スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険

ツカ007

第五章 便利屋ジョット


「見えた!あれね!」
定期船を駆け下りてミカが一方を指差した。巨大な銀鉄鋼の施設が広がり、その上空に半透明の大きなケーブルの先のようなものが、更に天へと天へと延びているのが見えていた。それこそ星間トンネルの入口であった。
 ケントとドリューを急かせて船から降ろすと、ミカは再び時間を確認した。発車時刻までは残り30分となっていた。時計とターミナルの奥を交互に見やる。
 日に一本しか出ていないとは言え、列車自体を見たいだけのものも多いのか人混みはそれなりである。施設はプラットホームだけでなく列車を展望するために、二階部分を一面展望デッキにしてある。ちょどうそこから降りてきた半魚人のような親子が「かっこよかったね」なんてと話しているのも聞こえた。
「…よし、なんとか間に合いそうね」改札の位置も見つけてミカは言った。
「さすがの混雑ぐあいだね」
ドリューが辺りを見渡して感想を漏らした。ララックルルックとも劣らず、他種族がごった返しいる。しかし、ララックルルックと違うのは太陽系政府の公的施設であり、その警備にも星間警察などが控えている。特殊部隊だろうか、番号を叫んでは何かの練習をしているのも見える。

「スリとかに、あうなよ?」
 ケントがあまりの人の多さにミカに告げた。しかしミカは「そんなヘマするわけない」とイーッ!歯を見せて、改札向けて足を進め直した。
 人混みをかき分け3人はどんどんと改札へ近づいていく。だが、近づくにつれドリューには「あれ?」という疑問が浮かんできた。
「そういえば、切符どうするの?」「そうだ、任せろとか言ってたよな?」二人が次々に言った。
「ふふん…!」
ミカは足を止めると、ニヤリと笑って二人に振り返った。そのままポーチに手を突っ込むとゴソゴソと一枚のカードを取り出してみせた。
「ひれ伏しなさい!」ミカの持つカードが日光に照らされキラリと光った。
同時にドリューが驚いて飛び上がり、ケントは「なんだそれ?」と言って首を傾げた。
「あ、赤札!レッドパスだ!!」
「あかふだ?そのカードのことか?」
「何で知らないのよ?!」
 首を傾げたままのケントにミカが怒鳴った。興味なさげのケントにドリューが、このカードがどういうものかを簡潔に説明しだした。
「超セレブか太陽系政府役人とか、それこそ職星4以上の人ぐらいしか持っていない、フリーパスだよ!ホワイト、ブルー、ゴールド、レッドの順に使用範囲も限度額も上がるんだ、赤札なんてほぼ無制限なんだよ!」
「……じゃ、なにか?それがあれば豪遊し放題、スキノ屋のバイソン牛丼も食べ放題ってわけか?」
「――・・・例えが安っぽい男ね」
 ようやく理解したかとミカはレッドパスを見せびらかして言う。その凄さにケントもドリューも騒ぎ出してミカへと羨望の眼差しを見せだした。

「ミカさん。私は、あなたがただ者ではないと見抜いていました。パスさん…――ミカさんとは卒業後も良い関係を築けていけると信じています」
「僕ね!1/1スケールの古代船フィラデルのレプリカが欲しい!」
「……あたんらには人を『褒める』ってことができないの?」
 まったくもって欲望に忠実な二人に呆れた目を捧げるミカ。はいはい、と軽く受け流して踵をかえす。
「あのね、このパスは私のじゃないの。お父さんからちょっと『借りてる』だけなのよ」
 パスを手にしたままにコツコツと改札へと近づいていく。もう時間もさほど無いのだ、ささっと切符を買って準備をすませよう。
「ま?これで私に任せれば職星4以上なんてどうにかなるって理解でき――」
 後ろにいる二人に説明しながらのミカだったがそこで言葉が切れた。

バシッ!

「へ?」「え?」「え?」
 妙な音がしたと思ったら、次にはミカの手からパスが消えていたからだ。
「「「!?」」」
三人共に驚愕して消えたパスを一斉に探した。すると、それは地面に落ちていた。
 否、落ちていたのではない。誰かがそれを『背負っていた』のだ。瞬間、パスは猛スピードで走り出して3人の前から逃亡した。
「うえぇえええ?!なんで?!」思いがけないことにミカが声を上げた。しかし、ドリューはパスを背負った何者かを捉えていた。
「スリだ!」ドリューが叫んだ。
彼が見たのは、パスを運ぶ小さな体をしたイタチであった。

         ※

「返しなさい!私のパス!」焦ったミカが銃を取り出した。
「馬鹿か!やめろ!」
 ケントが急いで止めてポーチにしまい直させた。人がたくさんいるし、なにより屈強な警備もわんさかいる。こんなところで発砲すればどうなるか、視線と表情だけで伝えて興奮気味のミカをなんとかなだめた。しかし、その間にもイタチは人混みに消えていき、見えなくなってしまった。
「どどどどうすんのよ!」
 慌てるミカに対してケントは少しだけ思考を巡らせると「…やってみるか」と呟いて力を込めた。
 すると両耳から赤いオーラを昇らせると、そのまま伏せて耳を地面に密着させた。
「な、なにやってのよ?」
「しー…聞き分けてるんだよ、スリの足音を」
 ドリューの言うとおり、ケントは全神経をターミナルを行き来する人波の足音に向けていた。ほとんどが歩行のリズムである。そしてその中に突起したリズムである。他の歩行のリズムよりもあきらかに早い。これは走っているのだ、それもかなり急いで。
「見つけた!土産物屋の側だ!――ドリューいけるか?」すぐさまケントはドリューに顔を向けた。
「OK!…って言いたいところだけど、流石にここは硬そうだよ」
 爪を伸ばして言うドリューは舗装された地面を見つめた。そう、二人の考えは人混みを縫って進むよりドリューが地を先行して先回りしたほうが有効だと考えたのだ。だが、前に砂浜を掘ったのとは違い、ターミナルの地面はしっかりと舗装されているのだ。
「それより硬ければいいんだろ?」
 と、即座に閃いたケントはドリューの爪に手を当てた。同時にケントの腕に赤いオーラが昇ると、それはそのままドリューの爪に移行して真紅に染めた。
「おお!すっごい!――…よーし!!」
 気合を込めたドリューがそ足元の地面を爪を当てた。まるでプリンでもほじくるようにいとも容易く地を掘るとイタチの速度を超えるスピードで地中を突き進むのだった。

         ※

「やった!レッドパスだ!間抜けな金持ちめ!してやったぜ!」
 唐草模様の頭巾をかぶった、スリ師のイタチは、嬉しさに声が漏れていた。人々の足元を縫って駆け抜けていく。彼にとってスリは常習となっていたが、これほどまでの大物は初めてだった。故に心が踊っていた。
 あのターミナルはずれの土産物屋側に地下へと抜ける小さな隠し穴がある。そこまで行けば誰にも追ってこれない。あとほんの僅かで限度金額無制限の夢をつかめると、目を輝かせたイタチだったが、入るべき隠し穴から赤い靄のようなものが昇っているのに気がついて急ブレーキを掛けた。
「なんだ!?」驚いたイタチだったが、次の瞬間、ガボッ!隠し穴は陥没し、そこから真っ赤な長い爪が生えた。そして爪が引っ込んだかと思うと今度はモグラの鼻先が出てきた。
「げ!」
「観念しろ!パスを返すんだ!」ドリューが顔だけだして叫んだ。
 同時に追手だとイタチは瞬間的に理解した。そして唯一の安全地帯で地帯であった地下への道を諦めて、緊急回避と踵を返し無我夢中で駆け出した。それを追ってドリューもまた地下に潜り泳ぎだす。
 地下から不気味な音が追跡してきてイタチの不安を煽っていく。そうしてどこをどうを走っているのかよくわからないままにイタチは駆け抜けた。
「はぁ…はぁ…」
息を切らして改めて見渡した。いつのまにかターミナルから離れてしまったようで人混みがなくなっている。しかしここまでくれば息を整えようとしたイタチだったが、今度は目の前に何かが降ってきた。
「うわ!」「確保!!」
降ってきた何かは足を赤くした人間の男で、その男の手の中に素早く捕らえられてしまった。そのお陰で、根性で持っていたレッドパスも手放してしまった。
「放せー!!」叫んでみたものの男は逃す気はなく、イタチがどれだけあがいても無駄に終ってしまう。
「ケント!よかった!」と、そこへさっきからの不気味な追跡音がボコッと地面を割って再びモグラの顔を現した。
「あぁ、ドリュー、ナイス誘導だったぞ」
「そんなつもりでもなかったけどね」
 ちょうど効果が切れて爪も元の色に戻って、ドリューは穴から抜け出すとパッパッと服についた土を払った。
「スリごときに俺達の卒業を邪魔されてたまるか、こい!星間警察に突き出してやる!」
「急ごうよ!もう時間がないよ!」
 暴れるイタチを押さえつけるケント、ドリューは時間を確認して叫んだ。それもそうだと二人はレッドパスを回収しようと先程手放されたはずの位置を確認した。
が――。

「「あ」」

――パスは、地面に空いた穴の側にあった。
しかしその身は、赤い爪の衝撃で真っ二つになっていた。

        ※

「どーすんのよ!!このアホ共!!」
 鳥かごのような牢屋に入れられて護送されていくイタチを背景にミカが激しく怒鳴りつけた。その手にはキレイに両断されたレッドパスが握られていた。更には追い打ちをかけるように『15時発トキエイド行、星間列車、まもなく出発します』とアナウンスが響き渡った。
「あぁぁ、パスをなくすなんて!あとで絶対怒られる…!」
 嘆くミカの目には、乗り遅れまいと改札を急ぐ人々が映っていた。自分たちもあの中に――いや、あれより余裕を持って乗れるはずだったのに、どういうわけか無駄になってしまった。と、いうよりはパスが使えないなら、ほぼ一文無しである。
「悪かったって…俺もドリューも必死だったんだ、それにスリを捕まえたんだ、感謝状もんだと思わないか?」
「感謝状でパスが返ってくるならね!!」
ケントの声を打ち消すようにミカが怒鳴り続ける。
「ご、ごめんなさい…今度、勇者カワズのコミック全巻貸すからさ」
ドリューの言葉にミカは少しだけ静かになった。そして小さく「…何冊出てるのよ?」と聞いた。
「二冊」ガスッ!とチョップがドリューを襲った。
ミカは怒鳴りつつも「とりあえずは借りる」と約束づけて、深い溜息を漏らした。
 発車時刻は刻一刻と迫っている。この状態からどうやって列車に乗ればいいのか。時間がないことに焦らされて案が思いつかない。イライラでぐるぐるとその場を歩き回るミカ。
 するとそこへ聞きなれない声が飛んだ。

「お困りかい?」
 三人は声のした方に振り向いた。そこには奇妙なゴーグルを付けた鳩族の男が立っていた。ホワイトグレーの体色に小さな嘴が動いている。そして腕化した羽を動かして、ゴーグルに挟んだ羽飾りを撫でると、ケントたちへと手を差し伸べた。
「列車に乗りたいんだろ?助けてやってもいいぜ?」
 突然の申し出に三人は困惑しお互いに顔を見合わせた。「誰か知り合いか?」と目だけで会話するが全員が首を横に降った。すると代表したようにミカが口を開いた。
「あ、あの?あなた…なんなの?平和の使者とか?」
「はっはっは!古代ジョークか?久振りに聞いたぜ……――俺は、こういうもんさ」男は上着につけた腕章をグイと引き寄せた。
「便利屋ジョットだ――よろしくな」
 腕章には古代語で『べんりや』と書かれていた。だが、はっきり言って古代語を誰しもが読めるわけではない。解明されていない文字も多く、多用されているというわけでもない。最近では意味もわからずファッションデザインの一部に組み込まれたりしているが、この男もまた、そういった「かっこいいから」という理由で、わざわざ古代語を使っているのだろう。そんなところが三人のもった感想であった。
「そ、それで、便利屋さんが何の用?」
 また改札をチラリと見たミカは、おそらく最後の乗客だろう、駆け足でホームへ向かっていく人を見た。
「言ったろ?助けてやってもいいって?星間列車乗りたいんだろ?」
「そんなことできるのかよ?」ケントが問いかけた。
「…あぁ、だが、それなりの金額にはなるが――そこは君たち次第だ」
 再びアナウンスが鳴って、遠くの方で車掌の方向確認の声が聴こえる。
「私達しだいってどういう意味よ?」ミカは口早に言った。
「赤札持ってる――いや、持ってたんだろ?ヴィジェルグ…あのイタチが騒いでたぜ?『レッドパスだ!あのアホっぽい女からなら楽勝で頂きだぜ!』って」
 瞬間、ミカの冷たい目が便利屋ジョットを襲った。
「おいおい、言ったのはあのイタチだ、俺じゃない」身振りを大きく羽腕を動かす。
「それならお生憎!もうパスはないわ、美容師が切りすぎっちゃったみたいだからね」
プンプンと真っ二つのパスを見せるミカ。しかし、ジョットは笑ってみせた。
「わかってるさ。どっちにしても君か、君の近しい人が赤札を持てる地位にあるということだろ?だったら、その人に便利屋料金を払ってもらえれば文句はないさ」
「――要は後払いでいいってこと?随分と気前がいいじゃない」
「普段はもう少しふっかけるのさ、切羽詰ったやつはかなりの金額でも払うからな、だが赤札を持つぐらいのやつなら、そのふっかけた金額さえもはした金だ――後で言っても、渋ること無く軽く支払ってくれるだろうからな」
 まるで計算づくだと、男が言い、そして、最後に付け加えた。

「さぁ、列車に乗らなくていいのか?」
 ちょうど星間列車発車のベルが鳴った。

         ※

「どこいくのよ?」不安げなミカの声が飛んでいた。
 ジョットが付いてこいと、3人を案内していたが、プラットホームとは真逆の方であった。どんどんとホームからは離れて、ターミナルのハズレの方、土産物屋の近くまでやってきた。ドリューがそこに先程開けた、穴が開きっぱなしを見ながらにジョットに続いた。そうして彼の足は土産物屋の近くどころか、その店内へと入っていった。
「よぉ」かるくジョットが挨拶した。
 すると、カウンターにいた店主であろう太った片眼鏡の中年男性が、それに合わせて頷くだけだった。店内には星間列車関連のグッズが豊富に置かれていた。クッキー、チョコレート、グミ、昆布、羊羹、変形玩具や、タイアアップアニメのポスター等。中には列車とは全く関係ない地方産のお菓子や漬物まで置いてある。何人かの男子学生らしいグループが木刀を見てはしゃいでいる。
 ミカは、『歴代星間列車、コンプリートスケール』と書かれた模型の箱を嬉しそうに眺めていたがジョットに急かされて、元の不機嫌に戻った。
「こんなとこきて、どうするよ?列車はもう出ちゃったのよ?」
「わかってる、そう騒ぐんじゃない」
 再びの問いかけにジョットは軽く流すと、店主に妙な合図を送った。すると店主は無言のまま頷いて、カウンターに備えられていた小さなボタンを押した。同時に、4人の脇にあった『漬物』棚が横にスライドして、その後に何かの入り口が現れた。入り口には暖簾がかかっており、そこにはジョットの腕章と同じく古代語で『便利』と書かれていた。
「こっちだ」ジョットが言って暖簾をくぐると、ケントたちもは、怪しいと思いながらも後に続いた。
 四人が進むと、棚はまたもとに戻って入り口は閉ざされてしまった。しかし、その代わりに、今いる空間がライトで照らされた。鉄色しか見えない廊下と、地下へと続く階段が一つだけ。ジョットが迷いなく、足早に階段を降りていく。
 そうして、ジョットに続きケントたちも階段を降りると、その先にあったものに目を疑った。

「こいつで星間列車を追いかける!!」
 ジョットが声を大にして言った。ケントたちの前にあったのは、なんと小型宇宙船を置いたドックであった。多種多様なヒィアートツールが乱雑に置かれた広い空間で、空間の奥には大きな穴が空けられていて、外へと続くレールのようにみえた。そして宇宙船は、みるからに新品ではなく、ところどころに痛々しい修復箇所も見受けられた。もとは直線的なデザインだったのだろうが、継ぎ足した部分が凸凹や丸みを帯びていて全体のカラーもシルエットも滅茶苦茶である。更にはまた、ジョットのセンスなのか、ボディに古代語も記されている。
「す!すごい!これってまさか古代船!?」
「お?わかるかモグラのボーズ?だがな、ハズレだ――ベースは払い下げられた軍用船だ、俺の趣味で修復に古代パーツを継ぎ接ぎしているがな」
 ドリューが少年の様な瞳を見せていた。横ではミカがそれに近い目をしていたが、どちらかという「感心」といった感じで息を付いていた。
 古代船や古代パーツは、言わば古代人の使っていたと『される』遺物である。時たま宇宙空間を漂っていたり、惑星に遺跡として残されていたりと、あきらかに現代のものとはいえないものが出てきたりする。しかし、それでもヒィアートを使っていたことは確かで互換性もないこともないらしい。

「乗り込め!列車が一度目のワープをする前に、最後尾の車両とドッキングする!」
 宇宙船のハッチを開けて、ジョットがひらりと中に乗り込んだ。すぐに「行こうよ!」と張り切ったドリューに、ケントとミカが改めて宇宙船を見つめ「本当に大丈夫なのか」と呟いて続いた。
 宇宙船の中はお世辞にも広いとは言えず4人がコックピット部分に立っただけでいっぱいっぱいであった。操縦席は2つあり、その一方にジョットが座った。そして。
「よし!出してくれ!」
 瞬間、3人が「え?」と目をパチクリさせた。
「…あんたが運転するんじゃないのか?」
「当然だ、俺はパイロットではないからな」
「じゃ、じゃあ誰が運転するのよ?」
 ミカが問いかけたと同時に宇宙船内に駆動音が湧いて、次々に船内全てのランプが点灯していく。色とりどりのランプが咲き誇ると同時に機械的な音声が聞こえた。
「システム、オールグリーン、スグニモ シュッパツ デキマス」
 ケント、ミカ、ドリューが聞こえた電子音声が隣の運転席から聞こえたのに気がついてそちらを見た。そこには、後ろからは背もたれで見えていなかったのだろう、小さな物体が『浮かんで』いた。小さなフリスビーの様な円盤で、両脇から万力型の細い機械の腕を生やしている。
「そいつがパイロットロボのバルンだ!」ジョットの紹介に3人に衝撃が疾走った。
 バルンと呼ばれた小型円盤型ロボはくるりとケント達の方へ向くと、丁寧に一礼した。
「ハジメマシテ ベンリヤ リバリーゴウ ノ パイロット バルン デス」
「は、はじめまして!」
 慌てて頭をさげるケント。釣られてドリュー、ミカも頭を下げた。

「よーし挨拶はそこまでだ!ワープが始まっちまう!バルン!出航だ!!」
「アイ アイ サー」
 ゴーグルをいじって気合を入れるジョットへ丁寧にバルンが返答すると、手前にあったレバーを向こうにお仕上げた。同時に駆動音が一段と増してやかましくなった。
「便利屋リバリー号、発進!!」ジョットが自慢げに言い放った。
 瞬間、4人と1台を乗せた宇宙船は、目の前の穴に用意されたレールをガイドに、一気に加速し、飛び出した。

            ※

 凄まじい軋む音がリバリー号に悲鳴を上げさせていた。急発進で暗い空間を進み出したかと思うと、なぜだか次には水中にいた。そして、そのまま速度を落とさず突き進み、角度が上に向いたかと理解するが早いか、船は加速を続けたまま『海面』から飛び出した。
そう、土産物屋の地下は一度、ターミナルに隣接する海の下を通るように設計されていたのだ。
「まともに飛び出したらすぐにバレるからな!…バルン!『ゴミクズ』だ!」
ガタガタと揺れる音に負けないくらいでジョットが大声で言うと、隣のロボに指示を飛ばした。
「イエス サー」バルンは振動に小さな体を揺らされながらも、機械的に小さなボタンを押した。同時に甲高いメロディが流れたが、それだけで、特になにか変わった様子はなかった。

「ねぇ!あれ!星間トンネルだ!」とドリューがコックピットのフロントガラス前に見えたものに指差した。
 まるで空に空いた大きな口のようで、トンネルの入口は天に向かって延びていた。半透明の輪は日光が明るければ明るいほど、霞むようで、高高度になればなるほどそれが実感できた。
 星間列車はトンネル内にひかれたワープガイドとなるレールを走るように造られている。それを目印に追いかければいいが、どうせ一直線にしか進まないのだ迷うことはない。
「よおし!尻尾は見えたぞ!!」ジョットの嬉々とした声が飛んだ。
 彼の声に前方を見れば、たしかに空を駆ける列車の後ろ姿が見えた。しかし、同時に空が暗くなり始めたように感じた。いや、暗くなったのではない、宇宙に近づいてきたのだ。
 すると、前を走る列車が奇妙に輝き出したのがわかった。
「まずい!ワープに入るぞ!バルン!透明ワイヤーだ!!」
「リョウカイ」また、ジョットの指示に、どれかのボタンを冷静にバルンが押すと、バシュ!という音だけが聞こえた。
「巻き取れ!」「マキトリマス」
 忙しく声が流れて、何かの作業が行われる。それのおかげか列車は目の前にまで迫っていた。
 が、しかし、ちょうどその時、列車を包んでいた奇妙な光が最大限に輝いて、リバリー号もろとも光の中へと消え去るのだった。

            ※

「・・・・・・・よし、もういいぞ、ワープは終わった」
 ガタツキがなくなった船内にジョットの落ち着いた声が聞こえた。輝いた光は消え失せて、目の前には星間列車の真後ろ部分だけがデカデカと見えていた。
「は~、さっきのがワープってやつか」
「ねぇ?降りてみていいの?」
 感心していたケントの横からミカがズイッと出てきた言った。ドリューも同じ意見だと首を縦に降っている。
「あぁ、構わんぞ、どうせこのままここにいても降りる時に面倒なだけだからな」
 運転席から立ち上がったジョットはハッチを開けると3人に外に出てみろと促した。そうして言われるがままに、まずはケントがハッチを抜けてみた。すると。
「…!なんだこれ?便利屋の船が消えてるぞ?」ケントが自分の乗っている宇宙船の姿が 透明な事に気がついた。そしてどういうわけか、自分たちは前の列車に引き離されないで、まるで見えない糸でつながれているようにくっついているように見えた。
「それが『ゴミクズ』システムだ」ハッチの下からジョットが言った。
「ステルスとダミー効果の合わせ技、これで例えレーダーに映っても古代遺物かなんかだと思われる、そして列車には透明ワイヤーでつながっている」
 先程、船の中でなにかと指示を飛ばして言葉はそれかと3人が納得する。そうしてケント、ドリュー、ミカが見えないリバリー号がら降りると、連結された列車の外枠部分に乗り移った。

「バルン!いつも通り待機だ!『ゴミクズ』はそのままにしとけよ」
「イエス サー ボス イッテラッシャイ マセ」
 バルンに最後の指示を飛ばしてジョットもまた列車に乗り移った。
「…あんたも来るのか?」
「当然だ…途中で逃げられたら赤札を助けた意味がないからな――それに」ケントに問われながらもジョットが上着のポケットから小さな紙を取り出した。
「お前ら半券すらもってないだろ?それじゃ、貫通扉も開けられないからな」
「半券って、切符の?」
「そうだ、切符が貫通扉もろもろを開けるキーになっている。――普通、乗り遅れたけど切符を買う金はあるやつは多いから、それだけは買わせるんだがな…ま、今回は例外ってことだな」
 ドリューの質問に応えながらにジョットは3人の間を割って歩くと、閉じられてままの貫通扉の前に立った。そうして、備え付けられたキーソケットに半券を翳して扉を開けてみせるのだった。
「…よし、だれもいない、今だ」
 首を突っ込み車中を確認すると、手招いて合図を送った。ケント達は顔を見合わせると、それに従って素早く列車内に乗り込むのだった。


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