むかしばなし

鬼怒川 ますず

神の信徒

リイナが死んだ。
いや、リイナの身体に入っていた何かが死んだ。

シエラが感じたこともない動悸と息が荒げるのと同時にその現実を受け入れる。
静かに目を閉じ、これで終わったと自分に言い聞かせる。

そうしなければ、心が壊れてしまいそうだから。

「シエラ…」

彼の声が聞こえ振り返る。
そこで立っている彼の姿は何一つ変わっていなかった。
いつもと同じ、安心できる姿。
ホッとする。安心する。安堵する。落ち着く。

「…大丈夫だった?」

シエラがそう言ってベオの身を案じる。
彼もそれを察して首を縦に振る。
その顔は悲痛と苦しみでいっぱいだった。
シエラはそれを見てより安心した。
彼を守れた。

リイナを喪った。
娘を守れなかった自分を責めたかったシエラだが、彼女の目の前にはまだ敵がいた。

黒い異形。
アレが従えていた化け物。
主人であるリイナが死んだのにまだ静観しているあの化け物を殺さなければならない。

シエラはベオの方を向く。

「ごめんなさい、アレも殺さないといけないから話は…」

言いかけて口が閉じた。
いや、自分の意思とは関係なく口が閉じた。
何だと思いシエラは自分の口を触ろう手を動かそうとする。
でも左手は違い方向に動く。
顔の前まで上げると握ったりして指の動きを確かめているような動きを始める。

「シ、シエラ?どうかしたのか?」

分からない。
そう答えたいのに、口は動かない。
顔の表情も変えられない。

「いやー驚きました…まさか生きているとは」

誰かが声を発した。
シエラは言葉を発した人物が誰かわからなかった。
ベオがその名前を口にするまで。

「シエラ…お前一体何を言ってるんだ?」

「ん?あぁ…簡単な話です」

「……え?」

「このホムンクルスの体は頂きました。何と言っても私は『』、人の体から体に乗り移れる神の信徒ですよ?これくらい造作もないことです」

シエラの口から、綺麗な声と同時にあのあの忌々しい『』のトーンで驚くべき言葉が出た。

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