていうんで『魔の宙域』とも呼ばれているんだよ」
「やっぱりオカルトじゃねーか!」
 おどろおどろしく付け足したドリューに、ミカが「余計なことを言うな」と睨みをきかせる。口早に「噂」「迷信」「科学的証拠も見つかりつつある」とケントに言い聞かせてミカは疲れたように地図を片付けた。
 するとケントは「待てよ」と呟いて少しだけミカに迫った。
「結局、マホー族のこと聞いてないんだが?」
「う…!」またしても、ギクリとしてミカはそっぽ向くと(上手く話題をずらせたと思ったのに…)とブツブツ呟いた。しかしそれに、ケントもドリューも疑問符を浮かべて顔を見合わせると、おもむろにドリューが口を開いた。
「あのね、魔法族ってのは生まれながらにヒィアートを自在に操れる種族で――」ドリューがそこまで言ったところで、ミカの「わぁぁああ!!」という大声が言葉を遮った。
 そこまで言って欲しくない何かがあるのかと、キョトンとするケントドリューだったが、次には、先程騒がしかった後部車両が、また一段と騒がしくなったのに気がついた。ジョットが見てくると言っていたが、どうなったのか。半券は彼しか持っていないので扉は開けられなし確認のしようがない。
 「・・・見てみるか?向こうからジョットに開けてもらえばいいんだし」「やめなさいよ、変に目立ったらどうすんの?」気になって立ち上がったケントに、一緒になって立ち上がるとミカが制止した。が、次には、前方車両のほうから、バシュ、という音が聞こえてそちらに振り返った。
 音は前方車両の貫通扉が開く音で、ちょうどそこから誰かが出てきたところであった。肌が黒く両目に大きな傷跡がある体格の良い、スキンヘッドの男だった。奇妙な黒い装束に身を包み、蓄えた顎髭をリズムにのって触りながらに車内を見渡していた。
ケントは、その目――と、いうよりは雰囲気に嫌なものを感じて目つきを尖らせていた。
「・・・お!おおお!おいおい!本当に乗ってるじゃねぇか!?」
男はケント達を見つけたと同時に何かを叫んだ。ミカは男が自分を見ているような気がして、思わずポーチの中に手を伸ばした。
 すると男はずんずんとケント達に歩み寄ってきた。よく見れば背中に十字型の金属か、ヒィアートツールのようなものを背負っている。そうして男は品定めをするようにミカを上から下まで舐めるように見やった。そして、気味の悪い笑みと共に口を開いた。
「同行か死か、お選びください――ミカ・フェリアお嬢様?」
「ッ!!」
男の目がギラリと光り、ミカは青い顔をしてケントの直ぐ側に詰めて男に警戒の目を見せた。
 男から飛び出した「死」と「お嬢様」という言葉に疑問のままのケントとドリューだが、男が何か危険だと感じて目を合わせた。
そこへ――。

「――まずい!今すぐリバリー号に戻れ!」
 バン!と後部車両の貫通扉が弾けて開いてジョットが飛び出してきた。が、その動きはケント達に迫っていた男を見て、止まってしまった。
「遅かったか…!」
 呟いたジョットだったが、次の瞬間、彼を後ろから誰かが蹴り飛ばして車両の床に転ばせてしまった。「ジョット!」ドリューが叫んだ。が、次には新たな来客が続いた。
「どけよ、おっさん」ジョットの後ろから現れたのは蜘蛛族の男であった。
 黒い肌の男と同じく奇妙な黒い装束を着ており、腰部には見たことのないツールが幾つか釣らされている。そして不気味な六角形の目を動かして、この男もまたケント達を見て気色悪く笑った。
「どうだヴィノ?俺の言ったとおりだろ?絶ぇぇぇっ対、に乗ってるって?」蜘蛛男が言った。
「あぁ、俺の負けだモック!今日は俺のおごりにしてやるよ!」
 黒人の方も身振りを大きく応えてみせた。
そうしてお互いに何かを確認するように頷くと、再び三人に視線を向けた。
 否。、その目はミカに向けられていた。

                            ※

 ケント、ミカ、ドリューを奇妙な二人が挟み撃ちにしていた。ヴィノと呼ばれた肌の黒い、目に傷がある男、反対にモックと呼ばれた背の低い蜘蛛族の男。床には背後から蹴り飛ばされたジョットが倒れており、蜘蛛男のやってきた車両の方から、少ない客達がざわめきと悲鳴上げていた。
 至極まっとうである。二人は奇妙な黒い装束に身を包み、お互い不気味に見合っては、とても気持ちいいとは言えない笑い声をあげていた。「ツイてる!」だとか「ちょうどいい」だとか、それぞれに口走っている。
「――ケント、こいつら…あの傭兵と同じよ」
 するとミカから嫌な答えが聞こえてケントは生唾を飲み込んだ。やはりというか、どう見ても危険人物にしか見えない二人組である。しかし、そんなやつが簡単に星間列車に乗れたのかが謎でもある。自分たちのように便利屋か何かに頼んで乗り込んだのだろうか。
しかし、あれこれ思考する間もなくヴィノの方が、再びミカへ傷のある目を向いて迫った。
「どっちにするんだよ?お嬢様?」
 瞬間、ヴィノが背負っていた十字型の金属に手を伸ばすのが見えてケントはミカとの間に割って入った。その腕に赤を燃やしてヴィノの鼻先に突き出して制止の意を無言で伝えた。
「…あぁ、そうか、お前がストログとやりあったていう――」手を止めてヴィノが言う。
「・・・あんたら、あのカブトムシの仲間か?」
「仲間ぁ?!」蜘蛛族のモックがおどけたように言った。彼もまた一歩迫って、こちらはドリューに間近にまでやってきた。
「あんな樹液吸ってるようなやつと一緒するなよ?どうせナンバー1だってのもイカサマしてるんだ…!まぁそれによぉ……それに今日から俺達が――」モックとヴィノが目を合わせた。
「ナンバー1だ」二人の声が揃うと同時に、ヴィノが握っていた十字金属を振り下ろした。
「きゃ!」
 ガシッ!とミカ目掛けて振り下ろされた金属を、ケントが拳を真っ赤に燃やして受け止めた。「ほぉ」と感心のヴィノだが、ケントが受け止め掴んでいる部分からはミシミシと軋む音が聞こえた。
「どけ!モグラ!」「わ!?」と、次にはドリューを邪魔者に蹴散らしたモックが、その蜘蛛顔の口から、糸を吐き出した。その糸はミカに向けて放たれたが、それさえもケントが金属を抑えた反対の手で防いで見せた。が。
「げ!?」
 防いだほうの腕が、ぐちゃぐちゃの糸に絡め取られてしまい自由が効かなくなってしまった。そこへモックが腰部に下げていた飾りの1つ、小さなクナイを素早くケントに投げつけた。
「ちっ!」仕方なくヴィノの金属を力せに押し返すと、横から飛んできたクナイに合わせてガードを取った。片腕を塞がれているが全身にオーラを纏わせて防御には成功した。
「こっちがガラ空きだぜ?」ヴィノの声が聞こえた。
 モックのクナイ攻撃に意識を持っていかれていたケントが、次にヴィノを見たときには、ミカに向けて十字型の金属を野球をするように振りかぶっているところだった。ミカも、どうにかしようと銃を構えるが――。
「くそ!」
――間に合わない。そう判断したケントは自由の効く片腕でミカをひっつかむと自分に抱き寄せて彼女ごとオーラで包み込んだ。
「おらぁ!」
 次の瞬間、ヴィノの容赦ないフルスイングが二人を襲った。赤のオーラに纏われた二人は硬質のボールのように車両の壁にぶちあたり、そのまま勢いを殺すこと無く壁を破壊、突き抜けてしまった。
「ケント!ミカ!!」ドリューが叫んだ。
 二人の身は、走行中の列車の空いた壁の穴から落下していってしまった。ヴィノは笑いながらに追いかけて穴から飛び出すと、モックもまた追いかけて飛び降りてしまった。
 ドリューは、何がなんだかわからなくてパニックになりそうな自身を押さえつけて、自分も後に続こうと動こうとした。が、その脚をジョットが掴んでいた。
「追いかけなきゃ!」ドリューがサングラス越しにもわかる焦った顔を見せる。
「・・・待て、おそらくまだ無事だ――トンネル内には空気がある、リバリー号に戻って救援に行くほうが安全だ」
 大穴から吹く風に、不安げな表情を作りながらもドリューは頷くと、起き上がったジョットに続いて、最後尾にある便利屋の宇宙船めがけ駆け出した。

                          ※

「んが!」「きゃぁ!」
 今度は星間トンネルの壁にぶつかって、ケントとドリューが声を上げた。トンネル内には宇宙空間で列車が事故を起こした際にも対応しやすいように空気が充満し、更には壁側を歩きやすいように磁場も発生している。よって実際には巨大な半透明の円柱ケースに立っているが、さも宇宙の真ん中に放り出されたように見えても可笑しくはなかった。
 ぶつかった衝撃でオーラが消えて、ケントとミカが身体を打ち付けた場所をさすりながらにお互いに、ジロジロと見やった。どうやら、これといった大怪我は無いをわかったが、ミカが上の方を指差して「あぁ!」と声を荒げたのにケントは振り返った。
「列車が!!」
 星間列車が無情にも二人を残して走り去っていくのが見えた。そして、次にはそこから勢い良く降りてくるヴィノとモックもまた、見えてしまった。
「・・・星間トンネルに降りれるなんて、なかなかないんじゃないか?」
「あぁ、あとでSNSにアップしようぜ」
 まったく緊張感を持たずにヴィノとモックは二人の前に、着地してニヤリと笑った。
しかし、そんな二人に向けてミカが帽子の下から険しい顔を覗かせて、銃を構えた。
「あんたたち!だれに雇われてるの!?」
銃口を突きつけられたヴィノとモックだったが、それでもニタニタを笑ったままで肩を上げては笑い声を漏らした。
「そんなことぐらい、もう知ってると思ったぜ」モックが馬鹿にした声で言った。

                           ※

「バルン!至急発進だ!!」
 急ぎ、リバリー号にまで戻ったジョットとドリューが。ジョットの叫びが透明状態の船上から飛ぶと「アイアイサー」こ返事とともに色を取り戻して、エンジン音がうなりを上げた。ジョットはドリューに「急げ」と促して、共に宇宙船へと飛び乗った。
「次のワープが始まる前に出なくては、手遅れになるぞ!!」
「リョウカイ デス」バルンが細い機械の腕をテキパキと動かして出発の準備をする。と、そんな中でもドリューは気になっていたことを問いかけてみた。
「なんで列車は止まらないの?」
「あの二人組のせいだ、おそらくな」もうひとつの運転席に移動したジョットがドリューの方を見ずに応えた。
「初めからミカがこの列車にいると踏んで探していたんだ。蜘蛛の方は乗客に片っ端からを脅しをかけて回っていた・・・もう一人の方は、おそらく車掌か運転手を脅迫していたんだろう――『絶対に止まるな』とかな」
 ジョットの声に続くように隣から「ハッシン シマス」の声がとんだ。
同時にジョットがOKのサインを出すと、リバリー号は列車を離れて、ケントとドリュー救出に向けて動き出した。

                           ※

「知ってるって?どういう意味よ?!」
「…なんだ、ストログのやつ言ってなかったのか――冥土の土産に依頼主を明かすのがあいつの『お情け』だったんだがな」
「それほど切羽詰ってたとかか?」モックの発言にヴィノが合わせてギャハハと笑った。
 ケントもミカも、二人を睨む視線を強めたままだった。あきらかに強い。ストログほどかはわからないが、あいつとは戦い方が違う――なにより『嫌いな戦い方』に思えてケントは気分が悪くなった。

「さて、悪いが俺たちに『お情け』はないんだ…一緒に来てくれないなら――――こうだ!!」言うが早いか、ヴィノは、持っていた十字の金属の中心にある奇妙なスイッチをタッチしてから、それを力の限りに投げつけた。
 同時に回転して飛ぶ十字金属が、縦横四方から刃を伸ばして大きな手裏剣と化すと、その身をケントとミカに迫らせた。
「うぉおお!!」
 ケントが、銃で応戦しようとしていたミカの前に立って吠えた。両腕を真っ赤に染めて塞いでいた糸を無理やり引き剥がすと、目前に迫った手裏剣に両手を伸ばした。
 回転する手裏剣と、それを受け止め踏ん張るケントととの間で、オーラと火花が激しく上がる。「うぐぐ!」と力を込めれば込めるほどにケントの両腕は赤の濃さを増していく。そうして遂には手裏剣を押し返した始めたケント。だが、次の瞬間、ヴィノの方からパチンと指を鳴らす音が聞こえたかと思うと、急に手裏剣が軽くなったのがわかった。
「!?」
 なぜなら手裏剣が、一度後ろに引いて、更には伸ばしていた刃を『飛ばした』からだった。そして飛ばされた4つの刃はケントとミカを襲うでもなく、その後ろ――星間トンネルの半透明の壁に突き刺さった。
 驚いて振り向くケントとミカ。刃が突き刺さった位置からは罅が走り始めていた。それ見た瞬間ケントもミカも血の気が引いて『まずい』と思った。同時にその思いは現実となった。4つの位置から走った罅が中央でぶつかった瞬間、トンネルの壁に穴が空いたのである。今度は列車の時とは違う。トンネルの向こうは『真空』の宇宙なのだ。
「嘘…――」「ミカ!!」
 刹那、開かれた穴はトンネル内の空気を、そしてケントとミカを、宇宙空間に吸い出してしまった。凄まじい音を上げてトンネルが揺れる。
「モック!」「まかせろ!!」
 と、間髪入れずヴィノが叫ぶと、モックは口から巨大な糸の塊を吐き出して、開いた穴に撃ちだした。バッ!と網のように、いくつも糸が広がって穴を覆い尽くしていく。そして巨大で粘着力の強い蜘蛛の巣が何重にも張られたところで宇宙への吸い込みは止まってしまった。
 「・・・ふぅ」伝わっていた空気の振動が治まったトンネル内にヴィノの声が響いた。
 穴に糸の詰め物をしたぐらいで、他は普段の星間トンネルとなんら変わりないのないものである。
「・・・一丁上がりだな」「大したことなかったな!」ギャハハと二人の笑い声が木霊した。
「――さてと、どうやって戻るか、だ」
 するとヴィノが手裏剣を背負い直しながらに、走り去った列車の方を見上げた。
「やっぱり考えてなかったか、ほれ、これに掴まれ」と、モックが言いながらに腰部から垂らした長い糸のようなものを見せた。
「列車とつなげたままだ――」そう説明するモックの腰部では、長い糸がものすごい早いさでスルスルと動き回っていた。彼の言うとおり星間列車と自分の腰部を糸で結んできたのだろう、とんでもない距離の糸が、まだまだ先があるぞと動いている。
「ワープが始まる前に戻るぞ」「へへ、ぬかりない奴め」
ナイスな判断と口笛で褒めるヴィノが糸を掴んだ。すると次には、糸が光ったかと思うと二人は光りに包まれ消えてしまった。結ばれた糸の先で星間列車がワープを開始した証だった。

                          ※

「・・・――ワープしたか、ギリギリだったな」
 後方で消え去った列車を確認して、ジョットは呟いた。列車の最後尾からリバリー号で飛び出してケントとミカを救出に向かっていた。背後ではドリューが落ち着きなく、あれこれと不安げな声を連ねていた。
「あぁ、大丈夫かな…こんなことになるなんて――・・・」
 何度もその類の言葉を吐いては、身体のあちこちを動かしている。しかし、そこへバルンの「クウキ リョウ ノ イジョウ ヲ カンチ」という言葉と共に船が急停車してジョットとドリューを船の外へと駆り立てた。
「・・・――穴が空いて、詰め物をされたのか?」
 ジョットがトンネルの壁の一部が粘着性の高いもので詰め物をされているのに気がついて触ってみた。側には壁の破片を散らばっている。
「ね、ねぇ――ケントは?ミカは、どこいったのかな?」
「・・・――――」
 ジョットは無言だった。ただ、嫌な思いを巡らせながらに外の宇宙をゴーグルの下から睨んでいた。・・・と、そこへ。
ウー!ウー!
「警察!?」ドリューが叫んだ。しかし横でジョットはゴーグルを外して、まさかといった表情を作っていた。呟くように応えた。
「違う…――――『軍』だ…それも、太陽系政府軍のな」
 赤と青のランプを光らせて一台の空飛ぶ戦車がやってきたのだった。タイヤの無い装甲車から細身の砲台が伸びており、そのすぐ上にはハッチが用意されている。徐に、ハッチが開くとそこから一人の男が飛び降りてきた。
 スタッと綺麗に着地して顔をあげる。シルバーブロンドの長髪をなびかせて、まるで絵に描いたような二枚目で整った顔立ちの男が、長いまつげに似合う綺麗な瞳に熱を込めて、二人を見やった。

「・・・便利屋か、無賃乗車ぐらいなら見逃してやってもいいと思ったが、列車強盗とはな」
「なに?」ジョットが唸った。
「不審な二人組の通報があってな・・・あぁ・・・だが、それより――」
 男は、首を横に降って「言うべきことは、そんなつまらないことじゃない」と自身に言ってから。ジョットとドリューを鋭い眼光で睨みつけた。
「――令嬢誘拐は罪が重いぞ」
その言葉に二人は目が点になった。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品