むかしばなし

鬼怒川 ますず



「どうして…私を救ったお兄さんがどうして…」

真っ暗な公園のベンチでただ座る少女。
高校生くらいの齢、髪は長く肩まで伸びていた。
容姿は見えないが、その口元は嗚咽で開閉し、スカートには涙の跡が残る。

「どうしたのかしら?」

その時誰かが、彼女に語りかける。

少女はその正体を見ずに、知り合いなのかソレに全てを語った。

「まぁ、それは怖いわ!そんな子供達のせいで思い人が死ぬよりも残酷な、死神に魂を取られるような目に会うなんて!許せないわ」

「でも、私はただ影から見てるしかなかった…彼が死ぬのを…救えずにただ…」

「貴女は許せないの?自分が?子供が?それとも死神が?」

「全部が許せない……全てが、全てがある世界が…この世が、全てが…」

ふと吐露した何の捻りもない願望。
だが願望を聞いたソレは、お腹から笑いたかった全ての事を必死に堪えながら、真剣なフリをして、声音を変えずに語り出した。



「だったら、誰もが救われるように盤上を変えなきゃいけないわね」



言った本人は、綺麗な顔をした同い年の少女。
無垢で健気そうなその顔、その目の奥が黒く濁っているのを除けばまさに美少女。

髪を短めにした、誰かさん。

誰かの生き写しの少女は、純粋な救いを求めた少女に知恵を与えた。


誰も救われない知恵げどうを。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品