君のことを本当に……?

ノベルバユーザー173744

初ひ孫のお話

 早朝の仕込みと弟子の指導を終え、戻ってきた嵐山らんざんと双子は、

「だんはん!さきはん、しいはん!」
「だんはん!見て!見て!」

仲がいい大女将と若女将が駆け寄る。

「どうしたんや?」
「だんはん。昨日に産気づいた蛍はんが、朝、出産した言うて、写真を送ってくれましたんや」
「だんはんとシイはんのスマホにも届いとりますえ?」

 ニコッ

笑うのは、長男の紫野むらさきのの嫁で雛菊ひなぎくである。
 雛菊も生後半年になろうかと言う女の子がいる。

「へぇ……予定日よりも早いんやないかなぁ。ボンかいな?お嬢はんかいな」

 標野しめのが操作すると、大柄な祐也が手の上に乗せている感じの赤ん坊の写真。

「何々?『あては、風遊ふゆに似て嬉しいんですが、ボンが生まれましたえ。抱こうとしたら泣かれました』だいちゃん、じいちゃんやがな」

 弟の醍醐の義理の娘に息子が生まれたと言うことで、大騒ぎである。
 ちなみに、雛菊と蛍は母親違いの姉妹である。

「……かいらしいなぁ……こんまいのに、わろうとる」

 職人気質で険しい頑固オヤジ顔と言われていた嵐山は、半年前初孫のあかねが生まれ、周囲からも突っ込まれるほどジジバカとなった。
 デレデレと同居する孫娘を抱き上げ、あやしている姿や、抱いて散歩にも行っている。



 櫻子さくらこの実家では、兄夫婦の二人の娘が、上は高校2年、下が高校進学で大騒ぎである。
 ちなみに上の娘は本人の希望で進学校、妹は中高一貫の学校をそのまま上がった。
 しかし、二人とも周囲が驚くほど賢く、真面目で素直。
 櫻子の兄で優希ゆうき龍樹たつきの父の賢樹さかきと母の紅葉は、娘たちを溺愛している。
 まぁ、櫻子は遠回しに標野を養子にと言われたこともあり、

「それだけは、無理やわ……神はんに失礼おす」

 と答えたことを思い出す。



 櫻子の実家は下鴨神社の禰宜の家系の分家である。
 子供を死産した兄嫁の悲しみを、どう癒していいかと思っていた櫻子だが、今では娘たちの自慢をする紅葉に少々羨ましかったりしていた。
 京都に生まれた人間にとって、娘がいれば春の祭りの斎王代にと願うのが普通である。
 櫻子には娘はおらず、紅葉には二人の娘がいる。
 どちらも大きな瞳をした、タレ目の可愛らしい少女で、

「紅葉はん!お兄はん!最低でも一人!斎王代や〜〜!」
「二人ともや!」
「二人とも落ち着き……紅葉、なんか言うてやれ」
「だんはん、櫻子はん。優希は少し目がはっきりしてはるんや、ナチュラルにかいらしいんがあての希望で、龍樹はキリッとした、櫻子はんのようなステキなメイクにしてほしいさかいに……」

 ウフウフ……

 童顔の紅葉は、嵐山の従姉妹である。

「おかあはん、あては斎王代の方のお手伝いをさして頂こおもとるんどすけど……」
「あぁ、あては、おとうはんが大丈夫やって言う部分を撮影して、ネットにアップしたいなおもて!」
「あぁぁ……上の子は控えめすぎて、下の子はオタクって言うんになって……シィ!あんさん!龍樹に何を教えたんや!」

 賢樹は甥を叱りつける。



 双子の兄が結婚し、暇が増えた標野は実は東西南北というよりも地図を見る能力音痴の優希と、突撃行方不明娘の龍樹を休みの日に京都の街を連れて行っていた。
 優希は勉強に集中し、川の側を単語帳をめくりながら歩き、何度か落ちかけたこともあり、休みの日は本当に遊びに行って欲しいと、両親は思っていた。
 標野が時々車で迎えに来て、

「お祭りの練習や、準備を観に行かんか?」

と二人を連れていく。
 ちょっとした軽食や、時々小さい産直市で野菜を買って帰る。
 時々、紫野と雛菊、もしくは叔父夫婦が来るが、標野が多かった。

「お兄はん。このお野菜は?」
「万願寺とうがらしと、鹿ヶししがたにかぼちゃ……ですなぁ。鹿ヶ谷は歴史にも有名な地域どす。平安末期、平家打倒を企んだ鹿ヶ谷事件、もしくは陰謀の地域で、1177年。薩摩の鬼界ヶきかいがしまに3人、俊寛僧都しゅんかんそうず藤原成経ふじわらのなりつね平康頼たいらのやすよりが流されますが、一人だけ残されて、2年後に亡くなるんどす……」
「優希は頭の中に引き出しがぎょうさんあるなぁ」

 標野は感心する。

「あ、料理方法は、おかあはんに教わりましてん。美味しいおすなぁ。九条ネギとかはよく聞きましてん。でも、京野菜は味付けを丁寧にすることで、美味しいものをもっと美味しゅうなります。あて、おかあはんや櫻子おかあはんのようなべっぴんはんになりとうおます」
「……優希は勉強に料理に……他にしたいもんは?」

 従兄の問いかけに、えへへと頬を赤くする。

「お兄はんに連れてきてもろて、色々行ったことを主李かずいはんにメールしますのん」
「お姉ちゃんは毎日メールしてるの。LINEにすればいいのに」
「だって、短文でずっとやり取りって、大変やと思うの、あて。主李はんも学校に部活に大変やさかいに……それよりも、たっちゃんは実里みのりはんに失礼したらあきまへん」
「えー、だってぇ、ゆうちゃんの好きそうな本ばかり読めってLINEしてくるんだもん。それより、あては京都の面白いとこ探すんが好きやのん。ゆうちゃん、代わりに先輩にLINEして」
「あては、LINEはようわからしまへんのんや……機械音痴に地図も読めんのや……あかんなぁ……頭で考えよると、地図がクルクルしますのんや」

 その言葉に、標野と龍樹は顔を見合わせる。

「もしかして優希。車にのっとっても、右に曲がったら地図をクルクル頭の中で……」
「ナビゲーションと同じどす。で、しばらくすると、頭がクラクラしますのや、それに気分がわるぅなって……」
「そりゃ酔うわ……地図は動かさんのや。地図と街は動かん。自分が動くと思わな……道に迷うわ」
「そないでっか……でも、小路の名前に上ル下ルで、少しは」

 自信満々に言うが、

「それより、去年来た主李先輩の方がゆうちゃんよりしっとった」

と自分より行動範囲の広い妹に言われ落ち込む。
 がっかりである。

「まぁ、気長になぁ……」

と標野は慰めたのだった。

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