むかしばなし
成長は気づかないもの
ベオは語り終わるとそのまま抱きしめていた腕を解き、シエラから二歩ほど間をあけて下がる。
雨はいつの間にか止み、空を厚く覆っていた雲が風に流れていく。
雲の幕間から光が差しこみはじめる。
「…私は、私は変わりたいと思った」
シエラは、ポツポツと語り始める。
「貴方を殺して…生き返った時は生きてきた中で一番怖かった……同時に少し…嬉しかった…私の剣を受けて生き返る人間がいることが怖くても、私には嬉しかったの」
「はい」
「みんな死んじゃうから、狂気で殺しても私を認めてくれる人はいない…私の父も剣の腕じゃなくてこの顔だけ褒めただけの人、私が私である狂気を、剣の腕前を褒めてくれる人は一人もいなかった中で貴方は、私に殺されたのに憤りを感じたわけではなく、むしろ驚いて殺された後の感想を語ってくれた、それだけで私は…あの日から変われた」
「はい」
「自分で何を考えてるか分からないとか、自分が行ったことに対して今更罪悪感を感じた。でも狂気じゃないと私じゃないから……罪が無くなって欲しくて殺した後に埋葬もした。矛盾してるのも分かってた、それでも変わりたい…」
「大丈夫ですよ、私がシエラさんが変わるのを見てきたのですから。セイレンさんだってきっと貴女の成長を感じているはずです」
「成長…か、随分と遅い成長よね私って」
「えぇ、ですがその長い時の間に自分を何度も見つめ直す事が出来るのが不死の特権ですからね」
「……ふふ、そうか成長か…、作られた人間で不死で美人で狂ってる、その先に成長か…」
微かに肩を揺らして笑うシエラ。
その頃には空は晴れ、雲から漏れ溢れた光がちょうど城の庭に降り注ぐ。
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