むかしばなし

鬼怒川 ますず

夢現の彼ら

「あーなんかそう考えると私の悩みは小さいわねー、成長もせずに子供の我儘で全盛期を過ごしてたのか。ホムンクルスだって言い訳にしかならないし、狂気だって心の底から願わなければやる気も起きないんだから。ウジウジと私らしくない淑女っぷりで本当に恥ずかしい……よし、私は少し成長した!これで良いか」

ベオはその背中を見てさっきまでのしおらしい彼女はどこへ言ったのかと疑問に思うが、元気になったので良かったと考え、「その方がシエラさんらしいです」と言ってこの問題を終わらせようとした。

その前に、シエラは急に振り返ってベオに近づく。
そして、お互いの顔が見合う程度まで急接近するとシエラは止まり、咄嗟に引こうとしたベオに唇を、彼の唇と唇を交わす。

しばらくの間、シエラは彼の口から離れようとしなかった。

あまりのことに目を見張って考えが追いつかないベオだったが、シエラはようやく唇を離して彼に言った。

「…私のこの感情はよく分からない、昔から性欲とは無縁の狂った人生だったから。無理に付き合えとは言わない、ここから出て行っても構わない。それでも……もしここに残るのなら私とずっと永遠を生きて…ほしい。そして、私が変わるのを手伝って欲しいの……」

いつだって妖しく笑い多くの人々を魅了した絶世の美貌を持つ少女は、恥ずかしそうに頬を赤く染めてベオの顔をジッと見つめる。
ベオは予想外、まさか彼女がこんな事をするとは思ってなかったのでまだ思考が追いついてないまま。
でも、口から言葉は出た。
それはでまかせだったのか、本心だったのか。
あるいは、五千年前の記憶にない自分が言ったのか。

「えぇお手伝いします、そして一生貴女とは離れたりしません。この城で貴女のために生き、貴女と永遠を過ごすために」

そう言ってベオはもう一度抱きしめて彼女を胸の中に収める。
シエラも同じように抱きしめる。




化け物と化け物は、こうして互いを知り、さらには相思相愛となった。

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