むかしばなし

鬼怒川 ますず

不死の化け物は自身の正体が分からず恐怖する

シエラが机の引き出しから見つけたそれは父の日記…シエラに対する心情を書き記したものだろうか。
それを手にし読み始めた。

まず最初に開いたページはシエラが11の時のだ。

この年のあの日、シエラが初めて使用人を殺害し血塗られた人生を始めた。
その日を探し出して読む。
その日の父は嘆き悲しんでおり、亡き母に対して何度も謝る文を載せていた。
しかし最後の一文が奇妙なものとなっていた。


『ステアよ、私はあの人の言ったことを信じるよ。たとえ化け物だとしてもあの子は特別なんだ。たとえ神があの子を悪魔だと言ったとしても、きっとあの子がこの国を変えてくれるはずだ。まだ見守ることにする』


なんだこれは。

シエラはこの一文について他に何かあるのではないかと思いページを飛ばしたり戻したりした。
見つけたのは17の虐殺事件で地下牢に入れられた日の項だ。
この時の父の心境は荒んでおり、シエラに向けた罵詈雑言ばかりが書き綴られていた。



『最低な娘だ。もう我慢ができない。いっそのこと私の手で殺してしまいたい。しかしシエラのあの美しい顔を失うのは惜しい。あの美と内面がどうして不釣り合いなのだろうか、ステアよ何故だ?私は間違っていたのか?この惨劇はあの美しさを欲した私達に課せられた罰なのか?あの人が言ったことは守ったはずなのに、どうしてあんなにまでゆがんでしまったのか』



その日の日記はそこまでで、次の日に続きが書かれていた。


『あの人は私達の為に、次の人の頭をあの子にくれた。神に対する冒涜すら私達は甘んじて受けた。あの子は次の人の子だった』


不思議とそこから先が書かれておらず、シエラはゴクリと喉を鳴らして次のページをめくる。

だがそこから先は仕事の記録しか書いておらず、シエラに殺される最後の晩まで彼女のことは何も記載されていなかった。

日記を閉じるとシエラは次に父の部屋の書物を漁り始めた。

本を出したり入れたり動かしたことで埃が大気中に舞うが、シエラは構わずに書を読み漁っていく。


「なんなの…なんなのよ私は…、不死になる前はなんだったっていうのよ!」

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