むかしばなし
永遠を手に入れた悪女
その霊薬の姿は聞いてないから私はどう表現すれば良いかわからないね。
何でも枯れた草のようにも、肉のようにも見えたとかね。
でも錬金術で出来たものって何か合成着色料と珍味と石を混ぜたもののようにしか私は思えない。
……っと、話が逸れてごめん。
でだ、それでその霊薬をシエラ嬢の口に入れて無理やり呑ませるとたちまちシエラ嬢の体は再生を始めたという。
四肢は生えて戻り、壊れた口もくっつき、血もどこからか湧くように体全身に回った。
傷もすべて塞がり、いつも通りの美しさを戻したシエラ嬢は喜ぶ前に剣を持つと錬金術師に襲いかかった。
だが錬金術師の方が上手だった。シエラ嬢は錬金術師が使役している石像に押さえつけられて身動きが取れなくなる。
つまりまた地に顔を合わせている。
「殺す」とうわ言のように呟くシエラ嬢を放っておきながら錬金術師は次に嬢が住む城にある細工を施し始めた。
「この城には多くの無念のうちに死んだ霊魂が漂っている。だが化ける程の気概も無く、貴公の顔を見ると全員が幸せそうな顔になる。美とは何とも恐ろしいものだ。殺されておきながらその美の前には怨念すら向けられないとは……。しかし貴公の顔を見ていない時の怨念は本物にして強力だ。錬金術とは肌色が違うがこの霊たちを使ってこの城に術を施そう。美に囚われた者たちで美を束縛し捕え続ける。貴公には良いものではないか」
錬金術師は城に結界を張ったのだ。
怨念とやらでシエラ嬢を城外に出さないための結界を。
錬金術師はあらかた術を行使し終えると今度は城外に出て周りに生える草に何かを掛ける。
するとどうだろう、草は蔓に変わりそれが大木ほどの太さに変わると城の周辺を覆い始める。
やがて他の場所の草も同じように変わり、城の周りがみるみる森のように茂っていく。
錬金術師は大きい声で言った。
「ここに我が知恵で作りし森を作った。これよりここは迷いの森となり、貴公に会おう者は迷うであろう。しかし何も思わずに入る者は城に辿り着き貴公に会うだろう。それでも殺して一生を過ごすが良い」
錬金術師が言っている間にも森はどんどん大きくなり城もその木々の中に隠れていく。
「だが不死となった美女にせめてもの祝いだ。我が僕を差し上げよう。こき使っても構わんよ、良い話し相手にもなるだろう」
森が広がり自分まで迷いかねないと思った錬金術師はそのまま走り去るように去っていったらしい。
シエラ嬢は石像にまだ押さえつけられながらも大きく喉を裂くように
恨み言を発し続けた。
その後、錬金術師の消息は不明。
一時的に近隣の村々の英雄になったのか、何も言わずに消えたのかも分かっていない。
ただ一つ分かっていたのはその悪女が不死身になった事だけだ。
こうしてシエラ嬢は不死身の怪物となり、結界を張られた古城の中で森に迷って城に辿り着いた者を1人も残らず殺し、錬金術師から貰った石像と共に静かに一生、永遠に生き続ける事となった。
こうして『最悪の悪女シエラ嬢』のお話はおしまいだ。
中々に滑稽な話でありきたりな勧善懲悪なお話だったろう。
これで終われば城と共にシエラ嬢は永遠を生きていただろう。
1人、寂しく、恨まれ、殺意の衝動に苦しみながら。
だが夢物語はここからだ。
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