むかしばなし

鬼怒川 ますず

不死&不死

グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサ……。


三百回ほど突き刺した頃だろうか。
旅人の体は穴だらけになり、臓物がベッドの上に散乱するほど損壊したのは。

久しぶりの殺人に何とも言えない気持ち良さを味わい、息もしていない旅人に1人語った。


「あぁ、可哀想な旅のお方。この私の虜になりながら死ぬなんて可哀想で仕方がないわ、でも安心してちょうだい、その血肉はこの不死の体に取り込まれて永遠に私の美貌の糧となるでしょう。あぁ可哀想で哀れな凡人」


そう言ってシエラは旅人の血肉を直接食べようとする。
その前に何故か違和感を感じた。

何故かは知らないが、何かが変わったような気がした。
暗闇と月明かりのせいだと思いながら、目を見開きながら死んでいる旅人の頬を噛みちぎろうとした。

ゴソガサ。

やはり音がする。
シエラは顔から目を離して音がする旅人の体の方に目を向けた。
するとそこにはあのシエラですら絶句することが起きていた。

旅人の体から出てきたはずの臓物が突然動き出し、破れた毛布の下にある旅人の体に戻っていく。
それだけではない。
血も…シミになった血も飛び散った肉片も全てが旅人の方に動き出し元の通りになっていくのだ。

怪奇であり得ない現象にギョッとしたシエラはすぐさま飛び退き、壁を背にして剣を構えた。


「なんだ…?何なんだお前は!?」


警戒を高めるシエラを横目にしながら、さっきまで死んでいたはずの旅人、ベオは腹や胸の刺し傷すべてを塞ぎながら悠然と起き上がる。

そして改めてシエラの顔を見つめながら語りかける。


「私は…生まれてからこれまで死ぬことが出来ない不死なのです…」

「…はぁ!?」



何百年ぶりの恐怖に怯えていたシエラはそれには呆れた声で声を張り上げてしまう。
ベオ・クリス。
彼もシエラと同じ不死身だった。

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