むかしばなし
シエラは…2
今回も久しぶりに拝める。
そう思っていた。
だが旅人が両手をこちらに伸ばしてくる姿を見てシエラは何故か無性に怖くなった。
恐怖……とは違う、まるで死にたくないと縋ろうとする姿にまるで童話を読んだ時に感じた『悲しみ』と同じ心境になった。
止めよう。
つい自分の心の声が殺人を行う自分を止めようとするが、それでも体は習慣化されたせいなのか、本質が働いているのか剣を何度も抜いて刺したりを繰り返していた。
意識や心とはまるっきり違う自身の行為にこの時初めてゾッとし、事切れた旅人から流れ出て飛び散った血塗れのベッドの上でいつの間にか涙を流していた。
酷かった、醜かった、悍ましかった、嫌悪した。
それら感情が一気に湧き出し、自身が行なった行為に罪悪感を感じた。
逃げ出したい、死にたい、剣を自分の喉に突き刺したい。
そうしたかった。
しかし体は言うことを聞かない。
何度も自分の首に剣を突き立てようとしたが、その度に躊躇いが出てしまう。
死なないのに。
死ぬことも出来ないのに。
それなのに死にたいと思う。
不死の悪女シエラの考えはそこまでたどり着いてしまう。
少しの間ベッドの上で座り自身を落ち着かせる。
そうして落ち着きを取り戻してから再び旅人の死体を見た。
こと切れ、臓物が飛び出たその体はいつも見て来た光景だ。
いつも楽しみにしていた光景だ。
これが見たくて殺し続けた。
生きてきた理由はこれが見たかっただけだ。
父も使用人も領民も、この城で死んだ全員のハラワタを見て歓喜していた。
そしてーー
あのベオもこの痛みと恐怖を味わっている。
美しさと狂人を兼ね備えた少女。
多くの人々から嫌われながらも、殺されてきた者たちは美貌に囚われてこの城を未だに彷徨っている。
この美しさの前に凶行も許される。
それがシエラだった。
シエラである意味だ。
でも……。
「…生き返って私を恨むどころか…それに仕える…」
呟く一言。
誰にも聞こえないように内にある恐怖を曝け出す。
「…あいつは、どうして私を恐れないの?こんな…こんな事されたのに…」
震えた肩を抱きながら、今この城にいる自分と同じ不死に恐怖する。
その青ざめた表情はいつもの優雅で偉そうなものではなく、ただ1人の少女のようであった。
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