むかしばなし

鬼怒川 ますず

貴女を認める

「な……」

何かを言いかけてるが止まらずにベオは喋る。

「私は…五千年以上も前の私の記憶はもう無いけど、おそらく誰かと結婚して子供もいたと思う」

「…」

「多分、昔の私は年老いて死ぬ最愛の人がいた。覚えてない…いや、昔の私は忘れたかったんだと思う。子供も孫も死ぬところを見てきたはずだ、だから、無理矢理忘れたんだと思う」

「…そう」

「苦しかった、辛かった、運命を恨んだ。だから私は記憶にある中では誰とも関係を結んでいない、愛しいと思った人からは距離もとった、…私は怖かったんだ、地位も手に入れた時も、賢者と呼ばれていた時も、稀代の才と謳われていた時も、私は辛かった。大事な人、大切な人を失くしたくなくて、この不死を恨んで別れの言葉も残さずに目の前から消えた…」

「……ふぅん」

「何度も僕が不死だとバレた時もありました。多くは気味悪い異形と称して私を拷問したり埋めたりしました、その中に当時大切だと思っていた人がいた時も……だから、私は消えたかった、この苦しみから解き放たれたかった…」

「…そう、本当に辛いわね…それが、私と何の関係が」

「えぇっと…初めてだったんですよ、僕を刺し殺した人が同じ不死で、美貌を兼ね備えた気高き女性なのは」

ベオは自分でも内心言いたかったことが言えて嬉しかった。
そしてその言葉に、顔も見えないシエラはどう思っているだろう。
その美しい顔が、どの様になっているか見たい衝動を殺しながら彼は続ける。

「貴女がどんなにイかれていても、貴女が誰かを殺しても、貴女が作られた人間だろうが、貴女がどんなに狂気を貫こうとしても、それでも、私は貴女に出会えて救われてたんです」

「…救われた?」

「はい、苦しみで一杯だったこの心から少しずつ…少しずつ苦痛が取れた。いつからか忘れていた『楽しい』も思い出せた、貴女の美貌は、貴女の不死は私にとって救われるものだった、だから貴女に仕えたかった…いえ、一緒に居たいと思った。貴女がこれからも頑なに自身を否定しても、私は、私という一人の化け物は永遠の時間の中で貴女という女性を…心から肯定します」

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