むかしばなし

鬼怒川 ますず

望むはその後の貴方

「私…もう消えるんだ…」

ベオに身体を預けたまま、顔だけを彼に向けるシエラ。
ベオは両足が消えていくのをただ見ているしかなかった。
声を出そうと思えば出せた。

シエラ大丈夫か。
シエラ消えないでくれ。
他にも方法がある。
約束を結んだとか言っていたが、そんな約束破り捨ててしまえ。
別に平和じゃなくてもいい。
例え私が傷ついても、シエラがいればいい。
一緒に暮らそう。
ここじゃないどこかで、静かに、永遠に。

それこそ、世界が終わるまで。

そう言いたかった。
でも彼女の目からは光が消えかかっていた。
今思いついた声がどれだけ残酷か理解し、全て出せなかった。


「…やだ…消えないで…くれ…!」


ただ懇願する。
でもシエラは苦しそうに、それでも口元を緩ませて語る。

「ねぇベオ、外の世界って今どうなってるんだろう?いろんな家が建ってるのかな、王様はもう5代くらい変わったのかな、暮らしも良くなったのかな…」

「急に何を…」

「私、あの日からずっとこの城で暮らしてたからさ、外の世界のことなんて何にも知らない。前は知ろうともしなかったのに、今じゃ少しだけ興味が湧いて後悔もしてる…」

そう言って目を空に向ける。
さっきまで空色が悪かったが、黒い化け物が消えたからなのか雲が晴れて青い空が一面に広がっていた。

「この身体がバラバラになって、この身体の力がいろんな人に与えられる…フフ、ちょっとだけ、本当にちょっとだけそれが嬉しい…」

「何で…何でだよ!」

「だって、私はあれから見ていなかった世界を見る。それは、ここでの生活と同じくらい楽しいことだと思うし、大切なことだと思う…」

「だったらずっと一緒にいよう!世界がどうなろうと君と僕で永遠を生き続けよう…!リイナも絶対に取り戻す!神様だって不死だって出来るこの世界なら僕たちは永遠に家族で居られる…!だから、お願いだから、消えないでくれ!!」



不死身の体がどんどん消えていく。
ヘソのあたりまで消える。
それは直面したくない現実。

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