むかしばなし

鬼怒川 ますず

惚れ惚れ

これから働く。

ベオが使用人服に着替えて笑顔で言ったのを聞いてすぐにシエラは彼の服の胸元を掴みガンガンと揺さぶる。

「はぁ? はぁぁぁぁ!? あなた何で出て行かないのよ!! それよりもどうしてここで働く事になっているのよ!?おい答えろ! 」

「うぅぇぇぇぇー!! あまり揺らさないでください!!」

「答えろってぇの!!」

「やめてぇぇー!」

シエラがあまりの形相で詰め寄りベオを揺さぶるせいで話は進まなかったが、途中でセイレンが仲裁に入ったことで事情を話せるようになる。

シエラが聞いたのはこうだ。

まず、ベオは彷徨う旅人で定住の地などは無かった。
不死であるために時代が経つと魔として扱われ何度も迫害された経験があるらしく、その為毎日その日暮らしで生活していた。
偶然見つけたこの城で住み込みで働くのは不死の彼としては都合がいいものかもしれなかった。

そして何よりも働こうと思った動機があった。


「は?私が美しいからここで働きたい?」


シエラが呆気に聞き返した言葉にベオはコクコクととても眩しい笑顔で頷いた。

「はい、シエラ様のその美しさ…5千年も生きてきて初めて見たその美貌は私の人生に潤いを与えてくれました。この永遠が尽きるその日まで仕えたい…そう思ってしまうほどにシエラ様は美しい…です」

その言葉にさらに空いた口が塞がらないシエラ。だがベオはその表情にまたも胸を躍らせてしまう。

そう、ベオはシエラの美貌に惚れたのだった。


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